気がついたら、ベッドの上にいた。
ベッドの上で泣いていた。
何時帰ってきたのか、どうやって帰って来たのかさえ覚えていない。
覚えているのは、唇が触れる前に泣き出していた事。
泣きながら、矢島君を突き飛ばしていた事。

気がつけば泣いていた。
悲しくて泣いていた。
悲しくて、悲しくて、仕方がなかった。
許せなかった。
あやふやな気持ちで矢島君を傷付けてしまった事が、浩之ちゃんを忘れるため、自分に嘘をついていた事が。

携帯電話が鳴っている・・・きっと矢島君。
電話をとる事なんて出来ない。
私には、そんな資格がないから。

何て言って謝れば良い?
百万回の謝罪も、私の犯した罪を償う事なんて出来ない。
百万回の謝意も、矢島君の心を癒す事なんて出来ない。

いっそ、口汚く罵られた方が、気が紛れるかも知れない。
だって、私はそれだけの事をしたのだから。

でも、矢島君はそんな事しない。
絶対にしない。
この電話だって、きっと私を気遣っての電話。
いや、むしろ、無理強いをした事を謝って来るかも知れない。

それが判るから、尚更電話に出る事が出来ない。
今、矢島君の声を聞いたら、矢島君の優しさに甘えてしまいそうだから。
矢島君を、もっと傷付けてしまいそうだから。
鳴り続ける呼び出し音に耳を塞ぎ、泣き続けるしかなかった。
自分がとっても卑しい存在に思えた。




          題目『  さようなら・・・私の初恋 (後編)  』




カーテンの隙間から差し込む陽の光で目を覚ました。
遠くで雀の嚥が聞える。

  (朝・・・。)
結局、あのまま泣き疲れて寝てしまったみたい。
髪もボサボサだし、お化粧も落とし忘れた。
う〜〜ん、結構お気に入りの服だったのに、そのまま寝ちゃったから皺になっちゃった・・・。
少しショック・・・・。
取り敢えず、体を起こしてみる。

  ズキツ!

あれ? 頭痛い・・・。
そう言えば、ちょっと体がだるい気がする・・・。
嫌だなあ・・・風邪引いちゃったかなあ・・・。

重い体に辟易としながらも、ようやくベッドから擦り下りて、着替えを持つと階下に行った。
こんな体調でも、シャワーを浴びたくなるのは、何時もの習慣以外考えられない。
脱衣所に着替えを置くと、バスルームで熱めのお湯をいっぱい浴びた。
熱めのお湯と、温めのお湯を交互に浴びて、汗をいっぱいかいた。
こうしていると、悲しい事や、辛い事が、お湯といっしょに流れて行ってくれる様な気がする。
・・・ホントに流れてくれたら良いのだけどね。

髪と体を洗い終えて、泡を落としている際!こ軽い目眩を感じた。
どうやら、本格的に体の調子が悪いみたい。
手早くシャワーを済ませ、体と髪をしっかり乾かし部屋着に着替えた。
体の調子も悪かったし、今更講義を受けに行くような時間でもない。
何より、今は矢島君と浩之ちゃんには会いたくなかったから・・・。

気がついてみると、家の中には誰も居なかった。
まあ、お父さんが居る様な時間じゃないし、お母さんも料理教室があるから・・・。
台所に行くと、朝ご飯の用意がされていた。
その隣りには、『頑張ってね、あかり!』と書かれた、小さなメモが一枚置いてあった。
お母さんらしい気配り。

泣きながら帰って来た一人娘を心配しない親はいないと思う。
でも、だからこそ、今は一人にしてくれている。
信じていてくれるからこそ、一人にしてくれている。
(お母さん・・・父さん・・・ありがとう。)
心の中で眩く。

