皆さん、こんにちは、トモノブ・アイナです。
 ついに、藤田家に嵐が訪れてしまいました。みんな一体、どうなってしまうのでしょうか? 

 みんなの未来は光に満ちているか

 第三章
『ひとときの宴』

 置き手紙を残して、綾香と智子が姿を消してしまった。
 もしかしたら、学校には来ているかもしれない・・・そんな淡い期待を抱いて、彼、彼女らは登校した。
 
 だが・・・期待は物の見事に裏切られた。二人は来ていなかった。
「よう、藤田!保科さんと綾香さん、家出したんだってな」
「さっそく、女房に逃げられたってわけかい」
 浩之たちが教室に入ると、周りから罵倒の声が飛んできた。言ったのは、浩之を妬んでいる男子生徒の連中だ。
 鬼の首でも取ったような、嬉々とした表情で罵倒してきたが、浩之は黙ってじっと耐えていた。
「聞いたぞ、お前が二人にひどいこと言ったからなんだって?どうせそんなことだと思ったよ」
「・・・!誰から聞いた、そんなこと!!」
 浩之は思わずに叫んだ。
「長岡さんだよ。ま、彼女ならお前らのことよく知ってるし、信用できるな」
 その言葉が終わらないうちに、浩之は教室を飛び出した。

「お前だったのか!どこで聞いたか知らねえが、噂ばらまいたのは!!」
 浩之は廊下にいた志保に詰め寄った。
「じ、事実でしょ」
 浩之の鬼気迫る勢いに、さすがの志保も引いている。
「ああ、家出したのは事実だ。二人を厳しく叱ったのも確かだ。だがな、それは二人を思えばこそだ!」
「なんだ、やっぱり言ったんだ。思えばこそって言ったって、家出に追い込んだんだったら、結果的に同じことじゃない。ほんと、妻を家出に追い込むなんて、最低の男ね」
「うるせえ!!」
 浩之は思わず拳を振り上げた。
「えっ、ちょっとやめてよ、ねっ」
 志保はおびえ出した。
「お前なんかに・・・お前なんかに、俺の気持ちがわかってたまるか!!」
 志保の背中に冷や汗がにじみだした。このままじゃ殴られる、逃げなきゃ、でも足がすくんで動けない。
「やめて、浩之ちゃん!殴っちゃだめ!」
 振り返ると、そこに半泣き顔のあかりが立っていた。
「志保も、あんまり軽はずみなことはしないで。今、うちは大変なんだから」
「わかった・・・ごめんね、ヒロ。言い過ぎた」
 志保が素直に謝った。
「いや、俺も悪かった。つい興奮しちまって・・・」
 そう言って、浩之は拳を降ろした。
 
