ある夏の日、一人の青年が隆山駅のホームに降り立った。
 青年はゆっくりと空を見上げると、大きくのびをしながらつぶやいた。
「う、うーん……ふう、隆山か。ほんと久しぶりだよな。九年ぶりの再会、か。
みんな、どんな人になってるのかな」
 青年の名は柏木耕一。
 この物語の主人公である。






「痕」二次小説

梓が奏でる狂詩曲(ラプソディー)







 柏木耕一は東京で一人暮らしをしている大学生である。
 そんな彼がなぜこの隆山を訪れているのかというと、ここが彼の父親の実家で
あり、かつ数週間前に急死したその父の四九日の法用がここで行われるためであ
る。
「親父が死んだ、しかももうすぐ四九日。でもな、どうも実感がわかないんだよ
な。まあ、仕方ないか。なんだかんだ言って、あんまり会ってなかったもんな」
 実の親の死に対してはいささか非常識な言葉かもしれないが、耕一がこう言う
のも無理はなかった。
 なぜなら、実際耕一は父親と九年間、ほとんど会っていなかったのだから。

 耕一の父は、ここ隆山にある企業グループ「鶴来屋」の会長だった。
 元々は彼の兄が「鶴来屋」の会長だったのだが、その兄が妻とともに突然の事
故で亡くなってしまったため、急遽耕一の父がその後を継ぐ必要が生じてしまっ
たのだ。
 さらに彼は兄夫婦が遺した四人の子供「千鶴、梓、楓、初音」の保護者を引き
受けることと、彼女たちとともに隆山で暮らすことも決意した。
 だがその際、彼は単身赴任として一人で隆山へ赴き、妻と息子である耕一は東
京に住んだままだった。
 そこには耕一の修学問題や他の様々なことが理由として存在したのだが、とに
かくそれ以来九年間、耕一は父親と離れて暮らすことになった。
 しかも悪いことに「鶴来屋」の会長職とは非常に多忙なものであった。
 そのため、一年に数回は夫と会うことができた耕一の母はともかく、九年間に
耕一と父親がきちんと会ったのは、二年前の耕一の母の葬儀の時、ただ一度だけ
だった。
「いまさら死んだって言っても、よくわからないっていうのが本音なんだよな。
ま、夏休みだしな、旅行がてら四九日ぐらい行ってやるか」
 したがって耕一が突然の父親の死による葬式よりも、そのときあった学校の試
験を優先し、夏休みにある四九日の法用に参列しようと思ったのもある意味仕方
のないことかもしれなかった。



 一時間後、耕一は数週間前まで父親が住んでいた家、そして現在も彼の従姉妹
たちが住む家である柏木家に着いた。

 柏木家。
 鶴来屋代々の会長宅であるこの家は、家と言うよりもむしろ屋敷と呼んだ方が
いいほどの、巨大な邸宅である。
 その門の前に立った耕一はぐるっと周りを見渡した。
 大きな門、長い塀。
 その塀の向こうに見える広い庭。
 そして、その庭を見下ろすように立っている巨大な家屋。
 決して華美ではなく、周囲の自然に溶け込んでいるような落ち着いた雰囲気を
醸し出しており、屋敷全体が一つの芸術品と呼ぶにふさわしい物だった。

 周りを見渡した耕一は、一つ、感心したようなため息をついた。
「ほぉ、やっぱり今見てもでっかい家だな」
 九年前、初めてこの家を見たときとまったく同じ感想を漏らした耕一は、やや
緊張した面持ちでインターホンを鳴らした。

 ピンポーン。
 静かな家に鳴り響くインターホンが耕一の耳にも聞こえた。
 インターホンが鳴り終わると、すぐにそこから女性の声がした。
「はあい、どちらさまですか?」
「耕一です、柏木耕一です」
 耕一が名を名乗るとすぐに家の門が開き、やや幼い感じのする美少女が現れた。
「耕一お兄ちゃんだよね!? いらっしゃい!」
 少女はにっこりと微笑んだ。
 耕一も少女に微笑み返した。
「こんにちは。お久しぶり、初音ちゃん、だね」
「うん! みんな待ってたよ。ねえ、早く上がってよ」
 耕一は初音に手を引っ張られ、家に上がった。

 初音に連れられて柏木家の居間に着いた耕一を待っていたのは、三人の美しい
女性だった。
「こんにちは。みんな、お久しぶり」
 耕一は笑顔であいさつをした。
 そこにいる女性たちも、耕一に笑顔であいさつを返した。
「いらっしゃい、耕一さん。さ、疲れたでしょう。荷物を置いてくつろいでくだ
さい」
 三人の女性の中の一人、長髪の女性が耕一に近づいた。
「お久しぶり、千鶴さん」
「わざわざ東京から、よく来てくださいました。ありがとうございます」
 その女性、千鶴に頭を下げられた耕一は、ぶんぶんと手を振った。
「千鶴さん、そんなやめてよ。俺、本当は葬式に出なくちゃいけなかったのに、
それにも出なかったんだから。だから、親父の四九日ぐらい出るのは当然、お礼
を言われるようなことはしてないんだからさ。とりあえず、これからしばらくお
世話になるから、どうぞ、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」

 千鶴とのあいさつを終えカバンを下ろした耕一は、畳に座るとおかっぱ頭の高
校生ぐらいの女性にあいさつをした。
「こんにちは、楓ちゃん、だよね。元気だった?」
「はい。お久しぶりです、耕一さんもお元気でしたか?」
「うん、体は丈夫だからね。ところで……」
 耕一はあたりを見回した。
「楓ちゃん、梓はどこ? 見あたらないけど」
「え? 何を言ってるんですか、耕一さん?」
「何って梓がどこにいるか、聞いてるんだけど」
 不思議そうにする楓に、同じく不思議そうにして耕一がたずねた。
「いないから言うけどさ、実は俺、梓にすっごく会いたかったんだ。やっぱり男
同士で話したいこともあったしさ。ん? 千鶴さん、こちら、お客さん?」
 耕一は真っ赤な顔をして自分の向かいに座っている、ショートカットの女性を
指さした。
 その女性が、三人の女性の中の最後の一人であった。
 耕一の言葉に千鶴は困ったような表情を浮かべた。
「え、いえ、そうじゃなくって……」
「どうしたの、千鶴さん?」
 千鶴の様子に耕一は不思議そうな顔をしながら、先ほどの女性に軽く頭を下げ
た。
「始めまして。俺、柏木耕一っていいます。こちらにいる千鶴さんたちの従姉弟
なんです。あの、よろしかったらお名前を教えていただけませんか?」
 耕一に話しかけられた女性は下を向いたまま、小さな声を出した。
「……梓……」
「梓? ああ、梓の知り合い? もしかして梓の彼女ですか? ああ、そうなん
ですか。へえ、梓の奴、こんなかわいい女性とつきあってるんだ。うらやましい
なあ。はは、すいません、失礼なこと言っちゃって」
 耕一は女性に頭を下げた。
「あの、すいませんが梓の奴、どこにいるかご存じないですか? 俺、あいつと
昔っから兄弟のように仲がよかったんですよ。だからあいつと早く会いたいんで
す。……あれ、どうかしました?」
 耕一は女性の様子がおかしいのに気づいた。
 女性は下を向いたまま拳をぷるぷると震わせていたのだ。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
 耕一の隣に座っていた初音が彼の服を引っ張った。
「ん? どうしたの、初音ちゃん?」
 初音は女性を指さした。
「こちら、梓、お姉ちゃん」
「え、本当に梓って名前なんですか。へぇ珍しいですね、つきあってる二人が同
じ名前なんて。まあしょうがないって言えばしょうがないか、梓って名前自体女
の子の名前だもんな。おじさんも、なんでそんな名前を男に付けたんだろう?」
 耕一は初音の言葉をそのまま受け取って、首を傾げた。
 初音は大きくため息をつくと、もう一度女性を指さした。
「だから、柏木梓、お姉ちゃん。この家の、次女」
 初音は「お姉ちゃん」の部分を強調して言った。
「え、それって……?」
 耕一は初音の言葉の意味を必死で理解しようとしながら、千鶴と楓を見た。
「耕一さん、私には妹しかいませんよ」
「うちの家族構成は、長女の千鶴姉さん、次女の梓姉さん、三女の私、四女の初
音の四人姉妹です」
「う、うそ、でしょ?」
「本当です」
 千鶴たち三人の声が重なった。
「え、え、え……ええ――!? だって、あず、さ、おと、え、お、女? 男がお
んな、で、弟が、妹で、おんなーのこーでー……あ、あは、あはははは、は、は
は、あ、は……」
 ようやく事の次第がわかったものの、驚きのあまりパニックを起こした耕一を、
三人はあきれ顔で見つめていた。
「耕一さん、梓は正真正銘、私の妹です」
「はは、はは。つ、つまり……もしかして、お、俺が今まで、男だと思っていた
梓は……」
「そ、梓お姉ちゃん。女だよ」
「…………」
 初音の言葉がとどめとなり、耕一は言葉を失い顔を引きつらせ始めた。

