KANON〜多妻編 いつか、信じて〜

第4話 青年の決定・少年の告白

作・ファントム



>祐一

皿を洗いながら昨日のことを思い出す。

…俺のことを思ってくれている少女たち…多夫多妻制度のこと…自分の思い…それに…

「…何暗い顔してるんだ?」

「孝之さん?」

「何を考えていたか、当ててやろうか?」

「………」

「あの法案…多夫多妻制度のことだろ?」

「…あなたはどう思ってるんですか?」

問いには直接答えずに話しかけた、すると。

彼は、すっと顔を引き締めていう。

「…もう少し早く決まってくれればな…誰も傷つけずにすんだ」

そうだ、思い出した、あゆのお見舞いに行ったときに出会った看護婦さんに、聞いたことがある。

3年間昏睡状態だった恋人が目覚め、その3年間の内に出来た恋人と、眠っていた恋人の妹の3人の想いに挟まれていたことを。

そして、その事を悩んでいた彼がここ…バイト先では、すべてを忘れることが出来たこと、そしてその元となった少女と結ばれたこと。

「なんてな、嘘だ」

真剣に考えていた俺の思いをぶち壊すようなことを言ってくる。

「………へ!?」

それは、一体どうゆう

「あの法案が出来たからって、安直にそれを受け入れていたらそれは『逃げ』になっていたと思う」

「………」

「最も、あゆと一緒になったことは…遙たちの問題から逃げたことになるんだけどな」

自嘲気味に言う台詞、だけどそれは…

「違う」

「?」

「孝之さんが大空寺を選んだのは『逃げ』じゃないと思う」

「………」

「詳しい事情は知らないし、興味もない。けど、遙さんとたちの問題で悩んでいた孝之さんを支えたのは、ほかでもない、大空寺だ」

「………」

「それに、あいつの家庭事情のことなら俺も知っている、あなたはそれに苦しんでいた大空寺のことを助けたんだ。

『逃げ』だったらただ甘えるだけだ、あなたは違う」

「…あいつは甘えるって感じじゃないけど、まぁ、そうかもしれないな」

彼は、ほほえみを浮かべて言う

「で、お前はどう思っているだ? 祐一」

「俺は、あなたと違って、誰か一人を選ぶなんて出来なかった。そして、全員を選ぶなんてことも、出来ない」

「なぜそう思うんだ」

「だって、それは、ひどく傲慢なことだから、ひどく自分勝手な想いだから」

「あのなぁ祐一、自分の決定ですべてか決まるなんて思っていることの方が、傲慢だぞ」

「………?」

「相手は人間だ、機械や人形じゃない。心があるんだ」

「………」

「俺が言えるのはそれだけだ、後は自分で考えろ」

孝之さんは、そう言って出ていった。



俺のあいつ等に対する思い想い中で一番強いのは…おそらく、感謝だろう。

幼い頃、家で受けた徹底した英才教育を耐えられたのは、あの雪降る街でのことがあっただろう。

両親が忙しく、いつも家にいなかったあの時期、長期の休みにはいると色々問題が出た。

習い事は休みが多くなり、かといって、家に一人にしておくわけにもいかない。

あのころの俺は進んで他人と関わろうとはしなかったからだ。

だから両親は、俺を親戚に預けることにした。

そう、秋子さんの元へと。

あの街での俺は、自由だった。

習い事もなく、子供らしい遊びが出来たのはあそこにいるときだけだった。

だから、全力で遊んだ。

名雪と遊んだことも。

舞と遊んだこもと。

狐…真琴だ…をこっそり飼っていたことも。

あゆと遊んだことも。

あの街でしかできないことだから、輝いていた。

あの日までは。

あゆが木から落ちるあの日までは。


あの事故の後ことは今でも記憶が不確かだ。

覚えていることは、喋らなくなったあゆを抱えて、森を出たこと。

病院を探し求めて、さまよっていたこと。

その後、駅前で名雪の好意を踏みにじったこと。

そしてその後、ひどい肺炎にかかったこと。

…その時に記憶を封印したんだろう。

高熱でうなされれ、意識が朦朧としていたさなかに。


肺炎が治った後の俺は抜け殻だった。

心の支えを失って俺は、何をするにも無気力な日々を過ごしていた。

親父との仲が悪くなったのは、中学の時。

一流中学の受験を受けずに、そのまま地元の三流以下の中学に行くようになったから。

跡継ぎとして育てていた相手が、突然役立たずになった。

親父が俺を切り捨てるのには十分な理由だ。 切り捨てられたと言っても別に家から追い出されたわけではない。

家には住んでる、でもお互い不干渉。

小遣いはなく、バイトで稼ぎ成績は落ちた。

ただ、皮肉にも自由を手に入れた。

一時的な自由を失い、代わりに恒常的な自由を手に入れた。

そして………



「祐一さん、もうすぐ上がりですよね?」

とりとめのないことを考えていた俺に、姫里が声をかけてきた。

「え、ああ、もうそんな時間が」

はい、と姫里は答えてから続ける。

「あの、私達ももうすぐ終わるんですけど…少し後で時間をもらえますか?」

時間…か、正直まだ家には帰りたくない…

「別にいいけど、姫里一人だけ?」

「いえ、クゥちゃんも一緒です」

「…そう、でどこへ行くの?」

「近くにある海浜公園へ」




 ☆ コメント ☆

ユンナ:「敢えてそういう風に描いているんだろうけどさ、この作品の祐一、すっごく傲慢な気がしない?
     つーか、誰よこれって気分なんだけど。同姓同名の別人?って感じ」(ーー;

コリン:「ま、別人云々はさておくとして、確かに自分のことしか考えてないって所はあるわねぇ」

ユンナ:「結局さ、名雪たちのこと好きでもなんでもないんじゃないのかな。
     言葉は悪いけど、悩んでる自分に酔ってる気がするし……」(ーー;

コリン:「まーね」

ユンナ:「このままだったら名雪たちとは結ばれない方がいいわね」(ーー;

コリン:「祐一が抱いてる一番大きな気持ちは愛情じゃなくて感謝だもんねぇ。
     確かに、それだったら恋人やそれ以上にはならない方がいいかも」

ユンナ:「いいかも、じゃなくて、ならない方がいいの! 絶対そうなの!」凸(ーーメ

コリン:「は、はいぃ!
     (……こ、こわぁ)」(@@;

ユンナ:「祐一が、女の子の事を愛してもいないくせに受け入れようとしたら、
     こことは違う世界へ強制連行してやる」凸(ーーメ

コリン:「あ、あの……それって第2話の時のコメントと一緒……(ビクビク)」(@@;

ユンナ:「なんか文句あるってーの!?」凸(ーーメ

コリン:「ないです! ぜんっぜんないです!(ビクビクドキドキ)」(@@;;;




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