コーヒーメーカーで淹れたコーヒーを一口啜る。
口が不味いのか、何時もより苦く感じた。
トーストと、目玉焼きを半分ほど食べたが、それから箸が進まなくなった。
食欲がない。
気分も良くない。
さっき、体温を測ったら、37度を少し越えていた。
救急箱を見たけど、風邪薬を切らして居るようで、何処を探しても見付からない。

  (御飯が済んだら薬局に行って、薬でも買って来よう。)

重たい頭でそれだけ考えると、席を立ち食器を片付けた。

簡単に身支度を整えて、薬局に向かう頃には、相当酷い状態となっていた。
さっき、計った時より確実に熱は上がっていると思う。
足元は覚東ないし、立っている事さえ辛く感じる。
半分ほど歩いた所で、『あのまま寝ていれば・・・。』と、激しく後悔した。

家から薬局まで、普通なら往復で15分ほどの距離でしかないが、今日は優にその倍以上の時間がかかった。
店員さんが、やたらと心配してくれたが、何とか誤魔化して店を出た。
が、それも此処まで。
帰り道の途中にある、公園のベンチに座り込むと、そこからもう一歩も動けなくなってしまった。

  はあ・・・。 はあ・・・。 はあ・・・。
  はあ・・・。 はあ・・・。 はあ・・・。

荒くなった息を整えようとするが、全く効果がない。

  (少し休めば何とかなる・・・。)

そう思って、ベンチに倒れこんでから小一時間程経ったが、快復の兆しさえ見えない。
こんな所で休憩しているより、早く家に帰って薬を飲んで横になりたかった。
それが一番良いのは判るけど、意思に反して体が動かない。
誰かに助けてもらおうか・・・そんな事を考えていた時、頬に何か冷たい物が当たった。

  (・・・雨?)

出掛けには、あんなに良かった空が、何時の間にか真っ黒な雨雲に覆われていた。
その雨雲から、ぽつ、ぽつと落ちて来た雨は、次第に大粒の雨となり、それこそバケツをひっくり返したように
降ってきた。

ザ〜〜〜。 ザ〜〜〜。
ザ〜〜〜。 ザ〜〜〜。

風邪のせいか、激しい雨のせいかは判らないけど、目が霞んでよく見えない。
それでも、激しい雨が体温を程良く奪ってくれて気持ちは良い。

  (・・・ちょっとだけ・・・気持ち良い・・・かな・・・。)

激しい雨は、発熱を緩和してくれているが、同時になけなしの休力も奪っていく。
でも、そんな事はどうでも良かった。
始めは、激しい雨が体に痛かったが、それさえも感じなくなっていた。
雨音が回りの音を消してくれる。

  (・・・私、ここで死んじゃうのかなあ・・・。)

不意にそんな言葉が頭を過ぎる。
それでも良いと思った。
お父さんや、お母さんには迷惑掛けっぱなしだったけど、私の短すぎる人生もそれ程悪くはなかった。

小さい時には、浩之ちゃんや雅史ちゃん達と、何時もこの公園で遊んでいた。
私の思い出がいっぱい詰まった公園。
楽しい事も、悲しい事もいっぱいあった。
最後の想い出は、昨日の矢島君との事。
矢島君にも迷惑掛けちゃったね。
お詫び・・・出来なくてごめんね。

  (・・・・・浩之ちゃん・・・。)

最後に、もう一度だけ浩之ちゃんに会いたかったなあ・・・。
ぶきっちょで、不器用で、無愛想で。
でも、誰よりも温かくて、優しい浩之ちゃん。

  (・・・誰よりも・・・浩之ちゃんの事・・・好き・・・だったよ。)

涙が、頬を伝わって零れ落ちた。

  (・・・私は・・・もう・・・ダメ・・・みたいだから・・・・・マルチちゃんと・・・御幸せ・・・・に・・・ね・・・。)

今までの思い出の中に居た浩之が、まるでフラッシュモーションの様に脳裏を掠める。
遠ざかる意識の中、最後に脳裏を掠めた浩之の顔は、寂しそうな目をしていた。














・・・・・・

・・・うっすらと目を開けた。
見慣れない天井・・・見慣れない蛍光灯・・・。
私の部屋・・・じゃない・・・。
ここは・・・・・。

  「・・・気がついたか?」

・・・浩之ちゃん?
・・・え? ・・・どうして?

