「心と心」

「どうもみなさんこんばんは、HeartToHeartのパーソナリティ、辛島美音子です」
いつも僕が楽しみにしているラジオ番組が始まった。
僕はこのHeartToHeartのパーソナリティの辛島美音子さんのファンだ。
一回僕の送ったハガキが読まれたときは飛び上がるほど嬉しかった。
こんな人と出会えたらなぁ…
そんな思いで今晩もラジオ放送を聴いていた。

休日
することがなかったので街をブラブラしていた。
と、前を歩いていた女の人がハンカチを落とした。
僕はそれを拾い、女の人に話しかけた。
「あの、これ落としましたよ」
「え?あ、ありがとうございます」
あれこの声どっかで聞いたことあるような…
もしかして!
「あの、失礼ですけど、辛島美音子さんですか?」
「あら?わかる?あなたも私のラジオ番組聴いてくれてるの」
間違いない、辛島美音子本人だ。
「あ、あの、僕大ファンなんです。ハガキ読まれたときは嬉しくって…あ、あのサインもらえます?」
僕は書く物と紙を探した。
しかしそんなものは見つからなかった。
「クスクス、面白い子ね。こんなのでよければ」
と彼女はメモ帳にボールペンでサラサラっとサインを書いてくれた。
「はいどうぞ」
「あ、ありがとうございます。あのこれ、一生大切にします」
「やだ、大袈裟ね。それじゃ、ハンカチありがとう」
「はい」
彼女は去っていった。
やった、あの辛島美音子さんに会えるなんて。おまけにサインまで貰えるなんて。
今日はついてるぞ。
僕はウキウキ気分で家に帰った。

数日後
部活帰りに街へ行ったら新しい喫茶店が出来ていた。
「へぇ、こんなところにお店が出来たんだ」
コーヒーでも飲んでいこうと思い、店内へ入った。
と、店内には見覚えのある人物が。
「もしかして、辛島美音子さん?」
「あら?あなたはこの間の…」
「あの、相席いいですか?」
「えぇ、どうぞ」
あの辛島美音子さんと相席できるなんて…
もう幸せすぎて…
僕はウェイトレスさんにアイスコーヒーを注文した。
コーヒーはすぐ運ばれてきた。
「ねぇ、あなた高校生?」
「はい」
「名前はなんて言うの?」
「さ、佐藤雅史です」
「佐藤君か、いい名前だね」
「ありがとうございます」
「それにしても偶然ね、この前あったばっかりなのに」
「そうですね」
僕は緊張でガチガチだった。
「佐藤君は何か部活やってるの?」
「はい、サッカー部です」
「へぇ、すごいわねぇ」
「いや、そんなことないですよ」
そんな会話をしていると二人ともコーヒーを飲み終わった。
「そろそろ出ましょうか」
「あ、僕が支払います」
「ダーメ、こういう時は大人が払うもんなの」
「あ、ごちそうさまです」
「フフフ、いいのよこれぐらい」
そして二人で店を出た。
「駅まで送って行きます」
「あら、ありがとう。じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら」
そうして二人で駅を目指そうとした時、
「なにいちゃついてるんだよこのバカップルが!」
ボグッ
僕はいきなり殴られた。
「ぐあっ」
「佐藤君!」
辛島さんが叫ぶ。
相手はかなり酔っ払ってる若者のようだ。
「ガキがこんないい女連れてんじゃねーよ!」
ドスッ
今度は腹を蹴られた。
「うぐ…」
「なぁ、ねーちゃん、こんなガキと居てないで俺と一緒にイイコトしようぜ〜」
酔っ払いが辛島さんの腕を掴む。
「いや、離して!」
「辛島さんを放せ!」
僕は酔っ払いに体当たりを食らわした。
それで辛島さんを掴んでいた腕が離れた。
「ガキがちょーしこいてんじゃねーぞ!」
「辛島さんには指一本触れさせない!」
後はサンドバック状態だった。
殴られ、蹴られ、それでも辛島さんの盾になるように動いた。
「おまわりさ〜ん!助けてくださ〜い!」
辛島さんが叫ぶと警察の人がやってきた。
「おい、お前何をしている」
「あぁ!?」
酔っ払いは警察とはわかってないようだ。
「ちょっと署まで来てもらおうか」
「あ、ちょ、離せよ!」
酔っ払いは警察につれていかれた。
「ややこしい事になる前に逃げましょう」
「はい…」
僕はもうふらふらだった。
辛島さんが手を引っ張ってくれて近くの公園までやってきた。
そこでベンチに座り、辛島さんが濡れたハンカチを当ててくれた。
「いてて…」
「大丈夫?」
「ちょっと大丈夫じゃないです」
「ごめんなさい、私なんかを守るために」
「いやぁ、男が女を守るのは当然の事ですよ」
「でも」
「僕は辛島さんに怪我がなくて安心ですよ」
と言った所で頭を引っ張られた。
そして辛島さんの太ももに頭が乗り、膝枕の体勢になった。
「ちょ…」
「あのね、私には前に彼氏がいたの」
「あの…」
「とてもやさしい彼だった。でもある日、さっきみたいに男に絡まれたの」
「…」
「そしたら彼どうしたと思う?」
「助けてくれたんですか?」
「ううん、その逆、私を置いて走って逃げて行ってしまったわ」
「そんな…」
「それっきり彼とは縁を切ったわ」
「そんな事が…」
「でも佐藤君は違った。痛い思いをしてまで私を守ってくれた」
「それは、辛島さんに怪我させたくないと思って…」
「ありがとう佐藤君」
「いえ」
「そのお礼といっちゃあ何だけど、今度の日曜日私とデートしない?」
「え?」
僕は耳を疑った。
「どう?嫌?」
「ううん、嫌な訳ないじゃないですか」
「じゃあ、今度の日曜日、駅前に10時でどう?」
「はい!」
そろそろ痛みが引いてきたので辛島さんの太ももから頭を上げた」
「大丈夫?一人で帰れる?」
「僕は大丈夫です。それより辛島さんこそさっきみたいな男には気を付けて下さい」
「フフフ、ありがとう。それじゃデート楽しみにしているから」
「はい!さようなら」
「じゃあね」
辛島さんは去っていった。
辛島さんとデート?
マジで?
僕の心はハガキが読まれた時よりもうれしかった。

