こんな山間にこんなうつくしい建物が点在しているなんて
奇跡的だと思った。茅葺き屋根の上に緑の山、その山の上には
白山連邦と初夏の青空が広がっていた

飛騨高山旅行記・4

白川郷はドイツの建築家ブル−ノ・タウトが著書「日本美の再発見」で白川郷での調査の様子を記し、世界に広く紹介されることになった。学生の頃、建築を学んでいた私は、何度か白川郷の合掌造りの民家の写真は見ていたし、テレビの旅番組で何度も見た。けれど、じっさい自分の目で見ると、その大きさに愕然とした。

こんなに大きいとは、思わなかった。
もっとかわいらしく山間の平地に固まって並んでいるのだと、思っていたのだ。車の窓を過ぎていく合掌造りの民家は気高く初夏の青空にそびえている。

さて、食事。折角だから合掌造りの建物で食事がしたくて何軒か訪ねてみるが団体さんの予約があるとかで断わられる。しかし「白水園」さんでようやく食事ができた。
ここで食事している間も店員さんは団体さんの食事の準備に追われている。観光バスで白川郷を訪れる人がすごく多いのだ。ハンバ−グ定食を食べたのだけれど、美味しかった。旅を始めて食事にハズレがないよねと主人と話したけど、ホントに肉も野菜もおいしいのだ。

食事のあと、いよいよ観光。まず展望の良い「萩町城跡」に行く。地図では食事をした白水園から300メ−トルくらいだからと気軽に歩きだした。歩き出してすぐ信号があり、左をみると、橋の向こうにトンネルがおおきく口をあけているのが見える。

私たちがさっきまで走っていたR156を跨いでるトンネルだ。この上を白山ス−パ−林道が走っているので、眼下に白川郷を見ることができるという。この辺りでは人気のドライブコ−スらしい。
萩町のバス停をすぎると萩町城跡に続く道があったが、びっくりした!
まるで獣道のように細くて山に登るように階段になっているのだ。
いや、展望がいいんだから階段は覚悟していたのだけれど・・・。
でもこの獣道はどういうことだろう・・・主人と顔を見合わせる。主人の顔が「ここを登るんだよねぇ」と無言で問い掛けてる。私も無言で頷く。そして覚悟をきめて歩き出す。でもまだ甘かった。すぐに頂上に到着すると思っていたのだが、なかなか視界はひらけない。しかも蒸し暑い!加えて私はいい気になって白水園でビ−ルを飲んでいたのだ。運転で飲めない主人の前で、ごくごくうまそうにビ−ルを飲んだバチがあたったんだと思う。悪いことはできないなぁ。
しかし私は大量の汗をかきながらようやく登りきることができた。そして感動しました!
荻町の地域の合掌造りの集落が眼下に広がっているのだ。最初は興奮して、主人と「わ−すごい!すごい!」を連発した。展望台には私たち以外はだれもいなくて、この風景を独占している感覚。風景をみるうちに二人とも静かになっていった。
集落の間をあるく小さな人間や、車。さっきあんなに大きいと思った合掌造りの民家が小さく見えているという
あたりまえの不思議。それを守るように白山連邦が雪を冠った姿で横たわっている

汗をかいた額に爽やかな風が吹いて来て気持ちいい。
しばらく風景を堪能していると、私たちが登ってきた方向とは別なところから3人の観光客が来た。あれっと思って、もしかしたら私たちが登って来た獣道以外にも道があるのかも知れないと、歩いていってみたらありました、かなり綺麗で歩きやすい道が・・・

→鏡のように空を映す若い稲の田圃。


その歩きやすい道を下りながら、和田家住宅を見学に向かう。日本ナショナルトラストの建物の横を右に曲がると田圃の真ん中を歩くようになるのだけれどそのあたりの風景はとっても緑が豊かで、その近くに人間の生活がうまく融合しているって、そんな感じの風景。

