2000TYPE−MOON 『月姫』

「秋葉ちゃんの社会実習」
  その3 「嵐のデートの予感


 

日曜日の朝、遠野家の屋敷の前に数人の男女が様々な思いでその場に集合していた

「それじゃ、行ってくるよ」

「行ってくるわ」

「お気をつけて」

「行ってらっしゃいませー」

外出用の服を着た志貴と、なぜか制服姿である笑顔満点の秋葉が
見送りに来ている翡翠と琥珀が返事をする中・・・

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

アルクェイドとシエルはひたすら無言で志貴の隣に居る秋葉を睨んでいる
晶も秋葉を見ていたがどちらかといえば羨ましそうに見ていた
ちなみにさっちんは入院中なのでこの場に居ない

「秋葉、行こうか?」

「はい」

志貴の言葉に秋葉は頷き歩き始めた

そんな2人に
琥珀は笑顔で手を振り続け
翡翠は志貴に見えなくなるとむすっとした顔になり
その他の3人は現状維持のままである

「では皆さん。屋敷の中に戻りましょう」

琥珀の言葉に渋々ながら戻り始めたが・・・

「はっ!?」

「いかがしましたか、晶さま?」

「・・・・・・」

突然立ち止まった晶に翡翠が声を掛けるが反応なし
全員が見守る中1分経過・・・

「い、今、未来が見えました」

ようやく声を出した晶だったがその声は震えていた
晶が『未来視』の能力がある事を皆知っている
しかもほぼ確実に起こる事にも・・・

「夜の公園で・・・」

「「「「夜の公園で?」」」」

「志貴さんと遠野先輩が・・・」

「「「「志貴(遠野君、さん、さま)と秋葉(妹、さん、さま)が?」」」」」

「キ・・・」

「「「「キ?」」」」

「・・・キス・・・していました・・・」

・・・・・・ぷち

「志貴―――――――!!」

「遠野君――――――!!」

その一言でキレちゃった人外兵器達が見えなくなった2人のほうに向き絶叫

「志、志貴さま・・・」

翡翠も顔色が悪くなり

「あはー。志貴さん、そんな事しちゃうんですか」

すでに怒りMAX10秒前の琥珀は笑っていたが目は全く笑っていない
だが、なんとか怒りを抑えた琥珀が晶の方を向き

「晶さん、それは夜の公園なんですね?」

「はい・・・」

「そんな事はどうでもいいわよ!
速く志貴を捕まえにいくわよ!!」

「ええ!!」

キレたままのアルクェイドとシエルは
そのまま志貴をとっ捕まえようと2人の後を追おうとしたが

「その必要はありませんよ」

「ね、姉さん!?」

2人を止めようとする琥珀に、翡翠は戸惑った声を出し姉を見た

「今、志貴さんに話して(捕まえて?)も困るだけですよ。
志貴さんはこの日のためにバイトをしていたんですから。
そんな強引な事ではいけませんよ」

その言葉に全員が冷静になった
考えてみれば、志貴が秋葉とデートうんぬん以前に
兄妹愛(悪魔でそう断言)が働き志貴が苦労してお金を稼いだのだ
強行して無理やり止めてしまえば、その苦労は報われなくなる

「でも姉さん。このままでは・・・」

理屈では納得できるが、愛する志貴がキスをしてしまうのだ
その事を考えると気持ちが大暴走してしまうのを止める事は出来ない

「無理やり止めてしまうのはだめなだけですよ。
さりげなく妨害(罠)の準備は完璧ですよ」

そう、晶の『未来視』の能力は『ほぼ』確実だが回避する方法がある
出来事を前もって知っていたならば、その様にしなければいいのだけである
まあ、彼女達なら100%確実な未来でも変えてしまうような気もするが・・・

[そういう訳で皆さん、とりあえず中に戻っちゃいましょう。」

計画を立てれば最凶(笑)である事は身をもって体験をしているので(晶は除く)
意気揚々で後をついて行った

 

その頃、そんな出来事は全く知らない志貴だったが

「うっ!」

七夜の血が危機を感じ取ったのか、嫌な悪寒が志貴を襲い立ち止まった

「どうかしましたか? 兄さん?」

「い、いや、今、悪寒が・・・」

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だ・・・」

その様子に秋葉は声を掛けるが、志貴の返事に納得し再び歩き始めた

「兄さん、これから何処へ行くのですか?」

「まずは、秋葉の服を買いに行こうと思っているけど」

秋葉が制服を着ている理由は外出用の服を持っていないからだ
普段着は持っているが他所行きの服などは着物しかなかったのである
少し前に群がるハイエナの親戚達(秋葉談)の会議などでは着物を着ていたが、
外出など学校でしかなかったので普段着で充分だったのだ
だが、秋葉を誘った志貴本人もデートなどした事がなかった
そこで、琥珀に再び相談してデートコースを決めたのだ
琥珀の『秋葉さま、そう上手くはいかせませんよ』計画
その1『行き先は私だけが知っている』作戦である

