みんなの未来は光に満ちているか

 終章
『奇蹟』

 綾香と智子が帰ってきた、次の日の夜。
「なんか騒がしいわね」
 家の外がざわついているのに気付いた綾香が言う。
「なんだなんだ?事件でも起きたのか?」

 ピンポーン・・・

「あ、私出ます」
 セリオはそう言って、玄関に向かった。
「どちら様ですか?」
「「「「「「「お届けものでーす!!!」」」」」」」
 町中に響き渡るような大きな声、それも一人や二人ではない。
「・・・!?こんな夜に?それも、宅配便屋さんが大人数で?」
「なんだなんだ!?」
「どうしたの一体?」
 浩之、綾香を先頭に、一家全員が玄関に出てきた。
「それが・・・」
「「「「「「「藤田さーん!!!お届けものでーす!!!」」」」」」」
「おわっ!びっくりした!何だよ一体」
 再び響き渡る大きな声。浩之は恐る恐るドアノブに手をかけた。
 ガチャ!ドアを開けると、そこには・・・
「やあ、こんばんは浩之」
「ヤッホー!ヒロ!」
 雅史、志保を先頭に、級友たちが、みんなの両親、兄弟姉妹が・・・見知った顔が勢ぞろいしているではないか!!
「みんな一体・・・どうしたんだよ!そろいもそろって」
「あら、聞いてなかったの?お届けものって言ったでしょ」
 志保が言う。
「お届けもの?何だそりゃ?」
 言うが早いが、雅史が段ボール箱を差し出した。
「これ、食べてよ。田舎のおじいちゃんが送ってくれたんだ。みんなに食べてもらえって」
 蓋を開けてみると、きれいに紅く染まった、美味しそうなリンゴがぎっしり詰まっていた。
「これ俺たちに!?」
「うん。みんなで食べてよ」
 雅史が微笑んだ。
「雅史、サンキューな!ホント、恩にきるよ」
「いやいや、それほどでも・・・」
「はいはいもういいでしょ、みんな待ってるんだから。次あたしね!」
 雅史を押しのけて、志保が前に出てきた。
「なんだお前、スーツケースなんか持ってきて。どっか旅行でも行くのか」
「まあ見なさいよ。ほら」
 志保がスーツケースを開けると、まぶしいオレンジ色が眼に飛び込んできた。
「わー、みかんがこんなにいっぱい!どうしたの志保!?」
 あかりがびっくりして聞く。
「親戚が送ってきたんだけど、食べきれなくて。それで、かわいそーな藤田家の皆さんに恵んであげましょうってわけ。ありがたく食べなさいよ」
「ありがとう、志保!うれしいよ!」
「か、勘違いしないでよね!もう見るに見かねちゃったし、それに・・・あんなことして、落とし前をつけないのは嫌だから」
「噂ばらまいたことか。もういいよ、全部すんだことだし、もう怒っちゃいねえよ」
「そ、そりゃどうも」
「あのー、そろそろいいですか?待ってるんですけど」
 後ろから声がかかる。
「あ、はいはい!」

「これ、食べてよ!」
「ちょっと好恵、ほんとにいいの?」
「まあ、栄養失調で倒れられたら、寝覚め悪いし。それに・・・葵や綾香と、対等な勝負して・・・勝ちたいから・・・」
「好恵さん・・・」
「いい?もう逃げちゃだめだからね、綾香!藤田が変なこと言ったら、私がこらしめてあげるから」
「ありがとう、好恵」
「ありがとうございます、好恵さん!!」

「はい、智子」
「え?これ、どないしたんや?」
「ばあちゃんが送ってくれたんや」
「ありがと、お父さん、お母さん」
「あまり藤田くん、困らせたらあかんよ」
「はいっ!」

「はい、グランパからのプレゼントよ」
「Oh、ポテト!!こんなにいっぱいもらっていいノ?」
「ハハハ、家族なら当たり前さ」
「みんなで食べてよ。ヒロユキ兄ちゃんも、アカリ姉ちゃんもみんな喜ぶよ」
「ママ・・・パパ・・・ジョージ・・・シンディ・・・Thanks!」
「そうだ、このライフルもついでに・・・」
「パパ!」
「失礼シマシタ・・・シンディにはかなわんね」

「おねえちゃん、これあげる!」
「お姉ちゃん!!これ売ってお金に替えろよ!」
「ちょ、ちょっとひよこ、良太!それ・・・あなたたちのおもちゃ、ほとんど全部じゃない!」
「もう飽きた、いらない!受け取れよ!」
「あきた!」
「ありがとう・・・良太・・・ひよこ・・・」

「姫川さん、これあげる!お母さんがね、持ってってあげなさいって」
「森本さん・・・ありがとう・・・」
「あ、ほらほら、泣かないで。わたしたち友達なんだから、困ったことがあったら何でも言ってね」
「うん・・・ありがとう」

「マルチ、セリオ。何があってもくじけちゃだめだよ。はいこれ、最新型の充電器。電気代がずっと安くて高性能だよ」
「あ、あ、ありがとうございますぅ!!」
「ありがとうございます、長瀬主任!!」

