二次創作投稿(Kanon×Working!)
「ワグナリアへようこそ」
 作/阿黒


「祐一さん。すみませんが、今日の夕食は外食でいいですか?」
「え?それは別にかまいませんけど…」

 申し訳なさそうな顔をしている秋子さんから、たっぷりとママレードを乗せたトーストを受け取りつつ、俺は軽く頷いた。
 秋子さんの料理に不満なぞあるわけないが、時には外食というのも、悪くない。
 それはともかく、隣りでイチゴジャムをそのままスプーンで口に運んでいる名雪横目に、理由を聞いてみる。

「今日は仕事が遅くなりそうで…丁度、出先の近くにファミレスがありまから、そこで待ち合わせしませんか?」
「ファミレスですか。いいですよ、久しぶりだし」
「パフェ頼んでもいい?お母さん」
「おかわりは3回までね?」

 いいよー、と幸せそうに笑う名雪と、微笑む秋子さんはツーカーだった。
 さすが母娘というか。

「で、どこのファミレスですか?場所は?」
「ワグナリア、です。場所は名雪が知ってますから」
「うん。何故か、食べに行ったことはないけど」

 ふーん、と軽く相槌をうち。
 俺は、さりげなさそうに、質問を口にした。

「秋子さん、お勤め先近くなんですか?なんて所?
 なんでしたら迎えにいきましょうかー?」
「不承」

 ニコニコ笑顔でスッパリ断ち切ってくれました、マダム。
 っていうか、その笑顔が怖いのは何故?

「女は殿方に対していくつか秘密を持ってるんですよ、祐一さん」
「……いい加減、それくらいは教えてくれてもいいと思うんですが。というか同居人としては知っていて当然というより、むしろ知っておくべき事柄ではなかろーかと」
「ゆーいちー、婚姻届だしてくれたら教えてあげるよー?」
「秋子さんと俺のか?」
「うぐぅ!?」

 くだらない冗談にはくだらない冗談で返す。それが俺のジャスティス!
 ……冗談ですよね?なにか、尋常じゃない目つきの名雪さん?

「そ、それで結局、秋子さんのお仕事って…」
「職業は秘密!何故なら…そちらの方がカッコイイですから!」

 ――キャプテンブラボー(CV:江原征士)のようにカッコつける秋子さんに。
 正直、ファミレスのことなど俺はすっぱり忘れていた。
 その時は。

  * * * * *

 名雪の部活が上がってから町に繰り出した頃には、街灯が灯り始める時間になっていた。

「♪おっでかっけ おっでかっけ嬉しいなっ」

 ご機嫌でどこかで聞いたような鼻歌まで飛び出すほど、名雪は浮かれている。
 そりゃ、外食ってガキのころは家族の一大イベントだったし、俺もそれなりには楽しみにしていたが。
 なんつーか、……安いヤツ。

「えへへ。もう祐一も家族だよね」
「…何を大袈裟な」

 素っ気無く応じながらも、ちょっとしんみりした気分になる。
 父親がいなくて、秋子さんもあまり家にはいなかった名雪にとって、こういった「お出かけ」は、きっともの凄く楽しみで、そして大事なものだったのかもしれない。
 意外にこいつ、寂しがりやだし…。

「うふふふふぅ。こーやって一つ一つ、既成事実を積み重ねていくんだお」
「…名雪さん。あの、もしかしてなんか、遠大で不埒なこと企んでません?」
「あ、そーいえば祐一、今日のお店、ワグナリアのこと聞いたことある?」

 露骨な話題逸らし!
 秋子さん、お宅のお嬢さんは何気にお腹が黒いですよ!!

「…それはおいといて。
 地方チェーンなんだろ?その店。名前聞いたのだって初めてだけど…結構有名なのか?」
「んー。私も色々と噂は聞いてたけど、行くのは初めて。
 だからそれも含めて、今日は楽しみかな」
「へー?結構評判の店なのか?」

 そんなことを語らううちに、件の店が見えてきた。
 一見したところなんてことはない、ごくごく普通のファミリーレストランな店構え。
 …制服が風俗店ばりに可愛くて有名とか?

