ぼく、参上。


 おひさしぶり〜。柏木初太郎です。
 え? ちがうよ〜。ショタロスじゃなくて、はつたろうだよ。おぼえてね。
 ぼく今、クッキー焼いてるんだ。ホワイトデーにつくったらみんなにとっても評判が良かったからこってるの。
 そうそう、クッキーっていうとぼくたち兄弟は思い出すことがあるんだよ。聞いてくれる?



 ぼくたちの一番上のお兄ちゃん、『千一』お兄ちゃんが4歳ぐらい。ぼくたちはまだ産まれてないの。
 そのころの千一お兄ちゃん、今のカッコいい姿からはとても想像できないくらいぷくぷくしてたんだよ。
 もう肥満児そのもの。千一横って感じでカワイイの。

「千一が吸いすぎたんで胸が縮んじゃいました」
「太ってるのは千鶴姉の血だろ?」

 そうお母さんたちが言っていたらしいんだけど、本当は当時子供が千一お兄ちゃんだけしかいなくて、お父さんやお母さんたちみんなでものすご〜く可愛がってオヤツたくさんあげすぎてたせいみたい。
 それでさすがに身体にもよくない、って食事制限はじめたんだって。
 そんなころのお話。


「ただいま」

 その日、お父さんが帰ってきたら初音お母さんが出迎えたの。目に涙を浮かべて。

「こ、耕一お兄ちゃん! 千ちゃんが、千ちゃんが……」

「ど、どうしたの?」

「千ちゃんが大変なの! きゅ、救急車さんに電話した方がいいかなぁ、それともまずは千鶴お姉ちゃんに……」

「お、落ち着いて」

「う、うん。……とにかくきて!」

 初音お母さんにつれられて居間にやってきたお父さんが見たのは……。



「はけ! はくんだ!」

 千一お兄ちゃんをジャイアントスイングする梓お母さん。

「こっちの方がいい」

 って掃除機を持った楓お母さんでした。



「ストップ、ストップ!」

「こ、耕一?」

「どうしたんだよ梓。スキンシップにしても本気スイングだぞ、今のは」

「千坊が碁石飲み込んだんだよ。出させないと」

「碁石?」

「そう。梓姉さんも最初は千一を逆さまにして揺すっていたのですが、千一が喜ぶだけでいっこうに出さないので業を煮やしてあんな風に」

「そういうことか。初音ちゃん、コップに水持ってきて」

「お水?」

「そう。碁石みたいにツルツルしてるのなら、内臓傷つけないで下から出てくるだろ?」

「そ、そんな。どっかでつまっちゃったらどうするんだよ?」

「だいじょうぶだから落ち着けって」

 ずいぶん落ちついてたみたいだけど、お父さんにしてみれば児童虐待に比べたら碁石飲み込んじゃった方がまだマシだったんだって。



「は〜い、千一。お水飲もうね〜。いくらオヤツ減ったからって変なもの食べちゃめーだぞ〜。……それにしても碁石なんてどっから……」

 その時お父さんは、ジャイアントスイングの邪魔になるからって部屋の隅にどけられたテーブルの上に気付いたの。

「誰だよ、皿の上に碁石なんか並べたのは?」

「あたしも知らない。あたしが気付いた時にはもう千坊が碁石口に入れた時だったから」

「私でもありません」

「わたしじゃないよぅ」

「……千鶴さんか」

 お父さんとお母さんたちは大きなため息をつきました。



「あれ?」

「どした?」

「皿の下になんか紙がある。メモ?」

「え?」


『碁石クッキーがとっても上手に出来たのでみんなで食べてね(はあと)。byちーちゃん』


 お父さんとお母さんたちはまた大きなため息をつきました。

「千鶴さん……碁石クッキーって……ねらってつくるもんじゃないでしょ……」

「碁石そっくりすぎだろ。てか、『白』の碁石なんてどうやってつくったんだ?」

「や、やっぱりすぐに出させた方がいいかなぁ?」

「待って下さい」

 シリアスな顔をした楓お母さんが止めたの。うん、たいてい楓お母さんはシリアス顔だけど。

「え? ……この感じ」

「近くに鬼がいる!?」

「そんな……」

「こんな近づかれるまで気付かなかったなんて……」

「楓と初音は千坊を連れ……」



「おいち〜、おいち〜」

 お父さんとお母さんが見たのは『ガチガチ』とか『ボキボキ』ってすごい音させながら碁石ならぬクッキーをむさぼっている千一お兄ちゃん。

