「なあ、綾香・・・誕生日プレゼント、何が良い?」
「う〜ん。そうねえ・・・。」

「って言ってもさぁ、そんな高い物は買えないぜ。」
「え? ざんね〜ん。折角だからおねだりしようと思ってたのに・・・。」

「勘弁してくれ。」
「ふふふ・・・冗談よ。」

「ったく・・・しょうがねえなぁ。」
「あのね、浩之・・・愛しい最愛の彼女の、それも記念すべき初めての誕生日プレゼントなのよ!」

「自分で、言ってて恥ずかしく無い?」
「なんか言った?」

「・・・・・いえ、どうぞ。」
「もう・・・。私は、私が決めたプレゼント』じゃなくて、『浩之が選んだプレゼント』が欲しいの。」

「はあ? 何それ?」
「だから・・・浩之が、私に合うと思った物が欲しいって事!」


        

          題目   『  最高のおくりもの  』




トゥルルル・・・・・・。  トゥルルル・・・・・・。  トゥルルル・・・・・・。
ピッ!!

もう!浩之ってば、今日もいない。
飛びっきりのプレゼントを買うんだ、とか何とか言って、アルバイトを始めたのは良いんだけど、クリスマス前から殆ど会ってもくれないし電話にも出ない。
ま、私も年末年始の来栖川家恒例行事に、無理矢理に参加させられていたから、会う暇は無かったんだけど・・・。
それでも、こんな愛らしくて、可愛い彼女を放っておくなんて・・・・信じられない! もう最低!



トゥルルル・・・・・・。  トゥルルル・・・・・・。  トゥルルル・・・・・・。
ピッ。

浩之・・・今日もいないんだ・・・。
アルバイト、そんなに忙しいの?
ちゃんとご飯食べてる?
風邪ひいてない?
浩之、心配だよ、寂しいよ。
御願い・・・明日はあなたの声を聞かせて。



トゥルルル・・・・・・。  トゥルルル・・・・・・。  トゥルルル・・・・・・。
・・・ピッ。

・・・・・・浩之・・・今日も・・・いないんだね。
明日は私の誕生日・・・だよ。
姉さんは、『心配しないで。』って、言ってくれるけど、何の連絡もくれないなんて・・・・。
私ね、今まで、『怖い』なんて思った事無かった。

でも、私・・・今・・・とっても・・・怖いの。
浩之に会えない事が、とっても怖いの。
不安で胸が苦しいの。
私、こんなに弱い女だったかな?





1月23日。
今日は綾香の誕生日。

俺の手の中には、締麗にラッピングされた綾香へのプレゼントが握り締められている。
う〜〜〜ん。これを手にするまでの苦難に満ちた日々が、走馬灯の様に蘇るぜぃ。
睡眠時間を4時間におさえ、理緒ちゃん並みにバイトのはしごをして貯めた20万円。
始めは、ちょっと無理かなぁ・・・なんて思ってたけど、人間、崇高なる目標の為なら不可能を可能に変えられるんだなぁ。
うん、うん・・・。

それに、プレゼントを探す時も大変だった。
何軒かのお店を歩き回って、やっと見つけた綾香へのプレゼント。
派手過ぎず、地味過ぎず、でも存在感が有る逸品!

2つのリングがクロスした立体的なデザインで、そこに小さめのダイヤモンドが6個。
ゴールドのトップに、オーバルカットのガーネットがマッチしたネックレスだ。
ガーネット(1月の誕生石)だって言う所もポイントは高いだろう。多分・・・・。

兎に角、そんな苦しい日々も、今では楽しい昔話さ。
芹香先輩から、綾香の誕生日パーティの招待券も内緒で貰ったし、綾香の喜ぶ顔が目に浮かぶぜぇ。
さてと、まだ時間はタップリ有るから、家に帰って一眠りするか。
・・・ん? あれは・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。





「・・・・・・痛っ!」
あ〜〜あ、私何やってるんだろ?
落としたコップを片付けて指を切っちゃうだなんて・・・。
慣れない事はすもんじゃないわね。
誰かにして貰えば良かった。

もう!こんな事になったのも、浩之が電話に出ないのが悪いのよ!
浩之の声が聞けないから、浩之に会えないから、私・・・・ぼ〜っとしちゃって・・・。
浩之がいけないんだから・・・。

ドン! ドン! ドン!
ドン! ドン! ドン!

