たさいシリーズ外伝



 『沙夜香VS命 2〜ぷれぜんと〜』






 「沙夜香さん、お行儀が悪いですよ?」

 片付けをしていたセリオは行儀が悪い娘を注意して睨んでいた。

 「んぐっ・・・はいはい」
 「はいは一回です」
 「は〜い」
 「言葉はのばさないように」
 「もうっ、セリママはうるさいなぁ〜」

 リビングで寝転がっていた沙夜香はクッキーをくわえたまま、起きあがって振り返る。

 「そう言うところは綾香さんそっくりです」
 「ママに?」
 「はい、特に高校生の頃の綾香さんにうり二つです」
 「そうなの?」
 「はい、今からそれではいずれは今の綾香さんと同じになりますね」
 「う〜ん、確かにそれはちょっとイヤかなぁ・・・」

 沙夜香の側に座って真剣な表情でセリオは言葉を続ける。

 「そうです、わがままが服着て歩いている綾香さんになって・・・」

 そこでセリオは後ろからもの凄い殺気を浴びせかけられて、危うくブレーカーが落ちそうになった。

 「もう一度言ってくれないかしら、セリオ?」
 「・・・・・・」
 「セリオ?」
 「現在、最適化中につきお答えできません」
 「ふ〜ん・・・後できっちりと話をつけましょう、セリオ♪」
 「ママ、こわ〜い・・・」

 セリオが言ったことを頭の中で考えて、目の前でそのセリオを睨んでいる自分の母親の顔を見て沙夜香は誓った。
 ママより素直で綺麗で可愛くなろう・・・と。

 「何考えているの、沙夜香ちゃ〜ん?」
 「ママ、目が笑ってないんだけど・・・」

 何となく反らした視線の先に、大好きな浩之の姿を見つけた沙夜香は綾香の脇をすり抜けて飛びついた。

 「あっ、沙夜香!」
 「おっと、どうした沙夜香?」
 「パパっ、ママが怖いよ〜」

 胸に抱きついている沙夜香と固まっているセリオ、そして妙な笑顔を浮かべている綾香を見て浩之はため息をついた。

 「綾香、いい年してなに脅しているんだよ? それもセリオと自分の娘を・・・」
 「悪かったわね、どうせあたしはおばさんよ!」
 「あ、逆ギレしちゃった」

 ぽんぽんと沙夜香の頭を叩いた浩之は、拗ねてそっぽ向いた綾香を背中から抱きしめる。

 「は、離してよ、浩之っ」
 「まったく・・・いくつになっても可愛いよな、綾香は?」
 「な、なによ、そんなこと言って・・・」
 「嘘じゃないぜ? 綾香は何時だって最高の奥さんだぜ!」
 「・・・ホント?」
 「ああ、ホントだぜ!」

 浩之の腕の中でくるりと向きを変えると潤んだ瞳で見つめながら、綾香はそのがっちりとした背中に腕を回した。

 「じゃあ、証明してっ」
 「証明って?」
 「もう・・・全部言わせないでよ、ばかっ」
 「あ、はいはい、それじゃ行こうか」
 「うん♪」

 いちゃいちゃしながらそのままリビングから出ていってしまった両親を見送った沙夜香は、セリオの横に腰を
 下ろすと皿からクッキーを摘んでぱくっと頬ばった。

 「相変わらずママのご機嫌取るの上手いなぁ・・・さすがはパパね♪」
 「はい、浩之さんはいつでも優しいです」
 「ねえセリママ・・・」
 「はい?」
 「もの凄く羨ましいって顔に書いてあるのは、あたしの気のせいかなぁ〜?」
 「あ、えっ、その・・・あうっ」
 「ふふっ、セリママか〜わいいっ♪」
 「沙夜香さん!」
 「ちょっと出かけてきま〜す」

 一人リビングに残されて振り上げた手の行き場がなくなったセリオは、ため息をつくとソファーにもたれ掛かった。

 「本当にそっくりになりましたね、沙夜香さん・・・」

 自分にとっても娘でもある沙夜香の成長が嬉しく、また綾香にそっくりな所が少しだけセリオに不安を感じさせていた。
 でも、きっと幸せになるでしょうと信じてセリオは微笑みを浮かべていた。






