『ちょうはつ』


作:スライ・ムーベス


金曜日の夜
普通の人間、特にカップルにとっては薔薇色の響きであるはずの時間
しかし漫画家である千堂和樹とその恋人高瀬瑞希にその言葉はあてはまらない。

なぜなら二日後にはこみパがあり、さらに『コミックZ』の締切もひかえているというありさまで普段ならば大修羅場のはずであった。

そう、普段ならば・・・


家事を終えたあたし・・・瑞希が寝室に向かうとそこには現在進行系で地獄をみているはずの和樹がベッドに横になっていた。

和樹はあたしが入ってきたのに気づくと片手で布団の一部を持ち上げる。
『入ってこい』の合図である。
あたしは少々戸惑いつつも素直にベッドに入って行く。

「ねぇ和樹」
「ん?」
「原稿はいいの?」
当然の疑問。
「ああ、こみパのやつはさっき出して来たし、『Z』は明日の朝に運送屋さんが取りにくるから渡せばいい。」
「へぇ、すごいね。よく頑張ったね。」
あたしは素直に感心する。
「で、瑞希。明日は久々に暇なんだ。」
「ふうん。」
「だからデートでもしないか?」
「えっ、ほんとに」
あたしは、思わず和樹の顔を見る。
和樹は照れているのかこちらを見ようとしない。
「まさか最近徹夜が多かったのは・・・」
「んなことはどうでもいいだろ。」
和樹が否定しないのはYESの証。
「で、OKか?嫌か?どっちだ?」
当然嫌なはずはない。
「もちろんOKよ。ありがと和樹。」
「そうか、じゃあ今夜は早く寝ような。」
「うん。」

「・・・ねぇ和樹?」
「ん?どうした?」
「なんでこっち見ないの?」
そう、さっきから和樹は天井を見つめたままであり、最初は照れているのかと思った瑞希だがここまで見ないのは不自然である。

「どうでもいいだろ?明日のために早く寝ようぜ」
「よくない、なんで?」
「さすがに徹夜続きだったから疲れてんだよ。だから・・・」
「理由になってない」
「だからそっち見ちまうと・・・いや、だから明日は早く起きないといけないだろ?」
「理由になってないってば。」
「いや・・・だからそのな・・・」
「なんでこっち見たら明日起きれないのよっ」
あたしはしつこく追求するがやはり和樹は理由を言わない。

しかしあたしはあることに気づく。
(ん?起きれない?それに疲れてる?この状態で起きれなかったり疲れたりすることって・・・ふーんそういうこと。)

あたしはようやく理由を悟った。
恋人同士が同じベッドに寝ていて疲れたり翌朝起きれなかったりすることは一つしかない。
(あたしを見たら・・・ってことはつまりあたしが魅力的ってこと、よね?)

「おい、どうした瑞希。」
いきなり黙り込んだあたしに、和樹は声をかけてくる。
しかし、それでもあたしを見ようとしない。
(もう、ほんとに馬鹿なんだから。じゃあこっちにだって考えがあるんだからね。)
あたしはいまだにこっちを見ない和樹に対しとある悪戯を実行に移すことにした。

「お、おい瑞希、なにやってる」
あたしは、もぞもぞと布団の中に潜り込むと、和樹の足に足をからませ、さらに和樹に抱きつき胸に頬擦りをする。
「これならあたし見えないでしょ?」
「こら、それじゃなくてなぁ。」
「気にしないで、あたし抱き枕が無いと眠れないから。じゃあおやすみ。」
「寝れるわけないだろうがっ。第一これじゃ見えたほうがましだろうが。」
さすがにあわてる和樹。
「あら、そうなの?」
再びあたしはもぞもぞと移動をはじめる。
しかし今度は、ぴったりくっついたまま移動したので必然的にあたしの胸を和樹にこすりつけることになる。
「ぷはぁっ。」
あたしは布団から顔を出すと大げさに一息つく。
「・・・・・・」
見ると和樹の頬がすぐ近くにある。
まだこちらを見ようとしない。
(意外に強情ね、ならば・・・)

「ちゅ」
至近距離の和樹の頬に軽くキスする。
「お、おいっ」
さすがの和樹も反射的にこちらを向く。
(ふふん。作戦成功)
そしてあたしは目を閉じ唇を軽く突き出す。
「ん」
必殺のキスおねだりのポーズ。
これには和樹も耐え切れなかった。


長いキスの後和樹はあたしの服を脱がせはじめた。
あたしは逆らうことなく身を任せる。
「あれ?そういえば明日鈴香さんがくるんじゃ・・・」
ふと頭に浮かんだ事実。
「やばっ、起きれるかしら。それにデートも・・・」
しかし、その考えもすぐに頭から消えて行く。
二人の頭にはもうお互いのことしか入っていない。


瑞希の挑発の代償は重く、そして甘美だった。





 ☆ コメント ☆

綾香 :「み、瑞希さん、大胆」(^^;

セリオ:「ふむふむ。布団に潜り込んで、尚且つ……」φ(..)

綾香 :「……こらそこ」(−−;

セリオ:「はい?」

綾香 :「なにやってるのよ」(−−;

セリオ:「メモ取ってます」

綾香 :「何の為に?」(−−;

セリオ:「浩之さんをその気にさせる為に、ですけど」

綾香 :「……」(−−;

セリオ:「な、なんなんですか、その沈黙は?」

綾香 :「あのねぇ。浩之にそんなのが必要だと思ってるの?
     あいつは年中無休でその気になりまくりじゃない」

セリオ:「……あ。そ、そう言われてみれば」

綾香 :「でしょ。だから、そんなメモはさっさと捨てなさ……」

セリオ:「仕方ないですね。それじゃ、このメモは田沢さんにでもお譲りすることにしましょう。
     ……格安で」

綾香 :「売るな売るな」(−−;





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