「冬弥君、TVデビューする気は無いかい?」
「はい?」
二千年代初めての年に俺たちは家族全員で初詣に出かけた(英二含む)。
その帰りに車の中でいきなり英二さんがこんな事を言い出した。
今思えばこの一言が俺のこの年の運命を大きく変える事になったのだ。

     ―if藤井たさい物語―
will be coming     
 white winter

「英二さん、新年いきなりキツイジョークですね」
「僕は本気なんだけどな」
「「「「「ええーーーー」」」」」
英二さんの言葉を聞いてそれまで色々と談笑していたみんなの(運転している弥生さんは除く)
驚きの声が狭いワゴンの中に響いた。
「英二さんそれ本当なんですか?」
「嘘でしょ兄さん」
「いやいや本気で考えているよ。前々から弥生さんには相談していたんだ」
「本当なんですか弥生さん」
「ええ、2ヶ月ほど前から相談を受けていました」
弥生さんは運転しながら俺の質問にあっけらかんとした声で答えた。
「冬弥君はじっくり見ると結構いい顔立ちしてるし、
 理奈や由綺ちゃんから聞いた話じゃけっこう音感も良いみたいじゃない。
 天下の緒方英二から誘われるなんてそう有る事じゃないよ」
「そんな事言われたって俺にそんな事出来るわけ無いじゃないですか。
 弥生さんもなんとか言ってくださいよ」
このままではヤバイと思った俺は弥生さんに助けを求めた。
「この事に関しては私なりに色々と考えたのですが…」
「うんうん」
「良い考えではないかと思います」
「うんうん………、え?」
な、な、な、なんですとーーーーーーーー!!!
思わず俺はゴ○ドー君のような心の悲鳴を上げて固まってしまった。
しかも後ろの方では…、
「冬弥君と一緒にお仕事って言うのも良いかも」
「なんだかんだ言っても兄さんは見込みの無い人なんかには今みたいな事言わない人だから
 意外といけるかも」
「ん、良いんじゃない面白そうで」
「大丈夫、大丈夫、冬弥さんかっこいいからあっという間にトップスターの仲間入りだよ」
「冬弥君こんな機会あんまり有る物じゃないからやるだけやってみたら」
…妻達はやる気満々だった。
「でも大学とかあるし…」
「大丈夫だよ冬弥君、私だって大学行きながらアイドルやってるもん」
この由綺の一言で俺の最後の城はあっけなく崩れ落ちた。

一月四日
下らないお正月番組の合間に日本の音楽界にショッキングなニュースが流れた。
すなわち緒方英二の新プロジェクトである。
そして今、英二さんがテレビに生出演している。
『今回も新たなアイドルのプロデュースですか?』
『いや今回はバンド路線で攻めていこうと思っているんですよ』
『何時頃のデビューになりますか?』
『どんなに遅くとも四月中には出したいと思っています』
『今回は特別な企画があるという事ですが…』
『はい、今回は二千年と言うこの年だけの限定活動にする予定です』
そうなのだ、あまりにも俺がごねたため一年間の限定活動という事になった。
しかしそこまでして俺を誘うとは英二さんも本気の様だ。
そしてバンドのメンバーは以下の様に決定した。
ボーカル 森川由綺、緒方理奈
ギター  藤井冬弥
ベース  緒方英二
勿論俺は今までギターなんて弾いた事はおろか触った事も無い。
この事に関しては英二さんが事務所の人にレッスンを頼んでくれる事になった。
由綺と理奈ちゃんは芸能界の礼儀や常識を色々と教えてくれた。
弥生さんは由綺に加えて俺のマネージャーもしてくれる事になった。
これは知らない人よりも親しい人の方がやり易いだろうという英二さんの配慮だそうだ。
そしてはるか、マナちゃん、美咲さんはレッスンの増えた由綺と理奈ちゃんの分の家事をしてくれたり、
レッスンに疲れた俺のマッサージをしてくれたりと色々な面で俺達を支えてくれた。
今まで色々と慣れている二人と違って俺は全くのど素人のため練習量は半端じゃなかった。
大学のほうは必須教科のみ出席という事にして練習に励んだ。
おかげで選択教科は全て落したがなんとか進級は由綺と二人揃ってできた。
春休みに入ってからはさらに練習量が増し家に帰るのは三日に一度ほどになった。
勿論回数は減るが家に帰れば夜に妻達の相手をするのは忘れなかった。
あまりの疲労の為一晩につき一人限定1ラウンドではあったが。
そして地獄のような日々が続きやっと俺がOKをもらえた。
その四日後にレコーディングを行った。
最初はやはり緊張して失敗の連続だった。

