皆さん、こんにちは。トモノブ・アイナです。
 強力な後ろ楯を失った藤田家。しかし彼、彼女らはめげずに再出発しました。

 みんなの未来は光に満ちているか

 第一章
『藤田家の新しき門出』

 来栖川グループのまさかの崩壊・・・。
 当然と思っていた金銭の援助が、これからはゼロである。
 しかし藤田家は、めげずに立ち上がった。

○   ○   ○

 一家総出の、バイトの日々が始まった。
 
 浩之は葵と一緒に、倉庫内作業のバイトを始めた。いくら鍛えているとはいえ、力仕事なのでさすがに疲れるが、やりがいのある仕事だった。

 あかりとセリオは、ホ−ムヘルパーのバイトを始めた。世話好きなあかり、メイドロボ・セリオの本領発揮といったところだ。二人の仕事先での評判はまずまずだった。 

 綾香はヤクドナルドでバイトを始めた。『一度やってみたかった』という本人の希望で始めたものだ。
「あのエクストリームチャンピオンの来栖川綾香が、ヤックでバイトしてるんだって」
「えっ、ホント?行こ行こ」
 そんな感じであっという間に評判が広がった。
 それからは綾香目当ての客が来るわ来るわで、店全体の売り上げがぐんと伸びた。
「すごいじゃない、綾香ちゃん!おかげで売り上げが地域でトップだよ!」
 店長は大喜びだった。綾香もうれしかった。

 芹香は、校内で占い屋を始めた。料金の安さ、的中率の高さが評判を呼んで、昼休みと放課後にはいつも長蛇の列ができた。

 智子は、家庭教師のバイトを始めた。伝手があって、中学一年生の男子生徒を紹介してもらえた。
「こんなのもわからへんの!?」「そこ、間違っとるやろが!!」
 容赦なく厳しい指導方法に仕事先の親からは、「うちの子にはこれくらいでちょうどいい」「もっとビシビシやっていいですよ」と好評をもらった。もっとも、教わる生徒はたまったものではないが・・・。 

 理緒は、ティッシュ配りと新聞配達のバイトを始めた。以前やっていた仕事なので、勝手を知っていることもあって再びやることにしたのだ。
 理緒の紹介で、琴音はティッシュ配りのバイトを始めた。始めてのバイトに、琴音は精を出した。

 レミィは、以前バイトをしていたファミレスで再びバイトを始めた。理緒同様、勝手を知っている仕事なのでそれに決めたのだ。

 しかし、マルチは・・・。
「ぐすっ、すみません・・・わたし・・・」
「マルチちゃん、気にしちゃだめだよ」
 泣きべそをかくマルチを、あかりが懸命になぐさめる。
 マルチはいろいろバイトをやったのだが、どこへ行ってもドジばかりで、三日と持たずにクビになってしまう。
「わかった、お前には家事をやってもらうよ。だからもう泣くな」
「はい・・・が・・・がんばりますぅ・・・」
 浩之に頭をなでられて、マルチは微笑んだ。

○   ○   ○

 朝食、夕食は、できるかぎり全員そろって食べるように心掛けた。もっとも、バイトの都合で一人か二人欠けることも少なくないが、これも仕方がない。
 妻たちは一階の居間と、もう一つある部屋に別れて寝る。浩之は二階の、自分の部屋で寝る。 一緒に寝るのは今まで通りローテーション制だ。
 一つの部屋に四、五人が寝るわけだから、寝返りも満足に打てない。しかも、居間はテーブルを片付けないと布団が敷けない。
 毎晩就寝前の習慣だった、浩之と一緒に寝る妻の、夜の『お勤め』はバッタリなくなった。みんな今までとは段違いに疲れて、『お勤め』どころではない。それを浩之は誰より知っているから、ぐっと我慢しているのだ。
「アタシだったらいいヨ、ヒロユキ」
「いいよ、浩之ちゃん。我慢しなくたって」
 と、たまに言われることもあるが、
「疲れてるんだろ、休め」
 と、頑として拒んだ。  

