「ねぇ、浩之ちゃん、お土産何が良い?」
「はぁ? 土産? どっか行くのか?」

「もう・・・従姉妹の結婚式が有るから、神戸に行って来るって・・・。」
「ああ、そう言えば聞いた様な気がする。  何時行くんだっけ。」

「GWだよ。  もう、浩之ちゃん、何も聞いて無いんだから・・・。」
「わりぃ。 で、何時まで行くんだ。」

「え〜〜っと・・・。 5月3日に出発して、帰ってくるのは5日だよ。」
「え? じゃ、GW丸潰れじゃねぇか。」

「・・・浩之ちゃん、ひょっとして何か計画入れてたの?」
「・・・・・。」





  題目  『 GWの過ごし方 』




ザ〜〜〜〜。 ザ〜〜〜〜。
ザ〜〜〜〜。 ザ〜〜〜〜。

朝から雨が降っている。
しかも、結構強く降っているようだ。

昨日の目覚めも、確か雨が降っていた。
2日続けての雨。
今日も、昨日と変わらず、憂鬱で退屈な一日になりそうだ。


昨日、神岸一家が親戚の結婚式に出席するため、神戸に旅立った。
帰りは確か、明日の夕方くらいだと言っていた。
折角だから、見送りにでも行ってやろうかと思ったが、何でも切符が取れなかったらしく、出発は6時前だとか言っていた。
休みの朝の、しかも6時前なんて、起きられる訳も無いので、丁重にお断りをした。

どうせGWの予定なんて、始めっから入れて無かった。
今年は、週末と休日が重なったため、GWは3日から5日の3日間しかない。
だからって訳じゃないが、今年はあかりと2人だけで、ゆっくり、まったり、のんびり過ごす予定だった。
それが、一人でゆっくり過ごす破目になるなんて・・・。

でも、ま、アレだ、うじうじ考えてたって始まらない。
昼前に起きてきて何だが、昨日は一日中ゴロゴロして過ごしたから、今日こそは貴重な休暇を満喫すべく、
誰か誘って遊びにでも行くかぁ・・・。

確か・・・雅史は、サッカーの練習試合が有るとか言ってたよなぁ・・・。
こんな雨の日でもやるかなぁ・・・。
レミィは、北海道へ日本狼を狩りに行くって言ってたし。
日本狼・・・見つかれば良いけどなぁ・・・。
って、その前に、レミィが捕まらなければ良いけど・・・。

先輩と綾香は、先週からイギリスだったよなぁ。
理緒ちゃんは、当然バイトのハシゴだろ。

そうだ、葵ちゃんか、琴音ちゃんにしよう。
先ずは、葵ちゃんから・・・。


「・・・・・・あ、もしもし、松原さんのお宅ですか。 私、藤田と良います・・・・・・・・あ、いえ、こちらこそ・・・。
あの・・・葵ちゃんいませんでしょうか・・・。   へ?・・・・・・・・あ、そうですか・・・あ、いえ、結構です。 
・・・・・・・では、失礼します。」

葵ちゃんは、琴音ちゃんと一緒にタマちゃん見物かぁ・・・。
良いなぁ・・・俺も行きたかったなぁ・・・。


じゃ、委員長は。

「・・・・・あ、もしもし・・・。(プチ!)」
ツー ツー ツー

あ、切りゃがった・・・。
もう一回っと・・・。

「・・・・あ、もしもし、俺、藤田だけど・・・。」
『藤田君何なの! 今、塾の真っ最中やから切るわ!』 

「え? あ・・・。 (プチ!)」
ツー ツー ツー

・・・・・・・・・ま、良いか。

志保は・・・・補修だったな。
春休みに引き続き、GWまで補習だって、泣いてたよなぁ・・・。
そっか・・・。
あいつ、つくづく勉強好きだよなぁ・・・。
全く、受験生の鏡だよ。
取りあえず、志保はほっておこう。


ザ〜〜〜〜。 ザ〜〜〜〜。
ザ〜〜〜〜。 ザ〜〜〜〜。

朝から雨が降っている。
しかも、心成しか降りが強くなった気がする。
外に出る気も失せてきた。

カップラーメンでも食べるか・・・。




『ねぇ、浩之ちゃん。 お土産は何が良い?』
『大吟醸 灘の生一本!』

『御饅頭みたいな和菓子が良い?それとも、サフレみたいな洋菓子が良い?』
『大吟醸 灘の生一本!』

『もう、高校生なんだから、お酒なんてダメだよ。』
『大吟醸 灘の生一本!』

『・・・判ったよ。  浩之ちゃんがそこまで言うなら、重〜〜い、一升瓶を抱えたまま神戸から帰って来るよ。(泣)』
『・・・・・饅頭で良いです。』

『うん! 美味しそうなの買ってくるね。(笑)』
『・・・・・。』



・・・・・・・・・・はっ!
いかん、いかん。
昼寝しちゃったぜ。
って、もう、こんな時間なんだ・・・外も暗くなってるし、今日も無駄に一日過ごしちまった・・・。
しっかし、自分で言うのも何だけど、信じられないくらい怠惰な一日だったなぁ。
昼前に起きて、カップラーメン食って、ゲームして、昼寝して・・・・。

