「ねぇ、葵。」

「なぁに?」



「葵ってさぁ、ほら、1っ個先輩の・・・何て言ったけ?」

「藤田先輩の事?」



「そうそう!その藤田先輩と付き合ってるってホント?」

「ち、違うよう! 付き合ってなんか無いよぉ。」



「あ!赤くなった! 赤くなった!」

「もう! 裕子ったら! からかわないで!」



「ごめん、ごめん。 でも、怪しいなぁ、ホントのとこ、もうキスとかしたんでしょ?」

「へ?」

「惚けるな! したんでしょ? 藤田先輩との、甘〜〜いファーストキス。」

「そ、そんな事・・・。  ・・・・まだ・・・・して無いよ。」





  題目  『 ファースト・キス 』



ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ! 

バシッ! バシッ! バシッ! バシッ!



「葵ちゃん、あと少し・・・。」



ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ! 

バシッ! バシッ! バシッ! バシッ!



「ラスト!」



ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ! 

バシッ! バシッ! バシッ! バシッ!



「よし!休憩!」



はぁ・・・。 はぁ・・・。 はぁ・・・。

はぁ・・・。 はぁ・・・。 はぁ・・・。



「はい、葵ちゃんタオル。  汗ふかないと風邪ひくぞ。」

「・・・はい・・・。 ありがとう・・・ございます。」

藤田先輩からスポーツタオルを受け取ると、顔や首、腕などの汗を拭いた。



顔の汗を拭きながらも、自然と藤田先輩の方に目が行ってしまう。

藤田先輩の顔を見ているだけで、笑顔になってしまうのは仕方ないよね。

スポーツタオルで顔を隠しながらも、また何時もの様に熱い視線を送ってしまった。

だって、今だけは、私だけの藤田先輩だから・・・。

大好きな、藤田先輩を独り占めにしたいと思うのは、我侭な事じゃないよね。 ・・・きっと。



「どうしたの? 葵ちゃん。」

「え? あ、いえ!別に何でも有りません!」

私の視線に気付いたのか、ポ〜っとしている私を不思議に思ったのか、藤田先輩は優しく微笑みながら問いかけてきた。

恥ずかしさの余り、自分でも判るくらいに顔が真っ赤になっている。

先輩、お願い! 今の顔見ないで!



「何でもないって顔じゃないぞ。」

「ホ、ホントに何でもないんです。」

気恥ずかしさから、その場から離れるようと勢いよく立ち上がった。

しかし、急に立ち上がったものだから、足の筋肉が悲鳴をあげてよろめいてしまった。



「あ・・・。」

「危ない!」

一瞬の出来事だった。

藤田先輩は、倒れそうになった私を抱きとめてくれた。



ほんの一瞬。 でも、時が止まった様に思えたその瞬間は永遠の様に感じた。

私は、藤田先輩の腕の中で強く抱きしめられた。

こんなに大きく、こんなに早い心臓の音は聞いた事が無い。

更に頬が赤くなるのが判った。



「だ、大丈夫? 葵ちゃん。」

心配そうに私の顔を覗き込む藤田先輩。

こんなに近くで藤田先輩の顔を見た事は無い。

頭の中が真っ白になっていった。



「あ、あの・・・。」

お礼・・・言わなくっちゃ。



「好きです、先輩。」

やっと探し当てた言葉に耳を疑った。

ダメ!そ、そんな事言いたいわけじゃない!

助けてくれたお礼を・・・。



「ずっと、ずっと前から好きだったんです。」

・・・言ってしまった。

隠しておいた秘密の言葉。



藤田先輩の周りには、綺麗で可愛い人が沢山いる。

とても、私なんかじゃ太刀打ちできない。

でも、エクストリーム同好会の中では、私と藤田先輩の二人だけ。

私が、言いたくても言えない言葉を隠してきたのは、この時間を奪われたくないから。

この二人だけの、掛替えの無い時間を大切にしたいから。

私の気持ちを胸にしまい、ただ藤田先輩を見詰めるだけで幸せだった。

だって、私のホントの気持ちを知ったら、藤田先輩、きっと・・・。



「葵ちゃん・・・。 俺も好きだよ。」

え? 今なんて・・・。



「俺も、前から葵ちゃんの事が好きだったんだ。」  

え? うそ? 藤田先輩・・・ホントですか?



