To Heart   SS                             マルチの話
 
 
 
          独り占め
 
 
 
                     くのうなおき
 
 
 
 
 
 定期点検を終え、浩之さんと二人っきりの帰り道、バス停を降りて
家までのあまり長くない道のりを二人だけで過ごす幸せな時間。
 そんなひとときを過ごしたいから、浩之さんの仕事がおわるまで
先に帰らず待っていました。
 
 
 「る〜りりりら〜、る〜らりらら〜♪」
 
 思わず鼻歌を口ずさんで、浩之さんの腕に抱き付いて体を摺り寄せます、
何度抱き付いても飽きる事などない、優しさをいっぱい感じる場所、あかりさん
も、わたしも、何よりも大好きな優しい場所。
 
 ・・・・・・・・でも今だけは。
 
 
 「えらくご機嫌だなぁ、マルチ。」
 
 浩之さんが苦笑ぎみに言いました、でも腕を振り解くわけではありません。
「こういう時の浩之ちゃんって、とっても嬉しいんだよ。」ってあかりさんも言って
いました。
 
 「はいっ、だって今は浩之さんを独り占めですから。」
 
 浩之さんの顔が赤くなりました。照れてわたしから顔を背けようとしますが、
わたしは浩之さんの顔を覗き込んで、微笑みました。
 
 
 『えへっ、わたしだって女の子なんですよ♪』
 
 だから、大好きな人と二人っきりの時には、思いっきり甘えたいんです。
 あなたが大好きだから、あかりさんを、わたしを愛してくれるあなたが大好きだから。
 
 
 独り占めしたくなるんです。
 
 
 浩之さんが、顔をわたしに向けてくれました、そして
 
 「しょうがねえなあ」
 
 いつもの優しい一言を言って、わたしの腕を離させると、わたしの肩を抱きよせて
くれました。
 
 「あ・・・・・・・、ありがとうございますっ!」
 
 
 
 そして、わたし達はまた、家に向かって歩きだしました、わたし達二人にとって
大切な人の待つ家へと。
 
 今のわたしのこの幸せな思い、それは浩之さん、あかりさん、わたしがいるから
こそ感じる思い、3人がみんな幸せであるからこそ感じる思い。決して忘れている
わけじゃないけれど・・・・・、だけど、こんな時にはわたしだけを見てて欲しいな、ほんの
少しの間だけでいいから。
 
 でも、あかりさんだってそうですよね?浩之さんと二人だけでいるときは独り占め
したくなりますよね?・・・・・・・う〜ん、勝手な考えでしょうか?
 
 
 いいえ!あかりさんだって、浩之さんが大好きなんですから、やっぱり独り占め
したくなります。だから・・・・・・・
 
 
 
 
 ・・・・・・あかりさん、ほんの少しだけ、わたしのわがまま、許してくださいね・・・・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 やがて、わたし達の家が見えてきて、わたしだけの幸せな時間も終ろうとしています。
 
 
 でも、辛いとか、悲しいとかそんな気持ちはありません。
 
 
 浩之さんが扉を開けると、奥からあかりさんがぱたぱたと、駆け寄ってきました。
 
 「おかえりなさい、浩之ちゃん、マルチちゃん。」
 
 わたし達を迎えてくれるとっても優しい笑顔、この笑顔があるからわたしだけの
幸せな時間があるんです。
 
 「あー、マルチちゃんずる〜い」
 
 突然あかりさんが、目を細めながら頬を膨らませました。あ、わたし浩之さんに肩を
抱かれたままでした。
 
 「あわわ、あかりさんごめんなさーい、帰り道だけ浩之さんを独り占めさせていただきましたー。」
 
 「も〜、甘えん坊さんなんだから・・・・、ふふっ、わたしも仲間にいれてね。」
 
 「はいっ!」
 
 と、わたしが答えると、あかりさんが浩之さんに飛びついてきました。
 
 「お、おいお前ら!玄関でこんなことやってたら・・・・、誰かきたらどうするんだ。」
 
 「それじゃあ、早くなかに入ろ?」
 
 「そうですよー」
 
 「あ〜、まったく・・・・・・・・・・・・・・・・しょうがねーなー・・・・・・・」
 
 と、嬉しさを照れ隠ししてぼやく、浩之さんを引きずって、わたし達は家に入ります。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 一つの幸せな時間は終りました。でももっと幸せな時間が今からはじまるんです。
 
 
 
 
 
 
 
 
                  終
 
 
 
 
 
 
 
 
    後書き
 
 
 とにかく・・・・・・・・、ぐはあああああっ!恥ずかしい話だぜ!!
 書いててもう、背中がむずむずしまくり!今までの中で一番
恥ずかしいんじゃないかな?とりあえず私を良く知る友人ども
には見せられないっと(汗)
 ・・・・・なんて思いつつも、やっぱりこの3人はこうじゃなきゃ
・・・なんて反面思ってたりして。
 
 人間とは矛盾の生き物ですね
 
 
 今回は「マルチの独占欲」をテーマにしてみました。
 「ミートせんべい」の感想を頂いた際、「マルチに
だって、独占欲ちょっとぐらいないかな、父を想う娘みたいな」と言われたのが
きっかけです。
 
 私も、少しくらい独占欲があったほうがかわいいじゃないか、と思い
書いてみたんですが、果たしてマルチの独占欲、読んでくれる方々
に伝わりましたでしょうか・・・・・・?



 ☆ コメント ☆ 琴音 :「おおっ! マルチちゃん、上手い!!」  葵 :「……な、なんでわたしたち、先輩たちを尾行してるんだろ?」(;^_^A 琴音 :「『顔を覗き込んで微笑む』か。      この技は効果が大きいみたいね。覚えておかなきゃ。メモメモ」  葵 :「わざわざ、メモまでしなくても……」(;^_^A 琴音 :「さらには、『この時、同時に目で思いっ切りアピール』」  葵 :「な、なんだかなぁ」(;^_^A 琴音 :「『上目遣いで、さらに、少し瞳を潤ませると効果は倍増する』っと」  葵 :「……………………」(;^_^A 琴音 :「よしっ! 完璧!!      今度、このテクニックを使って……うふふ……うふふふ」(^〜^)  葵 :「琴音ちゃん……怖い」(;^_^A 琴音 :「うふふふふふふふふふふふふふふふふ」(^〜^)  葵 :「ホントに怖いって」(−−;;;



戻る