「ふー、午前中俺の失敗だけで終わっちまったなー」
俺は休み時間にスタジオの屋上に出て空を見上げながら一人ぼやいていた。
「やっぱ俺なんかじゃ無理なんじゃないかな…」
バタン
突然、屋上のドアが閉まる音がした。
俺が振り向くとそこには理奈ちゃんが立っていた。
「どうしてここに居るって分かったの」
俺は視線を空に戻しつつ尋ねた。
「由綺に聞いたら多分ここだろうからって言われた」
「そう…」
ぎゅっ
理奈ちゃんが俺の背後に来たかと思うといきなり抱きついてきた。
「理奈…ちゃん?」
理奈ちゃんのいきなりの抱擁に俺は動揺した。
「あのね、今じゃこんなんだけど昔は緊張して失敗ばかりだったんだ」
「そうなんだ…」
「でも何時も兄さんが見てたから、信じてくれてたから失敗しない様にって頑張った。
 今でも失敗しそうで怖い時があるけどそんな時は
 『私には冬弥君が付いているんだ』って自分に言い聞かせる様にしてるんだ」
「………」
「冬弥君には私や由綺やみんながついてるから大丈夫だよ」
「………」
ぎゅっ
俺は振り返り理奈ちゃんを力いっぱい抱きしめた。
「冬弥君?」
「ありがと、理奈ちゃん。そうだよな俺にはみんながついてるんだからこんぐらいで挫けちゃ駄目だよな」
「そうだよ」
「本当にありがと」
ちゅっ
「あっ…」
「これは励ましてくれたお礼」
「えへへ」

この理奈ちゃんの励ましのおかげで午後のレコーディングの俺の演奏は今まで出最高の出来だった。
帰宅後理奈ちゃんが皆にキスの事を話した為に俺はキスの嵐を降らす羽目になったのだが
これは全くの余談事である。

四月十三日
今日俺は初めてテレビ収録をする事になった。
『いいかい冬弥君、くれぐれも理奈や由綺ちゃんとの関係がばれるような行動、発言はしないでくれよ』
これがテレビ番組に出る時の英二さんからの唯一の忠告だった。
頭では分かっている事だが実際やるとなると何処でいつもの癖が出るかもしれないと
内心びくびくしながら収録が始まった。

