ちゅん・・・  ちゅん・・・
  ちゅん・・・  ちゅん・・・

何時から聞こえているのだろう。

聞くとも無しに耳に付いた燕の囀りに、首を巡らし窓を眺める。
白み始めたばかりの空と、隣家の屋根のコントラストがカーテン越しに、薄っすらと見える。

「もう、朝なんや・・・。」
重い瞼を開けばかりの瞳には、白み始めたばかりの陽の光でさえ眩し過ぎる。
両手を顔の上に置いて、陽の光を遮ってみる。
暗闇に戻った世界の中で、『あの言葉』が、まるで壊れたレコードのように、何度も何度も繰り返される。
まるで、私を責めるかの様に・・・・。

閉じられた瞳から、冷たい物が頬を伝わり枕を濡らした。
嗚咽が口から漏れる。
昨晩から、何度同じ事を繰り返しているだろうか。


悩んだらあかん。    だって、私が悩む様な事じゃないから・・・・。
喜ばなあかん。     だって、私の望みが叶ったから。


 『じゃあ、何で泣いているの?   何が寂しいの?』

判らへん・・・・・。
 
 『じゃあ、何を悩んでいるの?   何を恐れているの?』

判らへん・・・・・。

 『じゃあ、何から逃げてるの?』




頭より先に体が動いた。
気がついたら外に飛び出していた。

私が逃げたいもの・・・・・。
それは、お母さん・・・・とりあえず、今日はどんな顔をして会えば良いか判らない。

こんな早朝、行く当てもなく。唯ぼんやりと歩いていたら、見知った家の前に居るのに気が付いた。
前にも似た事があった気がする。
ただ、その時はこの家には行けず、雨の降る公園で、当ても無く待ち続けていただけだったが・・・。

ふと、あの時の事を思い出し、自嘲気味に口元を緩ますと、ポケットの中から合鍵を取り出した。
藤田君から貰った、この家の合鍵を。




  題目  『 最後の約束 』






「全く、無用心やなぁ・・・。」
目の前には、安らかな寝息を立てた浩之がいる。
無警戒で、無防備で、それでいて可愛い寝顔だ。
暫く眺めていたが、全く目覚める気配がない。
ま、時間が時間だから仕方が無いが、要するに熟睡中と言う事らしい。

「私が傍にいるのに・・・・・私が寝られなかったのに・・・・。」
安らかな寝顔を見ると、無性に腹が立ってくる。
多分、世間一般では、これを八つ当たりと言うのだろう。

智子は、ベットの前に来ると、浩之の鼻や頬をくすぐった。
その度に、小さく唸りながら、何かを払う仕草をするが、一向に目覚める気配すらない。

(・・・・・そうや、今日は私が起こしてあげよう。)
無粋な電子音で目覚めるより、可愛い彼女のキスで起こされた方が良いに決まってる。
智子は、そ〜〜っと手を伸ばすと、浩之の頭の上に置かれた目覚まし時計を”OFF”にした。

(よし、準備完了。)
このまま、可愛い寝顔を見ながら時間を潰す事にした。
邪気を感じない浩之の寝顔を見ていると、自然と笑みが零れて、今迄のモヤモヤした気持ちが嘘の様に消えて行く。

(起きないでね。)
心の中で呟きながら、軽く唇を重ねる。
触れるだけのキス・・・・でも、目の前の幸せを実感する。

(・・・私、こんなに藤田君の事が好きなんだ・・・。)
そう思える自分が誇らしかった。

ベットに頬杖をつき、浩之のアップを楽しむ。
僅か数センチの所に浩之がいて、安らかな寝息を立てている。
自分の吐息で、浩之が目を覚まさないように注意する。

(・・・可愛いなぁ、ずっとこうしていられたらなぁ・・・。)  
少しだけ、胸がちくっとした。

(・・・今だけやね。)
僅かに空いた浩之の枕に、自分の頭を無理矢理押し込んだ。
ふわっとした感覚が、智子の頭に広がった。

(・・・良え、気持ちやぁ・・・。)