「祐一、店員さんに『喫煙席で』とか、ベタなこと言っちゃダメだよ?
 私、恥かしいよ」
「バカヤロウ、お前そんなもん…言うに決まってるだろ」
「え〜〜〜〜〜!?」

 お約束をバカにしてはいけない。
 ベタというのは、様々な試行錯誤の渦中にあって、生き残ってきたものなのだから。
 優れているからこそ、幾度も利用されるんだぞ。

「え〜〜〜。でも寒いよ。わたし笑えないよ?」

 ……酷いこというな、コヤツ。
 後で覚えてやがれと思いつつ、軽快なチャイムと共に自動ドアが開いた。

「いらっしゃいませー!」
「「うわ、ちっさ!!」」

 俺と名雪は同時につっこんだ。
 出迎えた店員(?)は、ポニーテールの、可愛い女の子だった。
 ……小学生の。

「うわちっちゃい!可愛い〜〜!!」
「つーか児童就労?まずくない、ここ?」
「あ、あ、あの、お客様?」

 名雪に頭をナデナデされてるチビッコはハワワワと慌ててるのか困ってるのか、よくわからない反応を見せてくれる。
 どことなく、小動物っぽくて微笑ましい。

「…で、本物の店員さんはどこだチビッコ?」
「ちっちゃくないよ!私、店員だよ!!ホンモノだよ!!」
「HAHAHA、大人をからかっちゃいけないゼGirl?」
「祐一、その初期のテリーマンみたいな巻き舌、なんかキモイ」
「あとお客様も高校生でしょ!未成年でしょ!
 それと、頭なでるの止めて下さい〜〜〜!!」
「…どうかしました、先輩?」

 と、出入口でもめてる俺たちを見咎めたか、奥からメガネのウェイターがやってきた。
 見た感じ、俺と同年輩の高校生…パイトだろう。

「か、か、カタナシく〜〜〜ん!」
「小鳥遊(たかなし)です、先輩」
「だからカタナシ君、このお客様が私をかわいいって…」
「かわい〜〜、かわいいよう」

 も、幸せいっぱいな感じでチビッコを撫で繰り回す名雪。
 むう、そろそろ止めないと犯罪か?

「なに言ってるんです!先輩はかわいいに決まってるじゃないですか!」
「はうあっ!?
 そ、それはいいから助けてよかたなし君〜〜!」
「ああ、泣きじゃくる先輩もかわいいなあ…」

 うあ、なんかポヤ〜っときてるぞこのメガネ!こいつロリペドか?
 と、そんなメガネのネームプレートを見て、名雪が首を傾げた。

「え〜っと…たかなし?かたなし?」
「タカナシです。人の名前を間違わないでくださいね失礼だろお客様?
 それと、いい加減先輩を独占するのはやめやがれこの年増」
「とっ…!?」

 爽やかな顔と口調でとんでもなく失礼なこと言ってるよこのメガネ!?
 と、同年配から『年増』呼ばわりされて固まった名雪から、チビッコが自力で脱出する。

「も〜〜!カタナシ君、女の子にそんなこといっちゃいけないよ!」
「でも12歳以上は年増ですから。あ、先輩は別ですよ?」
「な、なんか微妙にうれしくない…ってそれは置いといて!」
「…あ。ごほん。
 お待たせいたしましたお客様。お二人様ですか?どうぞこちらへ」

 あっさりスイッチを営業モードに切替えて、丁寧な態度を見せるメガネ。
 つーか今までの流れ全てスルーかコノヤロウ。

「窓際のテーブルへどうぞ。禁煙席になっておりますので」
「あー。ああ。あとでもう一人来ますので、案内をお願いします。
 ほら名雪、いくぞ」

 ともかく、いつまでもこんな所で騒いでいても仕方ないし。
 用意していたベタネタを口にするタイミングを完全に逸し、仕方なく案内された席につく。

「メニューはこちらでございますので、お決まりになりましたらこのボタンでお呼び下さい。
 それでは、失礼します」

 無難な対応を見せて引き下がるメガネを見送って、未だに固まってる名雪をチラリと見る。

「あー。ほら、ペド野郎なんだから。
 あんな変態になんか言われたからって、気にすんな?名雪」
「…でも」
「ん?」
「…でも…わたし、お母さんと買い物に行ったりすると、よく姉妹に間違えられるし…」
「いや、それはお前じゃなくて秋子さんが原因だから!」

 その時。
 背後で、鍔鳴りがした。

「お客様、おしぼりをどうぞ」
「あ、はい」

 二十歳ほどの、優しそうな美人のウェイトレスさんが、トレイにおしぼりとお冷を載せて立っていた。
 丁寧な仕草でそれらを置き、一礼する。

「私、フロアチーフの轟と申します。
 先ほどは、店の者が大変失礼いたしました。お客様にご不快な思いをさせて、誠に申し訳ございません。
 今後とも、従業員一同気をひきしめ、お客様へのサービスに努めていく所存です。
 ただ…その…」

 それまで丁寧な謝罪をしていたウェイトレスが、優しいお姉さんの顔に変わった。もじもじと、顔を赤らめて言う。
 ――白のブラウスに黒のスカート、その上から白いエプロンというシンプルな制服が、逆に彼女の魅力を際出させていた。

「あの、ぽぷらちゃん…種島さんは、確かに小さいですけど、あれでもれっきとした高校生なんです。確かに小さくてかわいいから、よくお間違えになるお客様は多いのですけど…。
 本人も、気にしておりますので、その辺のことについてはあまり触れないようにしていただけないでしょうか…」