「それでは本日の目玉『snow crystals』の皆さんです」
さぁ俺達の出番だ。
「さて、この『snow crystals』のメンバーについてですが
 森川由綺ちゃん、緒方理奈ちゃん、緒方英二さんについては皆さんにも説明する必要は無いでしょう。
 そこで今回は残りの一人藤井冬弥君について調べてみました。それをまとめたのがこのフリップです」
「男の事なんてどうでも良いじゃん中○君」
「なんつーこと言うんですかタ○さん、んな事したら又ギャラ下げられますよ」
「「「「「ぎゃははははは…」」」」」
進行役のこの二人のトークがこの番組の花だ。
しかしそうは分かっていても面と向かってああ言われるとムッとくるものがある。
芸能界に居ればこんな事はしょっちゅうあるんだろうな。
こんな事にも耐えられるなんて二人は本当に凄いよ。
「さて、気を取りなおしていきましょう。
 さてこちらのフリップを見て一番驚く事はなんと由綺ちゃんを出身高校と大学が一緒という事ですね」
う゛っ、やはりこのネタからきたか………
「二人は実は三年の時クラスも一緒だったという情報も入ってきてるんですが、
 本当の所はどうなんですか?」
「本当の事ですよ」
「「「!!!」」」
俺があっさり認めた事に周りのみんなは相当驚いてる様だ。
「じゃあ今回冬弥君がギターに選ばれたのはそれは原因なの?」
「全然関係有りませんよ。だって高校時代由綺ちゃんと口聞いた事なんて数えるほどですから。
 実は高校時代あんまり女子とは仲良く無かった上に
 由綺ちゃん当時からデビューする為に放課後になるとすぐレッスンに行ってたから
 彼女の事本格的に知ったのは彼女がデビューしてからなんですよ。
 最近になってあの頃口説いときゃ良かったとか思いつつも、
 彼女と一緒に仕事してると止めといて良かったと思いましたよ」
「なんでなんで由綺ちゃんと付合えるなんて最高じゃん」
「練習と仕事の量が半端じゃないんですよ。
 一緒にいる人にしか分からないですけど。
 なんせ1日に十二時間近くあるのが普通ですからね。
 一ヶ月ぐらい会えなくても平気じゃないと由綺ちゃんや理奈ちゃんとは付合えませんよ」
「ああ、それは俺耐えられないわ、タ○さんはどう?」
「俺も駄目だわ。だって会いたい時に会えないじゃん。だけど緒方さんその話マジ?」
「100%本当の話ですよ。
 だから今の彼女達と付合いたいなら最低でも2週間は彼女達と会えなくても我慢できて、
 その間彼女達の事を信じ続けられて彼女達からも信じられるような人じゃないと付合えませんよ。
 ってそんな人なかなか居ませんけどね」
「そんな奴いねーよ。ねえねえ二人はどんなタイプの男が好みなの?」
「私はやっぱり優しくて体も心も包んでくれるような人かな」
由綺らしい意見だ。
なんだかんだ言っても甘えんぼだからな。
「私は芯のしっかりしてる人かな」
これまた理奈ちゃんらしい意見だ。
「へえ〜〜」


撮影はこの後の順調に進み。
俺と二人の関係がばれる事は無かった。
「ふぅ〜〜」
そして俺は緒方さんの車の中で緒方さんを待っている。
あいも変わらず由綺の帽子をかぶって。
がちゃ
「やあ、待たせちゃったね」
「ほんの十分くらいですよ」
「おやそんな物だったかな。まあ良いかそれじゃあそろそろ行くよ、由綺ちゃん」
英二さんは車を出しながらにやりと笑い俺に言った。
しょうがなく俺は腰の位置を落とす。
「いい加減俺を身代わりに使うの止めませんか?」
「何を言っとるか、君ほど由綺ちゃんの真似が上手い青年なんて他に居ないぞ」
「それって誉められてるんですか?」
「もちろんだよ。君ほど彼女の事を分かってる奴はこの世界に居ないよ。
 いや、彼女だけじゃないな。あの六人全員か」
「…………」
「あのなあ、さっき収録の時言ってた事だけどな。
 あれは俺の本心だぜ。そしてあの条件を満たしてるのは君だけだよ。
 俺は最後の条件がクリアできてないからな」
「…………」
「絶対にあの娘達の信用を裏切るなよ」
「当たり前です。俺は絶対にみんなを幸せにしてみせます。でないと英二さんに悪いですから」
「なかなか言うなあ君も」
「今の緒方さんほどじゃありませんよ」
「ん、そうだなちょっと語り過ぎだな俺」
「ですね…」
その後俺達は終始無言だった。

