二次創作投稿(月姫)

「思い出」(作:阿黒)




 夢を見ている。
 それを、自覚しながら俺は夢を見ている。
 意識を保ったまま見る夢。何といっただろうか?明晰夢といったっけか?
 目は開けない。けど、もう外が明るいのはなんとなくわかる。
 もうすぐ、翡翠が起こしにくるはずだ。
 たまには翡翠の苦労を軽くしてやるのもいいかな、とチラリと思ったけれど、でも、このまま目覚めてしまうのは惜しい気がして、俺は夢を見つづける。

 それは、ちょっぴりビターな幼い頃の思い出…。

 * * * * *


 遠野のお屋敷の庭。
 その広い庭の奥にある、ちょっとした林の中にぽつんとある、広場。
 そこがぼくたちの遊び場だった。
「今日はなにやる?志貴」
「シキ…お勉強はしなくていいの?」
「うるせ。お前までオヤジみたいなことゆーなよなー子分のくせに」
「なんでぼくが子分なのさ!」
 びし、と平手で軽くシキの後ろ頭にツッコムぼく。
 シキはちょっとナマイキなところもあるけど、でも、結構イイヤツだ。ナマイキっていうか、なんていうか、ワガママなだけかもしれないけど、でもやっぱり男ドウシだし。
「秋葉のやつ、こないなー。きょうは抜け出してこれなかったかな?」
「翡翠ちゃんもいっしょだからなんとかなると思うけど」
「んだな」
 シキの妹、そしてぼくの妹。
 アキハはぼくの本当の妹じゃないけれど、でも、秋葉は、まるでお人形さんみたいにかわいくて、そして気弱げで、なんだかほうっておけなくて、それに、いい子だから、秋葉はぼくのこともおにいちゃん、って呼んでくれるから、ぼくも秋葉のお兄ちゃんになるんだ。
 翡翠ちゃん。秋葉とはせいはんたい。元気でいつもわらってる女の子。ひょっとしたらぼくよりお姉ちゃんなのかもしれないけれど、でも、とってもかわいい。
 いつもニコニコしていて、遠野の家になじめなかったぼくに元気をくれた。ほんとはめしつかい、なんだっていうけど、でもよくわかんないし。
 ぼくたちにとっては翡翠ちゃんは翡翠ちゃん。ぼくたち4人組の、アネゴってやつだ。言ったらなぐられたけど。シキはけられたし。
 やっぱりアネゴだ、ってつぶやいてた秋葉は、ウメボシぐりぐりされて泣いちゃったけど。
「志貴さー。お前は秋葉と翡翠、どっちが可愛いと思う?」
「えー?なんだよそれ?」
「いーだろ教えろよー。どっちが好きなんだー?いっとくけど、どっちも好きってのは無しな」
 ニヤニヤ笑うシキ。時々、こういうむつかしいこと言うのは困る。自分の名前、漢字で『四季』って書けないのに。
「おれはー、やっぱり秋葉がかわいーな。兄として」
 くす。
 シキはほんと、秋葉のことがすきだからな。いつもはからかってばかりだけど。
 きょうだいって、いいもんだなって思う。だから、ぼくも、秋葉やシキと、きょうだいになりたいなって思う。
「俺は秋葉をお嫁さんにするぜー。秋葉に手ぇだすヤローはぶっ殺しちゃる」
 ……道さえふみまちがえなければ、と思うんだ。うん。
 とりあえずきょうだいは結婚できないって知ってる?シキ?
「で、おまえはどーなんだよ志貴?俺は言ったんだからおまえも言えよー」
「そっちが勝手に言ったんじゃないか〜」
 秋葉と翡翠。
 どちらもかわいいから困るんだよね。こういう質問って。
 それぞれ違うから、いっしょになんて較べられない。
 チョコレートと超合金ロボ、どっちが好き?っていわれてるようなもんなんだよね。
 チョコは食べられるけどロボットは食べられない。
 ロボットはロケットパンチが撃てるけど、チョコは撃てない。
「ぼくは、どっちもお嫁さんにしたいなぁ」

 ごきゃす。

 殴られた。しかもソッコーで。
「わははははー、志貴ー、冗談キツイぞー?」
 ゴメン、ぼくが悪かったです。だから、頭をグリグリ踏まないでシキ。
「志貴ちゃんをいじめるな〜〜〜〜!!」