誰かしら? あんなに勢い良く扉を叩くの。

「誰! 開いてるわ!」

がちゃ・・・。

「姉さん? 如何したの、そんなに慌てて・・・。」
如何したんだろ、姉さんにしては珍しく肩で息をしながら荒い吐息を吐いている。
頬が紅潮し、瞳にはうっすらと涙まで・・・。

「・・・どうしたの?」
恐る恐る聞いてみる。
嫌な胸騒ぎがする。
聞きたくない! 聞いちゃいけない!
体が姉さんの声を拒絶する、が、無情にも姉さんの小さな唇が動いた。

「・・・・・・。」

え? 何? 姉さん、今、浩之って・・・。
え? 何? 如何したの? 何があったの?

「・・・・・・。」

え? 何? 今、事故って・・・。浩之が事故って・・・。


私は膝から崩れ落ちた。
頭の中が真っ白になって何も考えられない。
遠くで、姉さんが私を呼ぶ声が聞える。


・・・それからの事は、何も覚えていない。







気がついたら、病室の戸口に私は立っていた。
浩之は窓際のベットで横になっている。
浩之の傍には、幾つかの機器が置いてあり、電線やらホースやらが浩之に繋がれている。
規則正しい電子音と、呼吸音が静まり返った室内に響いている。

姉さんから、浩之が事故に遭った事を聞かされた時も、いいえ、今、目の前に痛々しい姿の浩之を見ても、その事実を事実として受容れられなかった。
信じられないのではなく、信じたくない・・・そんな感情が、胸の奥底から湧き出してくる。

震える足で、一歩、一歩、浩之に近づいていく。
震える手で、空を掴むように。
漂うように。

浩之の側まで来た。
体の其処彼処に包帯を巻いている。
側で医者が何かを言っているみたいだけど、私の耳には入らない。

浩之の頬を撫でてみる。
私の愛した温もりが伝わってくる。
私の愛した温もりが・・・。

「・・・浩之。」
愛する人の名前を呼んでみる。
横たわる浩之は何の反応も示してくれない。

「・・・浩之!」
もう一度その名を呼んでみる。
が、やはり反応はない。
急に浩之がぼやけて見えた。
今まで我慢していたものが、一気に零れ落ちた。

「浩之! 浩之! 浩之! 浩之! ねえ、浩之! お願い、目を覚まして!浩之!・・・・・・・・・・・・。」
何度も何度も愛する人の名を呼んでみる。
浩之を揺すり、叩き、撫でながら、彼の名を叫んだ。
何の反応も見せてくれない、最愛の浩之の名を・・・。


「いや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
私は、浩之の胸に泣き崩れた。
私に出来る事・・・それは、浩之の胸で、浩之の名を呼ぶ事だけだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・。





「・・・・で、如何したんだ。」
「どうしたって?  ・・・どうもしないわ。」
私は、月明りの中、最愛の人の腕枕で甘い時間を過ごしている。
浩之は、つい先程まで結構危険な状態が続いていた様だけど、奇跡的にその日の夜遅くに意識を取り戻した。
もう、その時は嬉し<って、思いっきり浩之を抱きしめちゃった。
そうしたら浩之って、大袈裟に騒ぐもんだから、私の方がビックリしちゃったんだけど・・・。
でも、それだけ元気だったら、もう大丈夫だよね。

えへ。

「私に出来る事なんて、泣きながら浩之の名前を呼ぶ事ぐらいしかないもの・・・。」
「・・・それだけか?」

「え!う〜ん。・・・あはは。」
「こら! 誤魔化すな!」
誤魔化すも何も、ホントに覚えていないから仕方ないじゃない。
ただ、気がついたら部屋の中が少しだけ乱れていて、お医者さんやら、警備員さんやらが、何人か倒れていただけで・・・。
姉さんの話だと、『鬼のような顔をした綾香ちゃんが、浩之さんの側から離れなくって・・・』と怯えながら言っていたが、細かい話はしてくれなかったから分かりっこない。

