初めての冬山登山


☆☆☆ 序章 ☆☆☆

 これで4回目だった。KAZU,たっち,まいけるの3人が山に挑戦するのは。今は散り散りになっているものの,3人は文間小で楽しく仕事をした仲間だ。一番年下で隊長のたっちにそそのかされて,山に登り始めたのが,3年前の夏。「初心者でも登れますから。八ヶ岳にしましょう。」私は大学時代,山登りをかじって中途半端なままやめていたので,すぐその話にのった。KAZUはテニス・スキー・映画が好きなちょっぴりシティボーイ(シティおじさんともいう)。彼を説得するのは大変だった。でも彼も重い腰をあげ,3人の山行は始まった。でも,最初の八ヶ岳の赤岳〜阿弥陀登山はしんどいものだった。体力には自信があった私だが,山はジョギングで鍛えたその自信をいとも簡単にへしおってくれた。そのうえ,私は高所恐怖症ということを忘れていた。せっかく登頂したのに,十分に景色を楽しめないというどうしようもない山男?だった。下りがとくに恐ろしかった。足を踏み外すとすべってそのまま・・・と思うと何とも情けないへっぴり腰で下りたものだった。

 あれから3年半。今年の夏,スケジュールの折り合いがつかず,恒例の登山は冬になってしまった。KAZUが「一度冬山もやってみたいね。」そううっかり口をすべらしたのがいけなかった。大学時代ワンゲルでならしたたっちがそれを聞き逃すわけがなかった。私もつい相づちをうってしまったものだから,その話は本人達の意に反してどんどん現実味を帯びていった。「じゃあ初心者の練習コースにいいところがあるんです。北八ヶ岳の天狗なら誰でも大丈夫。」我々は第1回目の登山以来,彼(たっち)のことばは割り引いて聞く癖がついていた。でも,ついついその話にのってしまう軽さも失ってなかった。

 我々は2度のミーティングをもって,冬山の準備について話し合った。もちろん中心になったのは隊長だ。かれはわざわざ「よしきり登山隊通信」などという印刷物まで用意するほど入れ込んでいた。ひくにひけない私たちは顔をひきつらせながらも,冬山の心得を学習した。

 冬山の装備は大変だった。何が大変って,お金がかかった。合計いくらかかったかは,うちの奥さんにだけは絶対に言えない。「いくらかかったの?」「まあまあだな。」そんな曖昧な会話で何とか切り抜けてきた。アイゼン(登山靴につける鉄の爪=スパイクのようなもの),ピッケル,冬山用のシュラフ(寝袋),ゴアテックス(汗を通すが雨を通さないすぐれ物の素材)の雨具,手袋,コッヘルなどなどあげたらきりがない。そして何より大切な肌着。これも新素材のものじゃないと汗で冷えて凍傷になるおそれがあるというのだ。みんなこの話にはびびった。「ということは大事なところまで・・・。」隊長は丁寧に,その見本まで持ってきてくれた。シャツからパンツまで。(ファミレスで広げて欲しくなかったけど・・・)私も山に向かう前日コッヘルを買って,ひととおりのものはそろえた。ピッケルは隊長の山用ステッキを借りることにして。さあ,緊張の冬山登山出発日がきた。


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