題目   『 綾香! 愛のエプロン大作戦! 』

「・・・綾香お嬢様。一体この物体は何なのでしょうか?」
 私の力作を前に、眉間に幾スジかの皺を寄せながら、あからさまに嫌そうな顔をしたセリオがほざいた。
 こらこら。言うに事欠いて、なんて事言うかなぁ。

「・・・物体って失礼ね。”綾香ちゃん特製 愛の手作りチョコ ぱふ! ぱふ!”に決まってんじゃない。」
 ちょっと形は不揃いで、少しだけ出来上がりの写真と違うけど、味は保証付きなんだから。
 だって、本とそれ程大きく違うものは使ってないはずだから。

「ちょ、チョコレートなんですか! これがぁ?」
「これとは何よ、これとは。どっから見ても立派なチョコでしょ!」

「ちょ、ちょっとお待ち下さい。( ピピ〜ガガ〜ピ〜ピ〜ガガ〜ピ〜・・・・・・)
も、申し訳ありません。来栖川のデータバンクにある、世界168ヶ国及び地域に存在するあらゆる
料理若しくはそれに類する奇食、下手物、エサ等を検索しましたが、”これ”にヒットする項目はありま
せんでした。」
 こらこら。下手物とかエサとか、酷い事言っちゃって<れてるけど、一体なんなのよ。

「じゃ、セリオ。貴女には、これが何に見えるって言うの?」
「・・・・・物体Xのなれの果て? って言うかぁ。哀れな食材達の寄集め? 残飯? ごみ?」
 ぶ、物体Xのなれの果てって・・・ま、確かにカニの足が、こう、だら〜んと垂れてて・・・色もそれっぽい
 って言うか、まぁ、言い得て妙かもしれないけど。

「大体、どうしてチョコにカニなんて入れるんですか?」
「う〜〜ん。オリジナルって言うやつ? って言うかぁ。遊び心? チャレンジ精神? フロンティア
スピリッツ? とにかく、”普通”じゃ、”私らしさ”が出ないでしょ。だ・か・ら・むふっ!」

「”普通”が一番なんです、”普通”が。お菓子作りに”私らしさ”なんて必要有りません。
本に書いてある材料を、作る分量分だけ、手順に従ってしないとお菓子なんて出来ません。」
 折角可愛らしく、ウィンクなどしながら、しなを作ったのに、セリオったら軽く無視してくれた。
 いやねぇ。メイドロボの眉間の小じわなんて醜悪なだけよ。

「確かに見た目は悪いかもしれないけど・・・。」
「・・・見た目、だけですか?」
 腕を組んだセリオが、半眼で睨んできた。
 うう・・・。そんな凄まなくっても・・・。

「・・・えっと。ちょっとだけ独特な匂いも・・・。」
「綾香お嬢さま。日本語が聞違っています。これは”独特な匂い〜”では無く ”毒々な臭い”です。」
 とか言いながら、キッチンの窓を開け放つセリオ。
 このままじゃ、関節部のマグネットコーティングの性能が劣化するんだって、ほんまかい?

「でも、味は保証するわ。・・・きっと大丈夫よ。・・・たぶん。」
「味って、ま、まさか、人様にこれを食べさせるんですか?」
「愛があれば大丈夫よ。」
「ダメです。止めて下さい。これは間違いなく毒です。」

「毒だなんて失礼な。慣れれぱ大丈夫よ。」
「慣れとかそんなレベルじゃないです。これは猛毒です。推定毒性はテトロドキシンの100億倍の1兆倍。」
「何よそれ? 天文単位じゃ有るまいし。そんなに心配しなくても、きっと大丈夫だって、ね。 セリオ!」
「『ね、セリオ!』って、笑顔でにじり寄らないで下さい。そんなモノ持って・・・・って、まさか?」

「そ、そのまさかよ。お願い、セリオ! 味見して!」
「嫌です!」
「何でよぉー! いーじゃない、少しくらい食べてくれても、減るもんじゃなし。」
「減ります。って言うか、そんな恐ろしいモノを口にしたら、間違いなく根こそぎ私の寿命がなくなります。」

「・・・けち。」
「けち違〜う! そんなに味見がしたいんだったら、ご自分ですれば良いじゃないですかぁ。」
「嫌よ〜。なんか身体に悪そうだし。」
「そう思うんだったら人に勧めないで下さい。」

「いーじゃない。諦めて一口くらい食べてよ。」
「嫌です。」
「モノは試し。ね。」
「絶対嫌です。」

「そこを何とか。」
「拒否します。」
「お願い!」
「・・・・・。」

「・・・・・ね。」
「・・・・・。」

「・・・・・?」
「・・・・どーしてもですか?」
「そ。どーしても。」
「・・・自爆します。」

「じ、自爆ぅ?」
「そうです、自爆です。そんなモノを口にするくらいなら自爆します。こんな事も有ろうかと思って、
私の両手両足には小型の爆弾が・・・・。」

「って、あんたは真田さんかい! って言うか、どんな場面を想定して両手両足に爆弾持ってんのあんたは?」
「それを私に問われましても・・・。」

「あのMADおやぢが・・・。」
「はぁ。でも、勝手に改良されちゃった、謎の国費インド人留学生よりは幾分マシかと・・・。」
「あんたも苦労するわねぇ・・・って言うか、歳ぱれるわよ。」
「・・・はぁ。」

