題目   『 夏休み 〜 来栖川綾香 〜 』


「う〜〜〜〜〜〜暑いよぉ! 暑い!暑い!暑い!暑い!暑い!暑い!」
「・・・。」

「今時、クーラーの無い部屋で暮らしてるなんて信じらんない! 何で真夏の真昼間から、我慢大会
しなくちゃなんないわけ? しかも自室で。」
 口を尖らせて捲くし立てる綾香。
 『暑い!暑い!』と連呼した方が暑苦しさが増すんだろうが、あえて口にしない。
 だって、身の安全が危ないから。
 ま、しかし、それを差し引いても、綾香の言う通り確かにこの部屋の中は暑い。
 いや、かなり暑苦しい。
 真夏の真昼間、クーラーも無い部屋の中で窓を締め切ったまま、二人でベットの中で、あーんな事や、
 こーんな事。おかげで二人とも全身汗まみれ。
 ・・・ま、”汗” だけじゃないかもしれないけど。

「・・・窓開けとけぱ良かったな。」
 俺は、親指を立てて窓を指差した。
 綾香は途端に表情を曇らせると、きっぱりと言い放った。

「嫌よ。それとも浩之は、ご近所様に、私のあられもない声をお聞かせしたいの?」
 う〜〜ん。 確かにそれは嫌だ。
 綾香の声って、結構大きいから。
 窓開けっ放しだと、まず間違いなく、ご近所さんに聞かれるだろうな。

「それに、こ〜〜んなに長々と”私の声”を聞かされてたら、ご近所さんから苦情来るわよ。」
 それは、綾香の獣みたいな声だからか? と、言いたかったが、やっぱり身の安全のため止めた。
 ま、綾香の言う通り、確かに長いと言えば長いかな。普通に5回はするから。
 まぁ、綾香の可愛い矯声を、3時間近く聞かされ続けるご近所さんも堪ったもんじゃ無いだろうから、文句の一つも言いたくなるのも頷けるわな。

「じゃ、下でしようぜ。居間ならクーラーもある。」
「もっと嫌よ。」
 綾香は、俺の胸に顔を摺り寄せながら言った。

「どうして?」
「・・・だって、居間だと覗かれないか心配だし、第一、こういう事はベットの上でゆっくりしたいわ。」
 ふ〜〜ん。そんなもんかな?
 別に俺は何処でも良いけどな、部室とか、教室とか・・・もちろん校舎裏の神社の境内だってOKだ。

「・・・それにね。」
「・・・ん?」

「終わった後で、こうしているのが好きだから。」
 綾香は、俺の身体を愛しむように、さらに身体を摺り寄せて来た。
 温もりを確かめるように、二人の愛を確かめるように。
 そんな綾香が愛しくって、ついつい抱き締めてキスをしてしまった。
 少しでも、俺の気持ちが伝わるように、深くて、激しくて、熱くて、そして優しいキス。

「・・・んん・・・ぷはっ。はぁ・・・はぁ・・・。浩之・・・だぁいすき。」
「・・・綾香、俺も大好きだ。」
 お互いの瞳に、お互いの姿を認めるのが心地良い。

「・・・でも、そろそろ限界ね。」
「・・・あぁ、そうだな。先にシャワー行ってろ。」
 窓全開にして、空気の入れ替えせんとな。
 くらくらしてきそうだ。

「あ・・・うん・・・。でも、シーツ洗ってからにするわ。」
 ま、仰る通り。
 今晩このまま寝るのは、ちょっと嫌かな。

 綾香は、汗やらなんやらで汚れたシーツを持つと、「わあ、重っ!」とか言いながら、洗濯機へと向かった。
 俺は、部屋中の窓を開けて、新鮮な空気を室内に取り入れた。
 何時もは感じることも無いけど、この瞬間ほど空気が美味いと思う事は無い。

 大きく深呼吸をした後、布団に手をやる。
 思った通り、ぐっしょり濡れていた。
 まぁ、シーツがぐっしょり濡れてるんだから、布団まで濡れるのも仕方ない事だよなぁ、と思いつつ、
 窓から布団を垂らして干した。
 この天気だ。2時間もすれば、きっと乾くだろう。

 俺は着替えやらタオルやら持って、洗面所へと急いだ。
 既に洗濯機は、ぐるんぐるんと回っており、風呂場ではシャワーの音と共に、綾香の鼻歌まで聞こえていた。

「お〜い! 俺も入るぞ!」
「え〜〜! 嫌だ、後にしてよ。すぐに出るから。」
 扉一枚隔てた向こうから、綾香の声が聞こえた。
 だからと言って、「はい、そうですか。」じゃ、それはきっと俺じゃない。
 と、言うわけで、俺は綾香の言葉を軽く無視して扉を開けた。
 すると、当然の様に、生まれたままの姿の綾香が目の前に現れた。