 「久しぶりだなぁ・・・舞と二人きりで出かけるなんてな?」
 「はちみつクマさん」
 「お? もしかして照れてる?」

 ぽかっ。

 「ははっ、可愛い奴だなぁ〜♪」

 ぽかぽかぽかっ。

 「いててて〜、こらっ舞!」

 チョップをかいくぐった祐一に頭を引き寄せられて、うりうりと撫でられていた舞の顔は真っ赤だけど嬉しそうに
 子供のように微笑んでいた。

 「今日は思いっきり楽しもうな?」
 「はちみつクマさん」

 どこかの夫婦に負けず劣らずらぶらぶ全快な祐一と舞は、仲良くくっつきながらデートを楽しんでいた。
 年を重ねても、とても高校生の娘がいるように見えない舞はすれ違う男が振り返るほど楽しそうだった。

 「お待たせ、舞」
 「チョコミントさん」

 答えるより早く祐一は勝ってきたばかりのチョコミントを舞の目の前に差し出す。
 受け取って少しずつ舐める舞を祐一はじーっと見つめる。

 「なに?」
 「美味しいか?」

 舞が無言で自分に向かって突き出したアイスを祐一はかぷっと一口頂いた。

 「ちと甘いなぁ・・・」

 ぽかっ。

 「何でチョップなんだ、舞?」
 「祐一、食べ過ぎ・・・」
 「くくっ、すまん舞」
 「ぽんぽこたぬきさん」
 「怒るなって・・・また買ってあげるからな?」
 「約束?」
 「ああ、約束だ」
 「ならいい」

 残りを食べ終えて歩き出そうとした時、舞は自分を見ている視線に気がついてそちらを見た。

 「は〜い、また会えたわね♪」
 「誰?」
 「ほえ?」
 「あなた、誰?」
 「えっ、あたしのこと忘れちゃったの?」
 「・・・知らない」
 「そ、そう・・・」

 笑顔から一転寂しそうになった沙夜香を見て、祐一は先日娘から聞いた話を思い出した。

 「君、もしかして藤田沙夜香ちゃんかな?」
 「えっ、どうしてあたしの名前を?」
 「ははっ、やっぱりそうかぁ〜なるほどなるほど、うんうん」
 「ほえ?」

 ずびしっ!

 「ぐあっ!?」

 いまいち事情が飲み込めない沙夜香をじろじろ見ていた祐一に、今までとは違う舞のチョップが炸裂した。

 「な、何で殴るんだ舞?」
 「すけべ」
 「ぐあっ・・・そうじゃないってのっ!」
 「じゃあ、えっち・・・」
 「同じ事だ!」
 「すまない」

 目の前の激しい会話が途切れて間が空いたのを見計らって、沙夜香は祐一に質問をぶつけた。

 「あの〜、さっきの事なんですが・・・」
 「ああっ、すまない・・・んんっ、どうして名前を知っているかだったよな?」
 「はい」
 「まずは自己紹介が先かな? 俺は水瀬祐一、こっちは妻の舞よろしく」
 「よろしく」
 「あ、初めまして藤田沙夜香です」

 ぺこりと頭を下げる舞に慌てて沙夜香もお辞儀をする。

 「それから君のことは娘から聞いていたからね・・・」
 「娘って・・・じゃあ!?」
 「そう、こっちは母親の舞だ」
 「す、すいません、馴れ馴れしく声掛けちゃって・・・」
 「気にしてないから」
 「ま、俺もそうだから気を使わないでくれると助かるかな?」
 「あ、はい」
 「しかしそんなに命に似てたか?」
 「はい、こうして話していても嘘なんじゃないかって・・・」
 「良かったな舞、まだまだ高校生でも通用するってさ」
 「祐一、私大人・・・」
 「ごめんなさい」

 なでなでなでなでなでなで。
 俯いた沙夜香に近づくと、いきなり舞は彼女の頭を撫で始めた。

 「あ、あ、あの・・・?」
 「嫌いじゃないから・・・」

 なでなでなでなでなでなで。
 再び撫で始めた舞を見ていた沙夜香は、在ることを思い出した笑い出した。

 「ふふっ・・・」
 「ん?」
 「その、あたしのよく知っている人も同じようにするからつい・・・」
 「なるほど、何となくどんな人か想像がつくなぁ〜」
 「そう言えば雰囲気が良く似てます」
 「やっぱりなぁ・・・」

 ぽかっ。

 「いや、訂正しよう、こんなに手が早いわけないしな」
 「あの手は早くないんですけど、その・・・ちょっと不思議な力があって・・・」
 「何!? そんな所まで似ているのかぁ、う〜ん・・・尚更会ってみたいなぁ〜♪」

 どかっ!

