題目   『 大切なもの 』


 ”奇跡”って、起きないから”奇跡”って言うと思ってた。

 行きつけのCDショップで、ダメ元で頼んでおいたの CHILDISH AN HOUR のチケット。
 まさか手に入るだなんて思ってもなかった。
 しかも、前から数えた方が断然早い、アリーナ席ペアチケット!
 もう、夢なら覚めないでよねーって感じぃ?

 ジャーナリストを志す者として、やっぱり目に見えるものだけを信じたいじゃない?
 だから、幽霊とかUFOとか超能力とか化け物とか・・・って、超能力少女は身近にいるし、
 ある意味化け物じみた奴ってのもいるけど、私って、目に見えない、訳の判らないものって、
 基本的に信じない人なのよね。
 だから、神様なんて端っから信じちゃいないし、困った時と初詣限定の存在ってくらいの認識
 しか無いんだけど、な〜〜んの努力も無く、こ〜〜んなプラチナチケットが手に入っちゃうと、
 神様の存在ってのも、信じちゃう気になるから不思議ってもんよね。

 じゃ無かったら、こんな奇跡が起きるはずないんだもん。
 だって、開演日なんて・・・ねぇ。



 まぁ、それはそうとしてよ。
 嬉しいんだけど、困った事だって無い訳じゃないのよ。
 これって、ペアチケットじゃない?
 って事はよ。 誘えるのは、一人って事よね。
 これが四人分だったら、あかりにヒロに雅史のを誘うんだけど、・・・・やっぱり一人って事になれば
 ・・・常識的に考えてもあかり・・・よね。
 
 あかりとは大の親友だし、女の子同士で気兼ねないし、きっと二人なら楽しいし・・・。

 ・・・・・って、ちょっと待ってよ!
 あかりって、 CHILDISH AN HOUR 好きかしら?
 確かヒロは、 CHILDISH AN HOUR のCDを何枚か持ってるはずだけど、あかりの口から CHILDISH
 AN HOUR の名前を聞いた事ないし、そう言えば、地味なあかりには CHILDISH AN HOUR はちょっと
 派手って言うか、イメージが全然合わないわ。
 
 もしよ、もし、あかりが CHILDISH AN HOUR の事なんとも思って無かったとするじゃない?
 でも、私が誘ったら、あかりは行くって言うに決まってるわ。
 そしたらよ、特に好きでもないアーティストのコンサートに行かされるって事で、それって、結構キビシイ
 のよねぇ。
 


   ○   ○   ○   ○   ○


 ピポパポ。 ピポパポ。

 ・・・べ、別に、 CHILDISH AN HOUR のコンサートに、ヒロと行きたいって訳じゃないわよ。
 あかりを誘ったら、迷惑になるんじゃないかって、そう思っただけよ。
 絶対の絶対に、変な理由付けした訳じゃないんだから。 変な勘ぐりしないでよね。

 それによ、私みたいな、ちゃーみんぐで、びゅーてぃほーで、ないすばでぃーな現役女子高生がよ、
 夜遅くまで出歩くんだもん。
 あかりと一緒より、ヒロみたいな奴でも、男連れのが安心できるって言うか、そうよ、用心棒の
 替わりくらいにはなるじゃない?
 
 トゥルルルルル。
 トゥルルルルル。

 それによ、CDショップの店長も、”折角だから好きな男とでも行ったら?”みたいな事言ってたし。
 ・・・って、ちょ、ちょっと。 違うわよ! 違うに決まってるでしょ!
 別にヒロの事なんて、好きでも何でも無いんだから!
 気にもしてないし・・・まぁ、話し易い奴では有るけど・・・そ、それだけよ!
 
 トゥルルルルル。
 トゥルルルルル。

 それによ、それにヒロにはあかりがいて・・・。
 どうせ、私の事なんて見てくれて無いんだもん・・・ね。


 トゥルルルルル・・・・・ピッ。

『・・・はい、藤田ですけど。』
「あ? ヒ、ヒロ? 私よ、私!」
 ヒロへの携帯なんて慣れている筈なのに、ヒロの事考えてた時に、急にヒロの声が聞こえたもの
 だから、ちょっとだけ胸がドキッとした。
 超鈍感なヒロの事だから、気付く訳無いんだけど、気付かれたらって考えただけでドキドキしちゃって・・・。
 それって、あかりを差し置いて、ヒロを誘う罪悪感・・・だけ・・・じゃないわよね、やっぱり。

『を? その声は志保か? ちょうど良かった、いま、電話しようと思ってたとこだ。』
「え? なに?」
 ヒロが私に話?
 何よ、それ?