「千一?」

「もしかして鬼を制御してる?」

「確かめるか」

 神妙な面持ちでクッキーを手にするお父さん。
 それを口に入れて咀嚼。
 青ざめた顔の後、鬼になって。

「ンマッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイッ!」



「やっぱ鬼じゃないと食べられたもんじゃないね」

 同じく試してみた梓お母さん。

「よかったね」

「うん。本当によかった。よかったよぉ」

 楓お母さんと初音お母さんは嬉し泣きしちゃったんだって。

「おいち〜〜、おいち〜〜」

「グオオオォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」




 それからお母さんたちは男の子が産まれてもだいじょうぶかも。そう勇気をもらって赤ちゃんを産もうと決心。ぼくたちが産まれたんだって。
 だからぼくは千一お兄ちゃんと千鶴お母さんに、とっても感謝してるんだ。



 ……ほんとだよぅ。



 え? ぼくたちもそのクッキー食べたのかって?
 うん。ぼくたち兄弟みんなその時のクッキーを元に再現されたクッキーで鬼が制御できるか試しているんだ。
 ぼくの時は碁石じゃなくて、動物の形をしてたんだよ。


 それでみんな成功してるんだ。すごいよね?
 小さいころの方が鬼が制御できやすいのかも、ってお父さんが言ってたけどそうなのかな?
 千鶴お母さんのクッキーの力も大きいと思うよ。だって愛情がたっぷり入ってるんだもん。
 ぼくたちが代々レシピを伝えていけば、おじいちゃんたちの悲劇を繰り返さないですむよね?



 あ、クッキーが焼けたみたい。せっかくだら食べていく?
 え? いい?
 残念。今度は食べていってね。

 それじゃあね。






あとがき
 どうも、一点一角です。
 以前、おくるといってからかなり経ってしまいました。ごめんなさい。
 痕R設定だと鬼状態なら千鶴の料理も大丈夫なので、鬼制御の試験薬ぐらいにはなるかな? と。





 ☆ コメント ☆

綾香 :「……碁石クッキーって」

セリオ:「やはり千鶴さんは凄いですね。あの伝説のクッキーをいとも簡単に作ってしまうとは」

綾香 :「伝説なの?」

セリオ:「主に斜め下の方向で」

綾香 :「……あ、そ」

セリオ:「綾香さん」

綾香 :「なに?」

セリオ:「碁石と墓石って似てますよね」

綾香 :「やめなさいって。シャレになってないんだから」

セリオ:「そうですね。千鶴さんの碁石クッキーは、一般人にとっては墓石直行クッ……」

綾香 :「ストップ!」

セリオ:「へ?」

綾香 :「壁に耳あり障子に目あり、よ。迂闊な発言は死を招くわ」

セリオ:「……う゛っ」

綾香 :「OK?」

セリオ:「りょ、了解です。まだ死にたくありませんし。以後気をつけます。
     墓石クッキーとか殺人クッキーとか廃物クッキーだなんて事はもう言いませ……もがもがっ」

綾香 :「……は、話は変わるけど、さすがに柏木家のみんなはワイルドよね。
     逆さに揺するだのジャイアントスイングだの掃除機だの。
     ホント、凄いわよねぇ。あ、あはは」

セリオ:「……ぷはっ。
     そ、そうですね。確かにワイルドです。
     まあ、皆さん、慌ててたみたいですし、きっと動転していたのでしょう」

綾香 :「そうかもね。
     ところで、セリオ。あなただったら、こういう場合はどうする?」

セリオ:「そうですね。わたしだったら冷静に……右斜め45度の角度で思いっきり殴りつけます。
     大抵のトラブルはこれで解決するものですよ」

綾香 :「……え、えーっと。……ね、ねえ、セリオ。それって、ボケてる……のよね?」

セリオ:「え? ボケ? なにがですか?」

綾香 :「……」

セリオ:「?」






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