『責任』

深夜の公園、空には真円を描く月。

「もう長くない・・・か」

少年―遠野志貴は蒼くすらある月光の下でひとりごちる。

「楽しかったよな」

アルクェイド
シエル先輩 
秋葉 
翡翠 
琥珀さん 
あきらちゃん 
弓塚
有彦 
…先生 

「いろんな人達に出会って、いろんなことがあった」

出会って、話して、笑って、遊んで、喧嘩して、仲直りして、

戦って、殺しあって、……愛し合って

「先生にも言われたけど、死ぬのはやっぱりいやだな」

怖くもある、寂しくもある。でも、それ以上に…

「アルクェイド……」

ポツリと想い人の名がこぼれる。

世間知らずな、純白の吸血姫。

眠ってばかりで、何も知らなかった女の子。

「生きて」いるだけで、「活きる」ことを、その喜びを知らなかった少女。

それでも、よく笑っていた少女。

目を閉じれば思い出す。

あまりにも非常識な出会い。それ以上に非常識な再会を。

自分に流れる「血」が引き合わせた。――これも、奇跡だろうか。

「訳も分からず殺した女が、実は不死身の吸血鬼で、さらに今では恋人なんて……」

思わず笑い出しそうだ。

「……あれ、志貴?」

「なにやってんのこんな時間に? 公園に突っ立ってくすくす笑って…はっきり言って変な人だよ、うん」

夜の静寂を破る能天気な声。

聞きなれた、でも決して聞き飽きない声。

「アルクェイド」

どうやら実際に声に出して笑っていたらしい。

「ほんとどうしたの? なんかいつも以上に白い顔しちゃってるけど」

はてな顔のアルクェイドに苦笑で答える。

「何でもないさ…アルクェイドこそどうした?」

「いや、たまには散歩もいいかなぁって…もともと私夜行性だし……」

微妙に目線を反らして答える。

ピンと来て、ため息をつく。

「また人の部屋に忍び込もうとしてたな」

「ええと…その…あうあう……」

両手をもじもじと組合すアルクェイド。

「ったく。普通に玄関から入って来いって言っただろう」

「だって…なんか妹怒るし……あの二人も邪魔するし…」

しゅんとうなだれるアルクェイド。猫なら耳がぺたっとなってるだろう。

「そもそもなんで夜中になってから来るんだ? ほとんどそのまま人の布団にもぐりこんで泊まっていくし」

そう言う志貴もただ一緒に寝ているだけではないが。まあ一応恋人なんだし。うん

「だって、志貴といっしょに眠るとなんだか安心するんだもん…前は何も感じなくて、ただ時間が過ぎるだけだったのに。
 あったかくて、何かやさしい気持ちになれる」

顔を上げて、笑う。

「すぐそばに志貴がいるんだって分かると、幸せな気持ちになれるんだよ」

本当に、幸せそうな、曇りのない、笑顔だった。

ッーーー

「ちょ、ちょっと志貴、どうしたの?」

アルクェイドが慌てる。

「え…?」

「志貴、泣いてる」

言われてはじめて気づく。頬をぬらす熱い雫。

ぬぐうこともせず、心配そうなアルクェイドを見つめる。

「アルクェイド」

決意を秘めた声。

「話しておきたいことがあるんだ」

言葉に込められた意思を感じ取ったのか、アルクェイドは茶化すこともなく神妙にうなずいた。

ーー話すのは、自分のこと。

自分が、もう長くはないらしいということ。

「いや…だよ……」

「志貴がいなくなるなんて、絶対いや!」

最初は消えそうな声。徐々に語勢が強く。

「そんなの私は認めないんだから!」

興奮のためか、瞳が金色に染まっている。

「おまえはこれまでだってやってこれたじゃないか。だから、大丈夫だよ」

搾り出すような志貴の言葉。

「無理だよ。もう私は志貴なしじゃいられない。
 生きることがこんなに楽しいって知っちゃったから、何もなかったころには戻れない!」

「自分自身もだませない嘘は、人を傷つける」いつか先生から教えられた言葉が、身にしみる。

ひとしきり騒いだアルクェイドは、急に言葉を止めた。

「志貴は私のものなんだから。誰にも、死神にだって渡さない」

金の瞳が底冷えする光を放つ。

「俺を死徒にするのか?」

うなずく。

「大丈夫、志貴は志貴のまま。ちょっと存在が強くなるだけだから」

熱病に浮かされたようにささやくアルクェイド。志貴を失うことへの恐怖だけがそこにはあった。

志貴は何を言うでもなく、無言でアルクェイドを抱きしめた。

「アルクェイド、昔に戻りたいって思うか?」

「何も知らなかったころに、戻りたいか?」

耳に入る志貴の声に、アルクェイドの瞳がすっと紅に戻る。

「なにを、いってるの?」

戸惑いの声。

「多分、今の俺ならできる。前に言ったよな、俺は概念として存在するものなら神だって殺せるって。だったらアルクェイドの中から最近の記憶だけを殺すことだってできるはずだ」