 遅刻してくるかと思ったが、放課後まで綾香と智子が教室に姿を見せることはなかった。結局二人は休んでしまったのだ。

 夜も更けていた。
 あれから、二人からは何の連絡もない。
 藤田家の居間にみんな集まっていた。
「二人ともひどいよ。浩之ちゃん、えこひいきなんてしてないのに」
 あかりが、不満げに言った。
「バイトをクビになって、イラだってるのはわかるヨ、でも・・・それをぶつけるところが違うんじゃないカナ?」
 と、これはレミィ。
「あの時神社で引いた『大凶』のおみくじが、この状況を示していた・・・なんて言っても始まりませんね」
 セリオが言った。と、その時それまで黙っていた理緒が、
「わたし、この家を出ていきます・・・」
「ええっ!?」
 みんな驚いた。
「わたしがいると、みんなの迷惑になるから・・・わたし、ドジだし、何やっても失敗ばかりだし・・・色気はないし・・・」
「そんな、リオが出ていくことないヨ!」
「そうです、出ていくのはわたしです!理緒先輩じゃありません!」
 今度は葵が言った。
「全部わたしが悪いんです。わたしが責任を取って出ていきます・・・それに、わたしがいるほうがみんなの迷惑です。わたし・・・頭悪いし・・・弱虫だし・・・」
「葵ちゃんまで、何言ってるの!」
 あかりは激しく動揺する。
「綾香さんや、保科先輩がいなくなったら、この家はだめになってしまいます。でも、わたしひとりいなくなったって、誰も困りません。だから・・・だからわたし・・・」
「だめ、葵ちゃんが出ていっちゃだめ!わたしがいない方がよっぽどみんな困らないよ!」
「いいえ、わたしが・・・」
「もうやめて!!」
 そう叫んだのは、なんと芹香だった。
「・・・ふたりとも、出ていくなんて・・・誰も困らないなんて・・・みんなを見捨てて逃げるんですか?・・・それじゃ残ったみんなはどうなるんですか・・・」
 理緒、葵はその言葉にハッとなる。
「・・・誰がいなくなっても、この家はだめになります・・・誰一人が欠けてもだめなんですよ・・・」
 二人はうつむいたまま、顔を上げようとしない。
「・・・それに浩之さん・・・どうして綾香と智子さんに優しい言葉をかけてあげなかったんですか・・・」
「・・・・・・」
 浩之は何も言うことができない。
「・・・わたし、二人の気持ちわかるんです。あんな時だからこそ、優しくしてほしかったのに・・・冷たく突き放されて、耐えられなかったんでしょうね・・・今まで耐えていたのに・・・」
「それは俺だって同じだ!!」
 黙って聞いていた浩之が、声を上げた。
「綾香や委員長だけじゃない、俺だって耐えてきたんだぞ!俺だって、俺だってほんとは・・・ぐっ・・・」
 ・・・いけない・・・それだけは言っちゃだめだ・・・!!
「浩之ちゃん・・・今、耐えてくれたんだよね!みんなのために耐えてくれたんだよね!ほんとは逃げたいんだって弱音を吐きたいのを耐えてくれたんだよね!」
 あかりは思わず浩之の背中に抱きついた。
「そうですよね、先輩が一番辛かったんですよね!なのにわたしたち、勝手なことばかり・・・」
「・・・わたし・・・浩之さんの気持ち、わかってなかった・・・ごめんなさい・・・」
 とうとう耐えきれなくなって、みんな泣き出してしまった。
 みんなの嗚咽の中、浩之は黙ってうつむいていた・・・。

○   ○   ○

「俺も悪かった。冷静さをなくしてたのは確かだ。それに、バイトにかまけてみんなのことをちゃんと見てやれなかった。それは謝る、すまなかった」
 冷静になった浩之が真摯な態度で謝る。
「ううん、浩之ちゃんは悪くないよ。わたしたちがいけないんだよ。・・・ごめんなさい、わかってあげられなくて」
「・・・浩之さん、ごめんなさい」
「ヒロユキ、ゴメンナサイ・・・」
「ごめんなさい、先輩」
「藤田くん、ごめんなさい」
 みんな、口々に謝った。
「やっとみんな、冷静になれたな」
「うん、みんなストレスたまって、冷静じゃなくなってたんだよね。ねえ浩之ちゃん、これからはもう、一人で抱え込まないでね。それから、みんなもね。わたしももう、一人で抱え込むのやめるから。浩之ちゃん一人じゃないし、みんな一人じゃないもん」
「わかった。もう、無意味な我慢は終わりだ。じゃあ・・・さっそくだけど、いいな、みんな」
 みんな大きくうなずいていた。

 みんな、生まれたままの姿になっていた。
「浩之ちゃん、もう我慢しなくていいんだよ・・・わたしたちだって、もう我慢できないよ・・・」
「ヒロユキ・・・うんと気持ちよくなろうネ・・・」
「大好き・・・藤田くん・・・」
「藤田先輩・・・好きです・・・」
「藤田さん・・・」
「浩之さん・・・好きですぅ・・・」
「・・・浩之さん・・・愛してます・・・」
「浩之さん・・・」
 浩之は、一人一人と激しくキスを交わす。久々の『宴』が始まった。
 たとえひとときの快楽でも、これから来るであろう苦難を乗り越えるための活力となるのなら・・・彼、彼女らは激しく求め合った。求め合い、むさぼり合い、愛し合った。
 彼、彼女らは、『宴』が続くにつれて、身も心も満たされていくのを感じていた。冷えた心があたたまっていく。傷ついた心が癒えていく。そして、互いに愛する気持ちが伝わっていく・・・。
 さらに夜が更けて、日付けが変わるまで、居間から甘い声が途切れることはなかった・・・。

○   ○   ○

 今回はここまで。崩れかけた藤田家が、また一つになりました。しかし、綾香、智子はいったいどこに行ってしまったのでしょうか?それは次回で。
(第四章につづく)
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 あとがき

 安比奈誠伸です。
 今回は、綾香と智子の出番はなしでしたが、次回で、二人を中心に描写していこうと思ってます。
 『宴』のところ、もっと細かく書きたかったんですが・・・それじゃ載せられませんわな(笑)
 
 なんだかんだで、いつのまにか週刊連載のスタイルになってしまいました(笑)





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