「・・・先輩、私・・・・。」

「でも、こういうものは男の口から言ったほうが・・・。」

「わ、私、男の子っぽいし、その、全然可愛く無いし、スタイルだって・・・良くありません。」

「?」

「藤田先輩の周りには、素敵な方が沢山いらっしゃいます。  私なんか・・・。」

思わず涙が零れ落ちた。

涙で霞んだ向こうに、藤田先輩の優しそうな目があった。

藤田先輩の目は、『しょうがねぇなぁ・・・。』と言っている。

藤田先輩は、私の肩を抱き寄せると、耳元でこう言った。



「自分の事を、『〜なんか』なんて卑下して言っちゃあダメだ。  さっきも言った通り、俺は葵ちゃんが好きだ。 その直向で、純粋な葵ちゃんが好きだ。 葵ちゃんは十分可愛い。  俺は、松原葵という女の子が好きだ。  これで信用してくれる?」

「は、はい・・・。」

思いがけず告白をしてしまった。

大好きな藤田先輩に。

藤田先輩も私の事を好きでいてくれた。

まるで、夢を見ているようだ。

涙が止め処も無く流れ落ちる。

でも、今は藤田先輩の胸の中にいたかった。

藤田先輩の温もりが伝わってくる。

幸せと一緒に・・・。



「・・・葵ちゃん・・・。」

「・・・はい。」

私の肩を持つ藤田先輩の力が、少し強くなった気がする。

私も藤田先輩の服を軽く握る。

藤田先輩の、ちょっと恥ずかしそうな、でも真剣そうな顔が近づいてくる。

私は、少しだけ顔をあげて目を閉じた。



心臓が壊れるんじゃないかと思うほど、早く鼓動している。

でも、先程とは違い心地よくも感じられる。

藤田先輩の腕の中、幸福感で私の中がいっぱいになった。

藤田先輩の吐息までも感じる・・・。

良かった・・・。   私の始めてが、藤田先輩で・・・・。

あと、もう少し。

もう少しで・・・。











ピピピピピ・・・・。  ピピピピピ・・・・。



「!」

目を開けた。

薄暗い中、目に入ってきたのは、見慣れた部屋の天井と、お気に入りのカーテン。

間違いなく私の部屋だ。

当然、藤田先輩は何処にもいない。



「・・・・夢。」

その一言を言うのがやっとだった。



ピピピピピ・・・・。  ピピピピピ・・・・。

私の幸せな一時は、何時も聞きなれた電子音によって脆くも打ち破られた。

何時もは気にならない目覚まし時計の音が、今日はやけに気に障る。

ちょっと強めに叩いて電子音を止めた。



「あ〜〜。 もう、ちょっとだったのに・・・。」

少し口を尖らせて、誰言う訳でも無く愚痴ってみた。



「・・・昨日、裕子達があんな事言うから、夢見ちゃったんだ・・・。」

記憶の片隅にあった夢が脳裏に浮かぶ。

リプレイされた映像は、間近に迫った藤田先輩の顔。

自分でも判るほど、顔がカ〜ッと、赤くなった。



「夢・・・だったんだ・・・・。」

藤田先輩が、私の事を『好き』と言ってくれたのも、藤田先輩に愛の告白をしたのも全部夢。

それから、藤田先輩と・・・・の事も、夢・・・。



もし、夢から覚めなかったら、あの後どうなってたんだろう。

唇に触れてみる。

少しだけ、胸が痛んだ。



「・・・よし!」

気合を入れると、布団から飛び起きた。

ベット脇の、藤田先輩のフォトスタンドを閉じると、着替えを始める。

今日も一日が始まった。



でも、今日は特別な日。

だって、今日は私の誕生日。

きっと、特別な日だから、藤田先輩が夢に出てきてくれたんだ。

寸止めされたのは、藤田先輩からの『頑張れよ!』のメッセージ。



まだまだ、藤田先輩の後姿は遠いけど、何時か必ず藤田先輩の隣で一緒に歩きたい。

だから、今の私が出来る事を、精一杯頑張るだけ。

頑張って、頑張って、藤田先輩に振り向いてもらえる様になりたい。



そして、夢じゃなく、いつかきっと・・・。

だから、その日まで・・・。





 ☆ コメント ☆

綾香 :「あらら。いい雰囲気だと思ったのにねぇ」(^^;

セリオ:「夢だったわけですか」(;^_^A

綾香 :「でもまあ、ガッカリすることはないかもね。
     この夢のおかげで葵もまた少し前向きになれたんだしさ」

セリオ:「ですね。一皮剥けた感がありますし」

綾香 :「うん……って、あれ?」

セリオ:「どうしたんです?」

綾香 :「思ったんだけど……ひょっとして、前向きになった葵って、
     物凄く強力なライバルなんじゃない?」

セリオ:「そう、かもしれませんね」

綾香 :「……むぅ」(−−)

セリオ:「あ、綾香さん?」

綾香 :「葵、今のうちに永久の夢の世界に送っておいた方がいいかしら?
     出る杭は打つべきよね。芽は早いうちに摘んでおいた方がいいし」(−−)

セリオ:「……真面目な顔で物騒なことを検討しないで下さい」(ーー;





 葵 :「う゛っ」

琴音 :「葵ちゃん? どうしたの?」

 葵 :「ちょっと寒気が」

琴音 :「え? それはいけないわ。風邪かも。すぐに温めた方がいいわ」

 葵 :「うん、そうだね……っ!? こ、琴音ちゃん!?
     なんで服を脱いでるの!?」

琴音 :「なんでって、身体を温める時は人肌が一番なのよ。
     ほら、葵ちゃんも脱いで脱いで♪」

 葵 :「ちょ、ちょっと! 琴音ちゃ……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

琴音 :「





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