「じゃあな風邪なんてひか無い様にしろよ」
「緒方さん、本当に俺だけ今日レッスン休んで良いんですか?」
「始めての収録で青年も疲れてるだろ休める時には休め。
 体調をいつも万全にしておくのも芸能人の大切な仕事だぞ」
そう言う緒方さんの顔は久々に見るプロデューサーの顔だった。
「分かりました。ゆっくり休ませてもらいます」
「じゃあな」
ぶろろろろろっ
緒方さんの車が遠ざかる。
さてそろそろ家に入るか。
つってももう2時過ぎだから皆寝てるだろうから起こさない様にしないと。
がちゃん  ぎーー  がちゃん
俺はなるべく音を立て無い様に家に入った。
あれっ、まだ明りがついてる。
誰かが消し忘れたんだろうか。
「お帰り冬弥」
「お帰りなさい冬弥さん」
「お帰りなさい冬弥くん」
3人とも起きてた。
「3人とも何で起きてるの」
「結構眠かった」
「はるか……会話になってない」
「ん………そう?」
「そうだよ」
「実は撮影が始まるすぐ前に緒方さんから電話があったの。
 それで緒方さんが今日は冬弥くんが帰れそうだって聞いたから皆で待ってたの」
「久しぶりに暖かい愛妻料理を冬弥さんに食べさせてあげようってことで」
「これ」
そう言ってはるかが用意してくれたのは鍋物だった。
ちなみに今は四月である。
「いくらなんでもこの時期にこれは暑いんじゃ」
「冬弥嫌い?」
「いや嫌いとかじゃなくって…」
言葉を失いかけた俺にみさきさんが優しく言葉を掛けてくれた。
「だって皆一緒に食べるなら鍋物の方が良いかなって」
「皆一緒って…まさかみんな俺のことを待ってくれてたの?」
収録が始まったのは7時である。
その頃作り出したとしても三人は6時間はゆうに待っていてくれた計算になる。
「みんな………」
俺はただただ言葉を失った。
「さあ、早く食べようよ冬弥さん」
「ああ」
この日は遅くまで皆一緒に鍋をつついた。
由綺と理奈ちゃんと弥生さんの三人が一緒に居られなかったのは残念だったけど
久々にみんなと一緒に夕食を食べられて本当に俺は幸せだった。
そして、今度は全員揃って鍋と食べようと約束した。



それからの俺達の活動を一言で言うと、

死ぬ程忙しかった。

この一言に尽きる。
一年間の短期活動なのにシングル7枚、アルバム2枚という前代未聞の作品数をリリースした。
夏には全国ツアーも行った。
緒方さんの気遣いでツアー中は家族全員で移動する事になっていたので
ちょっとした旅行気分でもあったが。
勿論そんな中就職活動などできる訳も無く就職浪人は確実となったが。

「ふう」
自然とため息が出る。
先ほど博多でのコンサートを終えた所だ。
全国ツアーも大詰めを迎えていた。
最近そのプレッシャーのせいか毎日の様に夜中に目がさめる。
勿論妻達には言っていない。
余計な心配はさせたくなかったし、それにこの問題は俺自身が解決させるべきだと思ったからだ。
「どうかされたのですか?」
俺は急に後ろから声をかけられたが驚く事は無かった。
「弥生さんこそどうしたのこんな時間に」
「先ほどまで最終日の打ち合わせをしていたもので」
「こんな時間まで!」
「はい、なかなか難航していますので」
「しっかり休まなきゃ駄目だよ」
弥生さんはいつもこうだ。
本当に俺達の事を思っているからこそなんだろうけど…
「しかし、今回のツアーだけは完璧にしたいのです」
「それは分かってるけど」
「だって……、私が冬弥さんの仕事の手伝いができるなんてこれが…きっと最後ですから……」
「弥生さん……」
「私は不器用ですから、こんな方法でしか愛情を伝える術を持っていませんから…。
 皆さんみたいに直接伝える事が出来ないから……」
俺は胸を締め付けられるような思いがした。
いつも弥生さんは姉のような愛情の注ぎ方をしてくれていた。
俺はそれが彼女流の愛情の注ぎ方だと思っていた。
だがそれは違った。
彼女はその事で深く悩み、そして傷ついていた。
「ごめん。気付いてあげられなくて…」
俺は弥生さんを抱きしめる事しか出来なかった。
情けない。
その思いだけが俺の心を絞めつけていた。
「冬弥さん…」
「もっと甘えて良いんだよ」
「えっ?」
「弥生さんはもっと俺に甘えてくれていいんだよ」
「でも私は…」
「由綺達が俺に甘えてる弥生さんを見て軽蔑でもするかと思ってるの?」
「…………」
「そんなわけ無いだろ」
「……はい」
「それと忠告をちゃんと聞く事」
「……はい」
「うん、それでよろしい」
「ふふっ、だったらいきなり甘えても良いですか」
「もちろん」
「それじゃあもう少しだけ抱きしめていてください」
「お安いご用だよ」
こうしてその夜はふけていった。