 うろうろ、おどおど。
 そんな擬音を張り付かせてるお姉さんに、逆に恐縮してしまう。
 が。しかし。

「と、ともかく、それでも私共にいたらぬ所や、不審に思われること等ございましたら、どうぞ遠慮なくおっしゃってください」

 そういって、深々とお辞儀をする轟チーフの腰で、ガチャリと日本刀が鳴った。

「いや…あの…」
「はい?」

 一点の曇りもない、輝く微笑み。
 自らの行いに、何の疑問も持ってはいない。

 でも、帯刀。

「それでは失礼いたします」

 あまりにもあからさまで、堂々としていて、結局何も訊けないまま、彼女は去っていった。

「刀…だよねぇ?」
「刀だなあ…」

 あからさまに銃刀法違反ですよ?
 ああ、でもホンモノってわけじゃないよな?模造刀か何か。最近はコスプレ用の刀とか(中身木刀)あるし。
 ……でも、感覚的に、舞の剣と同じような、本身ならではの空気があったような……

「まあ、要するにちょっと変な人なんだね」
「それはそうかもしれんが、お前、それだけで済ませるか?」

 それだけで済ませた方がいいような気は、激しくするけどな。

「んん〜〜〜〜?あなたたち高校生よね?」

 唐突に、隣りの席からそんな誰何の声がかけられた。
 視線を移すと、1人でテーブル席についていたお姉さんが、ビールジョッキをくいーっと空にしていた。
 テーブルには既に空になったジョッキが5つ。いい飲みっぷりである。
 …ファミレスらしからぬお客ではあるが。

「あららー。彼氏と二人?デート中かな〜?」
「えへへー。そう見えます?」
「そこは否定しろよ名雪。俺ら従兄妹ですから」
「従兄妹でも結婚はできるよ?」
「だよだよ」
「名雪…大きな声では言えないが、酔っ払いにかまうんじゃない。面倒だから」
「本人目の前にそんだけ言えるのは大したもんよねぇ」

 気を悪くした風でもなく、お姉さんはぶはーっと酒臭い息をはいた。
 注意深く観察して見ると、座ってるからよくわからないけが、背は俺より高いかも。
 でも結構な美人だし、スタイルだってかなりのもんだ。
 ――素面だったらいくらでもお近づきになりたいもんだがなあ。

「ネ、ネ?アナタ苦労してるでしょーお姉さんわかるわよ?
 女の子の気持ちにはとことんニブチンの鈍感野郎なくせに、ナチュラルな優しさ振りまいて無頓着に女ひっかけまくっちゃってさー?
 本人に自覚がないのが性質悪いったらないわよね〜〜」
「そ、そうなんですよお姉さん!もしかして占い師さんですか!?」
「なんでそうなんのよ?
 まー、恋愛に関してはお姉さん、百戦錬磨の達人だからー」

 いつの間にやらこちらの席に移動して、名雪の頭を撫でている酔っ払いのお姉さん。
 なんでこう、次から次へと厄介事にからまれるかな、この店は。

「こら。そこの朴念仁」
「って俺かよ!?」
「こーんなかわいい従兄妹ちゃんが傍にいるってーのに、何をフラフラフラフラフラフラリャ〜、あーもういいからヤっちゃいなよー」
「何をっ!?」
「うるさいムッツリ。ったくいつだって女は男に泣かされるのよ。
 いい加減、覚悟決めて結婚しろってのよー!!」
「そうだよ〜結婚だよ祐一〜」
「素面で酔っ払ってるのかおまいわっ!
 え、ええい、黙ってればどこまでも図にのって…いい加減にしろこの酔っ払い…!」

 ぶんぶんとメチャクチャに腕を振り回すお姉さんを抑えようと、手を伸ばす。
 と、その手を逆にお姉さんが捕まえて――

「おりゃ」
「あだだだだだだだ―――――!
 き、きまってる!極まってるって関節―――!!?」

 一体何がどうなったのか、一瞬で俺は右手を後手にとられ、捻り揚げられた。
 抵抗なんて、まるでできやしない。

「あ、あたし合気道講師だから」
「す、すごい…」
「感心してんな名雪!助けろ俺を!」
「…ちょっと技の練習台にしたくらいで、なんでガサツな凶暴女なのよ。
 それくらいで恋人をフルなんて…」
「いや充分だろソレ!よくわからんけど!」
「なによ!骨は折ってないし、ちゃんと外した股関節は元に戻したわよ!」
「その事実だけで絶対にアンタが悪い!!」
「男ってみんなそうよ!いつだって女は泣かされるばかり!」
「いま、俺が泣かされてるけどな…」

 ギリギリギリ、と骨が軋む。
 ああ、ファミレスに飯喰いにきて、関節技かけられるなんて今朝は思わなかった…

「梢さん―――!お客様を離してください――!!」
「あ、伊波ちゃん……伊波ちゃーん、慰めてー!!」

 技をかけられた時と同様、唐突に俺は苦痛から解放された。
 見れば凶暴な酔っ払い女は、今度はかけつけてきたウェイトレスに泣きついている。
 ショートヘアの、やはり高校生くらいの女の子は困りながらも、何やら慣れたように相手を慰めているようだった。