 どごす。

 黄色い声といっしょにふっとぶシキ。
 顔面にきれいに靴あとをつけたシキが、コロコロと転がった。
「だいじょうぶ志貴ちゃん?」
 シキに豪快などろっぷきっくをブチカマシタ翡翠ちゃんが、ぼくが自分で起き上がるより早くぼくの頭を抱え込む。
 翡翠ちゃん…心配してくれるのはうれしいんだけど、頭を撫でるのやめてくれないかな。
 でも、まあ、頬にあたるムネの感触が…まったいら、だね。
「むー。志貴ちゃんのえっちー。なにかんがえてるのー!!」
「えっ、なんでわかるの翡翠ちゃん!?」
「なんか、そんな顔してたもん」
 こたえたのは、翡翠ちゃんじゃなくて秋葉。
「志貴おにいちゃんは、わかりやすいから」
 うわ、なにげにショーック!そうなのぼく?
「…まだこどもなんだから、ムネがないのは仕方ないよ。でもオトナになったらおっきくなるもん!」
「なるもん!」
 翡翠と、秋葉。二人してそう出張する。
 …なんとなく、その予想は外れる気がしたんだけど、黙っておこう。特に秋葉。
「ううう…な、なにしやがる翡翠…」
「志貴ちゃんいじめたらメッ!なんだよ!!」

 どこし!ごがす!ばきっ!

 地べたに転がるシキにヤクザキック!ヤクザキック!ヤクザキック!
 ひどいよ翡翠ちゃん。
「ごわっ…や、やめて翡翠さんっ!秋葉助けて〜〜〜!!」
「志貴おにいちゃんいじめるお兄ちゃんなんて、秋葉だいっキライ!」

 がが〜〜〜〜〜ん!!!
(痛恨の一撃!シキは10000000000000ポイントのダメージを受けた!)

 あー。精神的にきっつぅ。再起不能だよアレ。シキ的には。
 なんか燃え尽きちゃった。
「まあ冗談はこれくらいにして」
 冗談なの翡翠ちゃん?
「逃げるよ志貴ちゃん地の果てまでっ!!」
「なんでっ!?」
「あ〜〜っ、翡翠ちゃん志貴お兄ちゃん連れてっちゃヤダよー!!」
 呆けてアリさんに話しかけてるシキはほっといて、強引に翡翠ちゃんにぼくは引っ張られた。その後をちょっぴり涙目になった秋葉がついてくる。

 どどどどどどどどどどどど…

 なんか、おうちの方から暴れ牛みたいな勢いで誰かがやってくる。
「槙久のおじさんだよ!」
「なんで親父がっ!?」
 あの勢いからすると、この前池の錦鯉を吊り上げて焼き魚にしようとした(翡翠ちゃんが料理したがったのだ)時と同じくらい、おこってる?あの鯉って、一千万くらいしたそうだけど。
 ぼく、こどもだからよくわかんないや。
「えーと。秋葉ちゃんをピアノの先生から逃がすために」
「うん」
「その辺歩いてた黒猫のシッポにネズミ花火くっつけて、おじさんのお部屋に放り込んだの」
 どーぶつぎゃくたいだよ翡翠ちゃん!
「あと、調理場で仕入れてきたブタの内臓を」
 聞きたくないよそんなこと!!!
 なんでそんな残念そうな顔するのさ翡翠ちゃん!?
「ま…まって…おにいちゃん…!」
 秋葉はもうバテバテだ。当たり前だよ、秋葉、弱いもの。
「あのさ、翡翠ちゃん。秋葉が…」
「うん、わかった」
 翡翠ちゃんうなずいた。
 そして。
「メイドソバット!!」
「げふぅ!!?」

 翡翠ちゃんの爪先が、秋葉の土手ッ腹にくいこみました。マジで。
 かんせーのほーそくというやつで、2,3回地面を転がってから、ピクピクと秋葉は痙攣してます。
「よし!これで槙久おじさんの足止めになった!」
 本気でヒドいよ翡翠ちゃん〜〜〜〜〜〜!!!
「よーし、あとは逃げ切るだけだよ!死にたくなかったら走れ!志貴ちゃん!」
「火に油注いでどーすんのさー!!!」
「二人っきりって、なんか楽しいよね♪」
「ぼくは泣きたいよっ!!!」

 それは、幼い頃の、ちょっぴりビターな思い出。
 なのか…?