  「買い物帰りのマルチが、公園であかりの姿を見つけてな。  まさかと思って行ってみたら、ベンチで気失って
  て、取り敢えずここに連れて来てみりゃ、凄い熱じゃないか・・・ビックリしたぞ。」

・・・浩之ちゃん・・・。
・・・心配させちゃったね。  ・・・ごめんね。
・・・そして、ありがとう。

  「おじさんとおばさんには連絡しておいた。 それから、話も聞いた。  スマン!あかりに悲しい思い・・・させた
  みたいだな・・・。」

浩之ちゃん違うよ。  謝るのは私の方だよ。
私が全部いけないのだよ。
首をフルフルさせた。 一生懸命腕を伸ばした。
そうしたら、浩之ちゃん、私の手を握り締めてくれた。
優しく・・・でも、強く。

  「判ったから、兎に角今は寝ろ。  話は良くなってからだ。」

私は、コクッと頷いた。
そして目を瞑ると、そのまま眠りの世界に落ちて行った。





・・・熱い。
・・・兎に角熱い。
・・・体が燃える様に熱い。

よく冷やされた氷嚢や氷枕さえ、しばらく経てば生温くなってしまう。
浩之ちゃんは、その度に、何度も何度も氷嚢や氷枕を替えてくれるし、よく冷えたタオルで、何度も何度も、顔や
首にあてて冷やしてくれる。

それでも、熱い。  体が燃える様に熱い。
自分の体温が高すぎて汗もでない。
目を閉じても、熱さの余り眠る事が出来ない。
体が疲れているのに、眠る事さえ出来ない。
吐息も熱く、喉や唇が乾いて苦しい。

体温計を見た浩之ちゃんが、『すげえ〜。』と声を漏らしていた。
自分の熱が、どれ程上がったのかを知りたい気もするが、ちょっと怖くて聞けなかった。

  「あかり、解熱剤飲むぞ。」

用意されたのは、小さな薬包に入った粉薬。
起こされそうになったが、首をもたげる事も適わなかった。
浩之ちゃんは、少し悩んだ挙句、寝ている私の口に粉薬を流し込んだ。

  ゴフォ! ゴホ! ゴホ!・・・・・・。

私は咽返り、粉薬を勢い良く吐き出した。

  (・・・浩之ちゃん、幾ら何でも酷い!)

私は、半泣きの目で抗議の声を上げようとした。

  「わりぃ・・・試しにやってみたが、やっぱりダメか。」

試さなくても判るよぉ〜。
コップに水入れて、溶かした薬をスプーンで飲ますくらいしてよぉ〜。

浩之ちゃんは、私が吐き出した粉薬の後片付けをした後、薬包を持ちながらしばらく考え込んでいた。

えっと・・・・だから・・・。
私が、やり方を教えようと思った時、浩之ちゃんは何を思ったのか、粉薬を半分ほど口に含むと水を流し込んだ。

  (え? え? え?)

考える暇もなく、私は口を塞がれた。
よく溶けた薬が口内に広がり、喉を通って行く。
口の中の薬を全て注ぎ込んだ浩之ちゃんは、おもむろに唇を離した。
私は、口の中の薬を数度に分けて飲み込んだ。
最後に『こくっ』っと、喉が鳴った。

  「・・・はあ。  もう半分だ。」

私は、呆然としながらも、コクッと頷いて見せた。
私の顔、きっと真っ赤だと思う。
多分・・・熱のせいだけじゃないと思う。
朦朧とする中、浩之ちゃんの顔がまた近づいて来た。










