皆さん、こんにちは、トモノブ・アイナです。
 綾香と智子が、藤田家から姿を消して数日がたちました。二人はどうしているのかを見てみましょう。

 みんなの未来は光に満ちているか

 第四章
『取るべき道は?』
 
 夜。ここは智子の家の居間。
「あれからもう、五日も過ぎたんやなあ」
 ソファーに腰掛けた、智子がつぶやく。
「もうそんなにたったのね。みんなどうしてるかなあ」
 その隣で、綾香もつぶやいた。
 二人は家出した後、その足で智子の家に転がり込んだ。
 智子の父親は、母親とすでに離婚しているのでここにはいない。母親には、浩之に『たまには親孝行してやれ』と言われて、帰ってきたと嘘を言った。綾香のことは、帰る家がないからかわいそう、だから連れてきたと言ってごまかした。母親には別に怪しまれなかった。
 以来ずっと、学校には行っていない。母親は仕事の都合で、いつも朝早く家を出て夜遅く帰るので、疑われることはない。
「わたしは謝る気なんかあらへん。綾香もそうやろ」
「そりゃ、そうよ。浩之が悪いんだし。あたしは帰らないわよ」
「わたしもや。でもそろそろ、学校行かんとまずいやろ」
「でも、行ったら嫌でも浩之たちに会っちゃうよ」
「それはしゃあないやろ。ここは無視や、無視無視!」
 二人はしばらく、テレビをぼーっと見ていた。 

○   ○   ○

 翌朝・・・。
 二人は五日ぶりに、学校に行くことにした。ずっと風邪だと嘘をついて休んでいたが、もうこれ以上はごまかせない。
「ガスの元栓閉めた?」
「ああ、さっき閉めといたよ」
 智子がそう言って、ドアの鍵を閉めようとした時、
「ん?」
 玄関脇の郵便受けに、ハガキが入っているのを見つけた。『速達』のマークが入っている。
「佐藤雅史・・・佐藤くんじゃない、これ!」
 綾香が、差出人の名前を見て驚いた。

 前略
 一体君たちに何があったのですか?
 このところ、浩之やあかりちゃんから、君たちを見なかったかとよく聞かれます。
 なんでも浩之とケンカをして、家を出てしまったそうですね。
 実は僕は、浩之や君たちの家の事が前々から気になっていましたが、あまり立ち入ったことはしたくなかったので黙っていました。
 でもやっぱり、このまま放ってはおけず、でも電話だとうまく話ができそうにないし、ましてや家に押し掛けるのはもってのほかだと思って、こうしてペンを取りました。
 僕も、何かできることはないか、考えてみます。
 浩之やみんなに怒られるのは嫌だと思いますが、だからと言ってもう二度と浩之の家に帰らないと思わないように! 
 君たちの家は浩之の家です。
 とにかくもう一度、浩之の家に戻ってください。 

 佐藤 雅史 

「・・・こんな手紙、よこされても・・・なぁ」
「・・・困っちゃうよね」
 二人は困ったような表情を浮かべながら歩き出した。

○   ○   ○
 
 学校前の坂道。
「あっ!綾香さん、保科さん!」
 二人の姿を見かけたあかりが声を上げた。だが、隣を歩いていた浩之は、別段驚きもしない。
「おは・・・」
 あかりが挨拶しようとした時、二人は浩之たちの姿を一瞥したかと思うと、走り去ってしまった。
「ちょ、ちょっと待ってください!綾香さん、保科先輩!」
 葵が呼びかけるが、二人は振り返ろうとはしなかった。
「待て!追うな!」
 追いかけようとした葵と理緒を、浩之が止めた。 
「でも・・・」
「今は何を言っても無駄だ。そっとしておこう」
 浩之が静かに言った。