明日は、早めに起きて、家中の掃除でもするかぁ。
そうでもしなきゃ、なんか人間としてダメになる様な気がして来た。
このままで、将来大丈夫なんだろうか? マジで考えちまうぜ。


あれ? そういえば、なんか良い匂いがしてくるなぁ・・・。
下に誰かいるのか?
電気も点いてるみたいだけど・・・。
親父かお袋でも帰ってきたか? 

ドタ、ドタ、ドタ・・・。


「あ、浩之ちゃん、起きたんだ。」
・・・・あかり?

「もうちょっと待っててね。 もう少しで御飯できるから。」
あかりは、キッチンから少しだけ顔を出して、俺を確認すると、またキッチンに戻って行った。

「ちょ、ちょっとあかり・・・。」
「浩之ちゃん、ごめんね、今。手が離せなくて・・・。」

「どうしたんだ? 帰りは明日じゃないのか?」
俺は、階段から転がる様にキッチンへと向かった。
キッチンでは、エプロン姿のあかりが天婦羅を揚げている真っ最中だった。

「お部屋とか散らかってたから、簡単に掃除しておいたよ。
それから、ダメだよ、私が居ないと直ぐインスタント食品ばかり食べるんだから・・・。」
あかりは、火加減を見ながら、油の中の天婦羅を菜箸で泳がしている。
辺りを見回すと、散らかし放題だった居間や、流しに放ったままだった、インスタントラーメンのカップ等が片付けられている。

「ああ、ありがと。・・・じゃない!どうしたんだ。」
「えっとね、お父さんが、もう帰って良いって・・・。」
「帰って良いって・・・で、帰ってきたのか?」

「・・・・迷惑だった?」
「いや、そんな事無い。」
  
「・・・一緒に居て良い?」
「当然だ、居てくれ。」
俺は、あかりを後ろから抱きしめた。

「・・・ちょ、ちょっと、浩之ちゃん、危ないよぉ〜。」
「・・・・ひ、浩之ちゃんってば・・・。  ちょ・・・・あ・・・あ・・・。」







「・・・・でね、従姉妹の・・・美咲さんって言うんだけど・・・綺麗だったよぉ。」
膝枕をされている俺の頭を優しく撫でながら、あかりは瞳を輝かせながら話している。
結局、あれから・・・・色々あったけど、ご飯を温め直してから2人で遅めの夕食を頂いた。
あかりの、少しだけ困った様な、ちょっとだけ、はにかんだ顔が印象的だった。

「それからね、それからね・・・。」
あかりの話は、尽きる事を知らないらしい。
余程嬉しかったのか、夕御飯中からずっと結婚式の話をしている。

結婚式に出された食事が、とても豪華そうで美味しかった事や。
飛んで来たブーケを、もう少しの所で取り損ねた事。
従姉妹の、綺麗なウエディングドレスや、真っ赤なイブニングドレスの事など。
はたまた、『三三九度はこうしてやるんだよ!』って事等など・・・。

あかりは、身振り手振りを交えながら、式場での出来事を全て話してくれた。
お陰で、参席して居ない俺でさえ、大体の事が判るくらいに。

俺は、適当に相槌を打ちながら、一人物思いに更けていた。

・・・・純白のウエディングドレスに身を包んだあかりの姿を・・・。



「・・・如何したの、浩之ちゃん。」
「あ、いや、別に・・・。」
流石に、お前のウエディングドレス姿を思い描いてた、なんて口が裂けても言え無いもんだから、そこは適当に誤魔化す。

「あ、浩之ちゃん、何か隠してるでしょ。」
「隠してなんかいねぇよ・・・。」
俺は思わず視線を外してしまった。
やった後で、『しまった!』と思った。
前にあかりが、『浩之ちゃんは、隠し事をする時、視線をそらすんだよ。』と言っていた事を思い出したからだ。