「うっうっ、自分より背が高くて強い女が嫌ならつきあう前に言えって…」
「あー…そ、その人とは残念だけど縁が無かったんですよ、うん」
「そうよね?そうなのよね?きっと私のことちゃんとわかってくれる人がいるわよね?」
「えーっと…多分…いるといいなぁ…」

 根が正直だね、ウェイトレスさん。
 でもこの店で初めて、普通でまともそうな店員さんに出会えたかも。
 この人が来てくれなきゃ、俺、死んでたかもしれないし。
 だから俺は、素直な気持ちで店員さんに近づいて、言った。

「あ、どうも…ありがとうございました。
「え…?」

 まだ酔っ払いに絡まれながらも、よく見れば結構かわいい店員さんは、何故か固まった。
 フッ…いや、いくら俺が韓国イケメン俳優級にかっこいいからっていきなり見惚れるなんて…ああ、女性を惹きつけて止まない、この罪な性が我ながら憎いゼ…なんてね。

「いや――――――ッ!!おとこ―――――――――――!?」
「げふうっ!?」

 顔・アゴ・腹―――!!

 稲妻のような左ストレートが走り、俺は一瞬でズタボロになって床に沈んだ。

「ろ…ろおりんぐ、さんだぁ…」
「ゆ、祐一ー〜〜〜〜〜!?」

 視界に広がる、ファミレスの天井。
 その右から、泣きじゃくる名雪がとりすがってくる。
 その視界の片隅で、店員さんが…

「こ、怖いっ!」
「「それこっちのセリフ―――――――!!」」

 俺と名雪は、ダブルで突っ込んだ。

「あははは。伊波ちゃんって男性恐怖症なのよー。
 だから男が近づいたら恐怖のあまり脊髄反射でボコっちゃうんだな、これが」
「す、すいませんお客様!」
「謝って済むか!なんなんだよこの店は!」

 そんな問題店員おいとくな!
 それとこんな酔っ払い、いつまでも放置すな!
 と、メガネのロリペド野郎が頭痛そうな顔でこっちに来た。

「伊波さん…またですか!」
「ご、ごめんなさい、小鳥遊くん…」
「梢姉さんにはかまわなくていいって言ったでしょう?」
「で、でも、梢さん一応お客様だし…」
「梢姉さんは客扱いしなくていいですって。俺も、アレが姉だと思わないようにしてますから」
「あ、宗太ひっどーい!お姉ちゃん傷ついちゃった!」
「お前の姉かよ!」

 ああくそ、すっげー腹たってきた!
 いくら温厚な俺でも怒るでしかし!!

「えーと。…申し訳ありませんでした、お客様」
「謝ってすむことじゃねーだろ!ええい、あんたじゃ話にならん、店長よべ、店長!」
「ちょ、ちょっと祐一…」
「名雪は黙っててくれ!これはもう、責任者に一言いわないと気がすまん!」
「お、お客様…あの、本当に申し訳ございませんでした!ですから、店長には…」
「ご、ごめんなさい!すいませんでした!」

 メガネと凶暴女が揃って平身低頭するが、こちとらもう沸点がクライマックスだぜ!
 最初のチビッコから始めて、どれ一つとってもサービス業として問題ありまくりだろうが。
 ったく、この店の責任者はどんな指導をしているんだ?

「…お前か、クソガキ。私に何の用だ?」
「店長…お客様にいきなりそれですか」

 店長は、女性だった。
 隣りの酔っ払い姉さんと同じくらい身長があり、体つきはスレンダーだが、何気に出るところはちゃんと出ている。
 年齢は多分三十路前、クールビューティな大人の魅力満載の美人…多分、ちゃんとしてれば。
 …なんか、パフェ立ち食いしてますけど。

「…店長呼べって言ったの、お客様ですからね」

 何かもう、色々なものをあきらめた歎息混じりのメガネの呟きが、すごい不気味。
 凶暴女が、なんか凄く辛そうな顔してるし。
 その間に、チーフのお姉さんが店長(?)に事情を説明していた。

「あ?そこの酔っ払いがこっちのガキに絡んだ?」
「はい、杏子さん」

 一匙、アイスクリームを口に運んで、店長はつまらなさそうに言った。

「んなもん放っとけ。客同士のいざこざなら、当事者で片をつけとけ。
 なんだって店が手を出さなきゃならん?」
「いやちょっと!?」
「ステキです、杏子さん!」

 俺の抗議を、チーフのお姉さんの賛同が掻き消した。
 …まさか本気で言ってるんじゃないですよね?