「兄さん。自分の服ぐらいは私が払いますよ」

「別にいいんだよ。デートは誘った方が奢るんだから」

多少誤解が入っているが(人それぞれ)その為にお金を稼いだ志貴はあっさり言ったが、
秋葉は『デート』という言葉に真っ赤になりながらも

「に、兄さん。確かデートというのは腕を組むと聞いていたのですが・・・」

「それもそうだな。じゃ、組むか?」

「はい!」

志貴の腕に手をまわしくっついた
秋葉に取って幸せ真っ只中になり志貴の温もりを堪能していた
一方、志貴は秋葉が嬉しそうな顔をしていたので満足だった
だが秋葉は気付くべきだったのだ
志貴が悪寒を感じたときはろくでもないことが起こる事に・・・

 

 

「あらー。志貴さん、勘がいいですね」

「さすが志貴さま」

屋敷の部屋の1つにいる全員が今の一部始終というより初めから見ていた中、
翡翠と琥珀が志貴を誉めていた(勘がいい所だけ)
なぜ、屋敷に居るはずの彼女達が2人のデートの様子がわかるというと

「よくお二人の服に気付かないように隠しカメラを仕込みましたね、姉さん」

「あはー。翡翠ちゃん、誉めても何も出ませんよー」

琥珀に通された部屋には6つのテレビが置いてあり、
隠しカメラ(志貴に4つ、秋葉に2つ)によって全ての行動がわかるのである
ただ2人の服にカメラを仕込めばいいのではない
仕込んだ服を着た時や途中で気付かれては元も子もない
その辺は琥珀の巧みさのお陰で今の所は気付かれていない
琥珀の『秋葉さま、そう上手くはいかせませんよ』計画、
その2『私はいつでも貴方を見ていますよー』作戦である
その隣で2人の会話を無視して黒いオーラを出しながらひたすらテレビ(というより志貴)を睨んでいるのが
嫉妬で再びキレた人外兵器達

「しーーーーきーーーー」

「とーーおーーのーーくーーんーー」

アルクェイドとシエルの手には琥珀が用意した飲み物が握られているが
すでに原型の面影がない
この中で唯一まともな晶はその様子(黒いオーラ)に怯えて部屋の隅にいた(そりゃ怖いわな)

「ですが姉さん。全員がここに居れば志貴さまに何かあった時に行動が取れません」

「いい所を気付きましたね、翡翠ちゃん。
実はそうなんですよ。志貴さんにデートコースの相談を受けましたので、
行動は全て把握していますが今の出来事(腕を組むなど)があると止める事が出来ないんですよ」

計画というのは予想外の事が起こればあっけなく潰れてしまうのだ
いくら琥珀の計画でも志貴にはうまく抜けてしまうのはあの事件で確認済みである
しかも晶が見た未来の為、変更が余儀なくされそうになり始めた
だが解決策がないわけではないのだが・・・

「本当は誰かが志貴さん達の近くに居ればいいのですが、私達では駄目なんですよねー」

「なぜですか?」

「まずアルクェイドさんとシエルさんですが、この状態を見れば志貴さんに襲い掛かるはずです。
翡翠ちゃんは、志貴さんにしか体を触れられませんから町の人ごみにいられませんし、
お姉ちゃんは屋敷から出たことが数えるくらいしかありませんし体力もありませんよ。
晶さんも体力がついていきません。
それにタクシーなどを使われたら追いかける事が困難ですよ。
うまくタクシーが通るとは限りませんし。
この中の誰かが行っても付いて来ているのがばれるか、
追いつかなくなるだけなんですよー」

「・・・・・・」

琥珀の数々の指摘に翡翠は黙るしかなかった
そしてこれが解決策にならないわけである

「志貴さんが知らない方で体力があるというより、アルクェイドさんとシエルさんみたいに
人外ッぽい力がある方なんて居ませんからねー」

今まで人間関係を絶っていたことに多少後悔していたが(あったとしてもそんな人はいないだろうが)、
今の2人の会話を聞き流していたと思ったアルクェイドが一言

「わたし知ってるわよ」

その一言で翡翠と琥珀が同時にアルクェイドを見た

「本当ですか! アルクェイドさん!?」

「ええ。 ようするに志貴が知らない人で、わたしみたいな力のある人だよね?」

「はい、そうです!!」

アルクェイドの確認に琥珀が頷きながら返事をする

「でもアルクェイド。 そんな人を本当に知っているのですか?」

シエルも会話に参加し始めた
初めは志貴達の様子がおかしくなり始めたのを
言おうとしたのだが、今の会話は聞き逃せなかった
話の内容次第ではこの町で異端者が居るとことになるからだ

「ぶぅーー。シエル、信じてないわね」

「ではここに呼んでください」

「その必要はないわよ。そこに居るから」

アルクェイドが琥珀と翡翠の後ろを指す方向に
全員が振り向くと窓の外に1匹の黒い猫が居た

「「「「「・・・・・・」」」」」

「ちょっと何よ。その反応は?」

無言となった皆に文句を言うアルクェイド

「アルクェイド。いくら貴方が猫だからってそれはないでしょう?」

「わたし、猫じゃないって言ってるでしょ!
それより窓を開けてこっちに連れてきてよ」

シエルの遠まわしの文句にアルクェイドは少しムッとなりながら言い返した
シエルは琥珀を見て「いいですか?」と目線で伝え、琥珀が頷いたので窓を開けた
するとその黒猫はアルクェイドの傍に行き、足元で止まった

