「失った苦しみ」

私、来栖川綾香と佐藤雅史が付き合ってから数ヶ月。
最初の頃はデートしたり、それぞれの家に遊びに行ったりしてた。
でも最近はお互いの部活のせいでなかなか会えない。
会えたとしても部活が終わってから少しの間だけ。
私は悩んだ。
このままダラダラ付き合っててもいいのかと。
雅史にも悪いんじゃないかと。
そして私はある決断をした。

「雅史、私達別れましょう…」

雅史は最初は驚いた顔をした。
でもすぐにいつもの顔に戻り
「そっか、そうだよね。最近なかなか会えないし。綾香が決めたのならそれでいいよ」
とにっこり笑ってそう言ってくれた。
そして私達は別れた。

雅史と別れて数日がたった。
私の胸はなんだかぽっかり穴が開いたようだった。
部活に集中しようとしても全然集中できない。
部活仲間や顧問にも心配されるほどだった。
家に帰って晩御飯を食べる。
今日のメニューはシェフが作った魚のなんとかだった。
味なんてしなかった。
雅史と食べたあのラーメン屋のラーメン、おいしかったなぁ。
そんな事を思い出していた。
部屋に戻ってからも思い出すのは雅史との思い出。
初めてゲームセンターへ連れて行ってくれた雅史。
雅史がクレーンゲームでとってくれたぬいぐるみは今も大切に机の上に置いてある。
雅史といっしょに行ったヤック。
初めは注文の仕方がわからなくて戸惑ったけど雅史が優しく教えてくれた。
私が気に入ってるあの河原。
雅史も好きだって言ってた。
雅史はたまに私に膝枕をせがんだ。
その時の雅史の寝顔はとても可愛かった。
夏には海に行った。
どっちが早く泳げるか勝負した。
その後、海の家でまずい焼きそばを食べて日が暮れるまで遊んだ。
いっしょに受験勉強もした。
意外にも雅史は勉強がよく出来た。
そんな事を思い出しているともう夜遅かった。
私は勉強もしないでベッドに入った。
そして夢を見た。
雅史と初めて会ったあの冬の公園での出来事。
雅史は華麗に猫を助けてあげてたなぁ。
そしてそのまま深い眠りに落ちていった。

授業中も集中出来る訳なかった。
頭の中は雅史でいっぱい。
ノートに「佐藤雅史」と無意識に書いていた。
「何書いてるんだろう私…」
消しゴムを手に持ったがその名前を消すことが出来なかった。

今日は部活で大会に出るための選抜試合が行われた。
相手は同じ三年。
しかし結果は私の負け。
以前はチャンピオンにもなった私が部活で負けるなんて誰も思ってなかったと思う。
私は部活仲間や顧問の声を無視し、学校を出て行った。

私はあの河原に来ていた。
いつもはここに来ると心が落ち着いた。
でも今は全然落ち着かない。
冬の公園で初めて出会った雅史。
あれは二年の冬だった。
困っていた私の所に偶然雅史が通りかかった。
今思えばあれが運命だったんだと。
その後、初めての友達になってくれると言った雅史。
大会で負けたとき、慰めてくれた雅史。
その後キスをしてくれた雅足。
そして、「ずっと傍に居てくれる?」と聞いたら「うん」と答えてくれた雅史。
でも今は雅史はいない。
「雅史ぃ、寂しいよぉ…雅史ぃ、雅史ぃ、」
いつの間にか私は泣いていた。
最愛の人の名前を呼びながら。
「寂しいのなら、ずっと傍に居てあげるよ」
聞き間違えるはずのないこの声は!
私は振り返った。
そこには最愛の人、雅史が立っていた。
「ごめんね綾香、寂しい思いさせちゃって」
「あ…」
何言ってるの雅史。
別れ話を切り出したのは私でしょう。
それなのに何で雅史が誤るの?
驚きでうまく声が出なかった。
「僕もね、この数日間寂しかった。何も手につかなかった。コーチに怒られるぐらいぼーっとしててさ」
照れくさそうに笑う。
「雅史!」
私は雅史の胸に飛び込んだ。
「雅史、ごめんなさい。私、あなたとの思い出が溢れてきて我慢できなくなって」
「辛かっただろう?ごめんね。僕が傍に居たら辛い思いしなくてすんだのにね」
「雅史ぃ、好き!あなたが大好きなの!もう離れられないぐらい!」
「僕もだよ、綾香…」
雅史がそっと私を抱きしめてくれる。
それだけで私の胸の穴は塞がっていった。
もう私は雅史がいないと生きていけない。
もう一生離さない、離したくない。
雅史に言いたいことがいっぱいあったけどうまく整理できない。
でもこれだけは言えた。
「ずっと私の傍に居てね、雅史」
「うん、もちろんだよ」
こうして私と雅史はずっと傍に居られることとなった。
そう一生、ずっと傍に…





後書き
この作品は僕の前の作品「ずっと傍に…」の続きです。
シリアスな話を書こうと思ってシリアスなら別れ話だろうと思って書いた作品です。
進級して三年生になった設定です。
綾香視点で書いたのでうまくできたかわかりませんが。
やっぱり最後は幸せにならないといけませんよね。
ちょっと幸せになりすぎたかな?




 ☆ コメント ☆

コリン:「はいはい、モトサヤモトサヤ」

ユンナ:「うわっ、やる気ゼロ。ちょっとはまともなコメントしなさいよ」

コリン:「まともなこめんとぉ?
     例えばどんなのよ?」

ユンナ:「そうねぇ。例えば……大切なものって失って初めて気付いたりするものなんですよね、とか」

コリン:「ベタねぇ」

ユンナ:「うっさい。モトサヤモトサヤ、よりはマシでしょうが」

コリン:「ハイハイ、ソーデスネー」

ユンナ:「……とことんやる気無いわね」

コリン:「だってさ〜。こんなの見せ付けられたら、やる気だって失せるっつーの」

ユンナ:「いや、まあ、気持ちは分からなくもないけど」

コリン:「単なる惚気じゃない。ああもう、熱い熱い。
     ……けっ」

ユンナ:「やる気が無いどころかやさぐれてきたわね」

コリン:「このクソ暑い中でラブラブしやがって。お前らなんか別れちまえ」

ユンナ:「……あんた、それでも天使か。
     つーか、あんただって芳晴くんとしょっちゅうイチャイチャしてるでしょうが。
     人のこと言えないじゃない」

コリン:「あたしはいいのよ、あたしは」

ユンナ:「なんでよ?」

コリン:「決まってるじゃない。コリンちゃんだからよ」

ユンナ:「……いや、それ、理由になってないし。
     相変わらず天上天下唯我独尊娘ね、あんたって」

コリン:「いやぁ、それほどでも〜」

ユンナ:「褒めてねーよ」






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