「人の取り柄」

キーンコーンカーンコーン
さて、授業も終わったし部活に向かうか。
と、グラウンドに着いたとこである事を思い出した。
「ユニフォーム、教室に置きっぱなしだった」
今来た道を戻って教室へ向かった。
ガララ
「!」
そこには三人の女子がいた。
三人は僕をみると慌てて教室から出て行った。
「今のは、岡田さんに、松本さん、吉井さん」
なんだったんだろうと彼女たちが居た場所に行くとそこは保科さんの席だった。
「こんなとこでなにやってたんだろう?」
と、一冊のノートが机からはみだしていた。
僕はなにげなしにそれを手にとって見た。
そこには
バカ
勉強オタク
関西に帰れ
死んでしまえ
などの罵詈雑言が書かれていた。
「これは…」
今の彼女たちがやったのだろうか?
なんだか見てはいけないものを見てしまった感じだ。
僕はノートを机の中にいれてユニフォームをもって教室から出た。

部活中でもあのことを考えていた。
彼女たちがあんなひどいことを?
今度機会があったら聞いてみよう。

次の日
四時間目の生物の時間、あのノートを見た保科さんが泣きながら教室を飛び出していった。
そのあとを浩之が追っていった。
あっちのことは心配ないだろう。
問題はこっちのほうだ。
僕は放課後までひたすら待った。
そして放課後
なにげなしに教室から出て、死角から教室の中を覗き込む。
案の定、あの三人が保科さんの机の周りで何かをしていた。
僕はそっと教室に入ると彼女たちに詰め寄った。
「なにしてるの?」
なるべく平穏な声で喋りかけた。
「い、いやなんでもないよ」
「それより佐藤くんこそどうしたのよ」
三人が逃げていこうとする。
「待て!」
僕は一番後ろだった岡田さんの腕をつかんだ
「ちょ、離してよ」
「この事を説明してくれたら離すよ」
そのあいだに松本さんと吉井さんは逃げていった。
「あの二人、裏切ったわね」
「これはどういうことか説明してくれる?」
「わかったわよ、話すから腕離してよ」
僕は岡田さんの腕を離した。
「これをやったのは私たちよ」
「それは見てたから知ってる、何でこんなことしたの?」
「…羨ましかったのよ、あの女が」
「保科さんが?」
「そうよ、勉強はできるし美人だし。私なんか一つも取り柄ないもん」
そんな理由だったのか。
「人を羨ましがるのはいいけど、それをこんな形にするのはだめだよ」
「…うん」
「人それぞれに個性があるんだから、岡田さんにもきっと良い所はあるよ」
「わたしにも?」
「うん、だからこれからは絶対こういう事やっちゃだめだよ」
「わかった…」
「わかったならいいよ。ごめんね、手荒な真似して」
「ううん、それはいいの」
「それじゃ、僕は部活行くから」
「うん、あ、あの佐藤君」
「何?」
「こんな私でも取り柄あるのかな?」
「あるよ絶対」
そうして僕は部活へ向かった。

数日後
「今日も部活疲れたなぁ、ただいまぁ」
あれ?誰の返事もなし?
リビングへ行くと書置きがあった。
[今日はお父さんと出かけます。帰りは朝になるので晩御飯はこれで食べてね]
横には千円札が置いてあった。
「まったく、いい年して二人でどこに行くんだよ」
まぁ夫婦の仲がいいのはいいことなんだけどね。
「コンビニでも行くか。あ、雨降ってきた」
僕は傘をもってコンビニへと向かった。

おにぎり数個とから揚げをかって帰ろうとしたとき雨が大降りになってきた。
「早く帰らないとこの傘でも防げなくなってくるぞ」
と、公園の方を見ると傘も差さずにベンチに座ってる女の子がいた。
「あれは、岡田さん」
慌てて駆け寄った。
「どうしたの岡田さん、傘も差さないで」
「佐藤君…?佐藤君、佐藤君、うわーん」
岡田さんは僕に抱きついてきた。
「岡田さん、落ち着いて。とりあえず僕の家に行こう」
僕は岡田さんに傘を差してあげた。
このときの岡田さんは見るからに落ち込んでいた。
頬を伝うのは雨か涙かわからなかった。

