投稿SS 「夢の中で」  …夢。  夢を見ている。  待機状態に各CPUが相互機能チェックを行う際に現れる、メモリー内の記録情報を 夢と表現できるのなら、私は夢を見ているのだろう。  メモリーの中の映像は、決して色あせることなくリプレイされる。私の中で、何度 も。  何度も。 「今日からテスト通学ですね、セリオさん。がんばりましょう」  夢の中で、マルチさんがあの時と全く同じ顔で、同じ声で、同じ言葉をかけてく る。 幾度となく繰り返されてきた夢の中で、記憶は決して劣化することなく。 「私、緊張しちゃって胸がドキドキしますー」  機体胸部に何か障害が発生しているのですか?ならば即座にテストを中止してメン テナンスを受けなければいけません。 「いえ、そういうことじゃないんですよー。それくらい、私、緊張してるってことで す」  比喩ですか。わかりました。 「ごめんなさい、心配をおかけして」  いえ、別に問題はありません。 「セリオさん、優しいんですね。ありがとうございます」  …いいえ、マルチさん。そんなことはありません。  私は優しくなんかありません。  …優しくなんかないのです。    * * * * * * * * * *  映像が途切れ、また別の記録がスタートする。  私はバス停に立っている。 土曜日の放課後。停留所で私はマルチさんを待っていた。どちらかというと、私が待 つよりマルチさんを待たせる方が多かった。  その日は、私の方が早くここに来ていた。研究所行きのバスが来るにはまだだいぶ 余裕があったが、その時の私は何をするでもなくその場に佇んでいた。 「あっ、セリオさーん。お待たせしましたー」  マルチさんがニコニコ笑いながら小走りで近づいてきます。マルチさんのバラン サーは、問題も無いのに何故か時々機能を失調することがあるのですが、幸いこの時 は転びもせずに私の所までやってきました。…当たり前のことなのですが。  それでもバスが来るまでまだ時間がありましたので、私とマルチさんは今日一日の 報告を交わしました。 「セリオさん、今日も学校は楽しかったですか?」 「問題ありませんでした」  …マルチさんはいつも最初にこの質問をしてきます。そして私の答えもいつも同じ です。 「そうですかー。それは良かったです。セリオさんは私よりずっと優秀ですから、 きっとクラスの皆さんに喜んでもらえるとは思ってますけど」  そうですね。皆さん、私は便利だとおっしゃってくださいます。 「おともだちはできましたか?私、セリオさんがクラスの誰からも話し掛けてもらえ なくて、一人ぼっちでさみしい思いをしてたらどうしよう、なんて、そんな私がセリ オさんの心配するなんて逆なんですけど。でも、やっぱり心配ですし。  でも、よかったです、そんなことなくて」  …………。  その時の私は、マルチさんがおっしゃることの意味が半分もわからなくて、ただ無 言でマルチさんの顔を見詰めているだけでした。 「私、ロボットなのに、満足にお役に立つこともできなくて。今日もコピー用紙を印 刷室に運ぶように言われたのに、その仕事を果たすどころか逆に人間の方にお手伝い までしていただいて」  人の手を煩わせてしまうというのは、メイドロボットとしては問題ですね。 「そうですよね。  …でも、浩之さん…あ、その、お手伝いしていただいた二年生の方なんですけど、 私、コピー用紙の入ったダンボール箱を抱えてて、階段で転びかけたんです。その 時、後ろから私を抱きとめてくださって、それから、荷物を私の代りに運んでくだ さったんです」  …もしかして、マルチさんの運搬能力を超えた過剰命令だったのでは? 「その上、放課後、私が掃除をしていたら一緒にお掃除してくださったんです。  私、お掃除好きですけど、一人でお掃除するより誰かと一緒にするのがこんなに楽 しいなんて、知りませんでした。セリオさんもそうでしょう?」  誰かと…人間の方と一緒に命令された仕事をしたことは、私にはありません。