『手紙に託す決意』


 冬弥くんへ。

 あはは、冬弥くん、いきなりのお手紙で、びっくりした?
 ごめんね。ホントは直接会ってお話したいし、忙しくてそれが無理だったら、電話だっ
て別に良いんだけどね。
 けれどね、わたしの胸の中には冬弥くんとお話ししたいことが、ホントにホントにいっぱ
いありすぎちゃって、いざそれらを話そうとしたら、気持ちばかりが先走っちゃって、口
から出てくる言葉はどうでも良いようなことばかり、冬弥くんにホントに伝えたいことがな
にも言えなくなるの、ダメだよね、わたし馬鹿だから…ごめんなさい。
 って、わたし最初っから謝ってばかりだね…そんなつもりは無いのになぁ。やっぱり、
久しぶりに手紙なんか書くものだから、きっと調子が出ないんだね、失敗失敗、てへっ。
こつんと頭をこづいてから、お茶を一口飲んで、心を落ち着けよう。
 …さて、もう大丈夫かな?
 うん、落ち着いた、行けそう。
 それでえーっと、なにを書こうとしてたんだったかな?
 そうだね、まずはやっぱり挨拶だよね。
 それではあらためまして、お元気ですか冬弥くん。
 幸いにわたしの方は、大きな病気も怪我もありません。無病息災、大変結構なことです。
 季節の変わり目は、体の調子を崩しやすいから、健康には気をつけなきゃダメだよ。外
から帰ってきたら、うがいはちゃんとやろうね。
 え?今、言うことが年寄り臭いと思ったでしょ。言わなくったって分かるんだから、も
う。こういうのは、昔からの生活の知恵なんだから、馬鹿にしたらバチが当たるんだよ。
 病気なんかしたら、ホントに大変なんだから、簡単で手軽にやれることからやっていこ
うね。



 …最近、ふと気付くと昔を思い出しています。
 とても懐かしい…夢…。
 冬弥くんと出会った頃の、思い出の時代です。
 学校帰りに寄り道して、目的もないままブラブラと二人で公園を散歩した日や。
 おべんとうに凝りすぎちゃって、朝早くに起きたのに遅刻したときとか。でも、美味し
いと言って食べてくれた冬弥くんの笑顔が本当に嬉しかったあの時。
 遊園地でデートした、日曜日。
 夏、海に行って、日射しに焼けた冬弥くんとビーチボールで遊んだこと。
 縁日を見に行って、金魚すくい、射的、ヨーヨーすくいしたこと。初めて冬弥くんの前で
浴衣姿を見せるのは、ちょこっと恥ずかしかったです。夜空にひゅーんぱーんと鳴り響く
花火の大きな音と、ひらひらぱらぱらと色を変えながら広がる花が、とってもとっても綺
麗でした。
 文化祭のことは、憶えてますか?
 学校の屋外ステージで歌うことになったわたしのために、あなたは付きっきりで練習に
付き合ってくれました。おかげで、無事に本番を迎えることが出来ました。覚えの悪いわ
たしに愛想を尽かしたりせずに、冬弥くんは励ましてくれましたね。
 寒い日に、コンビニのおでんと肉まんはすっごく美味しくて、あなたと一緒によく食べ
ましたね。二人であったかいものを食べるのが、寒さに弱いわたしには、すっごい楽しか
ったんです。
 お互いのお誕生日にはケーキを買ってきて、未成年だけどシャンパンをあけて、大人の
雰囲気を味わいました。恥ずかしいけど、あの夜は、ホントに何一つ記憶に残っていませ
ん。そんなに飲んだつもりはないんですけど。気がついたら、冬弥くんが側にいてくれて、
わたしはそのとき状況がよく分からなくて、ただ顔を赤くしてしまいました。