日曜日
「いまは9時50分か」
ちょうどいい時間だと思っていたら辛島さんが現れた。
「おまたせ〜」
「いえ、今来たばかりですよ」
「それじゃあどこ行く?」
「水族館なんてどうですか?辛島さん」
「いいわね、でも辛島さんなんて他人行儀な呼び方はやめて、美音子とか」
「さすがにそれは…じゃ、美音子さんで」
「じゃ、私も雅史君で」
こうして僕と美音子さんとのデートが始まった。

「うわ〜、綺麗ね〜」
「そうですね」
色とりどりの魚たちが泳いでる水槽の前で美音子さんは子供のようにはしゃいでた。
その横顔に僕は見とれていた。
「ねぇねぇ、次はあそこに行きましょう」
「はい!」
そこは通路になっていて天井も水槽になっている。
つまり、下からも魚が見れる訳だ。
「ここ綺麗ね、青くて」
「そうですね、でも美音子さんの顔のほうがよっぽど綺麗ですよ」
「やだ、何言ってるのよ雅史君」
そんなこんなでデートは進んでいった。
お昼はレストランで食べ、午後も再び水族館をまわった。
そんなこんなで夕方になってしまった。
水族館近くの公園でベンチに並んで座っている。
「今日は楽しかったわ」
「いえ、こちらこそ」
「…」
「…」
気まずい沈黙が流れる。
何か言おうと思った時、美音子さんからしゃべった。
「ねぇ、雅史君、大人の女は嫌い?」
「え?いやそんなことないですよ」
「じゃあ、私の事好き?」
「そりゃあ好きですよ」
「それはファンとして?それとも一人の女性として?」
この質問で僕の心臓はバクバクしてきた。
「あ、あの」
「ん?」
「一人の女性として…好きです」
言ってしまった。
と同時に美音子さんの顔が近づいてくる。
「え?美音子さ、ん」
どうやら僕はキスをされたみたいだ。
その証拠に僕の唇に美音子さんの唇がくっついてる。
「うれしいよ、雅史君」
「あの…」
「何?」
「いきなりの展開で戸惑いましたが、僕も嬉しいです」
「こんな私だけど、これからよろしくね、雅史君」
「は、はい!」
こうして思わぬ形で辛島美音子さんと付き合える事になった。

後日
「どうもみなさんこんばんは。HeartToHeartの時間です。いや〜、これからは恋の季節になって行きますね。みなさんはちゃんと恋愛して
ますか?
私は最近彼氏ができたんですよ。年下なんですけど優しくって、とても頼りがいのある人です。その人の名前は…」





後書き
ついに使ってしまいました、究極のサブキャラを。
手元にToHeartがないのでラジオを確かめることができませんし、
辛島美音子はそんなに出番がないので性格がわかりませんでした。
多少変なところはありますけど目を瞑ってください。








 ☆ コメント ☆

綾香 :「定番であり、王道の展開よね」

セリオ:「王道、ですか?」

綾香 :「そ。インパクトのある出会い。偶然の再会。
     まさに恋愛ドラマの王道じゃない」

セリオ:「なるほど。確かに」

綾香 :「でしょでしょ」

セリオ:「ところで、ちょっと思ったのですが」

綾香 :「なに?」

セリオ:「辛島さんって人気パーソナリティーなんですよね?」

綾香 :「そうね」

セリオ:「たくさんの人が番組を聴いてますよね?」

綾香 :「そりゃそうでしょ」

セリオ:「彼氏ができた、とか言っちゃって大丈夫なんでしょうか?」

綾香 :「……う゛っ。
     だ、大丈夫よ。きっと、たぶん、おそらく。
     リスナーさんたちも祝福してくれると思うわ。きっと、たぶん、おそらく」

セリオ:「そうですか。まあ、辛島さんは大丈夫かもしれませんね。
     それ相応の覚悟をした上で発言したのでしょうし。
     ただ……」

綾香 :「ただ?」

セリオ:「佐藤さんの方はどうでしょう」

綾香 :「なんでよ?」

セリオ:「だって、名前を出しちゃったんですよね?」

綾香 :「みたいね」

セリオ:「きっとこれから物凄く大変な目に遭いますよ」

綾香 :「……まあ、確かに嫉妬から来る嫌がらせとかを受ける可能性もあるけど。
     でも、彼なら大丈夫でしょ。その程度の辛さなんて、間違いなく耐えられるわよ」

セリオ:「いえ、そうじゃなくて」

綾香 :「?」

セリオ:「当分は浩之さんや志保さんに徹底的におもちゃにされるんだろうなぁ、とか思いまして」

綾香 :「あ」

セリオ:「想像すると不憫で……思わず笑ってしまいます」

綾香 :「鬼か、あんたは」






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