 用事が有るのは私の方で、その用事だって、ちょっとだけ言い難い話だったりする訳で、どうしよっか?
 って考えてた所に、思いっきり想定外の反応するじゃない、ヒロのくせに。
 だから、悔しいけど、不思議なほど胸が高鳴っちゃった。
 聞きたい様な、聞きたくない様な、不思議な感覚って言うのかな。
 期待と不安でいっぱいになっちゃった。

『・・・11月7日だけどよぉ。 学校終わってから、どうせ暇だろ?』
「!」
 ちょ、ちょっとヒロ、どう言う事?
 その日、私を誘うって事?
 その日、何の日だか知ってて私を誘うの?

 驚きのあまり声が出せなかった。
 胸の高なりは、更に早く、そして大きくなって、もう爆発寸前。
 不安は一層され、期待で一杯になった。
 残念だけど、その時点で、あかりって存在が、私の中から消えて無くなった。
 ま、女の友情なんてそんなもんよ、実際。

『その日さぁ、コンサート行かないか?』
「え? どうして?」
 私は方手に持ったチケットを握り締めた。
 誘ってくれたって事だけでも驚きなのに、チケットの事まで知ってるだなんて・・・。
 もしかして、あんたエスパー?

『どうしてって・・・7日は志保の誕生日だろ? だから・・・』
 え? うそ?
 なんで、ヒロが私の誕生日を知ってるの?
 って言うか、ヒロが私の誕生日を祝ってくれる?
 うそ? って言うか、マヂ!

『・・・だから、皆で祝ってやろうかって事になってな。 』 
 祝ってくれるだなんて信じられない!
 皆でって・・・・ちょ、ちょっと、ヒロ? 今、何ておっしゃられやぁがりました?

『今流行の、○-ZONEだぜ。 心配するな、誕生日プレゼントだから、当然俺らのおごりだ。』
 私の事なんて、完全にふっちゃってくれたヒロは、一人で何やらペラペラ喋り捲っている。
 完全にパニクった私の頭では、その言葉の一つ一つを解する事なんて出来なくって、
 殆ど、右から左って・・・。

「ちょ、ちょっと待ってよ、ヒロ!」
『どうしたの、志保。』
 情報過多になった私の脳味噌を止めるため、受話口に向かって叫んだが、返って来たのは
 あかりの声だった。
 私がパニクっている間に、ヒロからあかりに替わったのだろう。
 私には、それすらも気がつかなかった。

「あかり? あかりなの? コンサートって何よ! ○-ZONEって何?」
 私は思いつくままに言葉を連ねた。
 ホントに言いたい事は違うけど、それを口にするほど勇気はなかった。
 第一、それを言う相手でもないし。

『何って・・・志保、この前一緒にCDショップに行った時、○-ZONE のPV見ながら、お腹抱えて笑ってて・・・
ほら、ノマノマってやつ? 覚えてないの?』
 一瞬、何かにインスパイアされた猫が、盃を傾けている映像が頭の片隅を過ぎった。
 確かにあかりの言う通り、PV見ながらお腹かかえて、『良い!最高!』とか言ってた様な気がする。
 それをあかりは覚えていて・・・。

「だからって、私がコンサート見に行きたいって?」
 しかし、私の口から出た言葉は、私自身が驚くようなキツイ一言だった。
 
『う、ううん・・・。』
 あかりは声を詰まらせた。
 そりゃそうだ。 喜んでくれるとばかり思ってた所に、こんな酷い事言われたんだから。
 もし、これが私だったら、売り言葉に何とやら、10倍返しくらいじゃ済まさない所ね。

『ご、ごめんね志保。 志保に内緒で話し進めてて。 ホントは、志保の好きな、 CHILDISH AN HOUR
にしたかったんだけど、チケットが手に入らなくって・・・。 で、あの時、志保とっても喜んでたから、
こっちでも良いかなって。 もしかして志保・・・迷惑・・・だった?』
 ・・・でも、あかりは私に怒りなんてぶつけなかった。
 そう。 あかりはそう言う娘なんだもん。
 何時も私の事を考えていてくれて・・・。

 私は方手に持ったチケットを見た。
 ちょっと皺が入っちゃったけど、あかりが頑張っても手に入らなかった CHILDISH AN HOUR のチケット。
 私の事を何時も考えてくれているあかりを差し置いて、ヒロと行こうとした CHILDISH AN HOUR のチケット。

 私は目を閉じて、そのチケットをポケットにしまった。

「予定? ガラガラのスキスキに決まってんじゃない。 ○-ZONE ・・・良いじゃない。 私も見に行き
たいって、思ってたところなのよん。 でも何か悪いわね。 チケットとるの大変じゃなかった?」
『ううん。 それはなんとか・・・。 良かった、一事はどうなるかと思ったよ。』
 はぁ〜〜って溜息をつきながら、小さな胸を撫で下ろすあかり。
 なんか、そんな様子が手にとるよう。