 まあこんな感じで、順調な藤田家の新生活だった。

○   ○   ○

 ある日の夕暮れ。
「お疲れ様でした!」
 しばらく振りに、浩之、綾香、葵、セリオが四人揃っての、エクストリ−ム同好会の練習が終わった。
「じゃ、掃除始めるか」
「オッケー!・・・♪おっそうじ、おっそうじ・・・」
 綾香が鼻歌を歌いながら、浩之と社(やしろ)の雑巾がけを始めた。セリオと葵は落ち葉をほうきで掃く。
「よし、こんなもんだろ」
 浩之と綾香は雑巾がけを終えて、縁側の下の掃除に移った。
「うわー、クモの巣が張ってる」
「こりゃすげーな」
 かがんで縁側の下をのぞいてみると、クモの巣がびっしり張っていた。
「頭、ぶつけるなよ」
「浩之もね」
 二人は縁側の下に入った。
「あら?何かしら、これ?」
 クモの巣を払っていた綾香が、半分土に埋まった何かを見つけた。
「何だそれ?」
「なんかの箱みたい」
 綾香が箱を拾い上げた。
「何ですかそれ?」
「だいぶ汚れていますね」
 縁側の下から出てきた綾香の持っている箱を、セリオと葵が眺める。何か側面に書かれているが、汚れていて読めない。浩之が泥を払ってみる。
「お・・・み・・・くじ・・・おみくじの箱だ!こんなちっちゃい神社に、こんなもんがあったんだ」
 振ってみると、シャカシャカと音がする。中身はまだ入っているようだ。
「引かせて引かせて!あたし、引いてみたい!こう見えてもあたし、くじ運強いんだ」
 綾香が息を弾ませて言う。
「おいおい、くじ運って、福引きじゃねーんだぞ。家電やハワイ旅行が当たるわけじゃねーんだぞ」
「まあまあ、そう細かいこと言わないの!・・・神様仏様、私達一家の運勢はどうでしょうか・・・」
 綾香は願いを込めて、箱の上の丸い穴に手を突っ込む。
「きっと大吉ですよ!だって、あれだけのことを乗り越えたんですから、運だって向いてきますよ」
 葵が自信を持って言った。
「さあ、何が出るかな・・・大吉出ろ、大吉出ろ・・・」
 綾香はしばらく中を探ってみて、一枚のおみくじを取り出した。
「さて結果は・・・オープン!!」
 四人の目が、開かれたおみくじに集中する。
「「「「・・・・・・」」」」
 沈黙が二、三秒。
「げげっ!!大凶!?」
 浩之の絶叫があたりに響く。
「な、なんなのこれーっ!?」
 綾香も叫ぶ。おみくじには太字で、『大凶』と大きく書かれていた。
「待人来たらず、争い避けられず、仕事破綻す」
 セリオがおみくじの内容を読む。
「そ、そんな!もういいことなしじゃないですか!」
 葵は激しく動揺している。
「特に、家庭内に大嵐来たる。嵐が去るのを待つより他、策なし・・・」
「なによっ、これ!!縁起でもない!!」
 綾香は怒って、おみくじを投げ捨てた。それを、セリオが拾い上げた。
「ちょっと、何してんのよ!」
「バチがあたるといけませんから」 
 セリオはそう言って、近くの木の枝に、細く折り畳んだおみくじを結び付けた。
「あー、腹立だしい!さっさと掃除すませて帰りましょ!」
 綾香はまだ怒っている。
「まあまあ、綾香さん。あんなの当たりませんよ」
「そうですよ。おみくじなんて迷信ですよ」
「そうだよ、気にすんなよ」
 セリオと葵、浩之が、綾香をなだめる。
「・・・そうよね!あんなの当たりっこないわよね!」
 綾香は笑顔に戻った。
 みんなは再び掃除を始めたが、大凶のおみくじを引いたことが、心に引っ掛かって離れなかった・・・。

○   ○   ○

 今回はここまで。この出来事が、それから始まる藤田家の嵐の日々を告げる、最初の鐘だったのです。
 彼、彼女らに何が起こるのでしょうか。それは次回で。
 (第二章へつづく)
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 あとがき
 
 安比奈誠伸です。今回は前半に、藤田家の人びとの、新生活の様子を描写してみました。
 
 さて、この物語のタイトルは、以前やっていたTBS系ドラマ『聖者の行進』の最終回のサブタイトル『ぼくらの未来は光にみちているか』からつけたものです。
 タイトルは最初、『聖女の行進』でしたが、改めました。

 これから、藤田家を大嵐が襲います。
 でも、安心してください。最後はハッピーエンドです。



 ☆ コメント ☆

セリオ:「ダメですよ、綾香さん。職業選択が間違ってます」(−−)

綾香 :「は? なにが?」

セリオ:「綾香さんにヤックなんて職場は上品すぎます。
     せっかく類い希な腕力を持っているのですから、もっとパワフルな職場を選ばないと。
     例えば、ツルハシを持って道路工事とか」(−o−)

綾香 :「おい」(−−;

セリオ:「香港マフィアの用心棒ですとか」(−o−)

綾香 :「待てこら」(ーーメ

セリオ:「ビル破壊ですとか……素手で」(−o−)

綾香 :「できるか―――っ!(どがっ!)」└(ーーメ

セリオ:「うきゅ!」(@o@;

綾香 :「なに失礼なこと言ってるのよ。
     あたしみたいなか弱いレディに向かって」(ーーメ

セリオ:「ほ、ほんとうにか弱い人は問答無用でアックスボンバーを放ったりしないと
     思うのですが…………がくっ」(×o×)









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