春−桜が咲き、散っていく季節。新芽と同じように初々しい気持ちになる季節。


夏−蝉が鳴き、暑さを感じる季節。アイスやかき氷を食べる季節。


秋−木々や葉が化粧をし、美しく映える季節。夏の名残と冬の訪れを感じる季節。


冬−優しい妖精が舞い降りる季節。悲しい思い出で包まれている季節。





Kanon After Story 〜shiori-misaka〜
雪だるまを空高く
written by toya-shirakawa






『朝〜 朝だよ〜 朝ご飯食べて学校行くよ〜』

 いとこの声の入った目覚し時計で起きる。

 時間は7時、いつもどおりの時間だ。

「寒い…」

 まだ布団に入っているというのに体の芯から寒さが染みる。

 カーテンの隙間から指し込んだ朝日が眩しい。

カシャーッ

 空は白く雲に覆われているいつもと違い、春を思わせる青が一面に広がっている。

「寒いことに変わりはないか…」

 空が青くても地面には銀世界が広がっている。

 むしろ、太陽の光に反射して幻想的な雰囲気さえ漂わせている。

 手早く着替えを済ませ、階段を降り、リビングに入る。

「おはようございます、祐一さん」

「おはよう、祐一」

「おはようございます」

 すでにリビングにいた秋子さんと名雪に挨拶し、自分の席に座る。

「祐一さん、コーヒーと紅茶、どちらにしますか?」

「コーヒーでお願いします」

「はい」

 秋子さんは台所に入っていき、コーヒーを持ってきてくれた。

 名雪はおいしそうにイチゴジャムのたっぷりと乗ったパンを  ゆっくりと幸せそうに食べている

 ………?

 名雪が普通に起きてる。

 そういえば俺が起きてきたときにはすでにいた。

「…奇…」

「? 祐一、どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 『奇跡』…そう言いかけて止めた。

 奇跡なんかなじゃいさ…。

 努力さえすればいくら名雪でも起きられないわけじゃないんだ。



『起きないから、奇跡って言うんですよ』



 ふと頭にその言葉がよぎった。

 …そう、奇跡なんか起きなかった。

 1年前に出会った一人の少女は誕生日までしか生きられなかった。

 俺は最後の1週間、少女を普通の女の子として付き合った。

「祐一、時間ないよ」

 名雪の声で現実に引き戻される。

 とても焦っているような声には聞こえないのはいつものこと。

「名雪、走るぞ」

 玄関から外に出て、走り出す。

 名雪も隣まで追いつき、一緒になって走る。

 校門につくと同時に名雪に声をかける。

「名雪、時間は?」

「えっと…まだ3分ぐらいあるよ」

 よし、今日も遅刻はなさそうだ。

 昇降口で上履きに履き替えて自分の教室へと歩く。

 転校してきたにも関わらず、なんとか3年にあがることが出来た。

 しかし、名雪、香里、北川とは違うクラスになった。

「じゃあな、名雪」

 廊下で名雪に声をかける。

 俺のクラスはあと二つ先にある教室だ。

「うん、がんばってね祐一」

「あぁ」

 何を頑張ればいいのかわからないが、そう答えておく。

 自分の教室に入り、クラスの連中と朝の挨拶を交わす。

 今の俺の席は窓際の一番後ろ。

 中庭の様子がよく見える所。

 冬休みが終わり、席替えをしたときに決まった場所がここだった。

 ここの場所が…というよりも窓際が嫌だった。

 1年前のことが思い出されるから…。

 担任がやってきていつもと変わらない授業風景が続く。

            §

 昼休みになり、いつもの場所へと足が自然と向かう。

ギィ

 中庭へと続く扉を開ける。

 やはり太陽が出ていても寒い。

「今日くらいなら大丈夫かと思ったんだけどな…」

 木の脇に腰掛け、学食で買ってきたものを頬張る。

「あ、頭がガンガンする…」

 やはり真冬のこの時季にアイスなんて食べるもんじゃない。

 好きとかで食べれるもんじゃないよなぁ…。

 再び体が冷えてきた。

 体を腕で抱きしめるようにして暖める。

 寒いなら学食なり教室なりにいけばいいとたまに思う。

 だけど…昼休みはここにいる。

 突然、バニラアイスを食べに来るかもしれないから…。

キーンコーンカーンコーン

 昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴る。

 のこり2時間の授業を受けるために教室へと帰っていく。

 教師が黒板に書き込みながら場を和ませるために笑いを取ろうとしている。

 そんな喧騒も尻目に窓の外へと視線が動く。

 ずっと青かった空が徐々に雲に侵食されていく。

(もうすぐ栞の誕生日か…)