  ヒュ――。
 居間の中を吹く冷たい風。
 季節は真夏だというのに、家の中は氷点下になろうかというほど肌寒かった。
「納得、したか? 耕一……」
 問題の女性が耕一に話しかけた。
 その声はまるで地獄の底から響くようだった。
「は、はひ?」
 ぎぎぎ、と首の音を奇妙に鳴らして耕一は女性の方を向いた。
 いつの間にか女性は耕一のそばで、般若のような形相で立っていた。
 耕一はがたがたと震えながら立ち上がり、震える指で女性を指さした。
「も、もしかしてあなたが、あ、梓、さん。なの、か?」
 耕一の言葉に、女性はニヤリと笑みを浮かべた。
「ふふふ、よっく覚えときな耕一。あたしは……あたしは……女だ――――!!」
 バカ――ン!!
「どぅわ――――!!」
 ドゴンッ。
 女性の左拳が顔面にクリーンヒットし見事に吹っ飛んだ耕一は、庭に頭から激
突した。
 ちなみに、千鶴と楓がふすまを開けて耕一の通り道を確保していたため、家の
中に損害はなかった。
 さすが姉妹、こうなることはあらかじめ予測していたようである。
 一方、耕一は頭を地面に打ちつけた衝撃と梓の正体を知った驚きに、倒れたま
まがたがたとけいれんしていた。
「そそそんな、あ、あず、梓が、女だった、なん、て……」
 やっとのことでそこまで言うと、耕一は気を失った。
              