「ま、いいわ。そんなに嫌なら、食べなくても。」
「え! 本当ですかぁ!」
「えぇ。 自爆するとまで言われちゃね。それに、流石にこれは自分でも、どうかと思ってたから。」
 食べなくて良いと言ったら、俄然目を輝かせるセリオ。
 そこまで嫌がらなくっても良いと思うんだけどなぁ。
 ま、別に良いけど。いい加減、私も頭がくらくらしてきたし。

「・・・でも、どうしようかな。 これ。」
「あの、処分でしたら私が。」

「ありがとう。お願いできる?」
「はい。ドラム缶にコンクリートと一緒に入れて、○廃棄物処理場の地中深く・・・。」
「私の料理は、○廃棄物かい!」
「いえいえ・・・そんな生易しいものでは・・・。」

「気が変わった! 食べさすよ!」
「勘弁してください。」
 そう言って、テーブルの上に置いておいた私のチョコを素早く取り上げるセリオ。
 ・・・ま、良いけどね。

「・・・でも、おかしいわねぇ。若干のアレンジは加えたけど、料理の本見て、ほぼ、そのまま作ったのに・・・。」
「ほぼって・・・。でもまた、どうして、手作りチョコなんて無謀な事を考えられたのですか?」
「無謀だなんて失礼ね。バレンタインに恋する乙女が、手作りチョコを作って愛する人に渡すなんて、
誰でもやってる事でしょ。だから、私も浩之にって・・・。」

「御可愛そうに・・・。命を懸けた罰ゲームですね、これは。」
「何か言った? セリオ?」
「いえ、別に。」

「・・・でね。どうしよっかなぁって考えてたら、姉さんが料理の本を貸してくれてね。 
姉さん曰く、私の恋愛運二月の中旬が最高なんだって。 
それにタロット占いで、”大好きな人に手作りチョコを食べさせればイチコロです”って出たらしいのよ。」

「私、いつもは占いなんてそれ程信じない方なんだけど、もう、これは作るっきゃないって感じて、頑張って
るんだけど、なかなか上手くいかないものねぇ・・・。」
「は、はぁ・・・・・・。」

「ま、いいわ。今回のチョコは残念ながら失敗って事で、次回は頑張りましょ。待っててね、浩之。
スタミナと愛情いっぱいのチョコ! うんと食べさせてあげるから! 覚悟してらっしゃい!」
 両手を腰にあて、ホーホホホホ・・・・っと高笑いする綾香の側で、筆舌に尽くしがたい”アレ”を見ながら、
 セリオは。

(・・・流石に人間離れした絶倫野獣な浩之さんと言えども、確かにこれならイチコロですね。合掌。)
 と、呟いたとか、呟かなかったとか・・・・。
 

                                                       おわり




○  ○  ○  ○  ○  ○  ○
あとがき

最後まで読んで頂きありがとうございます。
ばいぱぁです。

これが今年の第二弾です。
と、言っても、一緒に出してますから、どっちが一番でも二番でも良いのですが・・・。

トモコスキーの私ですが、何故かSSは綾香の露出が多いです。
何故だろ? 書きやすいからかなぁ?
う〜〜ん。どうだろ?
ま、現在人気投票でトップですから、応援SSって事で・・・。





 ☆ コメント ☆

セリオ:「こ、これは……先の作品に輪を掛けて凄まじい事に……」(汗

綾香 :「……えへ、しっぱいしっぱい☆」

セリオ:「可愛らしく言って誤魔化そうとしてもダメです」

綾香 :「……ちっ」

セリオ:「ハァ。まったくもう」

綾香 :「そ、そんなこめかみ押さえてため息吐かなくてもいいじゃない。
     ちょーっと失敗したくらいで……」

セリオ:「ちょっと?」(ギロリ

綾香 :「う゛っ。
     だ、だいぶ、です」

セリオ:「それにしましても、どこをどうすればこんな壮絶な失敗が出来るのでしょうか」

綾香 :「やっぱりカニは拙かったのかしら」

セリオ:「まあ、それも確かに原因の一つではありますが……でも、決してカニだけの所為じゃないですよ。
     というか、ここまで来たらカニの一匹や二匹なんて些細な物かと」

綾香 :「エビにしておけば良かったのかな?」

セリオ:「……いえ、あの、そういう問題では……」(汗

綾香 :「よし、決めた。
     浩之へのチョコは『生エビ入りチョコのタルタルソース和えトロピカル風』にしましょう」

セリオ:「人の話を全く聞いてませんね。てか、マジですか?」

綾香 :「うふふ。浩之ってば、きっと驚くわよぉ」

セリオ:「そりゃあ驚くでしょう。
     ええ、それはもう確実に」(汗




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