 あと2日で2月1日がくる…。

 少女の…栞の誕生日が…。

 もう1年が過ぎるのか。

 春が過ぎ、夏を超え、秋を通って、1年後の今の冬。

 栞がいなくなって1年…。

 俺は何も変わってない。

 そう思っている…。

 そして…、授業は終わり、帰りの途につくのが日常。

 まわりは受験についてナーバスになっている奴もいる。

 俺はそんなこと考えてもいなかった。

 いや、考えようともしなかった。

 俺はどうするんだろう…。

 どうしたいんだろう…。

 そんなことを考えながら帰る。

 帰ってしまうとそんな考えも気がついたら忘れていた。

















 そして、栞の誕生日の日、2月1日が訪れた………。

















 1年前と何も変わらないものがある。

 毎朝のように繰り返されるジョギング…というよりもマラソン。

「この1年間、名雪のおかげで大分体力がついた気がする」

「…よくわからなかったんだけど、酷いこと言ってる?」

「そんなことないぞ」

「…う〜…」

 走りながら唸っている名雪ととにかく走る

 そして、時間ギリギリで教室に入り込み1日が始まる。

 今日もまた、外を眺めている自分がいる。

 来るときは降っていなかったのに…。

 今では雪が静かに降り注いでいる。

(せっかくの誕生日だもんな、なにかしてやりたいな)

 どうしようか…。

 昼休みにでも決めるか…。

 アイスを一緒に食べたあの中庭で…。

「寒すぎる」

 扉を開けて第一声だった。

 それでもバニラアイスの蓋をあけ、木でできたスプーンを手にし、一口、口に放り込む。

 雪は相変わらず勢いよく降り続けている。

「余計に寒くなった…」

 当たり前だが…。

 栞の誕生日、なにか栞にも見えるようなことをしてやりたい。

 栞がやり残したこと…。

「………」

 馬鹿か俺は……。

 やり残したことなんかたくさんあるに決まってるじゃないか。

 だから……あそこに行こう……あれを作ろう……。

            §

『この公園、静かで綺麗ですよね』


『10mの雪だるまを作りたいです』


「誰もいないよなぁ」 

 この寒いのに公園でのんびりしてる奴なんかいるわけないか。

 噴水が寒さを増幅させてくれる。

 昼にアイスを食った所為か余計寒い。

(やっぱり帰るか)

 そんな気持ちが横切る。

 白い雪がいまだに舞い降りている。

 俺は雪玉を作り、それを大きくするためにコロコロと転がす。

コロコロコロコロ……

 徐々に大きくなっていく雪玉。

 やっと直径が1mぐらいになった所で一息入れる。

 手の感覚が失われつつある。

「い、痛いかも…。」

 凍傷にはならないよな。

 まぁ…そのときはそのときさ。

 しかし…俺は無謀なことしてるのか?