「う、ううん……」
 夜になって、ようやく耕一は目を覚ました。
「あ、いてててて……」
 目が覚めた耕一は頭を押さえて起きあがった。
「あ、だめですよ、耕一さん。急に起きあがったりしちゃ」
 そばで看病していた楓が、耕一の体を布団に押さえつけた。
「あれ、ここは……?」
 再び横になった耕一は、ぼうっとした頭で天井を見た。
「客間です。耕一さん、梓姉さんに殴られてそのまま気を失ってたんです」
 楓が耕一の額に濡れタオルを置きながら言った。
「そっか。でも、なんだったんだ、いったい? なんで一発殴られたぐらいで、
いてて、あそこまで飛ばされるんだ? 楓ちゃん、梓っていったいなんなの?」
 耕一は首を動かして楓の方を見た。
「え、そ、それは……」
 楓は困ったように顔を伏せた。
「どうしたの、何か変なこと聞いた?」
「えっと、そういうわけじゃ……」
「言いにくそうだね。ねえ、梓に何か本当にまずいことでもあるの?」
「ですから……」
「楓ちゃん……」
 楓の辛そうな表情を見ては、耕一にそれ以上の追求は無理だった。
「仕方ない。もういいよ、無理に聞くのも悪いからね」
「すいません、耕一さん」
 楓は申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいってば。……ねえ、そんなことよりもっと聞きたいことがあったんだ。あ
のさ、本当に梓って女の子なの? 本当に男じゃないの?」
 耕一はぱっと起きあがって楓を見つめた。
 耕一にとっては梓が女性かどうかの方が、自分が一発のパンチで数メートル吹
き飛ばされたことよりも気になることらしい。
「ああ、そのことですか。そのことなら――」
「本当だよ、お兄ちゃん!」
 突然、がらっと客間のふすまが開き、初音と千鶴が入ってきた。
「初音ちゃん、千鶴さん」
 二人は、耕一のそばに座った。
「本当に梓は女の子なの?」
「はい」
 二人は、耕一の質問にうなずいた。
「これ見て、お兄ちゃん」
 初音が耕一に一冊のアルバムを見せた。
「これは?」
「我が家のアルバムです。ほら、これが耕一さんが私たちと会った九年前の写真
です」
 千鶴が一枚の写真を指さした。
 そこには、幼い頃の千鶴たち四人と耕一の、五人が並んで写っていた。
 耕一はその写真を見ると、懐かしそうに目を細めた。
「あ、この写真、懐かしいな。そうそう、確か俺が帰る日にみんなで撮ったんだ
よね。梓の奴『帰るな、耕一!』なんて言って、おじさんたちを困らせてたっけ」
「見ましたね、耕一さん」
「う、うん」
 千鶴はページをめくって別の写真を指さした。
「これは、梓が小学校六年生のときです」
「うん、これはわかるよ。でもやっぱりズボンはいてるし、男の子に見えるけど」
「で、これが中学校に入学したときです」
 千鶴が別の写真を指さしたとき、耕一の顔色が変わった。
「これは!」
 その写真には、まぎれもなく、先ほどの少年っぽい女の子がセーラー服を着た
姿が写っていた。
「梓、だよね」
 千鶴は黙ってうなずくと、さらに次々に写真を見せていった。
 耕一は黙ってその写真を見続けた。
 アルバムの中の写真には、少年っぽかった梓が、徐々に美しい女性に成長して
いく様子が写し出されていた。
 アルバムを見終わった耕一はため息をついた。
「本当にあの娘が梓、だったんだ」
「その様子だと、今まで本当にわからなかったんですね、耕一さん」
「うん……でも俺、梓に悪いことしたな。ずっと男だと思ってたんだから」
 辛そうに下を向いた耕一の肩を、初音がぽんと叩いた。
「まあ、確かにお兄ちゃんが悪いけどわざとじゃないんだし、謝れば梓お姉ちゃ
んも許してくれるよ」
「そう、かな?」
「大丈夫ですよ、耕一さん。あの娘、乱暴者だけど、根は素直ないい娘ですから」
「乱暴者、ですけどいい姉ですよ」
 なにげに「乱暴者」という言葉を使う千鶴たちに、耕一は苦笑しながらうなず
いた。
「うん、わかった。じゃあ俺、梓に謝ってくる。梓は今どこ?」
「あ、お姉ちゃん今お風呂に入ってるから、脱衣所のドアの近くで待ってたら」
「脱衣所のドアの近くで?」
「待ち伏せでもしないと、今日の梓お姉ちゃん、耕一お兄ちゃんに会ってくれそ
うもないからね」
 初音はいたずらっぽく笑った。
「でもそんなことして、痴漢かなんかと勘違いされたらまずいし」
「はい、これ」
 千鶴が耕一に着替えの服を渡した。
「梓の次に耕一さんがお風呂に入ればいいんです。だったら、耕一さんがお風呂
場の近くにいてもなんの問題もないですからね。さ、行ってらっしゃい耕一さん」
「う、うん……」
 耕一は部屋から出ていった。
「あ、そうだ」
 部屋から出た耕一は少しだけふすまを開けて千鶴に手招きをした。
「千鶴さん、ちょっと」
「はい?」
 千鶴はそのまま廊下に出た。
 ふすまを閉めた耕一は千鶴に小声で話しかけた。
「あのさ、もう一つ千鶴さんに聞きたいことがあったんだ」
「はぁ。なんですか?」
「梓のあの力のことだよ」
「ち、力、ですか?」
 千鶴は少しだけ目を逸らせた。
 だが耕一はそれにかまわず千鶴にたずねた。
「俺を殴ったときの梓のあの力。どう考えたって、女の子、いや、人間の力じゃ
なかった。いったいどういうことなの? さっき楓ちゃんに聞いたとき、楓ちゃ
んは言ってくれなかったけど、千鶴さんなら言ってくれるだろ?」
 耕一に問いつめられた千鶴は上目遣いに耕一を見上げた。
「あの、耕一さん。どうしても聞きたいですか?」
「うん。すっごく興味があるし、俺もただ殴られ損はいやだし。せめて理由ぐら
いは知りたい。でも、さっきの楓ちゃんの態度といい、今の千鶴さんのじらし方
といい、やっぱり何か梓には秘密があるんだね。なんなの、いったい?」
 しばらく黙ったあと、千鶴は耕一に答える変わりにすっとふすまを開けた。
「あ……」
 そこには、ふすまに耳をつけるようにして立っている楓と初音がいた。
 千鶴は楓と初音にたずねた。
「二人の意見は?」
「ここまで言われれば仕方ありません」
「別にいいと思うけど」
 それを聞いた千鶴は、はぁっとため息をついた。
「わかりました。耕一さんがそこまで言うんならお話ししましょう。あの娘は、
梓は実は普通の人間ではありません」
「え!? ほ、本当!?」
「はい。そして人間でないのは私も楓も初音もです。もちろん耕一さん、あなた
も。柏木家の血を引く者は、全員普通の人間ではありません」
 千鶴の話を聞いた耕一は呆然とした。
「なんなの、それ? みんな人間じゃないって、俺もって……」
「私たち柏木家の人間の祖先は、エルクゥと呼ばれる宇宙人なんです。地球人か
らは、鬼と呼ばれてますけど」
「宇宙人? 鬼? それが俺だっていうの?」
「詳しくは私も知りませんが、どうも昔エルクゥという宇宙人が地球に来て、そ
のまま住み着いちゃったそうなんです。で、私たちはその子孫で、しかもたまた
ま柏木の人間は今でもエルクゥの力を使うことができる、と」
「エルクゥの力、か。それがあの梓の怪力」
「はい。エルクゥの力とは、並はずれた運動神経とテレパシー能力のことです」
「ふーん。でも、俺はそんなことちっとも知らなかったし、使ったこともないけ
どな。じゃあ、俺は使えないってこと?」
「いえ、そんなことはありません。ただ、慣れていないだけです。ちょっと練習
すればいいんですよ」
「とすると、千鶴さんたちはみんな練習した、ということなんだ」
「はい。そういうことです」
「梓も練習したんだよね」
「は、はい。ですがあの娘、興奮すると、すぐ力の制御ができなくなるみたいで」
「それはまずいな。やっぱりこんな力のことは、世間には隠しておかなくちゃい
けないんだろ?」
「はい。あの娘にもいつも注意しているんですけど。なかなか言うことを聞いて
くれなくて」
「そっ、か……宇宙人……か……」
 耕一は下を向いて黙り込んだ。
 自分たちの経験から、耕一もかなりのショックを受けたのだと思った千鶴たち
は何も言わなかった。
 やがて耕一は、頭をぶんぶんと振って顔を上げた。
「……うん、ありがとう千鶴さん。ようやく謎が解けて、すっきりしたよ」
「え? あの耕一さん、ショックはないんですか?」
「ショック? まあ、確かにないと言えばうそになるけど……別に人間を捨てる
わけじゃないんだろ?」
「はい」
「力さえ使わなきゃ人間として生きていけるし、人間と結婚だってできるんだろ?」
「それはもちろん。私たちの両親がそうでしたから」
「なら、悩むことなんてないよ。悩んだってなんにも始まらないからね。それに
あんなすごい力、あったら結構おもしろそうだし。はは、プラス思考、プラス思
考!」
「耕一さんがそうおっしゃるのなら……」
 千鶴は困ったような顔をして耕一を見た。
「そうだ、その力の使い方ってどうやるの?」
「え? あ、少し待っててください」
 千鶴は自分の部屋に走っていった。
 しばらくして何かを持った千鶴が戻ってきた。
「そのことはこれに書かれています。おじさまが私たちと耕一さんのために書い
た物です」
 千鶴は一冊の本を耕一に見せた。
「げっ」
 その本を見た瞬間、耕一は声を詰まらせた。
 千鶴の手にあったのは、市販品と思えるほどしっかりした上製本だった。
  白い表紙に金色の文字でタイトルと著者名が丁寧に書かれていた。
 著者が耕一の父というのはいいのだが、耕一を絶句させたのは、
「……なんなの、このふざけたタイトルは?」
 タイトル部分に「三日でマスター、鬼の力の使い方」という文字が書いてある
ことだった。
 耕一はジト目で千鶴と本を見た。
 千鶴はその視線に困ったような笑みを浮かべた。
「さあ、こういうのはおじさまの趣味みたいですから……とにかく、これを差し
上げますから早く使い方を覚えてくださいね。へたに暴走したりする前に」
「暴走?」
「はい。まあ、暴走とは言ってもさっきの梓みたいなことなんですけどね。要す
るに切れたというやつです。それは本当に困りますから」
「うん、わかったよ。でもこの本、本当にもらっていいの? なんか親父の形見
みたいなものなのに」
「はい、私たちはもうすっかり覚えてしまいましたから」
「そう、ありがとう千鶴さん。じゃあこれ、もらっておくよ」
 耕一は部屋に入り、本をカバンの中に入れた。
「それじゃ疑問も一つ解決したことだし、梓に謝ってくるか」
 耕一は風呂場に向かった。

 耕一が立ち去ったあと、千鶴たちは居間に戻り声を潜めて話を始めた。
「千鶴姉さん、耕一さんは本当に事の重大性がわかっているんでしょうか?」
「さあ? わからないわ。でも、なんとなく大丈夫な気がするけど」
「ですが、魔女狩りのように、昔から特異な力を持つ者は世間から疎まれていま
す。もし、耕一さんが人前でむやみに鬼の力を使ったりすれば、耕一さんは……」
 楓は顔を曇らせた。
 そんな楓を見て初音は笑みを作り、楓に笑いかけた。
「ほらお姉ちゃん、そんなに心配しないの。わたしたちが心配したって始まらな
いし。大丈夫だって、ね、お兄ちゃんを信じるしかないよ!」
「……そうね。ありがとう、初音」
 初音の励ましに、楓は少し笑みを浮かべた。