「え? 浩之、ちょっと、嫌だって言ったじゃない。」
 ほんのりと頬を赤らめた綾香が、俺を嗜めるように言った。

「・・・緕麗だ。」
 俺は、見たまま、心のままの言葉を口に出した。

「え? 浩之・・・」
 思いもかけない言葉に、明らかに動揺している綾香。
 口元に手をやった姿も、ほんのりと染めた頬も可愛らしい。

「・・・ホントに綺麗だ。」
 どれだけ愛でても飽き足らない、俺の大好きな綾香。
 俺は、無意識のうちに綾香を抱き締めていた。

「ちょ、ちょっと浩之・・・。シャワーの途中だよ。」
「間題ない。」

「何が問題ないの。」
「ノープロブレム。」

「だから・・・・・・・・・。」
 シャワーを浴びて、カラスの濡れ羽色と化した艶やかな黒髪か、桜色に染まった柔肌のせいだろうか。
 それとも、恥ずかしげに身を捩る綾香の姿にだろうか。
 確かに俺は、綾香の姿に欲情していた。
 ほんの少し前まで、お互いの肌と肌を合わせ、お互いを貪るようにして愛し合っていたと言うのに。
 俺は、綾香を抱締め、唇を奪うと・・・。

「・・・あん。」






○  ○  ○  ○  ○  ○








「バカ!バカ!バカ!バカ!バカ!バカ!バカ!バカ!バカ!バカ! 浩之のバカ!」
 居間のソファーに腰を降ろして、真っ赤な顔をした綾香が、抱きかえたクッションに半分顔を埋めながら喚き散らしている。

「浩之最低! あんたの頭の中、アレしかないの? もう知らない!」
 全くもって面目ない。
 結局あれから3回・・・・いや、4回かな、した。
 それに、綾香が怒るのも無理は無い。
 ベットの上じゃなきゃ嫌なのは知っていたけど、場所を移す気になれず風呂場でやっちゃったし、”綾香の声”だって、多分隣近所に聞かれただろうな。風呂場って、結構響くから。
 だから、今回の事に関しては俺が悪い。俺が悪いのは認めるけど・・・。

「・・・仕方ないじゃないか。」
 俺は、綾香の向かいにあるソファーの、しかも端っこで縮こまりながら呟いた。

「仕方ないって、どういう事よ!」
 口よりも先に、クッションが俺目掛けて飛んできた。

「始めはそんな気無かったんだ。風呂場の扉を開けたのだって、冗談半分、からかい半分だったんだから。」
 俺は、クッションを軽くかわしながら言った。
 でも、その続きは言葉にならなかった。
 だって、綾香が完全にフリーズ状態になって、遠目で見えるほどポロポロっと涙を流していたから。

「冗談半分? からかい半分? 浩之・・・・あんた、そんな気持ちで私を抱くわけ?」
 信じられない言葉を聞いて、信じたくない言葉を問うように、静かに綾香は口を開いた。

「違う! それは違う! それは誤解だ!」
「何が誤解よ!」
 取り乱した綾香は、手近にあったクッションを掴むと俺に投げつけて来た。
 避け切れずに当たったクッションは、左手だったにも関わらず、さっきのクッションより速くて痛かった。

「だから違うって。始めはそういう気持ちで、ホントに軽い気持ちで扉を開けたんだ。
でも、中で、シャワーを浴びている綾香を見たら、ホントに締麗で、可愛くて・・・気がついたら抱締めてたんだ。 そうしたら、自分の気持ちを止める事も、抑える事も出来なくなって・・・・。」

「・・・・・。」
 今、まさに投げ様としていたクッションが、綾香の右手からこぼれて落ちた。

「綾香に触れてると、どんどん綾香に溺れて行く自分が判るんだ。でもそれが悪い気しなくてさ、むしろ心地良くって。 俺のこの気もち、少しでも伝えられたらって。少しでも同じ気持ちになってくれたらって・・・。」

「・・・もう良いよ。」
 静かな口調で、綾香が俺の話を遮った。
 右手の甲で、零れ落ちる涙を拭いて、ほっとした様にそれだけ言った。
 そんな綾香に、俺は何も言葉をかけてやれず、替わりに綾香の言葉を待った。
 綾香は、「エヘヘヘ。」って笑いながら、俺に飛びっきりの笑顔をくれた。

「もう良いよ、浩之。十分、浩之の気持ち伝わってるし、何時でも浩之と同じ気持ちでいるよ。
・・・でもね、判って。あんな所でしたら、私、凄く恥ずかしいの。
私の恥かしい声だって、浩之以外には聞かせたくないの。
だから約束して。これからはあんな所でしないって。」

