いつから僕はここに居るんだろう?
 いや、気にすることじゃない。今までも気にする事も無かった。
 ここに来てから、なんだか気になる雑音が聞こえる事もあったけど、すぐ気にならなくなった。
 でもこの頃は、やけに五月蝿い。
 前の雑音ではなく、小さく聞こえる聞こえる声。
 まるでここに居るような・・・・・・。
 そんな馬鹿な。
 そんな筈は無い。ここには僕と先生しか居ない。
 何時もそうだったじゃないか。
 僕の望んだ、僕と先生だけの世界。
 何も疑問を持つ事は無い。
 その筈だ――。
「おい」
 声。はっきりとした。随分久しぶりに聞いたような気がする。
「やっと気が付いたか。城島・・・・・・司だったか?」


彼等にとっての帰るべき場所
「だれだ? 邪魔をするな」  明らかに敵意を込めた言葉。だがそれを聞いても、そいつは侮蔑の表情を浮かべるだけで、一向に引こうとはしない。  だんだんイライラしてきた。 「ここは僕と先生だけの所だ。おまえは何処かに行け」  そいつはやはり、まったく動じず、フンッと軽く鼻で笑い、嘲笑を浮かべる。  まるで、「この馬鹿は何言ってんだ?」とでも言いたげだ。 「僕と先生? おまえ、それがてめえの愛した先生だと思ってんのか?」  と、そいつは僕の横に居る先生に目を移した。 「それは『先生』とやらじゃない。おまえの思いが作り上げた幻――、人形だよ」  こいつは何を言っているんだ! ますますイライラしてくる。 「先生が人形だと? 現に先生はここに居る! ここで今までも、そしてこれからもずっとそばに居る! ずっと僕に笑いかけてくれる! そんな事がある訳――!」  僕は先生を見て絶句した。  先生が・・・・・・、何時も笑いかけてくれていた先生が笑っていない! まるで・・・・・・、まるでそう、こいつの言っている人形のような無表情になってしまっている! 「ようやく気付いたか?」  ハッとして、そいつに向きかえる。  そいつは何も無かったかのように、淡々と喋る。 「それはおまえが見てきた幻にすぎないよ。その証拠に、オレにそれを指摘されて消えかけている。おまえが、一緒に居たかったのは人形や幻じゃなく、本物の『先生』だからな」  そいつがそう言う間に、先生の体はだんだん、焦点が合わないようにぼやけていき・・・・・・消えてしまった。  僕はうめくように喋る。 「それじゃあ、先生は・・・・・・」 「こんなところには居ないよ。今頃は天国か地獄か・・・・・・、まあその人次第だな」  僕は何かが吹っ切れたように、心が落ち着いているのを感じた。  「・・・・・・そうか」  僕は無表情に、そいつを見る。  「なぁ。僕はどうすればいい?」  そう聞かれたそいつは、さっきとは打って変わり、毒気の抜けた思案顔になり。 「さあな。好きにすればいい」  と、言い放った。  その言葉に、僕は随分と久しぶりに『笑う』という感情が涌き出て来るのを感じた。 「君は言う事だけ言って、随分と無責任だね」 「そうだな。では俺から、少し案を出す事にしよう」  と、そいつは少し真剣な顔になる。 「第一案として・・・・・・、おまえが本物の『先生』のところに行くことだな。完全に死んでしまうが、今の状況よりはずっとましだよ」  ここは天国と地獄と現実の、どの間でもないところだからな。と苦笑交じりに付け加えた。 「おまえにとっては、それが一番いいのかもしれないけどな。でもいちおう第二案も聞いてくれ」  なんだ? と真剣に聞き入る。 「実は現実でおまえを覚え、待っている奴が一人居る」 「!」  これは、驚くべき事だった。一体誰が? と思ったが、何故か頭にある光景が浮かび上がってきた。  雨の降る空き地だ。そこに、ピンクの傘を持ち、立ち尽くしている人影がある。僕が知っている頃より顔も、体も成長しているが、その顔は、見間違えるわけも無い僕の親友の一人・・・・・・。 「・・・・・・茜」  そいつが静かに頷く。 「どうする? おまえの自由だ。さっきも言ったが好きにしろ」  僕はここに到って、ようやくそいつの人物像をつかめたような気がした。  随分ぶっきらぼうだが、何故か優しい・・・・・・変な奴だ。 「どうするんだ?」  そいつはもう一度、僕に聞いてくる。決して急かすような喋り方ではない。  数秒の独白。 「うん」  僕は決めた。あの人の元へ行こう。  旅立つ決心をし、僕はもう一度そいつを見る。  世界がぼやけてもう何も見えないが、とりあえず、これだけは言っておきたかった。  ありがとう。と。  ふいに、僕にはおかしな物が見えた。  人影だ。  あいつの後ろに立っている、小さな人影。  それが僕に向かい笑いかけたような気がした。    そして、僕は――。
