たさいシリーズ外伝



 『沙夜香VS命 〜運命の出会い?〜』






 その日、彼女は日課となった朝の稽古を近くの公園でしていた。
 母親から受け継いだ大切な剣で小さい頃から素振りを続けていたが、ある日彼女の父親が聞いてみた。

 「なあ命、おまえは何の為に剣を振るっているんだ?」
 「みんなを守るため、それと・・・」
 「それと?」
 「・・・ないしょ」

 そう言って父親にむかって彼女は、とても嬉しそう微笑んだ。
 未だにそのないしょは教えて貰えないが、父親も娘にむかって同じように微笑んで見つめ返した。

 水瀬命、ただいま高校一年生。

 その日、彼女は日課となった朝のランニングをしていた。
 母親譲りの容姿とその運動能力は同じ格闘家の道を歩ませていたが、ある日彼女の父親が聞いてみた。

 「なあ沙夜香、どうしてあいつと同じ道を目指したんだ」
 「母さんを越えたいからかな、それと・・・」
 「それと?」
 「内緒♪」

 そう言って父親にむかって彼女は、とても嬉しそうに笑って抱きついた。
 未だにその内緒は教えて貰えないが、父親も娘にむかって同じように笑って頭を撫でた。

 藤田沙夜香、ただいま高校一年生。

 そんな二人がひょんな事から出会うのは、それから間もなくだった。






 「じゃあ命、佐緒理はお買い物してきますからここで待っててくださいね」
 「はちみつクマさん」

 スーパーの入り口で命は佐緒理に言われた通り、じっと待っていた。
 ぼんやりと道行く人たちを眺めてたり、佐緒理はまだかなとたまに店の中を見たりしていた。

 「じゃあここで待っているからっ」
 「それではいってきますが、くれぐれもどこかに行かないように」

 セリオに念を押されて仕方なくといった感じで、沙夜香はぼ〜っと道行く人眺めていた。
 自慢の長い黒髪の先を指に絡めて早く来ないかなと、振り返って店の中をのぞき込んだりしていた。

 特に意識をしていたわけじゃなかった。
 自分と同じような仕草をしている事に気がついた彼女たちは、視界の端でお互いを意識していた。

 『・・・隙がない、できる』
 『ふ〜ん、結構やるわね』

 そんなこと考えているとはこれっぽっちも出さずに、彼女たちの気持ちはお互いに向いていた。

 『・・・・・・何者?』
 『空手かな? ううん違う、でもかなりの実力者ね・・・』

 買い物の付き合いで待たされている事を忘れて、彼女たちは心理戦のような事を繰り返していた。
 そして、いつしか楽しいと言う気持ちが彼女たちの心の中に生まれていた。

 折しもそんな時、幸運と言うべきかお互いの実力を知る機会が意外にも早く訪れた。






 「どろぼーっ!!」

 その声に彼女たちは同時に振り向くと、二人組の男たちがアタッシュケースを脇に抱えてこちらに走ってきた。
 後からはサラリーマンらしき人が追っかけていたが、二人組の方が足が速かった。

 「どけよっ!」
 「じゃまだっ!」

 二人組の男たちは叫びながら邪魔な人たちを押しのけて逃げようとしていた。
 また、その表情の怖さに誰も止めようとしなかった・・・。

 「しょうがないなぁ・・・」

 などと呟きながらも、沙夜香の顔は退屈しのぎができて嬉しそうに微笑んでいた。

 「・・・泥棒は悪い人」

 すっと壁際から離れると、命は厳しい顔つきで男たちを睨んだ。

 一面識もない彼女たちだがその動きはまるで長年コンビを組んだように男たち並んで立ちふさがった。

 「どけよ、ガキっ!」
 「ぶっころすぞ!」

 普通の女の子なら怖がってすぐにどくか、足が震えてしまうかもしれなかった。
 が、彼女たちは少々違ったようだ。

 「ふ〜ん、それはどうかしら?」

 小馬鹿にしたように笑いかけて沙夜香はワザと挑発する。

 「・・・悪い人は許さない」

 普段見せない鋭い眼光と低い声が、命の本気を表していたが男たちは気がつかない。

 「このガキ、ふざけやがってーっ!」
 「なめんじゃんねぇよっ!」

 たかが高校生の女だと舐めて襲いかかった男たちだったが、すぐにそれが間違いだったと思い知らされた。






 「はっ」

 気合いと共に吐き出した言葉に合わせて、沙夜香は素早い踏み込みで男の懐に飛び込むと拳を腹にぴたりと
 当てた瞬間、男ははじき飛ばされて逃げてきた道を数メートルほど戻らされた。

 「こ、このっガキがっ!?」

 腹を押さえて何とか立ち上がろうとした男の前には、すでに沙夜香がおり不適な笑みで見下ろしていた。
 そして男のセリフを最後まで言わせる前に、彼女はすらっとした足で男の顎を蹴り上げてそのまま
 後に空中で一回転して着地した。