・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・


  「・・・・ねぇ、浩之ちゃん。」
  「なんだ?」

今、私は、浩之ちゃんと一緒に縁側に腰掛け、余り広くは無い庭を眺めている。
開け放たれた窓から入る微風が、私の髪を撫でている。

  「・・・ありがとう。」
  「なにが?」

  「看病してくれた事。  ・・・・とっても嬉しかった。」
  「ばぁ〜か。 人に心配させておいて、嬉しかったは無いだろ。」

  「あ・・・ごめん。  でも・・・嬉しかった・・・。」
  「・・・・・・・・・。」

浩之ちゃんの肩に、頭を『こてっ』っと置いて、頬をスリスリしてみた。
浩之ちゃんは驚いたのか、始め私の方を少し見たけど、『ったく・・・しょうがねぇなぁ・・・。』と、言いながら、
私の頭を撫でてくれた。

浩之ちゃんの家に運び込まれてから2日目の朝、私は漸く起き上がる事が出来た。
熱も下がったし、万全・・・とまでは言えないが復調してきた。
  
  「・・・あかり。」
  「なあに、浩之ちゃん。」

  「マルチの事・・・嫌いか?」
  「え?  マルチちゃん・・・・好き・・・だよ。」

  「無理しなくて良い。 ホントの気持ちを教えてくれ。」
  「ううん・・・。 ホントに好きだよ。  ただ・・・・。」

  「ただ、何だ?」
  「怒らないで聞いてね。  私・・・マルチちゃんの事好き。  でも、マルチちゃんが試験期間を終えて、私達の
  前から消えた時、居なくなってくれて、『ほっ。』としたの。  だって、浩之ちゃんが、マルチちゃんの事、ホントに
  好きだって知っていたから・・・。  マルチちゃんに、浩之ちゃんを取られちゃった気がして・・・。」

  「でも、マルチちゃんはまた私達の前に現れた、今度は浩之ちゃんの意志で・・・。  
  浩之ちゃんが、マルチちゃんに向ける笑顔を見た時、私思ったの。『ここに私の居場所は無い。』って。」

浩之ちゃんは、私の肩を抱締めながら、何も言わずに聞いていた。

  「そんな事、考えてたのか・・・。」
  「私にとっては、『そんな事』・・・じゃないよ。」

私は静かに言った。
浩之ちゃんは、何も言わなかった。
ただ、じっと庭を眺めていた。

  「・・・マルチな。」
  「え?」

  「マルチを買ったのは、マルチを失いたくなかったからなんだ。」
  「・・・・。」

  「マルチの妹達って、町中に溢れているだろ。  でも、マルチの想いを他所に、マルチの妹達には感情は
  与えられなかった・・・・それがどうしても悔しくて、悲しくてなぁ・・・・。
  ある時、長瀬さんから電話があったんだ。  会社の都合で、マルチの記憶を消す事になった・・・もう反対でき
  ないから、マルチの『記憶』のコピーを俺に、ってな。」
  
  「確かに、マルチの事は好きだった。  でも、妹として、友達として、仲間としての『好き』・・・だ。
  恋人としての『好き』じゃない。  それに・・・・たった、2週間だったけど、俺やあかりの大切な友達だろ。
  会社の勝手な都合でマルチを殺すなんて事、どうしても納得できなくってな・・・その日のうちに契約したよ。」
  「そうなのだ・・・。 浩之ちゃんらしいよね。」

  「それに、マルチみたいなメイドロボなら、居ても良いってあかりも言ってたしな。」     
  「・・・覚えていたの?」

  「不思議か?」
  「ううん・・・・。  でも・・・浩之ちゃんらしいな。」

良かった・・・・。  ホントに良かった・・・。
何よりも、私の知っている浩之ちゃんが、私の知っている浩之ちゃんのままだって事が良かった。
私の大好きな、ううん、私の愛した浩之ちゃんが変わらないって事が、堪らなく嬉しかった。