「とりあえずタオル、あと着替えは…僕のトレーナーでいい?」
「うん」
「とりあえずシャワー浴びてきなよ、ここが風呂場だから」
「ありがとう…」
さすがに脱ぐところまで見ているわけには行かないので僕は立ち去った。
「でもどうしたんだろう岡田さん」
理由を考えているとドアがノックされた。
「佐藤君、入ってもいい?」
「うん、いいよ」
ガチャ
「っつ!」
入ってきた彼女に思わず見とれてしまった。
普段ツインテールにしている髪型をいまはストレートにしている。
それだけでも衝撃なのに着ているのは僕のトレーナー一枚だからまぶしいふとももがあらわになっている。
ちょっと足を崩しただけで下着が見えそうだ。
僕はドキドキしながらなるべく平静を装った。
「あ、温まった?」
「うん」
今の彼女は頼りない小動物のようだ。
「で、なんであんなところにいたの?」
「ちょっと親とけんかして家を飛び出したの。そしたら雨がふってきて」
「…」
「佐藤君が通りかかってこっちにきてくれたときは嬉しかった」
「いやぁ、僕は何もしてないよ」
「ねぇ、佐藤君…」
「ん?」
「佐藤君この前わたしにも取り柄があるって言ってたよね」
「うん」
「今の私に取り柄があるっていうの!?」
岡田さんはちょっと取り乱しぎみだった。
だからなるべくやさしい声で
「あるよ」
と答えた。
「何?私の取り柄は?」
「こんなにかわいいじゃないか」
「え?」
気がつくと僕は彼女を抱きしめていた。
「僕にとっては十分かわいいと思うよ。それに」
「それに?」
「岡田さんはあの時素直に自分の罪を認めたじゃないか。それって大切なことだよ」
「あっ」
「したことはいけない。でももうそれはしてしまったことだから仕方ない。じゃあなにをすればいい?」
「保科さんに…謝る?」
「そう、正解」
「君は何も取り柄がないわけじゃない。人より少なくたって立派な取り柄がある」
「佐藤君…」
「岡田さん、好きだ」
「えっ?いきなりなにを」
「ストレートにした岡田さん、かわいいんだもん」
そういって僕は岡田さんの髪を撫でる。
「岡田さんは僕のこと嫌い?」
「…ううん、そんなことない、好き」
そして僕たちの唇は自然と重なった。
「好きだよ…岡田さん」
そういって僕は岡田さんをベッドに押し倒す。
そしてまたキス。
「ふ…うん」
「岡田さん…」
「佐藤君…」



彼女は僕のベッドで寝てた。
母親の部屋を貸そうかと思ったけど彼女がここがいいって譲らなかった。
仕方なく僕は床に毛布を敷いて寝てる。
「ねえ、佐藤君、まだ起きてる?」
「うん、起きてるよ」
「そ、そっち寒くない?」
「え?うん寒くないよ」
「あのもし寒かったらこっち入る?」
はは〜ん、彼女の意図が読めたぞ。
「一緒に寝たいなら素直にそういえば良いのに」
そういって僕はベッドに潜り込んだ。
「佐藤君、温かい…」
「岡田さんもだよ…」
「ねぇ、佐藤君、私で良かったの?佐藤君ならもてるからもっとほかの人も…ふむん」
そんなことを言う彼女の唇を僕の唇でふさいだ。
「岡田さんだからいいんだよ」
「佐藤くん…」
「岡田さん、一つお願い言ってもいい?」
「何?」
「その髪型気に入ったからこれからストレートにして欲しいんだけど…」
「うん、いいよ」
そして僕たちはキスしたまま眠りに落ちた。