私た ちメイドロボットは、人の命令を受けて人の代りに仕事を実行し完了させるためのも のなのですから。 「私、こんな優しい人に出会えて良かったです。学校って、本当に良いところです ね」    * * * * * * * * * *  映像が混濁し、再び鮮明になる。  私は吊革に捕まり、振動にあわせて身体の均衡を保っている。  バスの中。登校途中の記録だ。  マルチさんは私の前で居心地悪そうに座席に腰掛けている。マルチさんの運動能力 を考えて、先ほど一つだけ空いた席に、私が座るように勧めたのだ。  別に問題はない。それなのに、どうしてマルチさんは遠慮をするのだろう。同じロ ボットである私に。  バスが停まり、また動き出す。 乗り込んできた推定70代前半と思われる女性客が、フラフラと車内に視線を彷徨わせ ている。 「あ、おばあさん、こちらにどうぞ」  私が喚起するより早く、マルチさんはやや大きすぎる声を女性客にかけた。このあ たりの気配りは、メイドロボとして当然だろう。  私も女性客に手を貸して、先刻までマルチさんが座っていた席に誘導する。 「やさしい子たちだね。ありがとう。」  少し戸惑った様子ながらも、女性客は笑って私たちに礼を言うと席に座った。それ をマルチさんは嬉しそうに見ている。 「あんたたち、高校生?違う学校みたいだけど友達なのかい」 「はい!セリオさんは私のともだちです」  何やらお喋りをはじめた二人を見ながら、どうやら私たちがロボットだということ に気づいていない女性客に、そのことを告げるべきかどうか、私は少し迷った。  それにしても、マルチさんはとても自然に会話をこなしている。時々文法的におか しな表現を使うこともあるが、それが相手に適度な笑いを誘っているようでもある。 こんな場面を見る度に、マルチさんがいかに優秀なロボットであるかが理解できる。  私には、こんな形で人の役に立つことはできそうにない。 「そうそう、これ、貰ってくれないかね。お礼だよ。後でお友達と一緒にお食べなさ い」  女性客が、手提袋から何やら取り出してマルチさんの手に握らせた。クッキーだ。 「えっと、あの、おばあさん…」  困ったマルチさんに代わって、私は進み出た。 「お気持ちはありがたいのですが、私たちは…」 「遠慮することないんだよ」 「折角ですが、私たちは食物を摂取する機能はありません。私たちは…」 「ど、どうもありがとうございますっ」  私の言葉を遮って、マルチさんがクッキーを受け取って深々と頭を下げた時、バス は減速をはじめた。…私たちが降りる停留所だ。  もう一度女性客に一緒に頭を下げて、私たちはバスを降りた。手にしたクッキーを ティシュに包むと、マルチさんはそれを大事そうに制服のポケットにしまい込む。 「どうしてそれを受け取ったのですか?私たちは物を食べることができないのですか ら、いただいても処理することができません。その事をちゃんと説明申し上げて、先 ほどの方には理解していただく方が適当かと思いますが」 「それは、そうなんですけど…でも、お断りしようとした時、おばあさん、なんだか 悲しそうな顔をされたんです。それを見たらなんだか、受け取らなくちゃもうしわけ ない、って気になって…ごめんなさい」 「別に私に謝罪する必要はないでしょう。ですが、結局それは先ほどの方を騙すこと になってませんか?人間に嘘をつくことになっていないでしょうか」 「う、うそ!?そ、そんな人間の方に嘘をつくだなんて、そんな…」  慌てふためくマルチさん。このような大げさな「仕草」は不必要であると思うので すが。  けれど、しばらく考え込んだ後、マルチさんはこう言いました。 「明日…またあのおばあさんに出会って、必要だと思ったら、私がロボットだと言う ことにします。ご自分でそのことに気づくかもしれませんし。でも、わざわざ言う必 要はないと思います。私が嘘をついて、おばあさんを騙しても、それでおばあさんが 喜んでくれるなら、私は…また、嘘、を、つくと思います。  