 二人は一日中、浩之と目を合わせようとはしなかった。あかりや理緒、レミィが何度も話し掛けたが、頑として口をきこうとはしなかった。

○   ○   ○
 
 夕暮れ時・・・。
 駅は家路につく人で混雑していた。その中に、綾香と智子もいた。 智子の家は、電車で10分程行ったところにある。
「定期、買おうかなあ・・・」
 そう言いながら、綾香は券売機に小銭を入れていた。
「わたしの定期はもう、期限切れとるし、お金はあとわずか・・・お母さんに定期代くれとも言えへんし、またバイトしようかなあ」
「うん、今度は失敗しないようにしないとね」
 そう言いながら、二人が改札口に向かおうとしたその時・・・。
「帰る方向、違うよ」
 振り向くと、雅史が立っていた。綾香と智子は、驚いて声も出ない。
「手紙、読んでくれたよね」
「・・・・・・」
「ホントは、帰りたいんじゃない?」
「・・・・・・」
 二人とも、返事ができない。
「どうしたらいいか、ホントはわかってる。でも、踏み出すチャンスがわからない・・・違うかな?」
「佐藤くん、わかってないわね」
 綾香が言った。
「・・・・・・」
「あんな態度取られて、帰る気になれると思う?悪いけど、佐藤くんにはわからないわ」
「わかってないのは君たちじゃない?」
 雅史らしからぬ言葉に、綾香と智子は、ちょっと驚いた様子になった。
「・・・どういう意味や、それ」
「浩之から聞いたよ。雛山さんと葵ちゃん、責任感じて、わたし、出ていきますって言ったんだよ」
「・・・・・・!」
「・・・・・・!」
「みんな、泣いたらしいよ」
「・・・・・・」
「自分のやったことが、どれだけみんなに迷惑かけたのかもわかってないんだね」
 静かだが、雅史の口調が厳しくなる。
「・・・いや、ごめん。でも・・・帰りたいんだったら、今しかないよ。チャンスがないなら、作るしかないよ。明日延ばしにしてると、ずっと先延ばしになっちゃうよ・・・」
 二人の表情が堅くなる。
「改札口くぐったら、もう戻れないよ」
 取るべき道は二つに一つ・・・二人は黙ったまま、下をしばらく向いていたが・・・
「ねえ、佐藤くん・・・浩之、許してくれるかな・・・?」
 綾香が絞り出すように言った。
「それは、謝るしかないよ。でも・・・浩之は見捨てたりなんかしない!だって、綾香さんも、保科さんも、どんなわがまま言ったって、浩之、見捨てなかったよね?雛山さんも、葵ちゃんも、姫川さんも・・・みんな、浩之が見捨てなかったから、ここまで来られたんだよね?小さい頃からずっと一緒だった、この僕が保証する!浩之は許してくれる!」
 雅史は自信を持って断言した。
「あたし・・・帰りたい!」
「わたしもや!」
 もう迷いはない。二人ははっきりと言った。
「わかった。じゃあ僕も一緒に行くよ」
「・・・うん、お願いね」
 そう綾香が言った時、突然雅史が後ろを向いた。
「志保、もう隠れてなくていいよ」
「長岡さん?」
「志保・・・いるの?」
 すると、柱の陰から、志保がばつの悪そうな顔をして出てきた。
「べ、別にあんたたちが怪しい関係とか、そんな噂ばらまきたくて後つけてたんじゃないわよ。そんなことしたら、今度こそヒロに殴られるし」
「わかってるよ。僕と同じ目的だったんだろ。でも先を越された・・・違う?」
「・・・ち、違うに決まってるでしょ。たまたま、偶然通りかかっただけよ」
 志保は顔を赤くして、そっぽを向いた。
「あんなことしちゃったから、罪滅ぼしがしたかったんじゃない?」
 雅史の問いに、志保はうつむいたまま答えようとはしない。それが答えだった。
「・・・・・・」
 しばらく沈黙が続いたあと、雅史が口を開いた。
「志保、僕達と一緒に来てくれるね?」
 志保は静かに頷いた。

○   ○   ○

 10数分程歩いて、一行は浩之の家に到着した。
「さあ、行こう。決心が鈍らないうちに」
 雅史がそう言って、インターホンのベルを押そうとした時、
「あ、待って。あたしたちは、ここで失礼させてもらうわ。ね、二人ともその方がいいでしょ」
 志保が言った。
「二人はどうするの?僕たちがいたほうがいい?」
 雅史が聞く。
「・・・あたしたちだけでいいわ」
「うん。ここまで来てもらってすまんけど」
「わかった。じゃあ僕たちはこれで」
「じゃあ、がんばってね」
 志保と雅史は門を出ていった。

 綾香と智子はしばらく黙って立っていたが、
「・・・あたし、押すね」
「・・・うん」
 綾香はベルに手を延ばした。

○   ○   ○

 今回はここまで。こうして綾香と智子は帰ってきました。いよいよ物語は佳境に入ります。さて、藤田家の人々は、二人に対してどう出るのでしょうか?それは次回で。
(第五章につづく)
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 あとがき
 どうも、安比奈誠伸です。
 前回出番なしだった、綾香と智子中心の話です。その代わり、他のみんなの出番がなしです(笑)
 今まで出番がなかった雅史が、急に出しゃばりすぎだったかな?
 あと・・・特に書くことないです(笑)






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