「・・・・・・・。」
案の定、あかりは口元を緩ませながら、俺の事を見詰めている。
何か感づいたのは間違いなさそうだ。
下手に幼馴染が長かったせいか、変な所は感が鋭くて困る・・・・。

「・・・ねぇ、浩之ちゃん。  ちょっと、起きてくれないかなぁ。」
「は?」

「ね、お願い。」
「ああ・・・・。」
あかりにしては珍しく、俺の返事を待つのももどかしい様に、俺の頭を上げに掛かる。
ソファ−から立ち上がると、今度は俺の手を引っ張り、『早く!早く!』と言いながら、戸口まで俺を連れて行く。
何か企んでいるのは明白だが、とりあえず乗ってやる事にした。

「ふふふ・・・。」
あかりは、俺を見ながら微笑むと、ポケットから白いハンカチを取り出し、自分の頭の上に乗せた。

「あかり・・・・。」
「如何?浩之ちゃん・・・似合うかな?」

「・・・ああ。」
「ふふふ・・・。」
曖昧な返事しかしない俺を横目に、あかりは俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

「・・・えっとね、司会の人が、『新郎、新婦の入場で〜す!』って言うと、扉が開くんだよ。  そしたら目の前にはカメラやら、
ビデオを構えている人がいっぱいいて、フラッシュが沢山たかれるの。」

「その中をね、拍手と喝采とフラッシュの中を二人して歩いて行って・・・って、浩之ちゃん、歩いてくれない?」
「・・・お、おう、そうだな。」

「ふふふ・・・。  それからね、鳴り止まない拍手の中、スポットライトを浴びながら2人は静々と歩いて行くの。
そして、壇上に上がり、集まってくれたお客様に向かってお辞儀するの。  そしたらね、拍手が一層大きくなるんだよ。」
俺達は、そう言いながら誰も居ない居間で、誰も居ない方向に向かって深々とお辞儀をする。
多分、今のあかりには、カメラのフラッシュや、スポットライトが煌き、割れんばかりの喝采が聞こえているだろう。

「私ね、結婚式の最中に、美咲さんの姿に私の姿を重ねてたの。  綺麗なウエディングドレスを着て、スポットライトを
浴びて、拍手と喝采の中、来てくれた人全てから祝福を受けて、好きな人の隣に立って、好きな人と一緒にバージンロード
を歩いたり、真珠の涙を流しながら花束贈呈して・・・。」

「・・・・その時・・・・隣には、やっぱり、浩之ちゃんが居て欲しいな、って・・・・。」

「・・・・タキシード着てる浩之ちゃんの隣で・・・・一緒に歩きたいな、って・・・・。」

「・・・・・ずっと、考えてた。」
俯き加減で、耳まで真っ赤にしながら呟いている。
あかりのそんな姿が愛しくて、思わず、あかりの肩を寄せながら優しく抱きしめた。
あかりの頭から、ハンカチが落ちる。
あかりは、俺の胸の中で固まっている。
あかりの温もりと鼓動が聞こえる。

とくん  とくん  とくん

「・・・さっきな、あかりの話を聞いててな、お前が・・・・その・・・・ウエディングドレスを着ている所を想像したんだ。」

「俺は、真っ白なタキシードを着てな、お前の横にいたぞ。」
「・・・・うん。 よかった。」


「ねぇ、浩之ちゃん。」
「何だ?」

「・・・・その・・・私、綺麗だった?」
「・・・・ああ・・・。 ちょっと、良いかなぁ、なんてな。」

「・・・・ちょっとだけなの?」
「・・・・ったく!  凄く綺麗だったぞ。」

「「・・・・ふふふ・・・。」」





「・・・・そうだ、あかり。 あした暇か?」
「え? う、うん。」

「あした、俺に付き合ってくれ。」
「え、それは良いけど・・・・何処行くの?」

「内緒だ。」
「・・・・・?」








「・・・・ねぇ、ちょっと、あかり・・・一体どうしちゃったのよう!  ちょっと、ニヤケ過ぎなんじゃない?」
「え? そ、そうかなぁ・・・。  私は、何時もと一緒だよ。(にやぁ〜〜)」

「気持ち悪いわねぇ〜。 一体GW中にヒロと何が有ったのよう!」
「志保〜。 何も無いよぉ。  ねぇ〜浩之ちゃん。(にまぁ〜〜)」
「そうだなぁ〜。 もし、何か有ったとしても、志保には内緒だ。」