そして、何時の間にか、睡魔が智子を蝕み始めた。

(・・・ダメ・・・目開けてられへん。  昨日、寝れへんかったし・・・・・ちょっとだけなら大丈夫やろ・・・・。)
自分に言い聞かせる様にして制服を脱ぐと、下着姿のまま浩之の布団の中にもぐりこんだ。
目を閉じた瞬間、意識が遠のく感覚が押し寄せてきた。
浩之の温もりを充分堪能する前に。
意識と感覚がロストした。

タイミングが悪い事に、昨晩浩之は久しぶりに深夜映画を最後まで見た。
よって、『目覚まし時計が鳴っても直ぐには起きられないモード』に入っていた。
だから、目を覚ました時に、窓から差し込む日差しが、何時ものそれと違う事に気付くのに、少々時間がかかった。

「やべぇ!」と叫び、勢い良く起き上がろうとベットに手を突いた瞬間、明らかにベットのそれとは違う、何やら
『むにゅ』とした柔らかな感覚が手に伝わってきた。
頭から血の気が引く音が聞こえた気がする。
恐る恐る手の有る方へ振り向くと、小さな寝息を立てた智子が寝ていた。
それも下着姿で・・・。

「わぁぁ!!!」
思わず大声を上げて飛び上がった。
そこがベットの上だと気付く前に、引力様によって床に叩きつけられた。

「いっ!!」
腰をしたたかに打って声もでない。
と、言うか、状況が全く把握できない。

何で?  何で?  何で?

頭の周りを、ハテナマークとビックリマークが仲良く飛び回っている。
それでも気を取り直してベットに近づき、幸せそうな寝息を立てている智子の肩を揺さぶった。

「おい!智子!起きろ!」
「・・・・・・・う・・・う〜〜ん・・・・。」

「智子!智子!」
「・・・・・・うにゅ? 何や、藤田君か・・・おはよう・・・・・・・・く〜く〜・・・。」
開きかけた瞼がまた閉じられた。

「こら!起きろ!智子!」
「・・・・・・・うるさいなぁ・・・・起きるから、耳元で騒がんといて!」




結局、2人が起きたのは、11時を軽く越していた。
休日は昼まで寝るを信条とする浩之にしても、学校の有る平日にこれほど寝過ごした事はない。
以前なら、頼みもしないのに、毎朝必ずあかりが起こしに来てくれたので、遅刻こそ無かったものの、智子と付き合う
ようになってから、あかりも起こしに来なくなった。

それ以来、目覚まし時計をかけて寝る習慣をつけ、昨晩もそうした筈だった。
なのに、何故目覚ましはならなかったのか・・・。
そもそも何故・・・・。
疑問は増えるばかり、と言うより疑問だらけだった。

シャワーを浴びている智子が帰ってきたら、色々聞き出さなければならない事は沢山有る。
大丈夫、自主休校(サボリ)をしたお陰で、時間だけはタップリ有るのだから・・・・。

「お待ちどうさま・・・藤田君も入ってきたらどうや?  気持ち良かったよ。」
俺の白いYシャツをはおり、タオルで髪を拭きながら智子が居間へと入って来た。

洗い立ての長い髪、桜色に上気だった胸元、シャツの裾から伸びた長い足・・・・。
・・・・・・・う〜〜ん・・・。  いかん!いかん! 
思わず、智子の色香に迷う所だった・・・。

「藤田君、シャワー浴びて来ないの? その間に、朝ごはん・・・いや、もうお昼ご飯やね・・・準備しとくから。」
「その前に話が有る!」
「話は後でな。  私、もうお腹ペコペコなんや・・・・それとも、私と一緒はいや?」
「そんな事、有るわけねぇだろ。」
「じゃあ決まりね。 そうと決まれば、行った!行った!」
浩之は不承不承・・・いや、全く納得が出来ないままバスルームへと追いやられた。

智子は、浩之を追い出すと、キッチンに掛けて有る自分専用のエプロンを着けて、冷蔵庫の中身を確認し始めた。
2〜3日に一度は、浩之の為にご飯を作りに来ている。
まだまだ、あかりには敵わないまでも、以前と比べれば、料理の腕は上がって来たと自負している。
ま、尊き実験体で有る浩之が、自分では頑固として認めようとはしないものの、若干ふくよかになりつつ有るのが
気懸かりだが・・・・。