「それよりさ、コンサート終わった後ってどうするの? まさか、それで終わりって事無いでしょ?」
『終わりって・・・次の日学校あるし、コンサート終わったら、そのまま帰るつもりだったけど・・・。』

「何言ってるの良い若いもんが! コンサート終わったら、そのままカラオケボックスに直行よ!」
『え? うそ!』

「文句言わない! コンサートのお礼に、”朝まで生志保ちゃん、 志保ちゃんスペシャルコンサート”
をお聞かせするわん。 当然、私の誕生日なんだから、カラオケ代は全部ヒロ持ちね。」
  CHILDISH AN HOUR のコンサート。
 ちょっと残念だけど、まぁ良いわ。
 だって、2人でしか見に行けないんだもん。
 ○-ZONE なんて、何やるか判ったもんじゃないけど、やっぱり皆が私の為に祝ってくれるんだったら、
 そっちのが良いに決まってる。
 ヒロと2人っきりにはなれなかったけど、私には、大切な仲間がいるから。


                                               おわり


あかり : ・・・どうする浩之ちゃん。 志保、本気みたいだけど・・・。
浩之  : どうするってなぁ・・・。
雅史  : 朝までって・・・困ったね。

あかり : ・・・志保に・・・付き合う?
浩之  : まさか。
雅史  : 冗談でしょ、あかりちゃん。

あかり : そ、そうだよね。
浩之  : あかり。 志保によ、俺達準備があるから、待ち合わせ場所は、コンサート会場で、
      って言っとけ。

あかり : 良いけど・・・どうして?
浩之  : ぶっちする。

あかり : え〜〜それは可愛そうだよ。
雅史  : それじゃあかりちゃん。 朝まで志保の歌を聞き続ける勇気ある?

あかり : ない。 って言うか、勘弁して欲しい。
浩之  : それは、俺も雅史も同じだ。

あかり : ・・・・・・・・・・・・・。
浩之  : 携帯の電源切って、他所に遊びに行っとけば大丈夫だって。
雅史  : そうだね。 朝まで志保の歌を聞かされる事に比べれば、次の日からの陰険な逆襲のが
       まだ楽そうだもん。

あかり : そ、そっかな。
浩之  : 別に、行きたきゃ、俺達は止めねぇぜ。

あかり : え〜〜そんなぁ。
雅史  : あかりちゃん、行かないって言うのが一番賢明な選択だと思うよ。

あかり : ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・判ったよ。
浩之  : まぁ、あれだ。 ちょっとだけ遠い所でよ、志保の事祝ってやろうぜ。
雅史  : ・・・だね。   





あとがき

こんにちは。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ばいぱぁです。

この頃書いてませんでしたので、2ヶ月ぶりくらいでしょうか。
志保は、こんなに可愛い性格はしていないと、お怒りは判りますが、
ま、その点はご容赦下さい。


ではでは





 ☆ コメント ☆

綾香 :「志保、お誕生日おめでとう♪」

セリオ:「はぴばすで」

綾香 :「良いわよねぇ、こういう風に祝ってくれる親友たちがいるって」

セリオ:「ですね。ちょっと……かなり、羨ましいかもです」

綾香 :「ただ、祝ってくれるのは、ちょっち遠方かららしいけど」(汗

セリオ:「口は災いの元でしたね。『朝まで』なんて言ってしまったがばかりに」

綾香 :「嗚呼、なんて可哀想な志保。
     ……浩之たちの気持ちも分かるけど」

セリオ:「志保さん、怒りそうですねぇ。
     期待していた分、落胆も激しそうですから」

綾香 :「……報復が怖いわね」

セリオ:「確かに。
     ですがまあ、それは甘んじて受けていただきましょう。
     浩之さんたちも、仕返しされるのを承知で逃げるのでしょうし」

綾香 :「そうね」

セリオ:「尤も、浩之さんたちの事ですから、口では『ぶっちする』なんて言っておきながら
     結局は放っておけなくて志保さんの所に行ってしまうという可能性も有りますが」

綾香 :「あー、ありそうね、それ」

セリオ:「それにより、志保さんは更に浩之さんに惹かれてしまい、
     志保さん、浩之さん、あかりさんの微妙な関係はますます泥沼化するのでありました。
     めでたしめでたし♪」

綾香 :「めでたくないめでたくない。
     っていうか、なんでそんな楽しそうに言うかな」(汗

セリオ:「対岸の火事って見ていて面白いじゃないですか」

綾香 :「…………。
     ……鬼」





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