時はめ巡り。
そして白の季節がまた巡ってきた。

二十世紀最後の大晦日、俺達は最後のコンサートを武道館で行う事になった。

ざわざわざわざわざわ
会場は既に満員だった。
「ふぅーーー……」
「どうした青年ため息なんかついて」
「うわっ!」
「そんなに驚くなよ青年」
いきなり後ろから声をかけられて驚く俺を尻目に緒方さんは笑っていた。
「誰でも驚きますよ」
「ふむ、そういうもんか?」
「そういうもんです」
「ふむ、で何を緊張してるんだ?」
緒方さんの表情が変わる。
プロデューサーとしての顔に。
この顔をした緒方さんには今でも気後れしてしまう。
この一年嫌と言うほど見てきたのにだ…。
「勿論ラストの事ですよ」
そう今回のコンサートの選曲はファン投票で決められたのだ。
そして得票数が最も多かった曲がラストを絞める。
そして一位に輝いた曲は
『will be coming winter』
であった。
この曲は二枚目のアルバムのタイトルにもなった曲で、
俺がメインボーカルの曲だった。
その上作詞をしたのは俺だ。
はっきり言って収録の時でも死にそうなくらい大変だった。
そしてその曲が俺達のこの年を締めくくる一曲になるのだ。
緊張するなという方が無理な注文だ。
「まあ、青年らしくいけ」
「俺らしくですか」
「ああ、あの曲は君の歌だからな。君が思う様に歌えば良いんだから」
俺らしくか………
俺はこの一年を振り返った。
この一年間、芸能界という未知の世界に入った俺が俺のままで居られたのはきっと妻たちのお陰だろう。
つまり俺のこの一年間は妻達によって支えられてるようなもんだった。
そしてこの一年で俺は改めて妻達の優しさを知った。
そして自分の気持ちも…
「そうですね俺らしく行かせてもらいます」
「その意気だ青年」
そうだ、この歌に込められてる俺の気持ちのままに歌えば良いんだ。
「開演までにはまだ時間がある。気持ちを落ちつけとけよ」
「はい」

「何を話してたの?」
俺と緒方さんの会話を見ていた由綺が話し掛けてきた。
「ああ、今日のラストの事で一寸な」
「やっぱり不安?」
本当に由綺には驚かされる。
ボーっとしてるみたいでもこういう事は絶対に見逃さないんだよな。
「不安じゃないって言ったら嘘になるかな…でも…」
「でも?」
「俺らしく行こうって決めたから、大丈夫だよ」
「冬弥くんらしく?」
「ああ」
そう俺らしくみんなの事を信じて歌うだけだ。
少なくともそれは今の俺に出来る最高のファンのみんなへの感謝の気持ちの伝え方になると思うからだ。
「でもちょっと自信ないかな…」
「冬弥くん…」
「だから…」
ばっ
俺はいきなり由綺を抱きしめた。
「少しだけこうしてて良いか?」
「うん…もちろんだよ」
「…………」
「…………」
「なあ、由綺」
「何冬弥くん?」
「ありがとな」
「えっ?」
「この一年間俺はみんなに支えられてた。
緒方さんやスタッフのみんな、ファンの人達、
大学の友達、章…」
「…………」
「それに由綺達…」
「冬弥くん…」


どれほどの沈黙が続いただろうか。
「さあ、開演だ」
「うん…」
「そんな不安そうな顔すんなよ、俺は大丈夫だから」
「………うんっ!」
「よし、その意気だっ!」
こうして俺の二千年最後の瞬間がやって来た。