「すいません店長…それと私が、またこちらのお客様を殴っちゃって」
「またか伊波。小鳥遊、飼い主ならちゃんと面倒を見ろ」
「いや飼ってるつもりは」「飼われてるつもりは」

 メガネと凶暴女が揃って不本意そうな顔をする。それを黙殺――というか、単に自分が喋りたいままに、店長は続けた。

「まあ、最近は伊波も大分マシにはなってきているが」
「そうですよ。小鳥遊君がちゃんと躾てますからね」
「八千代さん…」(×2)

 更にガックリきている二人が、ちょっとだけ哀れな感じもしたが。
 俺は、改めて抗議することにした。

「で、あの…こっちはどうしてくれんですか?」
「…誰?お前」
「店長、だから先程の件も含めて、今日の伊波さんの…」
「ああ。忘れてた」
「忘れんなよ!?」

 いやあんた、社会人として間違いまくりだろ!?

「あ〜〜…災難だったな?」
「それだけ!?」
「まあ、野良犬にでも噛まれたと思って、あきらめとけ。な?」
「いやそんなめっさ軽く言われても!?
 客に怪我させといて、あんた店の責任者としてどういう…」
「なんで客のために私が責任とらんといかんのだ?」

 心の底から不思議そうな顔をしないでください。怖くなるから。

「店員と客とどちらが偉いかといえば、それは店員が偉いだろう」

 あの、何かとても不思議な日本語が聞こえたような気がするんですが。

「前にも言ったと思うが、客がいない店というのは時折あるが、店員がいない店というのは存在しない。
 客はいなくても店が成り立つが、店員がいなくては店は成立しない」

 ……えーと。あれ?

「そもそも店員がいなければ、席に案内されないし、料理どころかお冷もおしぼりも出ない。
 店員がいて初めて、客は料理にありつけるわけだ。
 店員がいなければ、客は何も得られない。
 よって、店員は店に必要不可欠で、客よりも偉い」
「あ…言われてみればそうだよね」
「いや名雪、一瞬俺も納得しそうになったが…客は金を払う立場だぞ?」

 あ、凶暴女とメガネが頷いてる。

「あー。喋ったらまた腹が減った。八千代、パフェお代り」
「はい、杏子さん」
「え、ちょっと?」

 それっきり、店長はさっさと奥へ引っ込んでいった。
 いやあの、まさか、本気じゃないでしょうねPART2…?

「杏子さん…ステキ…」

 思いっきり本気だよチーフさん!

「すいません。会計、こちらで持ちますので…」
「本当に申し訳ありませんでした…」
「キミタチ…もしかしなくても苦労してる?」

 もはや抗議する意欲も無くして、俺はこの二人に少し同情さえ覚えた。

  * * * * * 

 …色々あったけれど、時計を見直せば店にきてからまだ10分ほどしか経ってはいなかった。
 秋子さんとの待ち合わせまでにはまだ少し時間があるので、とりあえず何か飲み物でも頼むことにする。
 メニューを開くと、ごく平均的な値段で、ありきたりな料理が並んでいる。
 何か突飛なスペシャルメニューとかは無さそうだ。
 いや、突飛なのは店員だけで充分すぎるか。
 とりあえず名雪はフルーツパフェとミックスジュース、俺はコーヒーとケーキのセットを注文した。

「かしこまりましたー」

 輝くばかりの笑顔で、最初に出会ったチビッコ店員…種島ぽぷら嬢が注文を受けて引き下がっていった。
 生徒手帳を確認させてもらったところ、確かに近くの進学校の2年生…17歳ということで、高校生であることに間違いは無かったのだが。

「…しかし、見かけはどう見ても小学生だよなあ」
「だよね。でも、胸は結構あるよ?」

 名雪の奴、女のくせにそんなとこチェックしてるのか。いや、女だからか?

「あの、伊波ちゃんって祐一ボコった店員さんより、大きかったよ?」
「いや、あれはあのチビッコが大きいというよりも…」

 それ以上は、たとえ熊並みの猛獣女とはいえ、不憫で言えなかった。
 でもなあ…17歳であの起伏の無さは、悲劇的だなぁ…。

「――お待たせ。
 ペッパーステーキのセットとチキンドリア、カルボナーラのセット」

 初めて見るウェイトレスがこちらの応えも待たずに、ドカドカと料理を並べてきた。

「え。ちょ、ちょっとこれなに?頼んでないよこんなの」
「……?」
「いや、そんな不思議そうな顔されても」
「…7番テーブルですよね?」
「ここ、15番だよ?」

 ……………。
 ウェイトレスは無言で、何を考えてるのかわからない顔で、テーブルの番号と伝票を見比べていたが。

「…山田、うっかり」
「しっかり仕事しろよ」
「…偉そうに」
「今、なんか言った?」
「いえ別に」

 今、一瞬、すげぇ邪悪な顔してなかったかこいつ!?
 と、小鳥遊とかいうメガネが向こうのテーブルから呼んできた。

「おーい山田、こっちだこっち!早く持ってきて」
「…………」

 だが、なぜか山田さんは無反応だった。

「山田さーん。やーまだー?」
「…………」
「……偽名が山田のひと〜」
「ぎ、偽名じゃありません!」

 偽名なのかよ!?
 謝罪もせずに、ぞんざいな手つきで料理をトレイに戻して去ってゆく山田(?)を見送っていた名雪が、何やら指を折り始めた。

「えーっと…まずぽぷらちゃんが児童就労でしょ、それから小鳥遊くんが変質者、伊波さんが傷害罪、チーフさんが銃刀法違反、山田さんが氏名詐称で店長さんが…職務怠慢?」
「…社会不適応者の巣窟か、この店は」
「すごいよ。びっくりだよ」
「ファミレスにびっくり要素は必要無い!」