 初めてキスをしたとき。
 それは…わたしの初めてのキスでもありました。
 思い起こすと、今でも胸がドキドキして、頬が熱くなります…。
 こうやってペンを握る手も震えちゃって…ごめんなさい、字が汚くなっちゃったね。
 薄暗い中で、唇が触れ合って…頭の中は訳が分からなくて泣きそうになって…でも…心
の中は暖かな幸せで満たしきっていました。
 冬弥くんの胸に、永遠に抱かれていたいと、真剣に思ったのです。

 わたしは、あの夜を忘れません。
 あのぬくもりを、生涯忘れることはないでしょう。
 だけど、一つだけ後悔をしていることがあるんです。
 あの日、ああなることが分かってたら、もっと可愛い下着をつけていったのになぁ。
 笑っちゃダメだよ。わたしホントに悩んだんだから。
 あんな子供っぽいので、冬弥くんが失望したんじゃないかって。
 今思えば、馬鹿なことで、恥ずかしいけど、それも時間が経てばいい思い出です。
 多分、さらに時が経てば、熟成されていつまでも心に残るアルバムの1ページになるの
だと思います。



 好きです。
 あなたが好きです。
 誰がどうだろうと、関係ありません。
 わたしの本当の気持ちを伝えます。
 今でも、わたしの気持ちは、何一つ変わってはいません。
 冬弥くんを思う心に、違いはありません。
 だから…だから…もう、躊躇いはありません。

 あなたを愛しています。



 それだけ…です。



 …まだ、続きが書きたいのに、何故か分かりませんが、涙が止まりません。このままだ
と便箋が濡れちゃうよぉ…。
 ちょっと待ってて下さい。涙が乾くのを待ってから、また書き始めます。

 …ダメ。
 こうやってペンを持つと、やっぱり涙が止めどなく流れてしまいます。

 …もう泣かないと、誓ったはずなのに…。



 ちょっと落ち着いたけど、けど、もうこうやって書いている時間があまりありません。
 だから、これで最後です。

 ずっと考えてきたんです。
 何が悪かったのか、何が間違っていたのか。
 原因を探し続けました。
 そうして、見つかったんです。それはホントに単純なことだったんです。
 都合の良いことばかりに目を向けて、見たくない現実から目をそらしていた。
 やっと分かったんです。今になってようやく、それに気付きました。
 同時に、心に決めました。
 わたしは、もう、逃げません。
 誰にも、何にも、自分にも、冬弥くんにも、芸能界にも、逃げません。
 自分をごまかした生き方はしたくありません。
 わたし、わがままになります。
 本当に欲しいものを、簡単に諦めてしまうような生き方をやめます。
 それが罪なことだったとしても…なら…わたしは、あえてその罪を犯します。
 泣いてばかりで暮らす生活と、決別します。
 そしてまた、あなたを背中からギュッと抱きしめます。
 大好きなあなたの広い背中に、顔を押しつけて、あなたの匂いに包まれて…。



 まだ、大丈夫だよね?



 信じてください。
 あなたを、心から愛しています。

 いきなりのお手紙ごめんなさい。
 迷惑だったらそう言ってください。

 さようなら。



                   森川由綺



―――(終わり)―――


 あとがき
 筆者は森川由綺萌えです〜。
 電波にこういう話を書けと命令されました(笑)





 ☆ コメント ☆ 綾香 :「手紙かぁ」 セリオ:「想いを伝えるのには最適ですね」 綾香 :「あたしも書いてみようかな。浩之に」(^^) セリオ:「いいですね。書きましょう書きましょう」(^0^) 綾香 :「ではでは。      えっと…………Dear浩之……」(^^) セリオ:「うんうん」(^^) 綾香 :「えっと…………えっと…………」(^^) セリオ:「…………」(^^) 綾香 :「えっと……………………えっと……………………」(^ ^; セリオ:「…………」(^ ^; 綾香 :「えーっと……………………えーっと……………………」(−−; セリオ:「…………」(−−; 綾香 :「やっぱり、自分の想いは直接言わなきゃね(ぽい)」(−−)ノ ◇ セリオ:「…………(なんだかなぁ)」(−−;



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