「アルクェイドさん、この猫ちゃんに志貴さんを見張らせるのですか?」

「うーん。惜しいかな」

琥珀が見たままの状況で質問するとアルクェイドは曖昧に答えた

「それではどうするのですか? アルクェイドさま」

翡翠も疑問に思っていたのだろう
アルクェイドに問い詰めた

「まあ、説明するより実際に見てもらった方が早いわね。
レン、元の姿に戻って」

ポン!

そう言うと猫が突然煙に包まれた
煙が消えると10歳くらいの女の子が立っていた
黒いコートを着ていて長い髪をこれまた大きなリボンで止めている
物静かな顔立ちの為、普段のアルクェイドと眼の色を変えたアルクェイドの中間みたいだ

「この子はレン。わたしの使い魔で夢魔よ」

アルクェイドが軽くレンの自己紹介をした
その本人も軽く頭を下げた

「あはー。可愛いですねー、レンちゃんと言うのですか」

「アルクェイド。貴方に使い魔なんていたのですか?」

「・・・」

「・・・」

何事にも動じない琥珀と、アルクェイドに使い魔がいたことを始めて知ったシエルが
それぞれの言葉を出す中、怪奇現象っぽい事を始めて見た翡翠と晶は固まっていた

「レンは夢魔だから、誰かに夢を見せるのが1番の能力だからわたしほどじゃないけど、
さっき言った条件には充分当てはまっているわ」

「そうですかー。それじゃ、お任せしてよろしいでしょうか?」

「・・・はい」

レンは琥珀に言われるとアルクェイドを見て頷くと承諾した

「アルクェイド。この夢魔で誰かに夢を見せたのですか?」

シエルがアルクェイドにレンの行動を聞いた

「ええ。といっても志貴にしか見せてないけどね」

「そうですか・・・」

アルクェイドの答えにシエルは頷いた
逆に考えれば志貴に出会うまで夢魔ではなく、使い魔として使っていたのだ
特に何かしたようではなかったのでこの件は保留にしたシエルだが、
質問は続いた

「では、遠野君が何の夢を見たか知っているのですか?」

「知らないわ。志貴、教えてくれなかったもの。
レンに聞けばわかるけど志貴が嫌がる事はしたくないから聞いていないわ」

アルクェイドは志貴が嫌がる事は絶対にしない
前回の妨害は嫉妬で少し行き過ぎたが、志貴の言う事はほとんど守っているのだ

「そうですか。では私も聞かない事にします」

問題が解決したとみてレンがアルクェイドに質問をした

「アルクェイド様。それでその方達はどこに居られるのですか?」

「そうね。すぐに志貴の所に行ってもらいたいから・・・」

アルクェイドがテレビを見るとそのまま固まってしまった
シエルも先程まで見ていたがこの状況でアルクェイド同様固まった
先程の怪奇現象からようやく立ち直った翡翠と晶だったが再びフリーズ
琥珀だけは意地悪そうな瞳と笑顔でこう言った

「さあ、秋葉さま。 ここからが本番ですよ」

今、志貴と秋葉が居るのは交番の中だった・・・

 

 

「・・・続く」


 


 

あとがき

どうも、siroです。
前回のSSから少し遅れました。
今回は少ししかデートの話に入りませんでした。
状況を書くだけでも苦労しましたが、次回こそはデートの話です。
また出ました未公開キャラのレンです。
今回は登場したままで終わってしまいましたが、次回からは活躍する予定です。
今度こそ有間親子を出したいなぁ
では、続きでお会いしましょう。





 ☆ コメント ☆

翡翠 :「か、隠しカメラを服に付けたのですか?」(−−;

琥珀 :「はい、そうですよー」(^0^)

翡翠 :「よく付けられましたね、そんな物が」(−−;

琥珀 :「ふっふっふっ。わたしに不可能はありません」(^〜^)

翡翠 :「は、はあ。それにしても、服に付けたカメラなどで、よくお二人の映像が映せますね。
     普通、カメラという物は、ある程度の距離がないと被写体をとらえることが出来ないの
     ですが……」(−−;

琥珀 :「ふっふっふっ。わたしには可能なんです」(^〜^)

翡翠 :「…………姉さんって凄いですね。…………いろいろな意味で」(−−;

琥珀 :「あはー。そんなに誉められると照れちゃいますねー」(*^^*)

翡翠 :「…………別に、誉めてはいないんですけど…………」(−−;

琥珀 :「まあ、それはさておき。
     こんなものはまだまだ序の口です。
     さあ、秋葉さま。これからたっっっぷりと『デート』を堪能して下さいね。
     くす、くすくす、くすくすくすくす」( ̄ー ̄)ニヤリ

翡翠 :「…………姉さん…………怖ひ…………」(−−;





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