 耕一が脱衣場の近くへ行くと、ちょうど風呂あがりの梓が脱衣場から出てきた
ところだった。
「あ、梓……」
「耕一……」
 二人はしばらく無言で見つめ合った。
「あの、梓」
「なんだよ」
「さっきは、ごめん。俺、本当に昔からお前のことを男だと思ってたから。その、
だから……」
「もういい。気にしてないから」
「でも……」
「いいって」
 なおも話を続けようとする耕一を、梓が制した。
「本当に、もういいから。それよりも耕一。あのときあんたが言ったこと、あれ
は全部本音、なの?」
 梓は耕一から目を逸らせて、ぽつりとたずねた。
「え、何が?」
「だから、その、いろいろ言ってたろ? だから、その……」
「えっと……ああ、間違いないぞ、たぶん。あのときは気が動転してたから、な
んにも考えずに言ってたと思うから。本音だろ、うん」
 耕一は必死に昼間の自分の思考を思い出しながら言った。
「本当に?」
 梓は耕一に顔を近づけた。
「あ、ああ。間違いない」
 その言葉を聞いたとたん、梓はぱあっと顔を明るくした。
「そ、そうか。うん、それだけ聞ければいいんだ、うん」
 梓はそのまま鼻歌混じりに自分の部屋へ歩いていった。
「なんなんだ、あいつ?」
 もちろん耕一の記憶からは、自分が梓のことを「かわいい」と言ったことなど
は完璧に消えていた。
 耕一は梓の行動に若干の疑問を持ったが、とりあえず梓と仲直りするという目
的は達せられたので、安心して風呂に入った。

 ちゃぽん。
 体を洗った耕一は湯船に浸かりながら、今日起こった出来事を整理していた。
「ふぅ、ほんとに今日はいろんなことがあったよな。みんなに再会して、梓の正
体を知って、梓に殴られて、思いっきり吹っ飛んで……俺が実は宇宙人だってわ
かって……ありすぎだな。……でもやっぱり、一番驚いたのは」
 耕一は、ほうっと天井を見上げた。
「梓が女の子だったこと、だよな。うーん、なんか変な感じだな、まだ信じられ
ない」
 そう言いながら耕一は、先ほど会った、風呂あがりの梓の姿を思い出した。
  少し子供っぽいがかわいらしいグリーンのパジャマを身につけ、風呂あがりで
顔を紅潮させていた梓の姿は、とてもかわいらしかった。
「梓が、女の子、か……」
 梓の顔を思い出したとたん一瞬で頬を紅くした耕一は、ぶくぶくと音を立てな
がら湯船に沈んだ。
「ちくしょう、梓のやつ……反則だぞ、あれは……」

 そのころ、梓は軽い足取りで部屋へ向かっていた。
「ふんふんふーん……」
「梓どうしたの、ご機嫌じゃない。いいことがあったの?」
 居間から出てきた千鶴が、梓に話しかけた。
 梓は白々しく千鶴から顔を逸らせた。
「え? いや、べっつにー」
 梓の態度をじっと見ていた千鶴は、納得したようにうなずいた。
「あ、なるほどね。そう、耕一さんと仲直りしたの。よかったわね」
「え、な、なんで? なんでわかったんだ?」
 梓は目を丸くして千鶴に話しかけた。
「簡単なことよ。あなたって、昔からそうだったもの」
「そ、そうなの?」
「ええ。ふふ、本当にわかりやすい娘ね。とにかく、耕一さんと仲直りできたん
でしょ、よかったわね」
「う、うん。迷惑かけてごめん、千鶴姉」
 梓はうなずいて部屋に戻った。

 梓がいなくなったあと、二人の会話を聞いていた楓と初音が千鶴に話しかけた。
「耕一お兄ちゃん、梓お姉ちゃんと仲直りできたんだ。よかった」
「そうみたいね。これで二人も一安心ってところかしら」
「はい。ですが、なんとなく引っかかる物があるんですが……」
 そうつぶやいて不安そうにした楓に初音が話しかけた。
「引っかかる物って? そんな物あったっけ?」
「ないわよ、たぶん」
「じゃあ、なんでそんな事言うの?」
「なんとなく、よ」
 楓は寂しそうに微笑んだ。



 それから二週間がすぎた。
 その間、様々な出来事があったが、それらは全て彼ら五人の仲の良さを再確認
させるものでしかなかった。
 そう、彼らは本当に仲がよかった。
 それこそともに長年暮らしてきた、本当の家族のように仲がよかった。

 ただ一つの例外を除けば、の話だったが。



「ただいまー。……ん、もしかして、また?」
 ある日曜日の午後、ショッピングから帰ってきた初音を迎えたのは、すさまじ
い怒鳴り声だった。
「どうしてお前にそんなこと言われなくちゃいけないんだ!」
「事実だろ!」
「どこが事実だ、どこが!」
「最初っから最後までぜーんぶ事実だよ!」
「やれやれ……」
 初音はあきれたような声を出しながら、大きく首を横に振った。

「あの二人、またやってるの?」
 初音はため息をつきながら居間に入ってきた。
 その初音に、楓が同じくため息をつきながら答えた。
「お帰り初音。そ、また」
「これで十日間連続だよね。飽きないのかな、二人とも」
「飽きる、とか以前の問題ね。ここまできたら日常生活の一部って感じ」
「日常茶飯事だからね、二人のけんかは」
 けんかをしていたのは耕一と梓だった。
 この二人、なぜか馬が合わないらしく、毎日のようにけんかをしていた。
 けんかの理由は様々だが、お互いに言わせれば、相手が悪いということになる。
 だが、客観的に見れば、毎日のように梓が耕一に突っかかってるとしか見えな
かった。
 始まり方が似たようなものなら、終わり方も似たようなもので、五分ほど言い
合いを続けたあと、耕一が一方的にけんかをやめて梓がふてくされて、というパ
ターンを続けていた。

 ところが、
「今日はずいぶん長いような気がするけど、もう何分けんかしてるの?」
「うーんと……あ、もう二十分!」
「ええ!」
 この日のけんかはいつもと違い、なかなか耕一がけんかをやめずにかれこれも
う二十分もけんかが続いていた。
「まずいんじゃないかな?」
「うーん、そうね。初音、千鶴姉さんを呼んできて。いいかげん止めないと」
「うん」
 さすがにまずいと判断した二人は、この家で唯一耕一と梓のけんかの仲裁がで
きる千鶴を部屋に呼ぶことにした。