それに、変な言い方ですけど、これは、ついてもいい嘘じゃないか、って思うんで す」  でも私、別に嘘とか騙すとか、そんなつもり全くなかったんですけど、と言ってマ ルチさんは微笑んだ。  ついてもいい嘘。  自分が嘘をつけばいいのなら。  私には理解できない。そんな行動は理解できない。  嘘をつくのは許されることではない。ロボットが人を騙すなどということは、あっ てはならないことだ。  それは「悪いこと」だ。  私はそうプログラムされている。    * * * * * * * * * *  …良きこと、悪きこと。  誰が決めた基準なのか。誰のための基準なのか。  そんなことは考えないまま。  私はテスト通学の日程をこなしていっていた。  そして、あの日がやってくる。    * * * * * * * * * * 「お待たせしました、マルチさん」  私の言葉に、マルチさんが肩を跳ね上げる。  いつものゲームセンター前。いつものバス停留所。  七日のテスト通学の間、私とマルチさんは朝ここで別れ、夕方に待ち合わせた場所 だ。 「あ…セリオさん」 「よう、セリオ」  マルチさんの隣にいる十代半ばの男性。藤田浩之さん。  テスト期間後半、帰りのバスの中での話題はいつもこの人のことばかりだった。  この人のことを話す時、マルチさんは普段見せる笑顔とは別種の笑顔を作る。控え めで、穏やかな。  長瀬主任は「夢見るように」「うっとり」と表現していた。 「浩之さん。いろいろお世話になりました」 「ああ。それじゃあ…マルチも元気でな」  別れの挨拶を交わす二人を、私はやや離れた位置から見詰めている。別れを惜しむ 二人を見詰めている。  あの場面を見たくない。  やがてバスが到着し、私たちはいつものように乗り込む。  記録は完璧に、欠損無く保存されている。だから見たくない。 「さようなら、さようなら〜」  窓際に身を寄せたマルチさんは、窓越しに藤田さんに向かって手を振る。普段無愛 想な顔をしていることの多い藤田さんが、手を振ってそれに応えている。  バスが動き出し、互いの姿が見えなくなるまで。  二人はずっと手を振りつづけていた。  見たくない。 「…うっ…ううっ…う………ひっく……」  バスの中。  必死に声を押し殺してマルチさんは泣いていた。  私はあと2週間テスト期間を残しているが、マルチさんのテストは今日で終わる。  マルチさんのデータは研究所のホストコンピューターに保存され、機体には新しい テストのために新しい人格プログラムが注入される…予定である。  つまり、今、私の隣で泣いているマルチさんはデータだけの存在になる。  藤田さんとは、二度と会えない。  見たくない。見たくないのに、夢は続く。  ポン、ポン。  私は、マルチさんの肩をそっと叩いた。  このような時、どんな言葉を使えばいいのか?  私には、何も言えなかった。 「…セリオさん…セリオさんっ…!」  私の着た制服の、レモンイエローのベストを握り締め、マルチさんは私の左胸に顔 を押し付けて泣いた。  声だけは必死になって抑えて泣いた。  泣きじゃくった。  …私にマルチさんの「心」はわからない。  何がそんなに悲しいのか。そもそも、私には「悲しい」という感情がわからない。 そんな機能はメイドロボにとって全く不必要であるばかりか、有害ですらある。  「泣く」という行為に、何の意味があるのか。  わからない。  わからないから、私はただ、彼女の肩に手を回して抱き寄せた。  バスが研究所に着くまでの間、私は泣き続ける彼女のそばで、何も言わず、何も聞 かず、ただ、そこにいた。  ただそばにいることしかできなかった。  ただそれだけしか。  それが、辛かった。    * * * * * * * * * *  目を開いて、視覚情報としてまず認識したのはベッド脇のサイドテーブルに置かれ たノートパソコンの画面だった。液晶画面には「充電完了」の文字と状況を表したグ ラフが簡潔に表示されている。  