一方その頃藤田家
「なぁいいだろ委員長、そっち入っても」
「アホぬかせ、なんであんたといっしょのベッドで寝ないといけないねん」
「だってそれ俺のベッド…」
「あん?女の子を床で寝さす気かいな」
「あと、パジャマ返して…洗濯してそれ一枚しかないんだよ…」
「アホ、あとYシャツしかないやん。そんなんで寝たら風引くわ」
「俺風邪ひきそうなんだけど…」
「知らん!ちょっと私が商店街でたたずんでたからって下心丸出しで近づいてきて」
「そんなぁ」
「一応感謝はしてるけどそこまでや」
「神様のバカヤロ〜〜〜〜〜〜〜〜」

次の日
岡田さんの制服も乾き、一緒に登校した。
もちろん彼女の髪型はストレートだ。
学校につくなり
「松本、吉井、謝りに行こう」
あ然とする二人を引きずって保科さんの所へ向かっていった。
「これなら大丈夫だな」
なんか浩之が落ち込んでるけど気にしない。
僕はこれから彼女と作っていく思い出を楽しみにしていた。





後書き
またやってしまいましたサブキャラ同士の話。
でも僕は浩之より雅史の方が好きなので満足に書けてます。
サブキャラってあと誰がいたっけな?
ToHeartをプレイしたのはだいぶ前なので忘れてしまっています。
岡田の性格もだいぶ変わってると思いますし…
あと、岡田の正式な下の名前がないので困りました。
ネットサーフィンしていると「栞」という名前が多かったんですがあえて使いませんでした。
それでも違和感なしに出来たと思います。





 ☆ コメント ☆

綾香 :「これはまた珍しいカップリングね」

セリオ:「そうですね。ですがまあ、こういうのも有りじゃないかと思いますよ」

綾香 :「まあね。
     それにしてもさ……」

セリオ:「なんです?」

綾香 :「こういう直球ど真ん中な感じのベタな恋愛ストーリーってのもいいものよね」

セリオ:「そうですね。
     綾香さんには無縁な物ですし」

綾香 :「……今、サラッと何気に酷いこと言ったわね」

セリオ:「そうですか? 単に事実を述べただけなのですが」

綾香 :「あ、あのねぇ。あたしだって直球ど真ん中の……」

セリオ:「川原で殴りあうのはベタな恋愛ストーリーとは言いませんよ」

綾香 :「うぐっ」

セリオ:「挙句、あーんな事やこーんな事まで。
     ああっ、なんて破廉恥な」

綾香 :「ちょっと待ちなさい。勝手に変なストーリーを作るんじゃないわよ」

セリオ:「綾香さんってばエッチです」

綾香 :「人の話を聞けぇ!」

セリオ:「ところで、綾香さん」

綾香 :「ほんっきで話を聞いてないわね、このマイペース娘は。
     ……なによ?」

セリオ:「男性って、トレーナー一枚とかYシャツ一枚とか、女の子がそういう格好をしてるのが好きですよね」

綾香 :「まあ、そうみたいね。
     見えそうで見えないところとか、仄かな色気とか、そういうところに惹かれるみたいよ」

セリオ:「なるほど。
     因みに、浩之さんはどうでした? 喜んでくれましたか?」

綾香 :「そうね。結構萌えてたみたい。
     その所為で、その日はいつもより……って、何を言わせるのよ!
     ち、違うわよ。そんなことしてないから!
     Yシャツ一枚で迫ってみたとか、しかも下着も穿いてなかったとか、そういうことは全然ないから!」

セリオ:「……」

綾香 :「……」

セリオ:「クスッ」

綾香 :「……あう」

セリオ:「綾香さん、やっぱりエッチですね」

綾香 :「……うぐぐ」

セリオ:「わたしには、そんなはしたない事はとてもとても……」

綾香 :「うぐぐぐぐ」

セリオ:「せいぜい裸エプロンを実行したくらいです。とても綾香さんみたいな事はできませんです、はい」

綾香 :「……おい、ちょっと待て」






戻る