「楓お姉ちゃん、呼んできたよ」
 数分後、初音が千鶴を連れて居間に戻ってきたが、事態は悪い方向へ向かって
いた。
 二人の口喧嘩はますますエスカレートしていたのだ。
「だからどうしていつもいつも、いつもいつもいつもいつもいつもいつも、お前
は俺に突っかかってくるんだよ!」
「耕一が悪いんだろ!」
「俺の何が悪い、お前になんの迷惑をかけたんだ。具体的に言ってみろ! それ
に、お前の言い方通りだったら、俺の行動は全てにおいて悪いってことになるぞ。
俺は犯罪者か何かか!」
「そ、それは……そう、そうだよ。耕一の行動は全部悪いんだ!」
「んだとー、よりにもよってそう言うか? 悪いって言ったってそれはお前の価
値観だろうが。いちいち俺にまでお前の価値観を押しつけるな!」
「押しつけてなんかいないだろ!」
「いいや、絶対押しつけてる! だいたいお前は調子乗りすぎなんだよ!」
「なんだよ、それ! あたしがいつ調子に乗ってたって言うんだ!」
「ずうっとだよ、ずうっと。お前が女だとわかってちょっと俺が下手に出てりゃ、
どんどん調子に乗って言いたい放題やりたい放題してるだろ。まったく、いいか
げんにしてほしいぜ!」
「うそだ! あんたがいつあたしに下手に出たんだ!」
「俺がこっちに来てからずうっとだろ。それなのにお前ときたら、ちょっとのこ
とでぎゃーぎゃーわめくわ、ぽんぽんぽんぽん俺を殴るわ。お前、ほんっとに女
か!」
 その言葉に梓は顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
「また言った! こんなかわいい娘捕まえてよくもそんなこと言ったな! あん
ただろ、あたしのことかわいいって言ったの!」
「この間も言っただろ。あれは言葉のあやだ、間違いだ! 記憶や日本の歴史か
ら抹消させろ! だいたい、なんで俺がお前なんかのことをかわいいと思わなく
ちゃいけないんだ。そこからしても調子に乗ってるだろ! かわいいっていう言
葉は、そこにいる初音ちゃんや楓ちゃん、千鶴さんのような清楚で可憐な女性の
ことを言うんだ。お前には似合わない!」
 耕一は丁寧に三人を指さしながら言った。
 梓は顔をさらに真っ赤にさせて怒鳴った。
「な……よ、よくも言ったな!! あんたなんてそんなことばっか言ってるから女
にももてないんだよ!!」
「そんなことお前に関係ないだろ! だいたいなんで俺に彼女がいないこと、お
前が知ってるんだ!」
「あんたのことなんかなんでも知ってるよ! お見通しなんだよ!」
「だあーっもう、ストーカーかお前は! じゃあお前はどうなんだ? 俺がもて
ないとかなんとか言ってるけど、お前はどうなんだよ!」
 梓は急に先ほどの勢いをなくし、耕一から目を逸らせながら話しだした。
 さらに、怒りで真っ赤になっていた顔も急速に元の色に戻っていた。
「あ、あたしは男なんか、その、興味ないから……その……だから……」
 耕一の顔をちらちらと見ながら、梓はぶつぶつとつぶやきだした。
 耕一は梓の態度に、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ははあーん、男が嫌いとかじゃなくって、女の子が好きなんじゃないのか、お
前?」
「は? なんでそうなるんだよ」
 梓は耕一をにらみつけた。
「お前みたいなタイプって結構同姓にもてるからな。ああ、そうかそうか。そう
いうことか。まあ、それならそれでいいんだがな」
 梓は言葉を詰まらせながら耕一をにらみ続けた。
「ぐっ。た、確かに学校の女子からはつきまとわれてるよ……でも、あたしはそ
んな趣味ない!」
「どうだか?」
 耕一はまだニヤニヤと笑みを浮かべ続けていた。
「ほんとにない! それに、もてるもてない以前に好きな人もいないあんたに、
そんなこと言われる筋合いないよ!」
「大きなお世話だ。じゃあ、そう言うお前は好きな人なんかいるのか?」
「そ、それは、その……」
「いるわけないよな。ま、わかってたけどな。ふむ、でも待てよ、興味あるな。
お前が好きになる男か……どんな奴だ? うーん、やっぱいるわけないか! は
はは、そうだよな。梓が好きになる男なんて、いるわけないわな」
 耕一が笑いながらそう言った瞬間、梓の顔から表情が消えた。
「耕一、それ、本気で言ってるのか?」
「ん?」
「あたしが人を好きになったら、そんなにおかしいんだ。ふうん、あたしは人を
好きになっちゃ、いけないんだ。恋愛なんて、しちゃいけないんだ。あんたは、
そう思ってるんだ。そうなんだ……」
 梓は自嘲気味につぶやくと、下を向き黙ってしまった。
 梓のその態度に驚いた耕一はあわてて彼女に声をかけた。
「ちょっと待てよ梓。俺はなにもそこまで言ってないぞ……あれ? お前、もし
かして……」
「……さい」
「へ?」
「うるさいうるさい、うるさ――い!!」
 梓の怒鳴り声のあまりの大きさに、耕一は耳をふさいだ。
「なんだよ、突然」
「なんであんたにそんなこと言われなくちゃいけないんだよ。あんたなんて男と
して最低だよ、顔も見たくない。耕一なんて、耕一なんて……大っ嫌いだ――!!」

 バ――ン!!
「いで!」
 梓は耕一の頬を大きな音を立ててはたくと、居間から飛び出した。
 耕一はその衝撃で床に叩きつけられた。
「あいつ、もしかして……」
 床に叩きつけられた耕一は先ほど見た、たった一つのことだけを考えながら気
を失った。

「楓、初音。耕一さんをお願い、私は梓の方を見てくるわ!」
 千鶴はそう言い残して居間から出ていった。



 残される形となった楓と初音は、とりあえず耕一をあおむけに寝かせると、顔
だけを横に向けておいた。
 二人は耕一の頬の腫れに濡れタオルをあてると、じっと耕一の目が覚めるのを
待った。

「う、うーん……」
 数分後、耕一は目を覚ました。
「あれ? 俺、いったい……」
「耕一さん、覚えてますか? 梓姉さんに殴られたこと」
 楓がゆっくりと口を開いた。
「……殴られた……? ああ、そうか俺、梓とけんかして、それで……」
「はい、梓姉さんに殴られて、床に倒れて気絶したんです」
「そっか、まだまだ力の使い方が未熟だな、あれぐらいで気絶するなんて。よっ
と」
 耕一はゆっくりと体を起こした。
「楓ちゃん、初音ちゃん、ありがとう。また二人に面倒かけたね」
「そんな、別にいいよ。それよりも耕一お兄ちゃん。梓お姉ちゃんのこと、だけ
ど……」
「……何?」
 「梓」という名前を聞いて、耕一はばつが悪そうに初音にたずねた。
「どうして耕一お兄ちゃんって、梓お姉ちゃんとけんかばっかりするの?」
「それは……」
 耕一は口ごもった。
「わたし、梓お姉ちゃんも耕一お兄ちゃんも大好きだよ。だから、二人にも仲良
くしてもらいたいのに。ねえ、どうして?」
 初音の大きな瞳にまっすぐ見つめられた耕一は、ため息をついた。
「いや、俺だって別に梓とけんかがしたいわけじゃないい。けど、あいつが突っ
かかってくるもんだから、つい」
「それはそうかもしれないけど……」
「じゃあ耕一さん、今日のことはどう説明するんですか?」
 今まで黙っていた楓が口を開いた。
「今日の、こと?」
「はい。いくら梓姉さんから耕一さんにからんできたといっても、あれは言い過
ぎです。梓姉さんをあそこまで哀しませたあれを、つい言ってしまったというレ
ベルと呼べるんですか?」
 楓に問いつめられた耕一は顔を伏せた。
「……しょうがないだろ」
「しょうがないって……」
「俺だって、虫の居所が悪い日ぐらいある。あいつに毎日毎日わけのわからない
ことでごちゃごちゃ言われて、俺だってたまには言い返したいときだってあるさ」
「だけどお兄ちゃん、それでも言っていいことと悪いことがあるよ!」
「わかってる!!」
 耕一は思わず怒鳴った。
「お兄ちゃん……」
「耕一さん……」
 二人は思わず体をかたくしたが、耕一は二人の方を見ようとはしなかった。
「わかってるんだ。けど……あいつが相手だと、なぜか……」
 耕一は立ち上がった。
「耕一さん、どこへ?」
「二人ともごめん、せっかく心配してくれてるのに怒鳴ったりして。ちょっと、
一人にしてくれないかな」
「はい」
 耕一は居間をあとにしようとした。
 その去り際、楓が耕一に声をかけた。
「あの、耕一さん」
「何、かな?」
「耕一さんが梓姉さんのことをどう思っているかは、私は知りません。ですが、
耕一さんがどう思っていようと、どう接しようと、梓姉さんは女の子なんだって
ことを忘れないでほしいんです」
「そうだよ、お兄ちゃん。だから、早く梓お姉ちゃんと仲直りしてね」
「…………」
 耕一は何も答えずに居間から出ていった。
 居間には辛そうな顔をした楓と初音が残された。