 客も変な酒乱のねーさんとかいるしな。
 あーもー。はやく秋子さんこないかなー。
 とっとと食事済ませて出たいぞ、こんな店。

 と、少し離れた席からドッと下品な笑い声が湧き立った。
 見ると、ちょっとヤバ気なお兄さん達のグループが、何かに受けたかガラが悪く笑っていた。
 食事は既に終わっているが、いつまでもだらりとのさばっている感じ。
 タバコの煙で周囲は少し霞み、よく見れば吸殻が食器に山と盛られている。

「あそこ、禁煙席だよね」

 珍しく眉を寄せて、名雪が呟く。
 別に他の客に絡むわけではないが、騒々しいし、威圧的で雰囲気悪いし、食事時にタバコの煙を嫌う人は、今のご時世多かろう。
 要約すれば、マナーが悪い。そのくせ注意すれば自分の権利ばかりを出張する、まともに相手するのも嫌になることうけあいの輩だ。
 普通の店なら店員が注意するところだが――

「この店じゃあなあ…」
「あ、ぽぷらちゃん?」

 え?と慌てて視線を移すと、あのチビッコが問題のテーブルに近づいていくのが見えた。
 まさか、注意するつもりじゃなかろうな…?

「あの、すいません!他のお客様の迷惑になるので、もう少しお静かにお願いします!」

 うわ、いったー!いっちゃうのかよ、ぽぷらちゃん!
 その勇気は賞賛するけど…

「あ?なにこの小学生?」
「うわほんとちっさ〜〜〜」
「あわわわわわ、か、髪ひっぱらないでください〜〜〜」

 あっさりオモチャにされてるチビッコ。
 お前、自分が弄られやすいサイズだってこと自覚しろって。
 あああ、ポニーをひっぱられてわたわたしてるよ。

「祐一たいへんだよ!ぽぷらちゃんピンチだよ!でもなんかカワイイかも!」
「くそ、弄られる姿が可哀相だけどカワイイな!」

 あ〜。ちょっとそのまま見ていたい気もするが、放置するわけにはいかんな。
 くそう。やっぱこの店、俺に次々と厄介事をもたらすのか?

「先輩をはなせよ!」
「か、カタナシ君〜〜〜〜!」
「なにコイツ。店員のくせしてお客に暴力ふるうつもりですか〜〜?」

 あ、メガネが救助いった!でも1人じゃやっぱ…
 って増援?

「た、小鳥遊くんっ!」

 ぼきゃごすどかっ!

「い、伊波ちゃ〜〜ん!」

 ミ、ミラクル…!
 デンプシーロールからハートブレイクキャノン、そしてガゼルパンチ…!
 ウェイトレスが客殴るのはどもかくとして!

「…勢い余って俺まで殴られてますけど…」
「ああっゴメン!でも小鳥遊くん殴りやすいし!」

 味方諸共大虐殺。
 すげえ。すごすぎるぜ嫌な意味で!

「な、殴ったぞ!?客を殴ったぞこのアマ!?」
「なんだこの店!」
「――お客様」

 がすっ!!

 タイトスカートも顧みず、店長が男性客の顔面に蹴りを入れた。
 凶暴女のパンチよりもあっさりと、大の男が宙を飛ぶ。

「暴力はお止めください」
「「アンタが言うなっ!!!?」」

 店の客全員がつっこんだ。
 だがそんなものは馬耳東風、店長は堂々と仁王立ちしていた。

「おまえら、いい歳してやっていい事と悪い事の区別もつかんのか?
 いちいち法律で『ファミレスで騒いではいけません』と明記しておかなければ、社会の基本的なルールも守れんのか?
 ――食事は人間にとって最も幸福なことの一つ。
 ファミレスは、お客にその幸福を味わってもらうための場だ。
 それを損ない他の客に迷惑をかけるような奴は、客ではない!」

 お〜〜〜〜〜〜。
 パチパチパチパチ。
 思わず、という感じで周囲のお客さんたちから、感歎の拍手が湧き上がった。

「杏子さんステキ…カッコイイです…!」

 いかん。ちょっとだけ、俺もチーフさんの言葉に同意してしまった。
 でも、言ってることは立派なんですけど、普段の行動が伴ってませんよね?
 あ、相手の方もどこから突っ込んでいいやら、口パクパクさせてる。

「な、な、な、…なに勝手なこと言ってやがんだババア!!」

 シャキン!

