皆さん、こんにちは。トモノブ・アイナです。
一家でバイトに励む藤田家。しかし、順調だったはずの新生活に微妙な狂いが生じ始めました。
みんなの未来は光に満ちているか
第二章
『ひび割れた信頼』
「そこは前回やったとこやろ!このボンクラ!!」
「は、はい・・・」
智子の怒声が部屋に響く。生徒は首をすくめる。
「まったく、親はどこ見てんのや!予習復習しろって言わへんのか!」
「・・・・・・」
「あかん、これじゃいくらやっても伸びん!親がボンクラなら子もボンクラや、どうしようもあらへん!」
ガチャッ!
「悪かったですね、どうせボンクラな親ですよ」
ドアが開いたと思ったら、そこには生徒の両親が立っていた。
○ ○ ○
時計は七時半を差していた。綾香のバイトの時間はこれで終わりだ。
「それじゃ、お先に失礼しまーす!」
着替えた綾香が、元気に挨拶する。しかし、何の返事もない。
・・・どうしたのかな・・・ここんとこみんな、なんだかあたしを避けてるみたい・・・
気になってしょうがない。思い切って、店長に相談してみることにした。
「・・・と、いうわけなんです」
「うん、なるほどね」
綾香は店長に、事情を話し終えた。すると少し間をおいて、店長が口を開いた。
「
実は・・・言いにくいんだが、バイトの間で、君に対するやっかみが増す一方なんだ」
「やっかみって・・・あたしって、妬まれてるんですか?」
「『私がレジに立つと誰も並ばない、それなのに綾香が立つと長蛇の列、こんなの不愉快だ』『まるで綾香だけで持っている店じゃないか』って」
「ひ、ひどい!そんなのあたしのせいじゃ・・・」
「あ、ちょっと待てよ!!」
店長が止めるのも聞かず、綾香は店長室を駆けるように出ていった。
「誰が言ったの一体!!・・・ちょっと離して、離してったら!」
綾香がバイトの女子店員たちに食って掛かろうとしているのを、男子店員たちが懸命に止めている。
「誰が言ったのよ!言いたいことがあるなら、あたしに言えばいいでしょ!」
「やめろ、落ち着けって!お客様が見てるぞ!」
「離してよ!!」
「うわっ!!」
振り払われて、男子店員は吹っ飛ばされた。
ガシャーン!!
客席のテーブルに激突した。テーブルが倒れて、そこで食べていた客のポテトとコーラが全部床にぶちまけられてしまった。男子店員は打ちどころが悪かったのか、気絶していた。
店内に客と女子店員の悲鳴が響く。
「な、なんてことしたんだ!!」
騒ぎを聞き付けて出てきた店長が、思わず叫んだ。
我に返った綾香は、自分のしたことを目の当たりにして呆然と立ち尽くしていた。
○ ○ ○
「はい・・・わかりました。どうもご迷惑かけてすみませんでした。失礼します」
浩之は電話を切った。綾香と智子は、うつむいたまま、居間の椅子に座っている。
「もう来なくていいってよ」
吐き捨てるように智子に言った。しかし、智子からの返事はない。
「それに綾香。理由はどうあれ、お前のやったことは許せないぞ。クビになってもしかたがないぞ」
綾香も智子も、うつむいて黙ったままだ。
「二人とも当分、バイトは控えてもらう。家事手伝いをしてもらうからな」
「わかった・・・」
綾香は力なく答えた。智子は無言でうなずいた。
「じゃあ俺はもう寝るから。お前らも休め」
そう言って、浩之は居間を出ていった。
「・・・・・・」
二人は黙ったまま、動こうとしない。と、そこへ、
「綾香さん・・・保科先輩・・・」
「トモコ、アヤカ、気にしちゃだめだヨ」
「・・・・・・」
様子を陰から見ていた、琴音とレミィ、芹香が居間に入ってきた。
「・・・・・・今日はもう寝なさい。疲れたでしょう」
芹香が静かに、優しく言った。
「・・・うん。じゃ、寝よっか」
「うん」
二人は立ち上がった。
○ ○ ○
しばらくの間、二人には家事手伝いをさせて頭を冷やさせることにした。
しかし・・・この頃から、何かがおかしくなり始めていた。
「今日の風呂掃除当番、あんたやろ!このボンクラ!!」
「ご、ごめんなさい・・・」
智子が理緒を怒鳴っていた。その横で綾香が、
「ちょっと、葵!玉ねぎ買い忘れるなんて、何やってるの!」
「ごめんなさい、つい、うっかり・・・」
「言い訳はしないの!」
「二人とも今の言い方、良くないぞ」
たまたま通りかかった浩之が静かに言った。
こんな事が、このところ毎日のように続いている。ギクシャクしたこの雰囲気に、浩之は危機感を感じていた。
・・・だめだ・・・!このままじゃいけない!なんとかしなくちゃ・・・
その夜浩之は、みんなを集めて家族会議を開いた。
「どうしたんだみんな!家中、ギスギスしてるぞ!特に綾香、委員長!バイトをクビになったくらいで、みんなに八つ当たりするとは何だ!」
「いいんです先輩!わたしが悪いんです」
「保科さんは悪くない、わたしがお風呂掃除を忘れたのが悪いの!」
葵と理緒の言葉を、浩之が遮った。
「そんな問題じゃねーだろ!・・・頭を冷やすはずが、余計熱くなってるじゃねえか!それにみんな、最近会話もどんどん減ってるし。疲れてるのはわかるけど、こんなときだからこそ互いの会話が必要なんじゃねえか?」
「・・・・・・」
みんな、黙り込んでしまう。
「お前らよく考えろ!!綾香、委員長は特にな!!」
そう言って、居間を出ていこうとする浩之に、
「ちょっと待ってよ!今日ばかりは、悪いのは葵と理緒でしょ!どうしてあたしと智子ばかり怒るの?」
綾香が怒声をぶつけた。
「自分の胸に聞いてみろ!!」
そう吐き捨てて、浩之は寝室に引っ込んでしまった。
翌朝・・・。
「浩之ちゃん、大変!保科さんと綾香さんが・・・!」
あかりが駆けてきた。
「なんだ!?委員長と綾香がどうした!?」
「どこにもいないの!いなくなっちゃったの!」
「なんだって!?」
居間にあわてて駆け付けると、みんなが集まって大騒ぎをしていた。
「あ、浩之さん、おはようございま・・・」
マルチがそう言いかけたとき、
「挨拶はいい!それより、委員長と綾香がいなくなったんだって?事情を説明してくれ!」
浩之が一気にまくし立てる。
「実は・・・お二人がこんな手紙を残して、いなくなってしまったんです」
セリオが浩之に、二枚の紙切れを渡した。
妻に平等に接することができない男は最低や。当分帰りません。
智子
えこひいきをする人は嫌い。
しばらく家出させてもらいます。
綾香
「何考えてるんだあいつら・・・!」
浩之は苦りきった表情で言った。
○ ○ ○
今回はここまで。ついに、藤田家に大嵐が訪れてしまいました。彼、彼女らはどうやってこの大ピンチを乗り切るのでしょうか?そして、綾香と智子はどうなってしまうのでしょうか?それは次回で。
(第三章へつづく)
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あとがき
安比奈誠伸です。ついに、藤田家に大嵐が来てしまいました。
前回とはうって変わった雰囲気になりました。
実は、ラストの構想は大まかにできてます。そこまでどうやって持っていくかが、これからの課題です。
皆様のご感想、お待ちしております。