「ま、お陰でこうやって、綾香と二人で居られるから良いけどな。」
「ヘヘヘ・・・。」
私は、浩之の胸で頬擦りをした。

「・・・でも、浩之らしいな。」
「そうか?」
どうやら浩之は、小さな子供が車にひかれそうになったのを助けようとして自分が車にひかれたらしい。

「うん、浩之らしいよ。他人の事になると後先考えない所とか、ね。」
私は、浩之の胸に軽くキスした。

「つい、体が動いちゃってな。」
「ふふふ・・・・。でも、『・・・つい』じゃないよ。私をこんなに心配させて・・・。」
私は、浩之の胸の上に顔を置き、浩之の鼻頭を軽く抓みながら言った。

「いててて・・・。悪かったって、反省してるよ。」
「ふふふ・・・。許してあげるけど、こんな寂しい思いをするのは、もうイヤだよ。」
「・・・ごめん。ホントにごめん。」
「ううん、良いの。だって、そんな浩之も大好きだから・・・。」
そのまま浩之の唇に、私の唇をあわせた。
情熱的で、深いキス・・・。
唇を合わせる程、舌を絡ませる程に私の思考力が薄れて行く。


「・・・・・っはぁ。」
唇を離し、荒くなった息を整え、トロンとした目で浩之を見る。

「ごめんな。綾香の誕生日、台無しにしちまって。」
「え? ああ・・・ううん、いいの。どうせ、鬱陶しいだけの恒例行事で、嫌気がさしていた所だっから丁度良いわ。」
私は、潤んだ瞳を浩之に投掛けつつ、浩之の耳元に軽くキスをする。

私は良いんだけど・・・。
きっと屋敷じゃ大変だったんだろうなぁ・・・。
御父様や、御爺様あたりの怒った顔が頭に浮かび、一瞬動きが止まった。

(・・・ま、良いか。)

今度は、浩之の耳架を軽く噛んだ。

「・・・いや、それもそうなんだが、プレゼント・・・・・。」
「いいよ。浩之さえいてくれれば、それで良い。」
浩之が用意してくれた私へのプレゼントは、交通事故の際にバラバラに壊れてしまったらしい。

「浩之・・・・。 私ね、逢えない間、『浩之に逢いたい。』とか、『浩之と話がしたい。』とか、『触れていたい。』、『キスしたい。』とか何時も考えてたんだ。浩之には悪いんだけど、入院してくれたお陰で、私の願い・・・・全部かなっちゃった。」

「・・・をいをい。」
「ふふふ・・・。正直今回の事はショックだったんだけど、判っちゃったんだ。  
私を心から幸せにしてくれるのは浩之だけだって事。
私にとっての最高のプレゼントは、浩之と過ごす、二人だけの時間だって事。」

「・・・綾香。」
「・・・だからね・・・その・・・・・今日ね・・・・いっしょに・・・・・・ね。」
私は、私から浩之におねだりをした。
私からおねだりするのって、浩之変に思わないかな?
耳まで真っ赤になってるの、浩之に判っちゃうかな?
でも、これが私のホントの気持ちだって事・・・判ってくれるかな?
私にとって、一番大切なのは、浩之だって事・・・判ってくれるかな?