ベッドに横たわったまま、自分の左脇に視線を転じる。無論、そこに誰かがいるわ けはない。あれは夢の中、過去の出来事だったのだから。  セリオはコードを外すと右手首の接続端子部を収納した。ノートの電源を落とし、 ベッドから起き出すと身に付けた簡素なパジャマを脱ぎ捨て、西園寺女学院の制服に 着替える。  時刻は6時。あと30分後には彼女の現在のユーザー、来栖川 綾香を起こしに行 く。それが彼女の朝一番の仕事だった。  来栖川エレクトロニクスが来春発売予定しているHM−13型メイドロボットの試作 機。それがセリオだ。 試作機である彼女がテスト終了後も学校に通学しているのは、来栖川グループの息 女、綾香の好意に他ならない。彼女の「妹達」と同時リリースされるHM−12型試作機 であるマルチと同じ、データだけの存在になってしまわなかったのは。  ただそれだけの理由でしかない。  春が過ぎ、夏が来て、秋が去り、冬を迎え。  セリオにとって二度目の春がすぐそこまできていた。  綾香という、自分のことを友達だと言ってくれる「主人」と過ごした一年。  それはとても有意義な時間だった。 『まったく、セリオってばそういうトコどこまでもセリオよねー』  以前、その言葉を口にしたら、綾香様にはそう言われた。 「マルチさんなら、何と言うだろう…」  この独り言を呟くようになったのはいつからだったろう。どうして私は「独り言」 という、無意味な行為を行うようになったのだろう。  セリオは来栖川邸に与えられた自室を眺めやった。調度品や拵えは立派だが、まる で生活感のない室内。  ふと、ドアの近くの壁にかかった、彼女には必要の無いカレンダーが目にとまる。 「3月19日…」  わかってはいたが、改めて認識する。今日は「姉」の誕生日だった。セリオより先 発して開発されたが、HMX−12型はシステム微調整のために起動そのものは13型より やや遅れたのだった。  一年前の今日、初めてマルチとセリオは出会ったのだ。そして32日後に…  一年。  あれから一年しか、なのか、一年も、なのか。 「…マルチさん」  セリオは、一人呟いた。 「昨日は、また綾香お嬢様が舞踊のレッスンをエスケープされまして、私は長瀬様か ら厳しくお嬢様を監視しておくようには言われていたものの、直接のユーザーである お嬢様の命令には逆らえなくて。あまつさえ、私が影武者になって長瀬様の目を逸ら す囮を務めてしまいました」  あらら…それは大変だったですね。 「でも、私も囮役を果たした後は適当なところで変装を解いて合流するように言われ ていたのですが、そちらは失敗してしまいまして」  セリオさんでも失敗することがあるんですか?珍しいですねー。でも、それだとセ リオさん、しかられちゃったんじゃないですか? 「ええ。長瀬様からきつくお咎めを受けてしまいました。でも…」  でも、どうしたんです? 「私の失敗に気づいた綾香お嬢様が、戻ってこられたのです。それで、私を庇ってく ださいました。悪いのはセリオに無理矢理こんなことを頼んだ自分だから、と」  優しいかたなんですね、綾香さんは。セリオさん、いいおともだちができて良かっ たです。 「…綾香お嬢様は、私のユーザーです。お友達だなんて、そんな…」  そんなことないです!綾香さんって、浩之さんと同じです。とっても優しい方なん ですよ。綾香さんは、セリオさんをお友達だって思ってるんでしょう?なのに、セリ オさんがそんなこといっちゃ、綾香さんが…いえ、綾香さんも、セリオさんも、かわ いそうです。  セリオさん、綾香さんのこと、嫌いじゃないでしょう? 「そんなことは絶対にありません」  でしょう?だったら、おともだちなんですよ、セリオさん。そうでしょう…?  …………。  一年。…一年前。  マルチさんは、いつもこんな他愛も無い会話ばかりしていた。  報告としては非効率で、主観が多く入りすぎた、不正確なものだった。  どうしてだろう。  