→木々に囲まれてどっしりとした風格をみせる和田家。

和田家は重要文化財に指定されている住宅で、白川郷の合掌造りの集落で最大の住宅。江戸時代には庄屋や番所役人をつとめてきた家柄。

←和田家正面玄関

内部をゆっくり見学する。
ここでちょっとしたハプニングがあった。足下が妙にむずむずすると思ったら無数の羽蟻がゾロゾロ床を這い回っていた。

その数といったら3桁はある!きえ〜〜と叫びそうになったとき、係りの女性が何人かあわててほうきをもつて羽蟻を掃きはじめて手際良くチリトリに集めていく。

この古い家を管理するのは大変なことなんだって頭ではわかっているけど、こうした小さな虫との闘いもその中にあるのだと思うと頭が下がる思いがした。

和田家ではいろいろな生活用具も見学できるけどやはり目立つのは黒光りする間仕切りの戸や屋根裏の柱や、床だ。これは長い年月を経過していないとでない光りだと思った。外はあんなに暑いのに、家のなかはク−ラ−がかかっているわけでもないのに、ひんやりしている。

←屋根裏にあがったら、窓が開いていて、そこから鮮やかな外の緑が見えた。
日本の夏の風景だなぁ。

和田家を出て民家園に向かって歩き出すと、みやげ物屋の店先に「ソフトクリ−ム」の文字を発見。

ソフトには目のない私は早速店の中に入った。店は喫茶店のようになってて、カウンタ−の中のお姉さんに注文すると、お姉さんがソフトを造ってくれるのだが、私の後に、おばさん達が7、8人入ってきた。おばさん達は、ソフトクリ−ムを食べるのは誰なのか、凄い大声で話している。あんた食べるの食べないのはっきりしなさいよとか、なんとか。店内にいた酔っ払いのおじさんが「うるせえ!」と怒鳴り出しておばさん達は怯むかと思ったが、「きゃ−怒られちゃったぁ」と笑っている

その辺りで手のあいたお姉さんが私に向かって「いくつですか」ときいてきたので「2つ」と言うと、横からおばさんが「順番だから仕方ないか順番だから。私たち急いでるんだけどねぇ」「集合時間あるしねぇ」と私に聞こえるように騒いでいる。

無視していると何度も言ってきた。多分私にソフトクリ−ムの順番を譲れと言ってるのだとわかったけど、かかわり合いたくなくてずっと無視してた。その後、酔っ払いの親父とおばさんたちが、私の横ですごいバトルをくりひろげてることになるのだけど、私はソフトクリ−ムを受け取って代金を支払うとさっさとその場をはなれた。あのおばちゃんたち恐かったぁ。どこに行ってもああいうのは生息してるんだなぁ。外で待ってた主人に事の次第を話して、二人で歩きながらソフトクリ−ムをぱくつく。冷たい喉越しが気持ちいい!

木村金物店の前の横道に入ると庄川が見えて来た。水の色が綺麗なエメラルドグリ−ンをしているのに驚く。こんなに集落に近くて生活排水が流れ込んでいそうなのに、こんなに透明できれいなんて、凄い。

立ち止まって川をみながら、ソフトクリ−ムを食べてしまうちょうどその時、例のおばさんグル−プが私の後ろを通り過ぎていく。大声で酔っ払いの親父の悪口を言ってるのですぐにわかった。このあとはおばさん達に会う事はなかった。よかった〜。
民家園に向かって歩く。道の両側に合掌造りの民宿が立ち並ぶ。主人は民宿だと知ると、今度くるときにはここの民宿に泊まりたいと言った。
それは私もそう思っていた。この辺りは、観光客にOPENになっている地域とはいえ住んでいる人にとっては日常生活の場だから、こうして歩いていると家が生きているという感じが伝わってくる。展示されているのじゃなく今も現役で住んでいる人の器になっている住宅なのだ。
こうして外から眺めているだけじゃなく、そこに私も泊まってみたいと思った。そんなことを考えているうちに右手に本覚寺が見えてくる。村の小さなお寺さんと言ったのどかな感じ。
民家と民家の間を縫うように歩いていると、目の前に「であい橋」があらわれる。

この橋を渡った西岸に、民家園があるのだ。この橋を渡り始めると、とたんに視界がひらけてくる

空が広くて、山は遠離る感じ。隠れるところがないので夏の直射日光が肌に痛い。

橋を渡り、階段をおりると、ちょっとした広場があ
り、歩くのに疲れたらしい若者たちが、足を投げ出して座っている。正面に案内所がある。左方に民家園の入り口を確認して、入園。