「こんな時に、こんな事言うのも変だとは思うけど。」
「?」

「・・・痛くしないでね。」
「・・・ばか(ぽっ)」
もう、浩之ってば・・・。
大好き・・・。

「綾香・・・。愛してるぜ。」
「わたしもよ。」
もう、そんな在り来たりな台詞・・・とっても嬉しいんだから!
だって、私も同じ気持ちだから・・・。

「来年の誕生日は指輪で良いか?」
「期待しちゃって良いの?」

「二人で選びにいこうな。」
「・・・うん。」
小さく頷くと、私は浩之の胸に顔を埋めた。
温もりと、幸せが浩之から伝わってくる。
幸せを二人で分かちあえる事が、何より嬉しかった。

                            おわり








セリオ :  「・・・・と、言う事です。」
芹香  :  「・・・この後はどうなったんですか?」

セリオ :  「申し訳御座いません。これ以降の映像は、
        法的に18歳未満の方は視聴禁止に分類されるかと判断しましたので。」
芹香  :  「・・・私、18です・・・けど。」

セリオ :  「しかし、芹香御嬢様では、刺激が強すぎるかと思いまして・・・。」
芹香  :  「・・・・・・・・(しゅん)。」

セリオ :  「また、これ以上は、綾香御嬢様と浩之様のプライバシーに関する映像が随所に入っておりますので、
        綾香様付きメイドの立場としても、芹香御嬢様とはいえお見せするわけには参りません。」
芹香  :  「・・・・・・・・(むっ!)。」

セリオ :  「ですから、誠に申し訳有りませんが、そのご命令には従う事が出来ません。」
芹香  :  「・・・愛國戦隊大日本オリジナルフィギュア・・・しかも美品箱付き。(ぼそっ)」

セリオ :  「・・・はい?」
芹香  :  「・・・超レア、帝釈天号、毘沙門天号、外率天号超合金三点セット。」

セリオ :  「あうあう・・・。その・・・あの・・・。」
芹香  :  「・・・激レア、ツングースキラー幹部、ミンスク仮面、ハラショマンのソフビ。
        ついでに劇中で使用した真っ赤な本もプレゼント。」

セリオ :  「えっと・・・。こほん! コピー・・・お持ちします。」
芹香  :  「・・・V」

                                                                 おわり








−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
あとがき

こんにちは、ばいぱぁです。
ここまで読んで頂き有難うございます。

今年一発目のSSです。
今年も沢山書いて行きたいと思いますので、『つまらん!』と言わずに
読んで頂けたら幸いです。

                                      以 上





 ☆ コメント ☆

ユンナ:「子供を庇って事故、か。浩之くんらしいというか何というか」

コリン:「でもでも無事でなによりよねぇ。よかったよかった」

ユンナ:「まあね。確かに良かったわ。良かったんだけど……」

コリン:「ん? なんか引っ掛かる言い方ね」

ユンナ:「浩之くん、絶対に性格を修正した方がいいと思うわ」

コリン:「そんな大人(ぴーーーー)てやる!
     って、うわっ、変な音に消されてるし! コリンちゃん、激ショック!?」

ユンナ:「どアホ。つーか、なんで疑問形なのよ?」

コリン:「気にしない気にしない。話、すすめてすすめて」

ユンナ:「……まあ、いいけど。
     ほら、浩之くんって結構無茶するじゃない? それも他人の為に。
     それは確かに美点ではあるんだけど、同時に『いつか取り返しの付かないことに』っていう
     危うさも持ってるわけよ。
     だから、ほんの少しでいいからその辺を変えた方がいいんじゃないかなぁと思うの」

コリン:「無理っしょ。だって浩之だもん」

ユンナ:「……身も蓋も無い言い方ね」

コリン:「でも真理じゃない? だって浩之よ」

ユンナ:「……そう、かも」

コリン:「そうそう、そうなのよん♪
     ところでさ、話はガラッと変わるけど、最後のシーンの浩之と綾香。
     あれってやっぱり病院のベッドの上よね?」

ユンナ:「そうでしょうね。まったく、病室で何をやってるんだか」

コリン:「ナニでしょ」

ユンナ:「……ベタベタね」

コリン:「うん。きっと、綾香は浩之にベタベタしたと思うよ」

ユンナ:「いや、そうじゃなくて」

コリン:「へ? 違うの? それじゃ『ベッドの上はいろんな液や汁でベタベタ』とか?
     うんうん、確かにグッショリと濡れてそうね」

ユンナ:「……」

コリン:「な、なによ、その冷たい目は?」

ユンナ:「……スペシャルデラックスゴージャスおばか」

コリン:「……な、なぜ?」




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