「まだまだ足りないなぁ」

 まだ1mしかない…。

 先は長いぞ。

 再び作業に取り掛かろうとしたときだった。

シャリ…シャリ…

 雪を踏む音が聞こえてきた。

 こちらに向かってきている。

「久しぶりね、相沢君」

「3日前に昇降口であっただろ」

「3日も会わなければ、充分、久しぶりよ」

「そうなのか?」

「そうよ」

 栞の姉、美坂香里が俺の後ろに立っていた。

 きっといつものように胸の前で腕を組んでいるんだろう。

「何しに来たんだ?」

「相沢君は何しに来たの?」

「アイスを食べに来た」

「どこにあるのよ」

「実はこの雪玉の中にいれてあるんだ」

「ふ〜ん」

「…冗談だ」

「ふ〜ん」

「………」

「………」

「今日…何の日か覚えてるか?」

「……えぇ」

「そのためにな」

「……喜ぶわよ、きっと…」

 喜んで欲しいな…。

 でも…どうせなら…みんなで作りたかった。

「香里もやるか?」

「何を?」

「見ての通りのことだ」

「そうね…やめておくわ……」

 俺は香里の一言にショックを受けた。

 香里も一緒にやると思っていたから…。

「と思ったけど、あたしもやるわ」

「…サンキュな」

「相沢君のためだけじゃないわよ」

「そうだな」

 栞のため、そして…自分たちのために……。

「もう一つ雪玉を作ってくれ」

「わかったわ、大きさは?」 

「全長50mだ」

「やっぱりやめるわ」

「ぐぁ…」

「本気でやるの?」

「もちろんだ」

「ふぅ…しょうがないわね」

 よかった…ひとりじゃあどれくらいかかるか……。

 そして、二人は無言でただただ雪玉を転がし続けた。

            §

「………」

「………」

 俺は、このときをもって知ったことがある。

『無謀』

 ---という一言を

「それなりに頑張ったじゃない」

 冷たくなった手を息で暖めながら香里は俺に言った。

「でもな…」

「さすがに…これ以上は無理よ」

 俺は空を見上げるように上を見た。

 香里も一緒になって上を見上げる。

 その先には…約5mぐらいの雪だるまがある。

 結構、不気味だ。

「………」

「………」

「………」

「………」

「…思い出」

「え?」

 俺の方から沈黙の壁を破った。

「思い出だけじゃ…人は生きられないよな」

「相沢君……」

「その思い出が…よければいいほど…寂しくなるよな」

「後悔、してるの?」

「どうだろうな」

「そう」

「確かなのは、俺の中は栞で覆い尽くされてるってことだ」

「……そう」

 そんな間にも雪だるまは偉そうに立っている。

 残念だけど、10mはおろか、50mの大きさはできなかったよ。

 栞のところまで届かせようと思ったんだけどな…。

 そこは…あまりにも遠すぎる。















 それでも…







 ハッピーバースデー栞







 たとえこの場にはいなくても







 どこかからか見ていると信じてる







 またあの中庭に立ってて…







 アイスを食べて…







 絵を描いて…







 今度こそ10mの雪だるまを…







 ………夢見て………















fin














あとがき

  えっと…はじめまして、白川凍耶です

  一体、何が書きたかったんだろう…
  最初と大きく違う気がしないでもないでが…

  オチもないし…こんな駄文を送りつけて申し訳ないです

  とりあえずは、栞バッドED後です

  でも、シリアスは僕の型じゃないですね(苦笑)
  書くのに時間がかかりました(^^;

  ほのぼのらぶらぶのほうが書きやすいし……
  キャラがかぶり気味なのが悲しいところ(TT

  でも、まぁ…こんなもんかな

  感想、待ってます


 ☆ コメント ☆ 祐一 :「約束の雪だるまよりは、随分と小さくなっちまったな」 香里 :「仕方ないわ。いくらなんでも10メートルは無理よ」 祐一 :「そうかもしれないけどな。……でも……作ってやりたかった」 香里 :「……そうね」 祐一 :「約束だったからな。……守ってやりたかったよ」 香里 :「……うん」 祐一 :「ところで……話はガラッと変わるが、      今から、この雪だるまに名前を付けてやりたいと思う」 香里 :「ほ、本当に唐突に話を変えたわね」 祐一 :「気にするな」 香里 :「……いいけどね、別に。      それで? 何て言う名前を付けるつもりなの?」 祐一 :「『栞』、だ」 香里 :「…………『栞』?」 祐一 :「そう。この雪だるまの名前は『栞』だ。そう決めた」 香里 :「…………そのこころは?」 祐一 :「小さいから」 香里 :「なるほどね。すっごく納得」 祐一 :「だろ?」 香里 :「ええ」    :(そんなこと言う人、嫌いです) 祐一 :「え!?」 香里 :「!!」 祐一 :「い、今のって……」 香里 :「間違いなく……の声よね」 祐一 :「…………あ、あいつ……聞いてやがったな」 香里 :「…………み、みたいね」 祐一 :「しょうがねーやつだなぁ」 香里 :「まったくだわ」    :(くすくす) 祐一 :「……ったく」 香里 :「ふふ」 祐一 :「ま、いっか。聞いてるなら丁度いいしな」 香里 :「そうね。あたしたち、栞に言いたい事があるし」    :(???) 祐一 :「……栞、誕生日おめでとう」 香里 :「おめでとう、栞」 祐一 :「俺……お前のこと、いつまでも忘れないからな」 香里 :「ずっと……ずっと……大好きだから、ね」    :(……祐一さん……お姉ちゃん。      ありがとう。すっごく……嬉しい。      わたしも……ふたりのこと……ずっと……ずーっと……大好きだよ)



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