合掌造民家園は過疎のため廃村になった白川郷の集落にあった合掌造りの民家を移築したもの。園内には9棟の合掌造りの民家と、水車小屋、稲架小屋、炭焼小屋、火の見やぐらなどが配置されている。どれも昔は現役だった民家だ。立派な木が茂り、まるで昔からそこにあったかのような佇まいをみせている。

いろいろな民家を見学してあるく。

機織りをしている民家とか
写真のように糸を
染めている民家と役割が
割り当てられているみたい→
蚕を飼っていた屋根裏と→
そこに置かれた生活用具たち。
みんな手の跡とかのこって
いそうでなまなましい。

一番奥まで歩き、戻りかけたところで、どこからか私たちを呼び止めるような人の声がする。きょろきょろ見回すがそれらしき人は誰もいない。歩き出そうとすると再び呼び止める声。ようやくそれが私達の目の前の民家の中からのものだと気付く。その民家に近寄っていくと、中からおばちゃんがにこにこしながら「お茶でもいかがですか。休んでいきなさい」と誘ってくれ
た。その言葉に甘えてその民家にあがると、どうやら休憩所として使われているところらしい。

囲炉裏端に腰をおろすと、さっきのおばちゃんがお菓子とお茶を出してくれる。ありがたくいただく。

おばちゃんは何を話かけるでもなく布をだして何か縫いはじめた。

山の木々をぬけてきた涼しい風が、開け放たれた引き戸から入ってくる。時々おばちゃんと他愛無いおしゃべりがはずんだがお喋りをやめてしまうと、とたんに静寂につつまれる。風が山の木をゆらす音しかしないのだ。また、観光客が家の前を通るとおばちゃんが声をかける。するとうれしそうに恥ずかしそうに観光客が入ってくる。私たちもうれしかったから、気持ちがわかった。
民家の密集する地区を抜けて、広場に出た。そこには、遊び道具がいっぱい置いてあった。
広場で何十年ぶりかでブランコした
り竹馬したりして遊び池のアヒルに遊んでもらい、民家園を後にした。

←遊んでくれたアヒル

出口ちかくにみやげ物屋が3軒並んでいるんだけどそこに巨大さるぼぼがイスに座っていて、また、私は恐怖に襲われてしまった。私はさるぼぼが苦手なのだ〜。
そのまま、また「であい橋」を渡り、町のメインストリ−トに出て、土産を買う。いろいろ見てまわったけど、このあたりでは「合掌苑」というお店が気に入って、そこでいろいろ買った。そして、車に戻る。一瞬、自宅に置いて来た車を探してしまい、車が無い!と焦ってしまった。そうだ、レンタカ−だったのだ・・・。

車は白川郷を後にする。後ろに後ろに合掌造りの民家が遠離っていく。離れがたい気持ちだった。

高山への帰路、御母衣ダムの手前にある「旧遠山家民俗館」を見学する。

R156沿いに突然出現するこの民俗館は白川郷でもっとも大きい合掌造りと言われている「遠山家住宅」を白川村立の民俗館として公開している。

明治の頃は1階に40〜50人が暮らしていたという。ち、ちょっと待てよ・・・いくら大きいと言ったって、その人数でどうやって暮らしていたんだろう・・・。
プライベ−トなんてなかったろうなぁ・・・
この民俗館のパンフレットの表紙に、その大家族制度の頃の写真がある。家の前で家族そろって写した写真のようだ。この写真の中の家族が、全部この家に入るのかと、私は最後まで気になって仕方なかった。

なつかしい匂いのする遠山家を出る。陽は傾きはじめている。

そして、今度こそ本当に白川郷とはお別れだ

来た時と同じル−トで高山に無事帰り着く。ガソリンスタンドでガソリンを入れて、車を返す。故障もなく走ってくれてありがとうという気持ちを車に贈る。

駅前から、お土産をぶら下げてホテルに戻る。夕食は疲れて外に食べに行く気持ちになれず、ホテルのフランス料理を食べた。美味しかった・・・やっぱりはずれがない。