「・・・悪かった。約束するよ。」
 俺は素直に頭は下げた。、
 俺の身勝手で、大好きな綾香に、こんなに恥かしく、悲しい思いをさせてしまったから。
 100万回の謝意だって、償いきれない程の事をしてしまったから。
 俺は綾香に頭を下げ続けた。

 暫くすると、俺の頬に暖かい温もりが伝わってきた。
 驚いて頭を上げると、綾香が俺の頬を両手で包み込んでくれている。

「うん。じゃ許してあげる。それより、ごめんね。 浩之の事、いっぱい『ばか!』って言っちゃって。」
 唇が触れそうな距離で、綾香はにっこりと微笑みながら俺を許してくれた。
 俺の胸が、暖かい温もりで満たされていった。

「ああ・・・良いよ。だって、ホントの事だもんな。」
「じゃ、浩之怒ってない?」
 小首を傾げて、瞳を潤ませながら綾香が言った。

「当たり前じゃないか。怒ってる訳なんてないぜ。」
「・・・良かった。」
 俺の答えに安心したのか、ほっとした様に微笑みながら、綾香は静かに目を閉じた。
 そして、少しづつ、そして確実に、二人はお互いの距離を縮めていった。
 始めは啄ばむ様に、そしてお互いを確める様にキスをして、「ごめんなさい」と「ありがとう」の気持ちを込めて、深くて、熱くて、そして情熱的なキスを繰り返した。
 「大好き」って気持ちをお互いに確めるように。

「・・・・・・・んん・・・・ぷはっ。はぁ、はぁ・・・浩之・・・大好き。」
 唇を離した綾香は、息も絶え絶えになりながらそれだけ言うと、足元に座り込み俺の足を枕に頭を乗せた。

「綾香・・・俺も大好きだ。」
 俺は、そんな綾香を愛しむように、優しく、優しく、頭を撫でてやった。
 ・・・すると。


 むくっ!


「「え! うそぉ!!」」
 俺達は同時に声をあげて、「ソレ」を見つめた。
 そして、俺の身体の変化した部分の、比較的近くに頭を乗せていた綾香は飛び退いた。
 後ろ手に後退りながら、明らかに怯えた瞳で俺の事を見ている。
 その怯えた顔が、実は綺麗に俺の心にヒットした。


 ぶちっ!


 何かが、何処かで切れた様な音がした。

「綾香ぁ〜〜!」

 がばっ!


「い、いやぁ〜〜〜〜〜〜〜ぁ!!!」






                          おわり?



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あとがき


最後まで読んで頂きありがとうございます。
ばいぱぁと申します。

このSS、むっちゃ暑い時に書き上げました。
だから、冒頭の、『暑い暑い暑い暑い・・・。』は、小生の心の叫びです。
皆さんも、浩之並に『良い汗』をかいて、暑さを乗り切りましょう!

それでは、次回作も頑張って作りますので、読んで頂けたら幸いです。





 ☆ コメント ☆

綾香 :「まったくもう。浩之にも困ったものだわ」

セリオ:「……」

綾香 :「結局、あの後もいっぱいされちゃうし♪」

セリオ:「さいですかー。それは大変でしたねー。
     以上。
     ……さて、それじゃ帰りましょうか」

綾香 :「待て。なんでいきなり帰ろうとするのよ」

セリオ:「えー、だってー、なんか延々とノロケを聞かされそうな雰囲気が漂ってますし……」

綾香 :「そんなこと言わないで語りましょうよ、じっくりとたっぷりとこってりと」

セリオ:「……ご機嫌ですね」

綾香 :「え? そう? あたしはいつもどおりよ♪」

セリオ:「……いいですよね。浩之さんとラブラブで」

綾香 :「えへへぇ。いいでしょ」

セリオ:「文字通り『キノウ ハ オタノシミ デシタネ』状態でしたし」

綾香 :「まあね」

セリオ:「くっ。その余裕綽々の態度が腹立たしいやら羨ましいやら。
     少しは照れるなり何なりしてくれてもいいんじゃないんですか?
     そうすれば、まだツッコミ甲斐もありますのに」

綾香 :「そう? それじゃ……
     やーん、そんな風に言われたら綾香ちゃんはずかしくってしんじゃうー。
     照れ照れで頭がパニックしちゃうわー。どうしよどうしよ困っちゃうー」

セリオ:「…………。
     わたしが悪かったです。本当に悪かったです。反省してます。
     なので即刻やめてください。
     不気味です気色悪いです怖気がしますマジ勘弁」

綾香 :「……そこまで言うか、そこまで」(怒




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