 客間に着いた耕一は床にごろんと横になって、天井を見つめた。
 心に浮かぶのは、梓が居間から出ていったときの様子だけだった。
「あいつ、泣いてたよな……そう言えばガキの頃、親父にいっつも言われてたっ
け『耕一、男の子は絶対に女の子を泣かせちゃだめだ! それは最低の男のする
ことだ!』って」
 耕一は転がって横向けになった。
「考え方が古いんだよな、あの親父は。最近は女性の方が強いんだ。それに、自
分だって全然家に帰ってこなくて、お袋をずっと悲しませてたくせに……自分が
言ったんだろ、『女の子、それも好きな女の子だけは絶対に泣かせるな! その
子にだけは絶対に笑顔でいてもらえ!』って」
 耕一は再び天井を向いた。
「梓が泣いたところなんてめったに、いやほとんど見たことなかったよな……く
そっ!」
 ふいに、耕一の心に先ほどの楓の言葉が浮かんだ。
「梓も女の子、なんだよな……わかってたんだけど……」
 耕一はゆっくりと立ち上がった。
「謝った方が、いいよな。許しては、くれないだろうけど……」
 耕一はとぼとぼと客間を出ていった。



 耕一が楓たちと話をしているころ、梓は部屋のベッドにうつぶせになり、枕に
顔を埋めていた。
「耕一の、ばか……。耕一なんて、大っ嫌いだ……」
 こんこん。
 梓が物思いに沈んでいると、部屋のドアをノックする音がした。
「耕一? あたしはあんたの顔なんて二度と見る気なんかないんだ、どっか行っ
ちゃえ!」
 こんこん。
 しかし、再度ドアをノックする音がしたため梓は乱暴にドアを開けた。
「うるさい! 耕一……じゃない。千鶴姉」
 ドアの前に立っていた千鶴は梓に優しく微笑んだ。
「ちょっと、いいかしら?」

 千鶴は梓の部屋に入り床に座った。
 梓はベッドに腰掛けぶすっとしたまま千鶴に話かけた。
「で、なんの用だよ千鶴姉」
「あなたと話がしたくってね」
 千鶴は少しだけ微笑んだ。
「あたしはしたくない」
「あら、耕一さんとしか話したくないの?」
 梓は「耕一」という言葉を千鶴が口にしたとたん、怒りだした。
「なんでそこで耕一の名前がでてくるんだよ! あいつの話なんかするな!」
 しかし千鶴は梓の怒りなど意にも介さずに話を続けた。
「あら、どうして耕一さんの話をしちゃいけないの?」
「あいつが大っ嫌いだからだよ」
「素直じゃないわね」
「大きなお世話だ」
「ふーん、それは否定しないのね」
「くっ……いったいなんなんだよ、千鶴姉。言いたいことがあるんなら、はっき
り言ったらどうなんだ! 言っとくけど、あたしは耕一と仲直りする気なんて絶
対ないからな!」
 千鶴は梓の言葉にあきれたようなため息をついた。
「本当にかわいげのない娘ね。そんなことばかり言ったりしてるから、人を好き
にもなれないのよ」
「千鶴姉には関係ないだろ! だいたいなんで千鶴姉にまでそんなこと言われな
くちゃいけないんだよ!」
 自分に怒鳴る梓の顔を見て、千鶴は冷たく言い放った。
「あなた、今怒ってるわよね」
「当たり前だろ!」
「さっきは泣いてたわよね。耕一さんに言われたときは、泣いてたわよね。同じ
ことを言われたのに。どういうことかしら」
「え……」
「あなたが泣いたのなんて、本当に数えるほどしかないわ。お父さんやお母さん
が亡くなったとき、おじさまが亡くなったとき、本当に哀しいときにしかあなた
は涙を流さなかった」
「…………」
 梓は何も言わなかった。
 梓の反応を確かめながら、千鶴はさらに話を続けた。
「そんなあなたが『人を好きになれるわけがない』って耕一さんに言われただけ
で涙を流した。どういうことかしら」
「そ、それは……」
 梓は何かを言おうとしたが、途中で言うのをやめ、下を向いて黙ってしまった。
 千鶴はそんな梓の隣に座り、そっと彼女の頭を胸に抱き寄せた。
「千鶴姉、何を……?」
 梓は千鶴の行動が恥ずかしかった。
 だが、同時になぜだか心は落ち着いていった。
 千鶴の心音を聞いているうちにさっきまでのいらだちは消え、とても素直な気
持ちになれた。
 心を落ち着かせてくれる存在、母親とはこういうものなのかな、と梓は思った。

 千鶴は梓の頭をなでながら話しかけた。
「自分でもわからないんでしょう? どうしてか」
 梓はこくんとうなずいた。
「でも、とにかく哀しかったのよね。耕一さんに言われたってことが」
 梓は再びうなずいた。
「だから耕一さんに大嫌いなんて言ったのよね。でも、それは本当の気持ち? 
あなたは本当に耕一さんが嫌いなの?」
 梓はしばらく動かなかったが、やがてゆっくりと首を横に振った。
「やっと素直になってくれたわね。でも、あなたの気持ちを耕一さんは知らない
わ。もし耕一さんがあなたの言葉を本気だと思っていたらどうするの?」
 梓は千鶴を見上げた。
 その瞳には、不安とおびえが見られた。
 そのことを感じ取った千鶴は、優しく微笑んだ。
「本当にあなたを嫌いになって、あなたを避けるようになったらどうするの?」
 千鶴の言葉を聞いた瞬間、梓の心からは今まであった感情のほとんどが消えて
いった。
 先ほど千鶴に抱きしめられたときから、すでに怒りの感情は消えていたが、さ
らに哀しみや後悔という感情まで消えていった。
 梓の心は不安という感情で埋め尽くされ始めていた。
「い、いや……そんなの……いやだ……」
 梓は下を向き、絞り出すようにぽつりと声を出した。
「そう。じゃあ、早く仲直りしないとね」
 梓は一旦はうなずこうとしたが、ふいになにかに気づき首を横に振った。
「どうして?」
「…………」
 梓は何も言わなかった。
 ただ、ひたすら首を横に振っていた。
「言ってくれないとわからないわ」
 千鶴は梓を安心させるように、再び優しく語りかけた。
「だから教えて、お姉ちゃんに」
 梓は千鶴を見上げた。
 その瞳は再び涙で満たされていた。
 梓はその涙をこらえるようにしながら話し始めた。
「だって、あいつ、今でもあたしを男のように扱ってる。千鶴姉たちのことは、
女として見てるくせに、あいつは今でもあたしだけは、弟のように、見てる。そ
んなあいつと仲直りしたって、またけんかする、だけだよ」
「またってことは、今まで耕一さんとけんかしてた理由はそのことだったの?」
 梓はしばらく考えたあとでうなずいた。
「あいつの千鶴姉たちへの態度と、あたしへの態度が違うから。なんだかわから
ないけど、絶対、違う。そしたら腹が立って、つい耕一に、突っかかって……」
「そう。でもね、そうならないようにする、いい方法があるのよ」
「え?」
「少なくとも、耕一さんのあなたに対する態度を変える方法がね」
「どう、するの?」
 梓は不思議そうな顔をした。
「簡単なことよ。あなたから耕一さんに謝りなさい」
「え、そんなことで?」
 梓は意外そうに千鶴を見た。
「そんなことって、あなた今まで耕一さんとけんかしたときに自分から謝ったこ
とがある?」
「それは……ないよ……」
 梓は千鶴から目を逸らした。
「でしょ? つまり耕一さんの心の中で、あなたは絶対に自分から謝らない人間、
ということになっているの。だったらそのイメージを変えてあげればいいのよ」
「でも、本当にそんなことで?」
「大丈夫よ、男なんて単純なものよ。ちょっといつもと違う姿を見せるだけでこ
ろっといっちゃうんだから」
 千鶴はいたずらっぽく笑った。
「ね、耕一さんにあなたから謝りなさい。さっきはごめんなさいって。今までの
こともごめんなさいって。そうすれば仲直りはできるし、耕一さんのあなたへの
態度も変わるわよ。きっとね」
 梓はしばらく考えた後、ぱっと千鶴から離れてにっこりと笑った。
「わかった、やってみるよ。ありがとう、千鶴姉」
 千鶴も梓に微笑み返した。
「じゃあ、顔を洗ってから耕一さんに謝ってきなさい。そんな泣きはらした顔を
耕一さんに見せるわけにはいかないでしょ?」
「うん!」
 梓は部屋から出ていった。
 部屋で一人になった千鶴はぽつりとつぶやいた。
「ほんとにころっといっちゃうのよ、気になる娘が相手だと、特にね。耕一さん、
ふつつかな妹ですけど、梓のこと、よろしくお願いしますね」