 「浮気は許さないから・・・」
 「・・・」
 「祐一?」
 「・・・」
 「あの、気絶してますけど?」
 「やりすぎた」

 それから気絶した祐一を担いで空いた手で沙夜香の手を引いて、舞は水瀬家まで帰ってきた。
 自分の娘の友達と知った舞がほとんど強引に連れてきてしまった。
 そんな三人を出迎えたのは水瀬家の主、秋子さんである。

 「あらあら、早かったわね・・・そちらは?」
 「命のお友達」
 「初めまして、藤田沙夜香です」
 「水瀬秋子です、息子と娘と孫がお世話になったようですね」

 秋子さんの言葉に沙夜香は何か引っかかるものが有ったように感じた。

 「あの・・・」
 「はい、なにかしら?」
 「息子と娘と孫って・・・」
 「息子は祐一さん、娘は舞さん、孫は命ちゃんだけどそれが?」
 「あ、あははっ、そうですか・・・」
 「すぐにお茶の用意をしますから、後はお願いしますよ舞さん」
 「はちみつクマさん」

 キッチンの方に行ってしまった秋子さんの後ろ姿を見つめていた沙夜香は思い切って舞に聞いてみた。

 「あの舞さん」
 「なに?」
 「秋子さんっていったいお幾つなんですか?」
 「年齢不詳」
 「ほえ?」
 「秋子さんだから・・・」
 「そ、そうですか」
 「リビングこっちだから」
 「あ、はい」

 納得しかねる所も有ったけど、沙夜香はそれ以上の詮索は止めておとなしく舞の後をついていった。

 「命」
 「お帰りなさい」
 「お友達・・・」
 「こんにちは、命」
 「沙夜香?」
 「そうよ、忘れちゃった?」
 「そんなこと無い、覚えている」
 「あと、よろしく・・・」

 娘の沙夜香を命に任せると、舞は肩に担いでいた祐一を寝室の方に連れて行った。
 入れ替わるようにリビングに入ってきた秋子さんが紅茶を用意すると、そのまま出ていってしまった。

 「命の言った通りね、舞さんて強いわ」
 「勝ったこと無いから・・・」
 「そうなの・・・あ、あたしもママに勝てたこと無いわよ」
 「強すぎる」
 「同感ね」
 「でも・・・」
 「でも?」
 「祐一パパはもっと強い・・・」
 「そう言えばあたしのパパもママより強いわね」

 お互いの顔を見つめ合って視線を合わせると、同時に微笑む。

 「がんばろう、沙夜香」
 「そうね、がんばってママたちを越えないとね♪」
 「はちみつクマさん」
 「ふふふっ」

 この日、ほかの姉妹たちの邪魔も入らず二人はお茶を楽しんでいた。
 同じ思い、同じ心を持っている・・・もう一人の自分をお互いの中に見ていたのかもしれない。
 もう一つの見方をすれば、それはまるで恋人同士のような空気を二人の周りを包んでいた。

 「それじゃお邪魔しました、紅茶ご馳走様でした」
 「いえいえ、大したお構いもできなくて・・・」

 玄関で秋子さんに挨拶をしている沙夜香だが、そこに命の姿は無かった。

 「それにしても命ちゃんまだかしら・・・」
 「あの、命はどうかしたんですか?」
 「ちょっと待っててね、すぐに来ると思うから・・・」

 言うやいなや手にラッピングされた物を大事に抱えてきた命が玄関に現れた。

 「遅くなってごめん」
 「ううん、気にしてないわよ」
 「これ、用意してたから・・・」
 「これは?」
 「私の好きな物、だから上げる」
 「えっ、良いの?」

 こくこく。

 「ありがとう、とっても嬉しい♪」
 「あら命ちゃん、沙夜香ちゃんの事気に入ったのね?」
 「相当に嫌いじゃない」
 「あたしも大好きよ、命」
 「良かったわね、命ちゃん」
 「はちみつクマさん」
 「それじゃまた会おうね!」
 「今度は私が行くから・・・」
 「うん、いつでも大歓迎だからっ♪」

 何度も何度も振り返って手を振る沙夜香を、目は姿が見えなくなるまで見つめていた。
 名残惜しそうにじーっと見つめ続けた。






 「で、これが貰ってきた物か?」
 「うん、自分が大好きだからって・・・」
 「中身は何かしらねぇ?」
 「とにかく開封してみては如何ですか?」

 浩之と綾香とセリオの目の前で、沙夜香はがさがさと綺麗に包装をとると中から一つの瓶が出てきた。

 「ジャムみたいだな・・・」
 「うん、オレンジ色だからマーマレードかしら?」
 「どうやら手作りのようです」
 「あ、この紙何か書いてある・・・」

 沙夜香は一緒に添えられていた紙切れを手にとって、書いてある文字を読んだ。

 「えっと『毎日一口食べて』だって・・・」
 「なんだぁ?」
 「毎日食べると良いこと有るのかなぁ・・・」
 「まずは一口食べてみてはどうでしょうか?」
 「そうね、食べてみないと解らないし・・・」
 「うん、そうしよう♪」