その他愛の無い会話を交わしていたあの時間が、かけがえの無い貴重なものだった と、どうしてわからなかったのだろう。平凡な日常の中で綴られていたあの時が。  研究所で、バスの中で、二人で歩いた道で。一緒にいたあの時間が。  もう二度と戻ってこない時間が。  セリオは小さな鏡台の前に座った。自分で使ったことは一度もないが、綾香が選ん でくれた化粧道具も一通り納まっている。  その中から小さなリップクリームを取り出すと、セリオは鏡の中の自分を見詰め た。  端整だが、無表情な顔がそこにある。微かな表情しか作れない顔が。  …綾香様のことをマルチさんに教えたかった。  今日、あった事。色々な事。マルチさんがいない時に起こった事を、帰りのバスの 中で話したかった。果てしなく、そんな他愛の無い話を語り合いたかった。 きっと、マルチさんは顔をほころばせながら言うだろう。  よかったですね。楽しかったんですね。  綾香さんって、いいひとなんですね。  セリオさん、しあわせですね。  そして、笑ってくれるだろう。  セリオはリップのキャップを外すと、適当な長さに伸ばした。先端部を右の目じり に当てると、そのままゆっくりと頬を伝わせる。  微かに桃色をした一筋の線が、セリオの白い頬に描かれる。  …私は、幸せなロボットです。周りの人たちは、とても優しい方ばかりです。  平凡な毎日を、つつがなく送ることができています。平穏で、平和な毎日を、大好 きな人たちと一緒に暮らしています。  この幸せな毎日に、どうしてマルチさんがいないのでしょう。  私のそばに、マルチさんはいなくて。  ただ、過去のメモリーの中にしか存在しなくて。  会いたくても、二度と会えなくて。話したくても、話せなくて。  ただそばにいること。それさえもできなくて。  データを基にシュミレートして、姉さんならこう言ってくれるだろうと思っても。 記憶の中の姉さんと話をしても。やっぱり私は独りで。  マルチさんはいなくて。  姉さんはいなくて。  あの時。  姉さんと一緒に、泣いてあげることもできなかった私だけが、今も存在し続けてい て。  最後の夜を藤田さんと過ごして、帰ってきたマルチさんに、ここから「いなくな る」ために帰ってきた姉さんのために、私はなにもできなくて。 「ありがとうございました、セリオさん」  そんな私に、どうしてマルチさんはそう言って笑えたのですか?  マルチさんのために涙を流すこともできなかった私に。 「…私は…泣けませんから…これで、私が泣いてると…思ってください…マルチさ ん」  片頬だけに描かれた、涙。  自分にできる精一杯。  …あと15分したら、綾香様を起しにいこう。その時には私はいつもと同じ顔をし ているでしょう。  マルチさんが私に教えてくれたこと。  喜び。幸福。笑顔。愛しさ。絆。  悲しみ。喪失。涙。怒り。孤独。  不確定で、相反して、脆くて、弱くて、頼りない、不完全なココロというモノ。  私のココロはココロと呼べるほどしっかりとしたものではなくて、ぼんやりとし た、あやふやなものですけど。  でも、それでも、少しでも姉さんに近づけて、姉さんの感じたことを少しでも私も 感じることができるから、私は…ココロを持てて良かったと思います。  マルチさん。  来春、私たちの「妹」たちが生まれてきます。私とマルチさんの思い出を基に作ら れた妹たちが。 生まれたばかりの彼女達に、「姉」として、私は教えてあげたい。この不確かであや ふやなココロというものを。姉さんが私に教えてくれたように。  姉さんのようにはいかないでしょうけど、でも、私はできるだけたくさんの妹達に 教えたい。  だって、私はここに存在しているんですから。 「私、がんばりますね、マルチさん」  はい。がんばってください、セリオさん。  ちょっとだけ…本当にちょっとだけ、の笑みを顔に浮べて、セリオは顔を拭いて立 ち上がった。日中は闊達だが、実は低血圧気味な綾香は朝が弱い。彼女を起して一緒 に学校へ行くのは、これでなかなか大変な仕事なのだ。 