 「うん、すっきりした♪」

 少しの呼吸の乱れもなく、さわやかに笑う沙夜香の姿に周りで見てた人たちは見とれていた。

 「あ、あの娘は大丈夫かな?」

 言葉とは裏腹にちっとも心配そうじゃない沙夜香の振り向いた先には、予想してたより凄い展開で
 さすがに驚いてしまい目をまん丸くしていた。

 ちゃきっ。

 すっと命が腕を振ると、いつの間にかその手に現れた物が夕焼けの光でオレンジ色に光る。
 落ち着いた動作で青眼に構えた命に一瞬腰が引けた男だったが、ポケットからナイフをだしてちらつかせた。

 「そんなおもちゃでびびるわけないだろっ!」

 それもそうである、普通の高校生が本物の剣を持っているわけがない。
 しかし、命には決して言ってはいけない言葉だと男に理解できたのはもっと後のことであった。

 「・・・! 許さない、この剣を馬鹿にした」

 命の瞳が鈍く光った瞬間、音もなく剣が閃いた・・・それは沙夜香にも見えないほどの素早さだった。

 「な、なんだ、やっぱりおもちゃ・・・?」

 だが、男の言葉はそこで止まった。
 今、身に付けている物は何も無い・・・いや、正確に言うと靴だけだった。
 つまり素っ裸である。

 「・・・変な物斬った」

 命は何事もなかったように呟くと、びゅっと腕を振ると持っていた剣が消えた。
 野次馬たちは股間を押さえて狼狽える男に気を取られてそれを見逃してしまったが、
 沙夜香だけはじっと見つめていた。

 「不思議な娘、でも強いわね」

 そう呟いて見つめていた沙夜香と命の視線がぶつかった。

 「私は沙夜香、あなたは?」
 「命」
 「強いわね、あなた」
 「まだまだ」
 「そう?」
 「母はもっと強い」
 「そうね、私のママも強いわ」
 「そう」
 「うん」

 そこに漸く買い物を終えた彼女たちの連れがスーパーの中から出てきた。

 「はえ〜、待たせちゃってごめんね命」
 「別に」

 「おとなしく待っていましたか、沙夜香さん?」
 「もちろんよ♪」

 何も無かったようにそう答える二人の後では、泥棒の二人組が警察に捕まって連れていかれた。






 「ふ〜ん、そんな事が有ったんだ・・・」
 「あの娘、強い」
 「じゃあまた会えるな、その沙夜香って女の子に・・・」
 「?」
 「強い者は惹かれ合うんだ」
 「パパ」
 「ん?」
 「ありがとう」
 父親の祐一は答える代わりにそっと頭を撫でると、命は頬を赤くして俯いていたが
 その顔は幸せそうに微笑んでいた。

 「なるほど、変わった娘だなぁ・・・」
 「でも、すっごく強いの」
 「その内また会えるな、その命って娘に・・・」
 「どうして?」
 「強い者は惹かれ合うんだ、解るか?」
 「パパ」
 「なんだ?」
 「ありがとう♪」
 父親の浩之は沙夜香の事をぎゅっと抱きしめて、その頭をちょっと乱暴にくしゃっと撫でた。






 この後、二人が再会するのはそう遠くなかったがそれは別に語られる物語である。






 終わり。






 後書き
 
 初めまして、へなちょこSS書きの端くれでじろ〜と申します。
 たさいシリーズの番外編と言うことで、勝手な妄想の元書かせていただきました。
 なお、今回は自分が書いているたさいネタと絡ませてみました。
 Hiroさんの「たさいシリーズ」はとても面白く、一ファンとしても楽しく拝見しています。
 自分の所でもたさい物を書いていますが、なかなか上手く書けないです(^^;

 また機会があったら書きたいと思いますので、その時はどうか暖かい目で読んでください。

 それでは。



 ☆ コメント ☆ 綾香 :「へぇ、命ちゃんかぁ。なんか面白い娘ねぇ」(^^) 沙夜香:「うん」(^0^) 綾香 :「良かったわね。知り合いになれて」(^^) 沙夜香:「うん! また、会いたいな」(^0^) 綾香 :「大丈夫よ、きっと。絶対に会えるわ」(^^) 沙夜香:「うん!! そうだね!!」(^0^) セリオ:「あの〜。母娘で盛り上がっているところ恐縮なんですがぁ」(;^_^A 綾香 :「ん? どうしたの?」 セリオ:「ひとつだけ言いたい事があるんです」 沙夜香:「ほえ? なになに?」 セリオ:「沙夜香さん。泥棒なんかを相手にしたらいけませんよ。      もしもの事があったらどうするんですか?」 沙夜香:「な〜んだ、そんなこと。平気平気。ノープロブレム。      何と言っても、あたしは、藤田浩之と藤田綾香の娘よ」d(^-^) 綾香 :「その通り! えらい! よく言った!!」(^0^) セリオ:「…………い、いえ……でも、万が一って事も」(;^_^A 沙夜香:「ないない」 綾香 :「ないわよ」 セリオ:「……なんで言い切れるんです?」(;^_^A 沙夜香:「だって、あたしは藤田沙夜香だもん」(^0^) 綾香 :「だって、沙夜香はあたしの娘だもん」(^0^) セリオ:「…………さいですか(似たもの母娘ですねぇ)」(;^_^A



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