こうも言った。本来見えないものを見れば脳に負担がかかり、最悪廃人になるかもしれない。

志貴は本気だ。それが自分の寿命を一気に縮めることになっても、私がうんと言えばやってくれる。

「……思わないよ。私の中から志貴が消えるなんて絶対いや。そんなことしたら志貴の意味がなくなっちゃう。
 私のせいで魔眼を使いつづけて、最後まで私のために無理をして、私の中からそれさえも消えてしまう。
 そんなことになるくらいなら、私は優しい記憶を抱いてずっと眠ってるほうが良い」

途切れ途切れに、紡ぐ、言葉。

「志貴が好き。ずっとずっとそう想っていたい」

いつのまにか、アルクェイドの頬にも涙が伝っていた。

「あれ、私にも涙なんてあったんだ。初めて知った」

志貴を放して、目元をぬぐう。

ぬぐっても、ぬぐっても、尽きることない、想いの、糸。

月明かりにしゃくりあげる声だけが流れた。

それは数秒か、数分か、数時間か…

志貴は、優しくアルクェイドの手をつかんだ。

そのまま、再び胸の中に抱き寄せる。

涙に濡れた紅の瞳に自分を写す。





「俺をおまえの死徒にしてくれるか?」





弾けるように顔を上げるアルクェイド。

「本気?」

「本気」

「人間に戻ったりできないんだよ?」

「分かってる」

「後悔しない?」

「しないよ。遠野志貴はアルクェイド=ブリュンスタッドとともに永遠を生きる」

「でも…ん」

なおも何か言い募ろうとするアルクェイドの口を封じる。

月光の元、一つに重なる、影法師。

長い口付けを終えて、風に途切れる銀の糸。。

「約束。おまえに幸せを教えてやる。今までよりもずっとずっといっぱい、溺れるぐらいに」

「うん!」

アルクェイドは力いっぱい志貴に抱き着いて、いつか聞いたような台詞を告げた。

「私を活かした責任、ちゃんと取ってもらうんだから」

fin or forever



あとがき(かもしれない)

はじめましての方がほとんどだと思いますが、「自称の取れないSS書き」天羽です。
「月姫」
買いました。やりました。はまりました。
三日間ぶっ通しでコンプリート。現在plusdiskを終了して二週目突入。
思い余ってこのようなまとまりのないSSまで書いてしまいました。

読んでいただければ分かるとおり、アルクェイドグッドエンドで、「月蝕」の後となります。
永遠を生きる吸血姫と寿命あとわずかな人間。
活きることを知ったとたんに、何より大切なものを失う。
それはあまりにも悲しすぎると思って、この話を作りました。
下手な文章ですが、呼んでいただけたら幸いです。
感想いただけるとさらにうれしいです。
 mail try3hd@yahoo.co.jp

それでは、また、いつか……  H13.4  天羽 滝瀬



 ☆ コメント ☆ シエル:「むむむむ。遠野くんってば早まってますね」(ーーメ 秋葉 :「まったくです。あんな未確認生物の為に人間であることを捨てようとするなんて。      勇み足もいいとこです」(ーーメ 翡翠 :「……はい」(−−メ シエル:「このままでは、遠野くんが完璧にアルクェイドのものになってしまいますね」(ーーメ 秋葉 :「そんなの断固阻止よ」(ーーメ 翡翠 :「…………死徒だなんてダメです」(−−メ シエル:「はい」(ーーメ 秋葉 :「ええ」(ーーメ 翡翠 :「……(こくこく)」(−−メ 琥珀 :「まあまあ、みなさん落ち着いて下さい。      こういう時は、歌でも歌ってイライラを吹き飛ばしましょう。      死徒死徒ぴっちゃん死徒ぴっちゃん♪ し〜と〜ぴっちゃん♪」(^0^) シエル:「……落ち着けるわけ……」(ーーメ 秋葉 :「……ないでしょーが!!」(ーーメ ―――ガスッ! 琥珀 :「…………きゅ〜」(×o×) 翡翠 :「…………姉さん…………」(−−;;;



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