「・・・セバスチャン・・・」
「セバスチャン、おかげさまを持ちまして無事退院いたしました。そして、恥ずかしながら戻ってまいりました!実は、大旦那様からのお手紙を預かってまいりまして・・・」
「!!・・・おじい様・・・」
「こちらでございます!」
「(・・・芹香、綾香、元気でやってるか。私たちはみんな元気だ。今、伝手をたどって知り合いの家にいる。・・・私達の心配はいらない。電話はできないが、手紙はこまめに書くようにする。お前たちも、苦しいこともたくさんあるだろうが、負けずにがんばってほしい・・・)・・・お・・・おじい様・・・おばあ様・・・お母様・・・お父様・・・お手紙は・・・後でゆっくり読みます・・・」
「これからも、お困りの際は、いつでもお呼び立て下さい!!」
「・・・ありがとう、セバスチャン・・・」

 そのあとも続々と、大きな手みやげ片手に、人々が藤田家にやってくる。

「保科、これ、食べてよ。・・・安心して、毒なんか入ってないから」
「もう、岡田ったら!ごめんね、岡田、照れてるだけだから。・・・ほら!吉井も黙ってないで!」
「あ・・・うん、それおいしいから!松本、それ食べ過ぎてちょっと太り気味だよ」
「余計なこと言わないの!」

「これ、俺と垣本の共同出資で買ったんだ。みんなで食ってくれよ。あ、それから、くれぐれも神岸さんを泣かすなよ!」
「相変わらず、矢島は神岸さんのことしか頭にないな」
「うるせっ!」

「浩之!まだ甲斐性はなくていいから、せめてみんなをあんまり困らせるんじゃないわよ。・・・はい、これ食べて栄養つけなさい!」
「まあ、藤田さんったら・・・くすくす」
「もう、笑わないでよ、ひかりさん・・・」
「あかり、これね、おばあちゃんが送ってきてくれたのよ。みんなで食べてね」

 喧噪は、夜遅くまで続いた・・・。

○   ○   ○
 
 藤田家の人々は、今日もがんばり続ける。
 愛する人のために。
 自分の信じた道のために。
 そして、光り輝く未来のために・・・。

「浩之ちゃ〜ん、朝だよ、起きてよ〜」

 君は僕の愛する人だ いつも僕が君を守ってあげるよ

「きゃっ!・・・あいたた・・・また転んじゃった・・・」

 君がそうしてくれたように

「うう、琴音さん・・・ごめんなさいですぅ・・・」

 君が涙する時は 日が暮れるまで 僕もそばで一緒に泣くだろう

「気にしないで。コップよりマルチちゃんが大事だもん」

 君がそうしてくれるように

「・・・あなたは間もなく、とても素晴らしい出会いをするでしょう。このタロットが示すのは・・・」

 君が微笑む時は 日が暮れるまで 僕もそばで一緒に微笑むだろう

「ん?ここか?ここは、こっちの公式の応用で解くんや。それから・・・」

 君がそうしてくれるように 

「いらっしゃいませ!御注文はお決まりデスカ?」

 さあ 笑ってごらん

「では、スパーリング二本目、始め!」

 これからの長い人生も 僕たちは互いに助け合っていくんだ

「先輩、綾香さん、二人ともがんばってー!」

 時々喧嘩をしても すぐに仲直りをするんだ

「さあ、いくわよ!覚悟しなさい!」

 やがて僕たちが大人になり 人の親になった時

「よし、来い!!がっちり受け止めてやるぜ!!」

 僕らの子供たちは きっと素敵な 光に満ちた未来を生きてゆけるだろう

○   ○   ○

 皆さんにお話できるのはここまで。これから藤田家の人々が歩む道は、決して平坦ではないでしょう。もしかしたら、また嵐がやってくるかもしれません。
 でも大丈夫、だって彼と彼女らの絆は、どんな嵐でも断ち切ることはできないんですから。
 きっと、みんなの未来は光に満ちていることでしょう・・・。 

 藤田家の人々にも、そしてあなたにも、すべての人々の未来が光に満ちていますように・・・!

 完
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 あとがき
 
 安比奈誠伸です。
 『みんなの未来は光に満ちているか』が、ようやく完結しました。
 
 第二章を発表した時に、皆様から頂いた声は、少なからずショックでした。批判は避けられないだろうと思っていましたが、まさかあそこまで厳しいとは思いませんでした。

 ずっと幸せなままの毎日、はたしてそれが未来永劫に続くのだろうか?当たり前だったものが突然なくなるなんてことはあり得ないのだろうか?それが書き始めたきっかけです。
 私は彼、彼女らに『試練』をあえて与えました。これが正しいものであったかどうかは、私の口からは何とも言えません。ただ、後味の悪いものになってしまったことは確かです。それは認めざるを得ないでしょう。
 正直に言って、あそこまで反発を買うくらいなら、途中でやめようかと思ったこともありました。もがけばもがくほど、自分の首をしめるだけなのではないか、それなら、話を中止にしようかと思ったこともありました。
 しかし、「ここでやめたら、読んでくれている読者の人、管理人様に悪い」と思い直し、一気に最後まで書き上げました。

 藤田家の人々は、大嵐を乗り越えて、大きく成長することができました。そして、さらに絆を強めることができました。それは皆さんに伝わったでしょうか?
 それでも不快な気持ちがぬぐいきれなかったとしたら、繰り返しますが僕の作文が下手なせいです。それは謝ります。許してください。

 最後に、掲載してくださった管理人様、叱咤激励してくださった読者の皆様、最後まで読んでくださった皆様に厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。








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