 「「「「いただきま〜す」」」」

 沙夜香、綾香、浩之、そしてセリオはジャムをスプ〜ンですくってから同時に口の中に運んだ。






 ぱく。






 かきかき。

 「何してるの、セリオちゃん?」
 「いえ、これは沙夜香さん専用のジャムなので名前を書いていました」
 「何味なの?」
 「識別不能・・・謎ジャムです」
 「あ、あはは〜・・・そう」
 「あかりさんも食べない方がよろしいかと?」
 「うん、沙夜香ちゃんの物だしね」
 「はい」

 瞳を潤ませて涙を滲ませながら異様な迫力で瓶を睨み付けてマジックで沙夜香専用と書いているセリオの姿に、
 あかりは刺激しないように静かにキッチンから抜け出した。






 後日、綾香のスパーリングに付き合わされた沙夜香がぼろぼろになったのは別の話である。
 過日、浩之に抱きしめられた沙夜香が頭を拳でぐりぐりされ続けたのもこれまた別の話である。
 そして毎日、セリオは沙夜香がちゃんとジャムを食べる事を監視していたのも更に別の話である。






 終わり。






 おまけ。






 ぴくぴく。

 「意地汚い奴だなぁ・・・まあ自業自得か?」と、浩之。
 「そうですね、これに懲りて少しは落ち着いてくれると宜しいのですが・・・」と、セリオ。
 「志保ったらそんなにお腹空いてたの・・・」と、あかり。
 「はわわわ〜、わたしでも食べない物を・・・」と、マルチ。
 「いくつになっても落ちつかん奴やなぁ・・・」と、智子。
 「人間こうはなりたくないわねぇ、姉さん?」と、綾香。
 「(こくこく)」と、芹香。
 「ダメダメネ」と、レミィ。
 「もっと素直になればいいのと思いますけど?」と、葵。
 「今更無駄だと思います」と、琴音。
 「人間ここまで落ちたくないですね」と、理緒。

 口から泡吹いて倒れている志保を見下ろしながら、藤田家の大人たちはキッチンのシンクにある
 オレンジ色したジャムの瓶を見つけて深いふか〜いため息をついた。






 本当におわり。






 後書き
 
 こんにちは、じろ〜です。
 調子に乗ってたさい外伝シリーズ番外編第二弾を書いてしまいました(^^;
 このキャラ違うと思う人がいると思いますが、暖かい目で見てくれると助かります。
 本当ならもっと大勢の人が登場する筈ですが収拾が付かなくなるので人数を絞ってみました。
 ほかにもまだまだ魅力的な女の子たちがいますので、機会が有れば書きたいと思っています。

 それでは。





 ☆ コメント ☆

沙夜香:「ぱくっ! ……………………ううっ」(;;)

セリオ:「はい、今日のノルマ終了です」(^^)

沙夜香:「うう〜っ」(;;)

セリオ:「まだまだ、たくさん残ってますね」(^^)

沙夜香:「うう〜っ」(;;)

セリオ:「良かったですねぇ」(^^)

沙夜香:「ふえ〜ん。セリママってば、まだ根に持ってるぅ〜」(;;)

セリオ:「気のせいですよ」(^^メ

沙夜香:「ううっ。えぐえぐ」(;;)

セリオ:「それにしても、偉いですね、沙夜香さんは。
     なんのかんのと言いながらも、ちゃんと毎日食べてますものね」

沙夜香:「だって〜。何と言っても、命がくれた物だもん」

セリオ:「そうですね。大切なお友達からのプレゼントですもんね」(^^)

沙夜香:「それに……」

セリオ:「それに?」

沙夜香:「このジャムって、結構くせになるのよ。
     …………イヤなのに」(;;)

セリオ:「……へ?」(−−;

沙夜香:「不思議と後を引く味なのよぉ〜」(;;)

セリオ:「そ、そうですかぁ?」(^ ^;;;

沙夜香:「だから、美味しくないって分かってるのに、ついつい食べちゃうのよぉ〜。
     うう〜っ。まずい! もう一杯!!」(;;)

セリオ:「青汁じゃないんですから」(;^_^A





戻る