智子は、必要な材料を取り出すと、不足した食材をチェックし、下拵えを始める。
折角だから、手の込んだ料理を食べさせてあげたいが、今日は時間も無いので、スパゲティーと野菜サラダにした。
大きなお鍋に、沢山の水と塩を一摘み入れて火をつける。
水が沸騰するまでの間、野菜サラダの材料をまな板の上に乗せて切り始める。

トントントン・・・。
トントントン・・・。

小気味良い包丁の調べが、キッチンで奏でられている。
レタスにキャベツ、キュウリにセロリを刻み、サラダボールの中に入れる。
彩に、ニンジンとプチトマトを入れて完成。
後は、食べる前にドレッシングをかけるだけ。

その間に、良い感じでお水が沸騰し始めた。
熱い湯気の中、一握りのパスタを鍋一杯に広がる様に入れる。
それから少しだけ火を弱めると、散らかしっぱなしになっている居間の片付けを始める。
まさか、食事前に掃除機をかける訳には行かないので、散らかった物を片付ける位の事しか出来ない。

「美味しそうだなぁ・・・。」
Tシャツにスエット姿の浩之が、髪をタオルで拭きつつ現れた。

「藤田君、もう出てきたんか? もう少しゆっくりすれば良かったのに・・・。」
片付けをしながら振り向きもせず、智子は答える。
浩之は、そんな姿を眺めつつも、サラダボールに近づき、中に入っているキュウリを摘み食いした。

「・・・もう・・・手が早いんだから・・・。」
「・・・・ポリポリ・・・。」

「藤田君、ソファに座って。  まだ、ちょっと時間有るから髪拭いたげるわ。」
「良いよ・・・それくらい自分で出来るから。」
「気にせんと、こっち来ぃや。」
智子は、無理矢理浩之をソファに座らせると、有無を言わせずタオルをもぎ取り、浩之の頭を拭き始めた。
少し前屈みな智子に、やや俯き加減の浩之。
浩之の眼前には、その・・・・智子の・・・・柔らかそうな・・・・が、見え隠れしている。

(・・・下着・・・着けて無いんだ・・・。)
浩之は、心の中で、率直且つ素朴な感想を呟く。
この、健全でうら若き男子高校生には、余りにも刺激が強い状況において、理性を保てと言う方が無理が有る。
と、言うより、<あの!>藤田浩之なら尚更だ。
どこかで、(ぷち!)と言う音が聞こえた様な気がした。

手を伸ばしたその時。

「・・・・もう良えやろ。 そろそろお昼の準備も有るから・・・・。」
智子は、タオルを浩之の頭に掛けると、キッチンへと消えて行った。

「あ、あ・・・・。」
お預けを食らった犬。  蛇の生殺し・・・。
色々な表現が出来そうだが、可哀想な浩之は、暫くの間ソファから動けなかった。




「ご馳走さま。  智子、美味かったぞ。」
「うふふ・・・お粗末様。  藤田君、もうちょっと待っててな、直ぐに後片付けするから。」
「ああ・・・。」
ニコニコしながら、お皿を盆に載せ、布巾で食卓を拭いている。
何か手伝おうかと言おうとしたが、何時も断られているので、そのまま居間に行き、テレビのスイッチを点けた。
こんな時間にテレビなど見た事が無いので、何が放送されているのか皆目見当がつかない。
結局、チャンネルを一回しして、適当なバラエティ番組を見るともなしに眺めた。

キッチンから、洗物をする音が聞こてくる。
何気なく智子を眺めてみる。
甲斐甲斐しく俺のために働く智子。
始めて会った時の印象は、”取っ付き難そうな女”だった。
その頃からでは、想像もつかない程の豹変振りだ。

智子は洗物を済ませると、生ゴミを纏め、お茶の用意をして居間にやってきた。
良く冷えた2つのコップを机の上に置くと、ソファに座った俺の足元に膝をつき、俺の膝に頭を乗せた。

