作・ファントム
ふと、目を覚ましてしまいました。
時間は、夜の1時。
確か今日…いえ、昨日は多夫多妻製が可決されて、そう、祐一さんが…。
あの後すぐ、みんな帰っていったんですよね…確か。
…祐一さんは、何を悩んでいたのでしょうか…。
私の目から見て、祐一さんは、みなさんを平等に愛していました。
これは間違いありません。
でもあのときの祐一さんは…何を考えているか解りませんでした。
ふだん、表情豊かな祐一さんが、全くの無表情でした。
「…のど、乾いちゃいました。 お水でも飲もうかしら」
部屋から出て、ダイニングの方へ向かうと…すでに、誰かがいるようでした。
また真琴やあゆちゃんが、おなかをすかせているのかもしれませんね。
そんなことを考えながらダイニングにはいると、そこには、予想外の人がいました。
祐一さんです。
「………」
コップに何かを注いで、しばらく見つめていると少し口を付け、また、コップの中を見つめました。
その姿は、ひどく大人びていて、とても…すてきでした。
…見とれている場合じゃありません! 一体何を飲んでいるのでしょう? 「………誰、だ?」
…見つかってしまいました。
「祐一さん? 何をしているんです?」
「………あ、秋子さん!?」
「はい。…何を飲んでるんですか?」
祐一さんは、びくっと肩をふるえさせると、しばらく動きを止め、そしてふっと息を吐きました。
「…見られたのなら仕方ありませんね。実はこれ、ワインなんです」
………わいん? ”わいん”って”ワイン”のことですよね、それってお酒ですよね? でも…あんなのは家にあったかしら?
「…昔ある人からもらったんですよ。アルコール度が割と低いやつだから考え事するのにいいって」
ああ、そうなんですか。知りませんでした。
「でも、もうやめときます」
え?
「何でですか?」
祐一さんは少し驚いたよな照れたような顔で言いました。
「なんでって…俺未成年だし」
………忘れてました。さっきのが凄くさまになったいたので。
「いいえ、そうじゃないんです。…私も少しもらってもいいかしら?」
「え? …あ、はい」
そう言って祐一さんは、コップをもうひとつ取り出し中にワインを注いでくれました。
「どうぞ」
一口飲んでみます。
「どう、ですか」
どこかほんのり甘くて、そしてほんのり苦くて…
「………凄くおいしいです。…なんてゆうワインのなんですか?」
みたところ、ラベルも何もありませんが…。
「よく知らないんですよ」
「…そうですか。…さっき、考え事をするときに飲むって言ってましたけど」
「はい」
祐一さんの顔が、すっと引き締まります。
「今日のあの法案のことを考えていたんですか?」
「…はい」
「出来れば聞かせてくれませんか、何を考えていたのか」
「解りました」
「………」
「………」
「………」
「あの法案自体は、別に悪くないと思います。 むしろ、とてもいい物じゃないのかと思います」
「はい」
そこで、一口ワインを飲み、少し何言おうか考えているようでした。
「…今までずっと、これからみんなとのことどうしようか考えていたんですよ。俺」
「………」
「…みんな大好きがと思う。でもいつまでもこんな関係じゃいけない」
「………」
「いつか、誰か一人を選ばなくちゃ行けない。
がれかを傷つけることになっても、本当に大切に思うなら、振らなくちゃいけないんじゃないかって」
「………」
「誰も、嫌いじゃない。大好きだ。でも、今のままじゃいけない」
「………」
「中途半端じゃだめだから、そんな優しさなら愛情なら、誰も救えないから」
「………」
「だから、誰か一人を選ばなくちゃ行けないんだ」
「………」
「一度、自分の思いを整理しよう。あいつらへの想いには、”好き”以外にも、”同情”や”責任感”があるんじゃないかって」
「………」
「そう思った矢先に、この法案です」
「………」
「だから、戸惑った、自分の考えが、いやすべてが否定された気がした」
ずっと、そんなことを考えていたなんて…気付かなかった。
一人で、こんなにも苦しんでいたなんて。
「でも…」
「え?」
「答えは出ました」
「………」
「すぐには無理かもしれないけど、中途半端じゃない、心からみんなを好きだって言えるようになろうって」
「………」
「愛してるって言ってやれるようになるんだって」
祐一さん、凄いです。
そんな風に考えていたなんて、見直しました。
この間まで、小さな男の子だと思っていたのに…。
もうすっかり大人なんですね。
あなたは……。
「私の自慢の”息子”です」
「…………」
「祐一さん?」
「………くぅ」
寝てしまいました………。
ふふ、お休みなさい、祐一さん。
どもファントムです。カノン多妻編第二話はいかがだったでしょうか。
今回は、祐一が多夫多妻制度をどう思っているかを書いてみました。
祐一の思いの聞き手として、今回秋子さんを選んだのですが……。
かなり可愛くなってしまいました。(笑)
秋子さんは、カノンの中では中立の立場にいると思い選んだのですが………。
なぜかこうなってしまったんです。
個人的には、もっと祐一にはどろどろ悩んでほしかったんですが………。
どろどろ仕切れず。(汗)
第三話は少し明るめで行きたいと思います。