「ひいいいいい!?」
「今…なんて言いました?」

 ひい。一分の隙もなく、喉元に白刃をつきつけているのは…帯刀チーフ!?
 やっぱホンミだったんかアレ!っていうか、なんか温厚でほんわかしたあの人が…本気で殺気こもってますよ!?

「杏子さんに…あのかっこよくてステキな杏子さんに…バ…なんてことを…」
「八千代」

 店長が、チーフに声をかけた。
 そのまま無言で、親指を下に向ける『殺れ』のジェスチャー。

「はぁい杏子さん。八千代…がんばって、ヤっちゃいます♪」
「「「どひいいいいいいいいい!?」」」

 キラキラ輝くステキな笑顔で、人は殺人に及べるのだと初めて知りました。(いや『まだ』未遂だけど)
 それで決定的に心が挫けた男達は、恥も外聞もなく店から逃げ出していった。
 それを見送ったチビッコが、何かに気づいて声をあげる。

「あ!お勘定!」
「大丈夫だ種島。電話するから」

 落ち着き払った仕草で店長は携帯をとり出した。
 ワンコールで相手が出る。

「もしもし?私だ。…ああ、今、店から出て行った奴等に適当にヤキ入れて身ぐるみ剥いでこい。
 うん?ま、この前みたいに新聞沙汰にならなければいい」
「店長…またヤンキー時代の後輩さん達ですか?」

 いやもう今更それくらいでは驚かないよ。むしろ納得。
 と、店長は雑然と皿が積み上げられたテーブルを見て――微妙に表情を動かした。

「…まったく。ミートスパゲティなんか、まだ半分以上残ってるじゃないか」
「そうですね」
「海老ドリアも、まだ残ってるな」
「ええ……」
「……食べちゃっていいかな?」
「へ?」
「杏子さんダメです!残り物なんか食べちゃお腹こわしちゃいます!」

 まるで計ったようなタイミングで、チーフさんが息を切らして帰ってきました。
 いい加減、刀はしまってください。危ないから。
 刀身とかエプロンに赤っぽい汚れがついてるのは、目を瞑りますから。

「大丈夫。まだ食える」
「ダメですって!佐藤く〜〜ん、お願い、杏子さんにご飯作ってあげて〜〜〜」

 店長の背中を押して奥へ消えるチーフさんの姿に、なにかイメージが重なった。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
「もういいですから伊波さん。でも謝るだけじゃなくて、ちゃんと殴らないように努力しましょうね」

 ふとそんな会話が耳に入って振り向くと、フロアの片隅でそんなやりとりを交わしてるメガネと凶暴女の姿が目に止まった。しゅん、と項垂れて説教を受ける凶暴女の姿が、こう。
 ……ああ。そうか。

「なんか…犬と飼い主っぽいね。ここの人たちって」
「名雪。お前もそう思うか?」

 …ついでに、俺と名雪の間柄にちょっとだけ似てるかもとか思ったのは、内緒。

「わん」
「…なにじゃれてんだよ、お前」
「えへへ」

 内緒…なんだけどな?

  * * * * *

「ああ…生きてるって、素晴らしい」
「あらあら、なんだか大変ですね」
「大袈裟だよ祐一」

 食事を終え、会計を済ませて店から出た直後、俺は生きていることの素晴らしさをしみじみと噛み締めた。
 いやまあ、あれから秋子さんが到着して、食事して…全く普通の、ファミレスみたいな時間を過すことができたわけなんだけど。

「でも…あの店、よく潰れないで営業続けてられますね」
「マネージャーさんが優秀なんですよ」
「お母さん知ってるの?」

 ちょっとね、と軽くいなす秋子さん。この人も大概、謎だよな。

「それに、一部では熱烈な支持者がいるんですよ。常連さんもいるということですし」
「どこの命知らずですかそれは」

 そんな俺の、心からの疑問に対して、秋子さんは少し不思議そうな顔をした。

「別に戦場帰りの傭兵さんとか、イリーガルな工作員とか、ちょっと特殊な性癖の嗜好所有者とかじゃないですよ?ごく普通の学生さんとかOLさんとか主婦の皆さんとか」
「……世の中、どうなってんだか」

 ああもう、とっとと帰って寝たい。
 全てを夢にしておきたい。

「ええっと…ワグナリアが好きな人によるとですね。
 思わず癖になるほどの危なっかさ、が魅力だとか」

 ……………。

「……それ、少なくともファミレスの評価じゃないです」
「そうよねえ、やっぱり」

 少し遠い目をして、秋子さんも頷いたのだった。

 ――けど一瞬、自分でも納得してしまったのは、気のせいということにしておきたい。

「またそのうちこようね、祐一」
「行かねーよ」
「そうね、今度はどこか遊びに行った時にでも」
「人の話は聞きやがってくださいマダム!」
 

<終>




【後書き】
“北海道一危険なファミレスの超ほのぼのマンガ”
 これが、今回元ネタの四コママンガ『Working!』の宣伝コピーです。(Youngガンガン連載)
 危険でほのぼのってちょっと矛盾してますが、読めば納得な内容のような。元々は個人HPのWebマンガだったものを、雑誌連載する上でキャラ・舞台を一新して始まったものなので、興味のある方はWeb版もどうぞ。
 で、まあ、同じ北国が舞台ってだけの思いつきで、こんな感じに。
 祐一は結局、何もしなかったというか、何もさせてもらえないっていうか。
 …こうやって自分なりにWorkingキャラを扱って見ると、やっぱキャラが立ってるなあとしみじみ。
 以下、知らない人のための簡単なキャラ紹介。