 洗面所で顔を洗った梓は居間に行った。
 居間には楓と初音だけがいた。
「あれ、耕一は?」
「耕一お兄ちゃん、どっか行っちゃったよ。一人になりたいって」
「そう……」
 梓は居間を出て客間に行った。
 しかし、耕一はそこにもいなかった。
 落胆した梓は、とぼとぼと自分の部屋へ戻っていった。

「あれ?」
 自分の部屋のそばに来た梓は、部屋の前に立っている人物を見て驚いた。
「あ、梓」
「耕一……」
 部屋の前には立っていたのは耕一だった。
「どうして、ここに?」
 梓の問いに耕一は頭をかきながら話しだした。
「あ、あのさ……俺、お前に言わなきゃいけないことが――」
「待って!」
 耕一の言葉を梓が遮った。
「待って。あたしもあんたに話があるんだ。先にいい?」
「ああ。じゃあここで立ち話もなんだから、場所、変えよう」
 二人は黙って縁側へ行った。

 縁側へ着くと、二人はそこへ黙って座った。
 梓は耕一をじっと見つめた。
「あ、あの、耕一」
「なんだ?」
「そ、その……さっきは、ごめん、なさい」
「え?」
「それから、その、あたしから耕一に、いつも、突っかかってて、ご、ごめんな、
さ、い……」
 詰まりながらだが、梓は生まれて初めて耕一に自分から謝った。
「あ、ああ……」
 梓の謝罪が信じられなかった耕一は、しばらく呆然としていた。
 耕一の記憶の中で、梓が自分から謝ったことはただの一度もない。
 他人に対してはともかく、梓が耕一に対して自分から譲ったことは一度もない。
 どんなに自分が悪くても、梓は耕一にだけは自分から謝ったことがないのだ。
 ただひたすら自分の部屋にこもり、耕一が折れて謝りに来るのを待っていた。
 そして耕一が謝ると、必ずとてもうれしそうな顔をするのだった。
 耕一も、そのときのうれしそうな梓の顔は大好きだった。
 だが、今回は梓の方から謝っている。
 どう考えても耕一の方が悪いのに。
 一瞬、耕一は梓が何かたくらんでいるのでは、と思った。
 しかし先ほどの涙といい今の態度といい、梓の行動に裏があるとも思えなかっ
た。
 耕一の頭は完全にパニック状態になっていた。

  一方、梓の頭も混乱していた。
 千鶴のアドバイス通りに耕一に自分から謝ったのにもかかわらず、耕一がなん
のリアクションも返さなかったからだ。
 やはり耕一は自分と二度と顔を合わせたくないのか、そう思って不安になり始
めていた。
 冷静に考えれば、嫌いな相手にわざわざ会いに来る人間などいないことはわか
るはずなのだが、とにかく今の梓はどうしようもないほどの不安に襲われていた。
 たまらず梓は耕一に話しかけた。
「あ、あの耕一」
「え!」
 耕一は驚いたように梓を見た。
「な、なんだ?」
「あ、謝ってるんだけど……」
「あ、ああ」
「へん、じは……」
「そ、その……」
「うん」
「だから……」
「……うん」
「えっと……」
「…………うん」
 耕一がなかなか返事を言わないので梓の不安は徐々に大きくなり、それに反比
例して声は小さくなっていった。
 耕一は目を閉じて拳をぎゅっと握った。
「よし!」
「え?」
「梓!」
 耕一は目を開いて正座し、梓に向かい、彼女をじっと見つめた。
「お前から俺に謝るなんて、初めてだったからな。正直言って、驚いた。お前、
変わったんだな。全然、気づかなかった」
「…………」
 梓は何も答えなかったが、耕一はさらに話を続けた。
「すまない、梓。その、今日は本当に俺が全面的に悪いのに、お前から謝らせて。
親父から女の子を泣かせることだけは絶対にするなって言われてたのに、俺はお
前を泣かせた。本当にすまない。許してくれ、この通りだ」
 耕一は梓に向かって土下座した。
「え……」
 梓は驚いて何も言えなかった。
 ただ彼女が驚いたのは、耕一が自分のことを「女の子」と呼んだことに対して
であって、耕一の土下座に対してではなかったが。
 しばらく呆然としていた梓は、やがて耕一に話しかけた。
「そ、そんな。元々あたしがあんたに突っかかったのが原因なんだから。もうい
いよ」
 耕一は頭を上げた。
「ゆ、許してくれるのか?」
「うん、それに……って言ってくれたし……」
「うん?」
 梓の言葉がうまく聞き取れなかった耕一は梓に問い直した。
 しかし梓は頭を振って、耕一に答えようとはしなかった。
「い、いやなんでもないよ。とにかくこれで仲直り、だよな」
  梓は耕一に微笑みかけた。
「ああ」
 耕一も微笑み返した。
 二人はしばらくの間そうして見つめ合っていた。

「あ、あれ?」
 夕日をバックに見つめ合う二人。
 二人の瞳には、互いの顔しか映っていなかった。
 さらに夕日のせいなのか別の理由なのか、梓の頬は紅く染まっていた。
「あ、あ……」
 耕一は自分たちの状態がとてもまずいことに気づいた。
「あ、あわわわわ」
 耕一はあわてて立ち上がり梓に背を向け、わざとらしく大きくのびをした。
「う、う――ん。ああ、よかった。これで梓とのけんかも終わった。いやー、こ
の家の家事担当の梓を怒らせたままだったら、危うく食事抜きになるところだっ
たもんな。めでたしめでたしだ、な……うん?」
 耕一は自分の背後に強力な怒りのオーラを感じた。
「こ、う、い、ち……」
 背後から聞こえる低い声に、耕一はゆっくりと振り返った。
「はい?」
「あんたがあたしに謝ろうとした理由は、そんなことだったのか……」
「え。あ、しまった!」
 あわてて耕一は口を押さえたが、すでに彼の目の前の「鬼」は完全に臨戦態勢
に入っていた。
「耕一の……耕一の……ばか――――!!」