「行っちゃったね」  後ろから声が聞こえる。  その声にオレは振り向かず、小さく頷いた。  そう、あいつはもう行ってしまっ た。  何処に行ったのかは知らないが、きっと悪い選択じゃない筈だ。  何故かは分からないが・・・・・・そんな気がする。 「ホントはな、人に言えた事じゃないんだけどな」  そうだ、現にオレはここにいる。  一息。 「・・・・・・いままですまなかったな。みさお」  ふりかえり、オレの勝手な思いで、今までここに留めてしまった最愛の妹、みさおに話しかける。 「気にしなくていいよ。お兄ちゃん。わたしも望んだ事だから」  みさおは、そこで微笑んでいる。 「ありがとう」  みさおが照れくさそうに笑ったのが見えた。 「お礼を言うならわたしじゃないよ、ずっとお兄ちゃんを信じて、待ち続けてくれたあの人に言うべきだよ」 「そうだな」  と、苦笑。相変わらず、オレよりしっかりした奴だ。 「あいつのおかげで、オレにはもう、永遠は必要無いから」  うん、とみさおが頷く。 「そうだね。もう、わたしにもお兄ちゃんにも、もうえいえんも、キャラメルのおまけは必要無いから」  みさおが、世界がその輪郭を失っていく。 「でもね」 「でも? なんだ?」 「わたしの最後のワガママ、聞いてくれる?」  もう、何もかもぼやけて、顔など見える筈も無いのだが、何故かみさおが、いたずらを思いついた子供のような表情をしているのが分かる。 「・・・・・・ああ」  オレは必死に下を向いていた。  顔を上げれば、泣きそうな顔をしているのがばれてしまいそうだった。 「うん、それじゃね、帰ったら――」  それを知ってか知らずか、オレを慰めるような、明るい声。  視界が真っ白になる。軽い浮遊感。  そうして――。  
   随分と青い空。  いつからそこに立っていたのだろう。  はじめは、寝起きのように頭がボーっとしていたが、時間がたつにつれ、オレはゆっくりと頭がはっきりして来るのを感じた。  周りを見まわす。人など何処にも居ない。あるのは、ただ整然と並ぶ墓石。  墓地だ。  それは分かるのだが、オレはまったく見たことの無い場所だった。  何故ここに居るのか? と、自問しようとしたその時、みさおの最後の言葉を思い出した。  そうか、そうだな。  視線を下に移し、近くに咲いている、花を一本摘み取る。  そして、眼前の大切な妹の墓に備えた。  オレはもう、泣いてはいない。  「今度は――」  オレは墓地を出て、ゆっくりと歩き始める」  待ってくれた大切な人の元へと。  気付かないうちに唇が動き、言葉を紡ぎ出す。 「――今度は、花束もって、あいつと一緒に来るからな」  その呟きに答えるように、また、みさおの声が聞こえたような気がした。  オレ達は、そうして帰っていった。  それぞれの帰るべき場所へと。 「帰ったら――、その人と一緒に会いにきてね。お兄ちゃん」  終幕
 あとがきっぽい駄文  初めまして、東志と申します。  SSはこれが初めてという事になりますが、コンセプトも何もありゃしません。  勢いのまま書いた結果がこれです。ぐはぁ。    いちおう、茜以外のEND後、と言う事になります。  いや、茜嫌いって訳じゃありませんが。    なんか矛盾だらけですが・・・・・・。  あと、前半、浩平の口が悪すぎですね。  悪態もつきまくり。まるでヤンキ―。  気付いてんなら直せよ、って感じがしないでもありませんが。    なんか取り止めが無い。  ええっと、感想ってか苦情ですか?   受け付けておりますので。    最後に、このような駄文を読んでくださった方。これを載せていただいたHiroさん。ありがとうございました。  ではでは。
 ☆ コメント ☆ セリオ:「ここは、わたしと綾香さんのふたりっきりの場所ですね」(^0^) 綾香 :「……その通りなんだけど……その表現の仕方って、すっごくイヤ」(^ ^; セリオ:「照れなくってもいいのにぃ〜」(^〜^) 綾香 :「照れてないって」(^ ^; セリオ:「むふふぅ〜。綾香さんって、可愛らしいですねぇ」(^〜^) 綾香 :「…………な、何を言うのよ」(*・・*) セリオ:「そんな可愛らしい綾香さんとふたりっきりのこの場所」(〃∇〃) 綾香 :「……………………」(*・・*) セリオ:「…………はっきり言って、地獄以外の何物でもありませんね」(−−) 綾香 :「そういうオチかい!!」(ーーメ



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