コンサートは順調に進み、今までに無いほどの盛り上がりを見せた。
そしてコンサートも遂にクライマックスを残すのみとなった。

そしてそこに新たな試練が残されていた。
「みんなこの一年間俺の馬鹿な企画に付合ってくれて有難う。
 最後にみんなに冬弥くんからメッセージがあるそうだ」
最後のMCでいきなり緒方さんがこんな事を言い出したのだ。
しかし俺は焦らなかった。
多分こうなるだろうと思っていたし、その為の言葉も考えていたからだ。
俺は脇にいる由綺と理奈ちゃん、
そして最前列にいる美咲さん、はるか、弥生さん、マナちゃんと視線を合わせて少しだけ笑うと前に出た。
「みなさん、僕はこの一年間必死でした。
 緒方さんや由綺ちゃん、理奈ちゃんの足を引っ張らない様に必死でした。
 最初は半端な気持ち出始めた今回の活動でしたが今なら言えます。
 僕はこの『snow crystals』のメンバーです。
 そして今僕が堂々とこんな事を言えるのは間違い無く皆さんのお陰です。
 皆さんの応援には本当に応援されました。………それとここで一つ発表したい事があります。
 僕は前回のアルバムの曲を一つ作詞させてもらいました。
 その曲は僕がボーカルの曲なんですがその曲が皆さんにとて好評だったと聞いています。
 そしてその功績を認めてくれた緒方さんから僕に一つの提案をしてくれました。
 それは僕の来年からの芸能界活動についてです」
ざわざわざわざわざわざわざわ
当然の事だが観客席中がざわめきたった。
由綺達も当然な初耳ので驚いていた。
そんな周りの様子も気にすることなく俺は続けた。
「僕はその提案を受け入れました」
先程よりも凄いざわめきが起こった。
「こんな勝手な事を聞いて怒る人達もいると思います。
 だけど僕はこの一年間でいろんなことを学びました。
 だからこそ僕はこの世界が僕をはるかな高みへつれて行ってくれるのではないかと思うんです。
 そして僕はそのはるかな高みを見てみたいんです。
 本当に勝手な言い分ですけど出来れば応援してください」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
観客中から歓声が上がった。
そして妻達も本当に嬉しそうに笑っていた。
「それじゃあ俺をこの一年間支えてくれた人みんなに送ります。
 『will be coming winter』」

季節が巡り 白の刻(とき)が訪れる
君は覚えているかな
いつも君が俺を優しく包んでくれた事を…
君と出会ってどれだけの月日が流れても
俺は忘れない あの日の事を
君と一緒に歩んで行く
新しい刻を迎える為に

季節が巡り 白の刻が去って行く
君は覚えているかな
いつも君は俺に優しく微笑んでくれた事を
君と出会って過ごした遠くの日々を
俺は思う あの日の事を
君と一緒に歩んで行く
幸せな時を迎える為に







<あとがき>
どーも、聖天太子です。
最近IRCで言ってたのが遂に完成しました。
でも書き始めたのはたしか二月ごろだったよなぁ(遠い目)。
めちゃキャラが目立ってません。ひたすらに冬弥の一人称です。
僕の執筆力の低さの現れです。勘弁したってください。
次回の作品ではもうちょっと女の子も目立たせたいです。
まあ、その次回もいつになるか分かりませんが………
と言う事で(どういう事やねん)お別れの時間です。

さよならさよならさよなら(笑)



 ☆ コメント ☆ セリオ:「ほえー。歌手って大変なんですねぇ」(@@; 由綺 :「そうだね。でも、好きで歌手をやってるんだから大丈夫だよ」(^^) セリオ:「凄いですね」 由綺 :「わたしにしてみれば、セリオちゃんの方が凄いと思うよ。      メイドロボっていろいろなお仕事をしなければいけないから大変でしょ?」 セリオ:「そうですね。      でも、好きでメイドロボをやってるわけですから大丈夫ですよ」(^^) 綾香 :「(『好きでメイドロボをやってる』って……メイドロボって職業なの?)」(−−; 由綺 :「ふーん。そうなんだ」(^^) 理奈 :「(由綺! そこで納得しない!)」(−−; 由綺 :「でも、やっぱりセリオちゃんって凄いよね」(^^) セリオ:「え? どうしてですか?」 由綺 :「だって、わたしみたいな歌手には頑張れば誰でもなれるだろうけど、      セリオちゃんみたいなメイドロボにはなれないもんね」(^^) 理奈 :「(はいっ!?)」(@@; セリオ:「分かりませんよ。努力次第では、メイドロボにだってなれるかもしれませんよ」(^^) 綾香 :「(なれるかっ!)」(−−; 由綺 :「そっか。じゃあ、わたしも頑張ってみようかな」(^^) 理奈 :「(何をよ!? 何を頑張るつもりなのよ!?)」(@@; セリオ:「はい。頑張って下さい」(^0^) 由綺 :「うん。頑張るね」(^0^) 綾香 :「……………………」(−−; 理奈 :「……………………」(−−; 綾香 :「……………………」(−−; 理奈 :「……………………」(−−; 綾香 :「結論」(−−; 理奈 :「ボケボケ同士で会話をさせてはいけない。以上」(−−;



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