  * * * * *

 時の移ろいと共に、人も変わる。
「うふふふふ…に・い・さ・ん♪」
 8年の歳月は、おとなしい少女を逞しい女王様に変えた。しかもブラコンの。
 リビングでモーニングティーを楽しみながら、秋葉は時計を見る。時刻は5時42分。
 ティーカップを置くと、秋葉は腰を浮かせかけた。
「秋葉さま」
 変わったのは、彼女だけではない。
 年月はいつも笑っていた少女からその笑顔を奪い、笑わぬメイドへと変貌させていた。
「私は志貴さま付を仰せつかっております。志貴さまを起こすのは私がいたしますから」
「たまには私に任せてもらうわ。…兄さんがどんな顔をして寝てるのか、興味あるし」
「なんだかやけに楽しそうですねー秋葉さま」
 翡翠の双子の姉、琥珀が笑う。メイド服をきっちり着込んだ妹とは対照的に、着物に割烹着というお手伝いさんスタイルで、おっとりと頬に片手を添える。
「秋葉さま…」
「しつこいわよ翡翠。いいじゃない、翡翠は毎日毎日兄さんの寝顔見ているんだから」
 ややあきれたような顔をして、しかしあっさり翡翠から興味を無くして秋葉はソファーから立ち上がった。

 途端に一閃するメイドソバット!

「ごふっ…!?」
 何が起こったのか理解する暇もなく、一瞬にして気絶した秋葉をソファーに横たえると、翡翠は引き攣った顔をしている姉を無表情に見た。
「すみませんが、秋葉さまは適当に誤魔化しておいてください姉さん」
「う、う、うん…翡翠ちゃん」
「それでは。私は、これから志貴さまを起こしてきますので」
 相変わらず無表情に…しかし唇の端が、僅かに歓喜を表していて。
 無言で厨房に向う妹を見送って、琥珀はなんとなくため息をついた。
「お姉さん、昔の翡翠ちゃんみたいによく笑う女の子になりたいとは思っててそうなるようにしてきたけど、こういうとこは真似できないわー」
 そのかわり、謀略と薬物を自在に操る割烹着の悪魔になってますけど。

 時の移ろいと共に、人は変わる。
 その変化はあるいは成長であり、あるいは堕落と呼ばれるかもしれない。
 それ以外の変化もあるだろう。

 でも、性根の、芯のところは、そうそう変わるものでもないみたい。
「翡翠ちゃん…そのバケツ一杯のブタの内臓は一体…?」
「知りたいですか姉さん?」


<終わってください>





【後書き】
 諸君。私は翡翠が好きだ。
 諸君。私は翡翠が大好きだ。
 諸君。私は翡翠が大好きだ。(以下略)
 なのになんでこんなの書くかな自分〜〜〜〜〜〜!?
 あと、自分の書く月姫ものって、秋葉が割とヒドイ扱いだったり。なぜだっ!? 

 シキってさ。反転する前って単純でバカでオッペケペでシスコンだったりするけど、まあ悪い奴じゃないって気がしますよね。
 志貴と二人で色々イタズラやってそうで。結構、いい相棒だったんじゃないかと。お互いに。
 で、二人して(この頃は快活だった翡翠に)尻に敷かれてたりして。
 なんか、想像するとすげー楽しそうな幼少時代って感じっす。




 ☆ コメント ☆

セリオ:「メイドソバット」(−−)

綾香 :「や、やるわね翡翠。ソバットを完璧に使いこなすなんて」( ̄▽ ̄;

セリオ:「メイドソバット、ですか」(−−)

綾香 :「しかも、あの秋葉を一撃KOだなんて」( ̄▽ ̄;

セリオ:「メイド……ソバット」(−−)

綾香 :「人は見かけによらないものね」( ̄▽ ̄;

セリオ:「メイドソバット」(−−)

綾香 :「……って、あなたは何をさっきからブツブツ言ってるのよ?
     そんなにメイドソバットが気に入ったの?」

セリオ:「気に入った、というわけではありませんが。
     でも、メイドと冠されている以上は無視できません」

綾香 :「先に言っておくけど会得しなくていいからね。んな物騒な技」( ̄▽ ̄;

セリオ:「えーっ!? ダメですか?」

綾香 :「ダメ」

セリオ:「……」

綾香 :「指を咥えて上目遣いをしてもダメ」( ̄◇ ̄;

セリオ:「う゛ーっ、なんでですかぁ?」

綾香 :「だって、メイドソバットって『お嬢様キラー』みたいだからね。
     そんなデンジャーな技、セリオに覚えて欲しくないわ。いろんな意味で怖いもん」

セリオ:「それは、わたしが綾香さんに放つ、と思ってらっしゃるのですか?」

綾香 :「思ってる。てか、放つでしょ、間違いなく」

セリオ:「ですね。わたしもそう思います。自信ありです」

綾香 :「……」

セリオ:「……」

綾香 :「ぜっっったいに禁止ね」(ーー;

セリオ:「……ちっ」( ̄へ ̄)



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