「キィ〜〜〜〜〜!! 何よ!何よ!何よ! ヒロのくせにぃ〜! この志保ちゃんに秘密だなんて! 絶対に許さないわ!」
「・・・まぁ、まぁ志保〜。(にまにま〜〜)」

「あかりも、あかりよ! 私達親友でしょ! 女の友情より、男を取るだなんて、最低だわ!」
「・・・・そ、そんなぁ・・・。(にへら〜〜)」

「いーわよ!いーわよ! こうなったら、『志保ちゃんネットワーク』で、ヒロの有る事無い事ぶちまけてやるんだから!」
「おい、おい、それは、唯のデマだろ。」

「ヒロ!覚悟しておきなさいよぉ! 見たいテレビが有るんなら、今晩中に見ておくことね!」
「おい!待てよ、志保・・・・。  あ〜〜あ、行っちまった。」

「・・・浩之ちゃん、大丈夫かなぁ・・・。」
「良いんじゃねぇの。  それより、あかり・・・・。」
「なぁに、浩之ちゃん。」
「あの事、誰にも内緒だぞ!」
「・・・うん。 (ぽっ)」

「・・・特に、志保にはな。」
「・・・そうだね。  志保には悪いけど、ちょっと言えないよね。」
「二人だけの秘密だ。」
「うん。 ひみつ、だね。」






浩之達の住む町から、少し離れた所に有る、とある街角の写真館。
そこに、ひっそりと掲げられた一枚の記念写真。
その記念写真の中には、まだ若い、いや若すぎる二人の姿が写し出されていた。

ともすれば、あどけなささえ残す新婦は、色鮮やかなブーケを携えて、純白のウエディングドレスを身に纏い、満面の笑みを
浮かべながら、信頼と安心に満ちた眼差しを、真っ直ぐに新郎に向けている。
白いタキシード姿の新郎は、色々な感情が入り混じった複雑な表情をしながらも、新郎の眼差しは、新婦の瞳に負けない位
の優しさに包まれている。


『・・・・わぁ・・・素敵・・・。』

その写真館に偶然訪れたお客が、偶然見かけた記念写真に感動し、口伝いにその感動が伝わって行くのに、左程時間は
掛からなかった。
寄り添い、見詰め合う二人の姿見たさに、押し寄せる人まで現れる始末。

その噂を聞きつけた志保が、その記念写真の中に親友の姿を見つけるのは、もう少しだけ後の話。
幸せいっぱいの2人が、『志保ちゃんネットワーク』の餌食となって、波乱万丈な日々を過ごす破目になるのは、ほんの少し
だけ、後の話・・・・・。




それでも・・・・いつか・・・・きっと・・・・。








                                           おわり








−−あとがき−−

お久しぶりです。
ばいぱぁと申します。
書いている内に、また長いSSになってしまいました。
反省しております。

前作では、琴音ちゃんに『あまりの甘さにうがいでも・・・』と言われましたので、今回はそれ程甘くないSS
にしてみました。
如何でしたでしょうか?


PS:でも、琴音ちゃんと葵ちゃんの反応も、結構嬉しかったりして・・・。





 ☆ コメント ☆

綾香 :「二人で写真かぁ。あかり、いいなぁ」(^^)

セリオ:「しかもウェディングドレスですものね。羨ましいです」(^^)

綾香 :「あたしも浩之と二人で写真撮りたいな。今度頼んでみようかしら」

セリオ:「そうですね。わたしもお願いしてみようと思います。
     ところで綾香さん? もしも浩之さんと写真を撮るとしたらどんな服が着たいですか?
     やはりウェディングドレスですか?」

綾香 :「そうね。やっぱそれは外せないでしょ。基本よ、基本」(^^)

セリオ:「ですよねぇ」(^^)

綾香 :「でもまあ、敢えて婚姻姿を除外するなら……
     浩之と二人でエクストリームのコスチュームで決めてみるってのも悪くないかな。
     最強タッグって感じで」

セリオ:「なるほど。格好良さそうですね」

綾香 :「えへへ、でしょ?
     ――で? セリオは? セリオだったらどんな服がいい?」

セリオ:「そうですねぇ。わたしなら……」

綾香 :「あ。先に言っておくけど、特撮ヒーローのコスチューム……ってのは無しね」(−o−)

セリオ:「ええ!?」(@@;

綾香 :「それから、怪獣の着ぐるみとかも却下。
     見ていて恥ずかしいから。別の意味で」

セリオ:「……あ、あうぅぅぅ。
     そ、それってつまり、わたしに『浩之さんと写真を撮るな』ということですか?
     ひ、酷いですよぉぉぉ」(T-T)

綾香 :「い、いや、別に撮るなとは一言も……。
     ――て言うか、それ系以外の選択肢は無いんかい、あんたには」(ーー;





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