KANON〜多妻編 いつか、信じて〜

第2話 その夜の出来事

作・ファントム


>視点・秋子

ふと、目を覚ましてしまいました。

時間は、夜の1時。

確か今日…いえ、昨日は多夫多妻製が可決されて、そう、祐一さんが…。

あの後すぐ、みんな帰っていったんですよね…確か。

…祐一さんは、何を悩んでいたのでしょうか…。

私の目から見て、祐一さんは、みなさんを平等に愛していました。

これは間違いありません。

でもあのときの祐一さんは…何を考えているか解りませんでした。

ふだん、表情豊かな祐一さんが、全くの無表情でした。

「…のど、乾いちゃいました。 お水でも飲もうかしら」


部屋から出て、ダイニングの方へ向かうと…すでに、誰かがいるようでした。

また真琴やあゆちゃんが、おなかをすかせているのかもしれませんね。

そんなことを考えながらダイニングにはいると、そこには、予想外の人がいました。

祐一さんです。

「………」

コップに何かを注いで、しばらく見つめていると少し口を付け、また、コップの中を見つめました。

その姿は、ひどく大人びていて、とても…すてきでした。

…見とれている場合じゃありません! 一体何を飲んでいるのでしょう? 「………誰、だ?」

…見つかってしまいました。

「祐一さん? 何をしているんです?」

「………あ、秋子さん!?」

「はい。…何を飲んでるんですか?」

祐一さんは、びくっと肩をふるえさせると、しばらく動きを止め、そしてふっと息を吐きました。

「…見られたのなら仕方ありませんね。実はこれ、ワインなんです」

………わいん? ”わいん”って”ワイン”のことですよね、それってお酒ですよね? でも…あんなのは家にあったかしら?

「…昔ある人からもらったんですよ。アルコール度が割と低いやつだから考え事するのにいいって」

ああ、そうなんですか。知りませんでした。

「でも、もうやめときます」

え?

「何でですか?」

祐一さんは少し驚いたよな照れたような顔で言いました。

「なんでって…俺未成年だし」

………忘れてました。さっきのが凄くさまになったいたので。

「いいえ、そうじゃないんです。…私も少しもらってもいいかしら?」

「え? …あ、はい」

そう言って祐一さんは、コップをもうひとつ取り出し中にワインを注いでくれました。

「どうぞ」

一口飲んでみます。

「どう、ですか」

どこかほんのり甘くて、そしてほんのり苦くて…

「………凄くおいしいです。…なんてゆうワインのなんですか?」

みたところ、ラベルも何もありませんが…。

「よく知らないんですよ」

「…そうですか。…さっき、考え事をするときに飲むって言ってましたけど」

「はい」

祐一さんの顔が、すっと引き締まります。

「今日のあの法案のことを考えていたんですか?」

「…はい」

「出来れば聞かせてくれませんか、何を考えていたのか」

「解りました」

「………」

「………」

「………」

「あの法案自体は、別に悪くないと思います。 むしろ、とてもいい物じゃないのかと思います」

「はい」

そこで、一口ワインを飲み、少し何言おうか考えているようでした。

「…今までずっと、これからみんなとのことどうしようか考えていたんですよ。俺」

「………」

「…みんな大好きがと思う。でもいつまでもこんな関係じゃいけない」

「………」

「いつか、誰か一人を選ばなくちゃ行けない。

 がれかを傷つけることになっても、本当に大切に思うなら、振らなくちゃいけないんじゃないかって」

「………」

「誰も、嫌いじゃない。大好きだ。でも、今のままじゃいけない」

「………」

「中途半端じゃだめだから、そんな優しさなら愛情なら、誰も救えないから」

「………」

「だから、誰か一人を選ばなくちゃ行けないんだ」

「………」

「一度、自分の思いを整理しよう。あいつらへの想いには、”好き”以外にも、”同情”や”責任感”があるんじゃないかって」

「………」

「そう思った矢先に、この法案です」

「………」

「だから、戸惑った、自分の考えが、いやすべてが否定された気がした」

ずっと、そんなことを考えていたなんて…気付かなかった。

一人で、こんなにも苦しんでいたなんて。

「でも…」

「え?」

「答えは出ました」

「………」

「すぐには無理かもしれないけど、中途半端じゃない、心からみんなを好きだって言えるようになろうって」

「………」

「愛してるって言ってやれるようになるんだって」

祐一さん、凄いです。

そんな風に考えていたなんて、見直しました。

この間まで、小さな男の子だと思っていたのに…。

もうすっかり大人なんですね。

あなたは……。

「私の自慢の”息子”です」

「…………」

「祐一さん?」

「………くぅ」

寝てしまいました………。

ふふ、お休みなさい、祐一さん。


あとがき

どもファントムです。カノン多妻編第二話はいかがだったでしょうか。

今回は、祐一が多夫多妻制度をどう思っているかを書いてみました。

祐一の思いの聞き手として、今回秋子さんを選んだのですが……。

かなり可愛くなってしまいました。(笑)

秋子さんは、カノンの中では中立の立場にいると思い選んだのですが………。

なぜかこうなってしまったんです。

個人的には、もっと祐一にはどろどろ悩んでほしかったんですが………。

どろどろ仕切れず。(汗)

第三話は少し明るめで行きたいと思います。




 ☆ コメント ☆

ユンナ:「こんな法律がいきなり出来たら誰だって動揺すると思うわ。それは理解できる。
     でも、だからといって、必要以上に女の子たちに不安を与えるような態度は
     ちょーっといただけないわね」

コリン:「うんうん。同感だわ」

ユンナ:「ま、多少は吹っ切れたみたいだから、次回以降で今回の失点を取り戻してくれるだろうけど」

コリン:「そだね」

ユンナ:「でも……一抹の不安も感じるのよねぇ」

コリン:「不安?」

ユンナ:「だってさ、この話の祐一の女の子に対する気持ちは『愛情』じゃないのよ。
     これからどうなっていくか分からない。だけど、今はまだ愛情じゃないの。恋でもないの。
     単なる同情や思いこみでしかない可能性があるの」

コリン:「確かに」

ユンナ:「だから……期待もしてるけど、同時に不安も感じるのよ」

コリン:「なるほどねぇ」

ユンナ:「まあいいわ。祐一を信用して次作を待つことにしましょう。
     だけど、もしも期待を裏切ったりしたら……
     祐一が、女の子の事を愛してもいないくせに受け入れようとしたら……」

コリン:「う、受け入れようとしたら?」

ユンナ:「こことは違う世界へ強制連行してやるわ」( ̄ー ̄)ニヤリ

コリン:「う゛っ…………や、やりかねない…………こいつなら」(−−;;;




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