「お、おい・・・。」
「ふふふ・・・良えやん、誰もおらへん、うちら2人だけやもん・・・。」
俺は、何も言わずに、智子の頭を撫でてやる。
始めは戸惑っていたが、次第に気持ち良さそうに目を細め、俺の膝にスリスリさせてきた。

「俺の膝枕始めてだっけ。」
「う〜〜ん・・・・。  多分そうかな。  気持ち良えから癖になるかもしれへんよ。」

「いいよ。」
「ありがと、藤田君。」

「・・・・。」
「・・・・。」

「・・・・。」
「・・・・なぁ、藤田君。」

「どうした?」
「・・・・抱いてくれへん?」

「え?」
「お願い・・・・抱いて。」
しばらく潤んだ目で浩之を見詰め、徐に瞳を閉じあごを上げてキスを待つ仕草をする。
浩之は無言で、智子の両肩に手をやると、優しくおでこにキスをした。

「な?」
思いがけない行為に、智子は素っ頓狂な声を上げる。
が、浩之は意に介さず、そのまま智子を抱きしめた。

「あ・・・・。」
思わず智子の口から声が漏れた。

「なぁ・・・智子・・・・俺の事好きか?」
「・・・もちろん大好きや。」

「俺の事愛してるか?」
「・・・当たり前や・・・心の底から愛してる。」

「なら、もう少し俺の事を信用しろ。」
「・・・え?」

「俺なんて頼りにならないかもしれないけど、お前の側にいて一緒に悩むくらいは出来るぞ。」
「・・・・・。」

「何が有ったかは知らないが、1人で悩んで無いで、2人で解決しようぜ。」  
「・・・・・藤田君・・・・。」

「1人じゃどうにもならない事でも、2人ならどうにかなる・・・・どんな困難な事だって、2人なら何とかなる・・・・
俺はそう信じてるけどな。」
智子の瞳から涙が零れ落ちた。  止め処なく流れる涙は浩之の胸を濡らした。
智子は、肩を震わせながら、浩之を強く強く抱きしめた。
浩之と出会えた事・・・・抱きしめられ、その温もりを、幸せをかみ締めるかのように・・・・。
泣きじゃくる智子を浩之は優しく抱きしめた。
何時までも・・・・何時までも・・・・。






「・・・・・でな・・・、昨日、家に帰ったらお父さんが来てたんや。」
カーテンが閉められた薄暗い部屋の中、智子は浩之の腕の中でポツリ、ポツリと話し始めた。
浩之は、智子の髪を優しく撫でながら黙って聞いている。

「・・・・お母さんな、元々こっちに人だったらしいんや。  お父さんと結婚して神戸に行ったんやけど、中々関西のノリに
合わんかったらしくて・・・・お母さんも頑張ったんやけど、どうにもならん様になって・・・・。
お父さんも忙しい人やったから、お母さんの相談相手にに成れなくて、喧嘩して・・・意地張った挙句に離婚して・・・。」
智子は、浩之の胸に軽くキスをしながら、浩之の胸に指を這わせ始めた。

「くすぐったいって・・・・。」
「ええやん!  藤田君、さっきは私の事あんなに触ってくれたんやもん・・・今度は私の番や。」
そして、また軽くキス。

「・・・・でも、お父さんもお母さんも、お互いの事を憎んではいなかったし、嫌ってもいなかった。 2人とも、私に両親が
必要だって事を充分理解してたし、離婚した事自体を後悔してたみたいでな・・・結局、時間が解決してくれたんや。」
智子は、浩之の腕から、もそもそっと移動して胸の上に顔を埋め、片足を浩之の足に絡ませて浩之を強く抱きしめた。
浩之の鼓動が聞こえる。
体中で、浩之の温もりを感じる。
汗ばんだ素肌も今は心地良い。

「結局、もとの鞘に戻る事になったんや。」
「ふ〜〜ん・・・それって・・・もしかして・・・。」

「再婚するんや。」
「良かったじゃないか。」
智子は、浩之の胸から顔を上げると、にっこり微笑んでから、軽めのキスをした。

「ありがとう。 でもな、昨日、急に言われたもんで・・・その・・・素直に喜べなくて、二人に酷い事言ってしまってな・・・。
だって、両親が再婚したら、私は神戸に帰らなければならないやろ。  それは、前々からの私の願いやから嬉しいん
やけど、そうしたら、藤田君に会えなくなる・・・・そう思ったらつい・・・・な。」
「どうして?」