 ドッカ――ン!!
「のわ――――!!」
 梓の右のアッパーが見事に耕一の顎をとらえ、彼は大きく弧を描きながら庭に
飛んでいった。
「あんたは二日間、食事抜き!」
 庭に倒れている耕一に、すでに梓の言葉は聞こえていなかった。

 一方、千鶴、楓、初音の三人は、そんな二人の様子を廊下の角から眺めながら
ため息をついていた。
「まったく、あの二人は……」
「耕一さん、私の話をなんだと思っていたんでしょうか」
「さあ。耕一お兄ちゃんだからね」
 三人は再びため息をついた。
「梓、かなり怒ってたわね」
「ええ。あのアッパー、スピンまでかかってましたし、威力も申し分なさそうで
す。それに耕一さんの滞空時間、飛距離ともに新記録をマークしてます。あの様
子だと、耕一さんは本当に二日間食事抜き。いえ、もしかしたら三日間かも」
「可能性は高いね。でも、あのお姉ちゃんの顔見て」
 初音の指摘に、千鶴と楓は梓の顔を見た。
「とってもうれしそうな顔してるよ」
「そうね」
「あの二人、大丈夫みたいですね」
「これからも大変だとは思うけど」
「ええ。さ、私たちは居間に戻りましょう。梓にばれたら、大変よ」
 千鶴たちは居間に戻っていった。

 この日以来、梓と耕一のけんかの頻度はかなり減少した。
 しかしその反動からか、耕一が梓に殴られる回数は極端に増えることになって
しまった。



 一週間後、耕一は東京に帰っていった。

 帰りの電車の中、耕一は帰り際に初音にもらったフォトスタンドを見つめてい
た。
「みんな、また休みになったら遊びに来るからね」
 そのフォトスタンドの中にある物は、先日柏木四姉妹と耕一の五人で撮った写
真だった。
 しかし、耕一はこのとき知らなかった。
 この写真の裏に、ある女性の写真が一枚入っていることを。
 耕一がこのことに気づくのは、家に帰ってからである。

 さらに現在、その写真が耕一の財布に入っていることは、誰にも、もちろん写
真の女性には死んでも内緒、のはずだったのだが。

「ああー! なんであんたの財布にあたしの写真が入ってるんだよ!!」
「うるせえ! 事故だ!!」



<お終い>




〜あとがき〜

初音「こんにちはー! いつもかわいいみんなのアイドル、初音だよ!」
楓 「こんにちは。あの、い、いつも……きれいな……か、楓、で、す……」
初音「えっと、今回はいつもと趣向を変えて、わたしと楓お姉ちゃんがあとがき
   を担当させていただきます」
楓 「み、みなさん……よろしく、お願い、します……」
初音「どうしたの、お姉ちゃん。もっと明るくいかなきゃ。ね、わたしみたいに!」
楓 「そ、そんな……恥ずかしい……」
初音「もう、しょうがないな楓お姉ちゃんは。耕一お兄ちゃんの前以外ではやっ
   ぱり人見知りが激しいんだね」
楓 「は、初音の方がどうかしてるの。オリジナルとキャラが違いすぎる……」
初音「しょうがないじゃない。本編では全然活躍できなかったんだから。ここで
   その鬱憤を晴らさなきゃ!」
楓 「……初音ファンの方、こんな妹になってますけど怒らないでくださいね」
初音「えっと、ではまずは作者からのメッセージを言いたいんですが、その前に
   念のため一言。このお話は『柏木家の幸せ』とはなんの関係もない全く別
   のお話です、お間違えのないよう注意してください。では作者からのメッ
   セージ、『ラブコメを書きたかった』だそうです。以上」
楓 「それだけ?」
初音「それだけ」
楓 「でも」
初音「いいの。他にもなんかごちゃごちゃ書いてあるけど無視無視! 人気ナン
   バー1のわたしをないがしろにして、一番人気のない梓お姉ちゃんをヒロ
   インにする作者なんてポイポイなんだから!」
楓 「あ、だめじゃないの初音! 台本を破って投げ捨てたりしちゃ!」
初音「あ、ご、ごめんなさい」
楓 「まったく、ちゃんとゴミはゴミ箱に捨てなくちゃ。そういうちょっとした
   油断が地球を汚すのよ」
初音「…………」
楓 「どうしたの?」
初音「え、な、なんだかな、と思って……楓お姉ちゃんって、実は結構天然?」
楓 「……何か言った?」
初音「え? ううん、なんにも。そ、それよりも続き! 続きいきましょう! 
   ね、続き!」
楓 「どうしたの、声が震えてるわよ?」
初音「な、なんでもないって」
楓 「そう? じゃあ、続きいきましょうか」
初音「うん。えっとこの話についてなんですが……いったい何、この内容? 結
   局耕一お兄ちゃんと梓お姉ちゃん、キスの一つもしてないじゃないの。こ
   んなのラブコメっていうの?」
楓 「うーん、こういうのもありだと思うけど。それに二人だって、互いのこと
   嫌いじゃないんだし。続きがあればきっと」
初音「続きなんてないし、今時はやんないよ、こんな中学生みたいな恋愛なんて」
楓 「そうかな?」
初音「当然。話はむだに長いし、鬼の力だって、本当はすごくシリアスでまじめ
   ーな設定なのに、洒落にならないぐらいふざけた設定に変えちゃってるし。
   タイトルの意味もさっぱりわかんないし、なによりわたしと耕一お兄ちゃ
   んのラブシーンがない! 絶対評判悪いね、この話」
楓 「……はっきり言うのね。ま、確かに全部当たってるけど」
初音「当然。ということで、ここまで読んでくれた読者さんにお願いします。読
   者を楽しませることと、自分が楽しむことを勘違いしている作者に抗議の
   メールを送ってやってください。『続きなんて書かなくていいから、かわ
   いい初音ちゃんをヒロインにした話を書け。その方が数万倍おもしろいぞ』
   ってね。ちなみにメールアドレスはここだよ。
   さ、これでお仕事も終わり。ここにいてもつまんないし、そろそろ帰ろ。
   じゃあみなさん、意見のことお願いしますね。バイバーイ!」
楓 「あ、初音、行っちゃった……。じゃあ、私もこれで失礼します。それから
   みなさん、メールには『清楚で可憐な楓ちゃんと耕一さんをラブラブにし
   てほしい』と書いた方が絶対、有意義だと思いますよ、はい」



 ☆ コメント ☆ 綾香 :「あらら。耕一さんてばダメねぇ」(^ ^; セリオ:「梓さんを男性と間違えるなんて……」(;^_^A 綾香 :「まあ、気持ちは分からなくはないけどさ」(^ ^; セリオ:「ですね」(;^_^A 綾香 :「梓って行動派だし」(^^) セリオ:「元気ですよねぇ」(^^) 綾香 :「言葉遣いは悪いし」(^ ^; セリオ:「口は悪いですねぇ」(;^_^A 綾香 :「暴力的だし」(−−) セリオ:「確かに、すぐに手が出ます」(−−) 綾香 :「……………………」(−−; セリオ:「……………………」(−−; 綾香 :「耕一さんが間違えるのも無理無いわね」(−−;;; セリオ:「……そうですね」(−−;;;  ・  ・  ・  ・  ・ 耕一 :「そうだよなぁ。うんうん」(^^)  梓 :「あ、あんたらねぇ」(ーーメ



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