私は、浩之ちゃんの胸に顔を埋めると、何度も何度も頬を摺り寄せた。
浩之ちゃんは、ただ黙って私の頭を撫でてくれている。
浩之ちゃんの、手の平の温もりが感じられて心地よい。
ポカポカとした陽気だけではない、二人の間に暖かな空気みたいな物が流れ込んだ。
ただ、二人して庭を眺めているだけの時間。
まったりとした時間の中に、二人して身を委ねている様な、そんな錯覚さえ覚える。
そんな、幸せいっぱいの時間。

  「ところでさぁ・・・・。」
  「・・・なぁに、浩之ちゃん。」

  「・・・・あかりが寝ている時・・・・俺・・・色々したけど・・・・。」
  「・・・・色々って?」

  「その・・・・着替えとか・・・薬・・・飲ませた事とか・・・。」
  「・・・・・・・・・・・・・う、うん(ポッ!)。」
  
  「あれは、みんな不可抗力だ!事故だ!緊急の場合の致し方ない処置だ! 今すぐ忘れろ!」
  「・・・・え?」

それって・・・どう言う事?
あれは、私達の初めてのキス(・・・・?)なんだよ。
始めてが、いきなりディープだった気がするけど・・・初めてのキスの味が、風邪薬の味って言うのも心底嫌だけ
ど、二人の記念なんだよ・・・・。

  「始めてのキスの味が、苦いってのもなぁ・・・出来れば、甘い想い出だけを記憶していたいんだ。」
  「え? それって・・・。」

  「やり直し・・・しようぜ。」
  「ファーストキスのやり直し・・・聞いたこと無いよ・・・。」

  「嫌か?」
  「嫌じゃないけど・・・・如何すれば良いの?」

私は、上目遣いに浩之ちゃんを見ると、少しだけ微笑んで見せた。
浩之ちゃんが、何を望んでいるかぐらい判るけど、でも、浩之ちゃんの口から直接聞きたかった。
照れて、真っ赤になった浩之ちゃんの口から、直接聞きたかった。

  「如何すればって・・・・目を瞑ってくれれば良いんじゃないのか。」
  「・・・・うん。」

私は、静かに目を瞑った。
私の肩に置かれた浩之ちゃんの手に力が入り、そのまま抱き寄せられた。
初めは、私を確認するかの様な、軽くて優しい、触れるだけのキス。
18年間、夢にまで見た浩之ちゃんとのキス・・・。
そして、一度唇を離して、浩之ちゃんの顔を見た。
私と同じくらい耳まで真っ赤になっている。
なぜか、それが嬉しくて。
私の方から、浩之ちゃんの首に手を回してキスしちゃった・・・。

そしたら浩之ちゃん、私をしっかりと抱締めて、今度は力強くて、荒々しくて、情熱的なキスをしてくれた。
お互いが、お互いの唇を求め合った。

  「・・・はぁ。」

浩之ちゃんから唇を離した私は、何も考えられずに浩之ちゃんの胸に体を預けた。

  「あかり、これが俺達のファーストキスだ。」
  「・・・うん。」
  
  「だから、あれは忘れろ。」
  「ううん・・・忘れないよ。  薬を飲ませてくれたのも、今のキスも、私にとっては大切な想い出だよ。  
  忘れるなんて出来ないよ。」