「そんなん・・・藤田君に会えないなんて寂しいやん!辛いやん!悲しいやん!」
口を尖らせて、甘ったるい声で抗議する智子。

「俺は、別に寂しくも、辛くも、悲しくも無いぞ。」
「ムッ!」
頬を膨らませ、拗ねて見せる。
そのまま浩之の顔に、自分の顔を近づけると、ガブッと浩之の鼻に噛み付いた。

「い、痛いって!」
「そんな寂しい事言う罰や!」
口を尖らせ、プイッと横を向く。
暫くそのままにしていたが、そんな自分が可笑しくて、我慢しきれずに『ぷっ!』っと笑ってしまった。

「ふふふ・・・ごめんなぁ・・・痛かったか?」
「ああ・・・噛み切られるかと思った。」

「ふふふ・・・嘘ばっか。  じゃ、お詫びの印し・・・・。」
智子は、噛んだ鼻を慈しむかの様に、今度はペロペロと舐め始めた。

「・・・・くすぐったいです・・・智子さん。」
そして今度は、深く熱いキス。
二人の舌が絡み合い、いやらしい音を立てる。
智子の背中に回した浩之の手に力が入り、智子を返して浩之が智子の上に乗る。

「あっ・・・。」
思わず智子の口から、小さな声が漏れる。
トロンとした瞳で見上げると、浩之の優しい目と合った。
見詰められるだけで幸せを感じる・・・・思わず口元が緩んでしまう。

「・・・智子・・・もう会えなくなる訳じゃないし、距離なんて俺達の障害にはならない・・・・・俺を信じろ。」
「・・・うん。」

「・・・たった往復8時間だ。」
「・・・うん。」

「・・・遠いな。」
「・・・でしょ。」

「「ふふふふふふ・・・。」」

「俺、バイトして金貯めて会いに行くよ。  会えない時には電話もするし、手紙だって・・・・出来るだけがんばる。」
「有難う・・・無理しないでな。  手紙は、期待してへんからええよ。」
そう言うと、浩之の首に手を回し、引き寄せるようにして抱きしめた。

「ありがとな。  私、ホントは、昨日お母さんに酷い事言ったやろ、どんな顔して会えば良いか判らんかったから
逃げて来たんや。  そうしたら、何時の間にか此処来ててな。  何で此処なのか判らんかった。
でも、藤田君が、『1人で悩んで無いで、2人で解決しようぜ。』って、言ってくれた時、判った気がするんや。」

「藤田君と一緒に悩みたかったって。  藤田君と一緒に、答え見付けたかったって。  藤田君と一緒に・・・これから
のこと・・・・決めたかったって。  二人で決めた事なら、私・・・・頑張れるから・・・。」

「そうだな、二人で決めよう。」
「うん。」
そして、また深く熱いキス。

「大学はこっち来ないか。」
「うん。」

「ここから一番近い所、一緒に行こうぜ。」
「うん。」

「そうしたら、ここで一緒に暮らそうぜ。」
「え? それって・・・。」

「ずっと、ここで暮らさないか?」  
「・・・・・良いの?私で・・・。」

「ああ・・・・。」
「・・・・・なら、約束・・・・・して。」














茜色に染まった校舎の屋上は、俺の、いや、俺達のお気に入りの場所だった。
ベンチに座って夕日を眺めていた事や、フェンス越しに俺達の住む町を見ながら他愛も無い話をしていた事が、
つい昨日の様に思い出される。

結局智子は、夏休み前に引っ越して行った。
夏休みを智子と一緒に過ごそうと思っていた俺の目論見は一気に崩れて、退屈で、怠惰な40日間を過ごした。
何をしていても、何処に行っても、智子は俺の側にはいない。
それを実感すると、辛く寂しいと言うより、毎日が虚しいだけだった。