○小鳥遊 宗太(16歳)
 主人公的ポジション&ツッコミ担当。でも時々自分も壊れてる。
 デカくて凶暴な姉達に弄られたトラウマまみれな幼少期を経て、『小さくて可愛いモノ』を偏愛するちょっと変態な高校生。(但しロリコンとは似て非なる種類の変態)
 家事の達人であり、フロアスタッフとしても(通常は)非常に優秀。

○種島 ぽぷら(17歳)
 小学生な容姿がコンプレックスな高校生。中身もかなり子供っぽい。
 日々、小鳥遊に撫でられたり可愛がられたり抱きしめてもいいですかと言われたりしている。

○伊波 まひる(17歳)
 父親の行き過ぎた偏愛により、男性恐怖症になってしまった不幸な少女。男が近くにいると反射的に攻撃してしまうので、男性スタッフには猛獣並みの脅威。体つきは細いが、何気に怪力の持主でもある。
 現在、色々あって小鳥遊に片思い中。

○山田 葵(自称16歳)
 すべての経歴がうさんくさい、推定・家出少女のフリーター。店員としてはまだ半人前。
 普段は無表情だが、思ったことがすぐ顔に出る無遠慮な性格。

○轟 八千代(20歳)
 性格温厚で有能なフロアチーフ。実家が刃物屋なので(?)幼少の頃から帯刀している。
 そのためいじめられていたが、当時ヤンキーだった杏子に助けられ、一目惚れ。
 以来10年、杏子のお世話に人生の喜びを得ている。

○白藤 杏子(28歳)
 傍若無人な雇われ店長。仕事をしないのが店長の仕事と言い切り、いつも何か食べているハラペコキャラ。食べ物には釣られやすいが、大抵のことには動じない、作品内最強の1人。ちなみに八千代との縁は、本当のところ給食のパン目当てで小学生にたかろうとしたのがきっかけだったらしい。

○小鳥遊 梢(25歳)
 小鳥遊家の三女で、姉3人の中ではこまった姉度は一番高い。彼氏を作る端から失恋→自棄酒の無限ループに陥っており、弟曰く『素面の梢姉さんを見たことがない』といわれ、立派に禁断症状も出ている(ヲイ)。

○佐藤 潤(20歳)
 名前だけ登場のキッチンスタッフ。八千代以外の事はマイペースにクールな店一番の働き者。
 八千代に片思いしているが、相手は杏子一筋な上に超鈍感でありその恋が成就する可能性は低く(?)、日々生殺しな目にあっている。
 そのストレスは主に種島いじりで発散しているが、基本的にはぶっきらぼうな優しさを備えた恋愛ゲーの主人公タイプと言えなくも?

 その他、厨房スタッフや小鳥遊家の姉妹等、未登場キャラについては、原作を御覧になってくださいませ。





 ☆ コメント ☆

セリオ:「す、すさまじいレストランですね」

綾香 :「良いわ。すっごく良い」

セリオ:「え?」

綾香 :「セリオもそう思わない?」

セリオ:「同意を求められても困るのですが。
     まあ、個性的で面白いお店だとは思います」

綾香 :「うんうん。ホント面白そうよね」

セリオ:「綾香さん、目がキラキラと輝いちゃってますよ?」

綾香 :「ねえ、セリオ。今度の休みだけど」

セリオ:「まさか、あのお店に行こうと言うつもりですか?」

綾香 :「あら、よく分かったわね。流石は親友♪」

セリオ:「本気ですか? 北海道ですよ」

綾香 :「飛行機を使えば大して時間なんか掛からないわ」

セリオ:「うわぁ。この人、ファミレス行く為だけに自家用機を使う気ですよ」

綾香 :「いいじゃない。自分たちの些細な欲望の為に使ってこその自家用機よ」

セリオ:「正しいような、根本的になにかが間違ってるような」

綾香 :「と・に・か・く! 今度の休みは『ワグナリア』行きで決定よ」

セリオ:「有耶無耶のうちに決定ですか」

綾香 :「決定。あなたも予定を空けておいてね」

セリオ:「……ハァ。仕方ないですね、わかりました。
     ついでに予約も入れておきます」

綾香 :「うん、よろしく。
     ――ふふっ、腕が鳴るわ」

セリオ:「……えっと……食事をしに行くんです、よね?」






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