浩之ちゃんは、私を胸に抱きながら、何も言わずに頭を撫でていてくれる。
浩之ちゃんの手の平から、浩之ちゃんの優しさと暖かさが伝わってくる・・・。
幸せを実感する。

  「ねぇ・・・浩之ちゃん・・・。」

それでも、聞きたい・・・。

  「何だ、あかり・・・。」
  「私・・・ここに居て良いの?」

浩之ちゃんは、私の肩を優しく抱き抱えると、静かに唇を重ねてから私をしっかりと抱締めた。

  「当たり前だ。  あかりの居場所はここだけだ。 何処にも行くな。 ・・・行かないでくれ。」

私の頬に、暖かいものが伝わり、滴となって零れ落ちた。
浩之ちゃんの背中に手を回して、負けないくらい浩之ちゃんを抱締めた。

  「・・・浩之ちゃん・・・そんなにキスしたら、風邪・・・うつっちゃうよ。」
  「ああ。  俺が風邪ひいたら、看病してくれ。」
  
  「・・・うん。」
  
















その頃、神岸家では・・・。

  「ひかりさん、御言付け通り、あかりさんのお着賛えをお持ち致しましたぁ。」
  「そう。 マルチちゃん、ありがとね。  ・・・で、どうだった?」

  「はい。 あかりさんは、大分お元気になられていたようですぅ。」
  「う〜ん・・・・そうじゃなくて・・・・仲良くしてた?」

  「はい。 とっても。」
  「そう。(ニコッ)」

  「あのう・・・。  あかりさんもお元気になられた事ですし、そろそろ浩之さんの家に戻りたいのですが・・・。」
  「あら? もうちょっと、ゆっくりしていけば良いじゃない。」

  「え・・・・・でも・・・・・。」
  「それに、今帰るのは、『野暮』っていうのよ。」

  「はい?・・・・『やぼ』ですかぁ?」
  「そうよ。」

  「うう・・・良く判りませんが・・・・。」
  「良いのよ、マルチちゃんはそんな事覚えなくてもね。  さ、それよりお料理の特訓・・・始めるわよ。(ニコッ)」

  「ひえ〜〜〜〜〜〜〜〜。」
  「さあ! ビシビシやるわよ!」
 
  「た、助けてくださ〜〜ぃ。」



                                             おしまい。







−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

あとがき

ばいぱぁと申します。
ここまで読んで頂いた方には、深く深く感謝致します。
何時にも増して長いSSとなってしまい、涙を呑んで前編と後編に分けてみましたが、
お楽しみ頂けましたでしょうか?

あかりのダーク系を書きたい!と思いながら書き始めたんですが、最後にはやっぱり
落ち着く所に落ち着かせてしまいました。
やっぱり、キャラの流す涙は、悲しみの涙より、幸せの涙のが良いですからね。
ほのぼのラブラブな雰囲気って好きですから。

次回は久しぶりに、カフェオーレに砂糖3杯くらいの、超甘々なSSにしたいと思います。


それでは





 ☆ コメント ☆

綾香 :「大団円ね。やっぱり浩之とあかりはこうでなくっちゃ。
     それにしても、一時はどうなるかと思ったわ。まったくもう、ヒヤヒヤさせるんだから」(^^;

セリオ:「本当ですね。ドキがムネムネしちゃいましたよ」(;^_^A

綾香 :「……。
     うんうん、納まるべきところに納まったって感じね。良かった良かった」

セリオ:「ツッコミすら無しですか。鬼、悪魔」(;;)

綾香 :「どやかましい。
     ――ま、それはさておき。
     今後のあかりとマルチはきっと姉妹みたいに、本当の意味で仲良くなれそうね。
     ToHeart屈指の名コンビなんだから、やっぱりこの二人には仲良しでいてほしいわ」

セリオ:「そうですね。同感です。
     ――そういえば、コンビといえばわたしと綾香さんもいろんな所でコンビにされてますよね」

綾香 :「まーね」

セリオ:「綾香さんとコンビ扱い。
     嬉しいですけど、人間兵器の綾香さんと一括りにされているかと思うと……複雑です」

綾香 :「セリオとコンビ。
     嬉しいけど、ボケボケセリオと同類に思われてるかもしれないのよねぇ。
     うーん、それは正直……ちょっと……」

セリオ:「……」

綾香 :「……」

セリオ:「き、気が合いますね」(^^メ

綾香 :「気が合うわね」(^^メ





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