「・・・・・浩之ちゃん、ここだったの?」
俺の事を”〜ちゃん”付けして呼ぶ奴は1人しかいない・・・・あかりだ。

「ああ・・・・。」
俺は、ベンチに座ったまま、振り向きもせずに短く応えた。

「もう、下校のチャイム鳴ったよ。  一緒に帰ろう。」
智子が転校する時に、俺の事をあかりに頼んでいったそうだ。
それ以来、俺とあかりは以前の様な幼馴染の関係に戻っている。

「・・・もう、携帯電話の使い方覚えた?」
智子と俺とのホットラインを持つため、携帯電話を二人で買った。
毎夜、決まった時間に2人で電話をしている。
それなら、家の電話でも良い様な気がするのだが・・・・。

「電話だけならプロ級だ。」
「ふふふ・・・良かったね。」

「なぁ、あかり・・・ここから一番近い大学って、Y大だよなぁ・・・。」
「え?  う〜〜ん・・・。  余り知らないけど、多分そうじゃないかなぁ・・・。」
動きそうに無い俺に業を煮やしたのか、あかりは遠慮しがちに俺の隣に座った。

「・・・だよなぁ・・・。」
「それがどうしたの?」

「俺が受かると思うか?」
「え〜〜〜! 浩之ちゃん、Y大受けるの?」
・・・・そんなに驚かなくても・・・・・。

「いや・・・だから受かると思うか?」
「え・・・・・と・・・・。 ちょっと・・・・難しいと思うよ。」

「・・・・やっぱりな。」
「でも、浩之ちゃん頑張ると凄いんだから、きっと・・・・うん、きっと大丈夫だと・・・・。」
しどろもどろなあかり。
珍しく目が泳いでいる。

「・・・・ごめん・・・。」
「お前が謝る様な事じゃないだろ・・・・さぁ、行くか。」
「うん。」
二人してベンチを立つ。
それにしても、智子の奴知ってたな。
ここから一番近い大学がY大で、しかも、べら棒にハードルが高いって事も。

智子との最後の約束。
『勉強、いっぱいしてな。』って、そう言う意味だったんかい。
くそぉ・・・これって嵌められたって言うのか、自爆したって言うのか・・・・どっちみち悔しいぜ!

「あかり・・・もう一つ良いか?」
「なぁに、浩之ちゃん。」

「メールの使い方、教えてくれ。」
「え?」
実は、これが一番大きなハードルだってりして・・・。

                                       おわり








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あとがき

ばいぱぁです。
長々とした、私の拙い駄文をお読み頂き有難う御座います。
ちょうど一年ほど前に、友人から、『とうはと』を薦められ、緑色の髪の女の子に号泣し、この世界に浸かりました。
あれから1年・・・・1年しか経っていないようで、1年も経ってしまった様な気がします。
と、言う事で、個人的にこの世界に足を踏み入れた記念として、宿願の『智子SS』を書いてみました。
楽しんで頂ければ幸いです。








 ☆ コメント ☆

綾香 :「長距離恋愛、かぁ。これから大変そうね」

セリオ:「ですねぇ。でも、このお二人ならきっと大丈夫ですよ」

綾香 :「うん……そうよ、ね」

セリオ:「ええ、そうですとも」

綾香 :「……」

セリオ:「あの……綾香さん?」

綾香 :「なに?」

セリオ:「もしかして……もしかしてですけど」

綾香 :「だからなによ?」

セリオ:「チャン〜ス♪
     とか考えてません? ダメですよ、そんなこと思っては」

綾香 :「なっ!? な、な、な、なに言ってるのよ!?
     そ、そそそそそんなこと考えるわけないでしょ!」(@@;

セリオ:「……本当ですか?」(¬_¬)

綾香 :「あ、当たり前じゃない」

セリオ:「……絶対ですね」(¬_¬)

綾香 :「ご、ごめんなさい。実はちょっとだけ。
     不謹慎だったわ。反省してる」(−−;

セリオ:「智子さんと離れている間、浩之さんにちょっかい出しませんね? 約束しますね?」

綾香 :「うん。約束するわ」(−−;

セリオ:「……よし、ライバル一人脱落、っと」( ̄ー ̄)b

綾香 :「……待てコラ」(ーーメ





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