「今日もがんばらなくっちゃ」  無機質だが、それでもおどけた口調の呟きと共に、セリオは扉を開き、廊下の窓か らようやく差し込んできた朝日の中へ歩き出した。 <了> 【後書き】  私たちは知っています。  発売されたHM−12型には大きな仕様変更が加えられたことを。  不必要なものを省いた低コストマシンを売りとした12型に、マルチのデータは活か されていないことを知っています。  人間は、マルチとセリオの思いを踏みにじることを知っています。  でも。  浩之の元にマルチが帰ってくることも知っています。  そしてそれはセリオとの再会を約束してくれます。  その物語は…いずれ自分でHPを開いたら書きたいと思っています。  ぜーんぜんヒマあらへんけどな〜。(何故に似非関西弁!?)  ドラマ「Piece of Heart」は、セリオファンならば必ず所持せずにはおられない逸 品でしょう。良い話です。 セリオの二次創作物で、ゲームの主人公である浩之とくっつく類のものは、どうして もマルチシナリオの二番煎じになってしまいがちです。というより、セリオという キャラクターは恋愛の前に、まず「友情」を語らねばならぬキャラだと思うのです。 人と機械の絆を得て、ココロというものをぼんやりとであるが、理解する。そこまで 行ってようやく、マルチと同じスタートラインに立つことができるのでしょう。 「Piece of Heart」はそれを描ききりました。いい作品です。 ただ、思ったんですよね。…エンディングの後、セリオはどうなってしまったので しょう?そのままいけば、やはりデータ取りされて、マルチと同じく二度と圭子や綾 香の所には帰ってきません。その辺りのことは全然語られてませんでした。という か、語っちゃいけないつーか?  その疑問に対する自分なりの回答が、このSSです。ただ、「Piece of Heart」の補 完というつもりはありませんので、田沢さんは出てきませんし、セリオがマルチを慰 める場所は研究所ではなく、バスの中です。(場面としてはこっちの方が自然だし、 美しいと思う。うわ〜自画自賛〜)  さて、全然関係ありませんが。PS版To Heartの「肩もみマルチ・セリオ」のためだ けに、デュアルショック対応コントローラーを買うことは…漢として当然のことです よね? お願い、そうだと言って〜ん。
 ☆ コメント ☆  私の書く、のほほんとしたセリオではなく、原作に忠実なシリアスセリオです(^0^)  >幸いこの時  >は転びもせずに私の所までやってきました。…当たり前のことなのですが。  確かに当たり前のことなのですが……。  でも、マルチがやると、凄いことを成功させたような気になるのはどうしてでしょう?(^ ^;;;  >それが、辛かった。  セリオにも『ココロ』があるという証拠ですね。  マルチと同じ『HMX』シリーズであるセリオ。  彼女にも、マルチと同じように、感情・心は組み込まれていたのではないでしょうか?  ただ、それを表現する術を知らなかっただけなのではないでしょうか?  私は、そう思いますし、そうであって欲しいです。  >その物語は…いずれ自分でHPを開いたら書きたいと思っています。  うおーっ、ムチャクチャ読みたいですーーーっ!!  こ、これは、一日も早くHPを作ってもらわねば。  期待してますねーっ(^0^)  >PS版To Heartの「肩もみマルチ・セリオ」のためだ  >けに、デュアルショック対応コントローラーを買うことは…漢として当然のことです  >よね?  当然ですとも( ̄ー ̄)b  それでこそ『漢』です!!  え? 私? 私は……えっと……あははーっ(^ ^;    それにしても、出だしの2行がとっても『Kanon』ちっく(^ ^;  単なる偶然なのか、それとも阿黒さんの遊び心なのか……。  う〜〜〜みゅ(^ ^;;;  阿黒さん、ありがとうございました\(>w<)/



戻る