『産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会報告書

「職務発明制度の在り方について」(案)

平成15年10月』に対する意見。

                                 2003年11月。

                                                             帖佐隆(弁理士・会社員)

 

1、報告書案は、瑕疵ある手続によって作成されたものであり、無効とすべきものと考える。

理由(1)委員名簿を見ると、対価請求権の廃止論者が多数を占める反面、対価請求権の存置論者が非常に少ないのが実情である。これは、きわめて不公平な人選であり、また偏った人選である。このことが報告書案、ひいては立法をゆがめる結果となるからである。

理由(2)議事にいたっては議事内容を公開することとしているものの、私の要望にも反して、誰が何を発言したかについては秘密にされている。これではインターネットの掲示板と同様、無責任な発言が多くなる可能性があるし、また、どのような団体や個人の意見が報告書案に反映されたか市民は知ることができず、公の委員会としてきわめて不適切である。

つまり、本報告書案は無責任発言によって構築された可能性があるともいい得るものとなっている。さらには、国民の知る権利に対して充分に答えていない。

さらには、過去に決定された閣議決定による審議会公開の原則にも反する。よって、きわめて妥当でない審議会運営・進行である。

 

2、報告書案の内容について述べたい点は多岐にわたるが、そのうち以下の点について述べる。特に以下3と4の項目で述べる。

 

3、総論について

(1)この報告書案すなわち「合理性案」は、ひとことで言うなら、「ガス抜き奨励法」と言える。つまり、@勤務規定を労使交渉にかけて、A対価の決定にあたって説明をほどこし、かつ、B従業者に、意見(異議)を述べさせさえすれば、「合理的」ということになり、対価額の見直しをする必要がない。結局、使用者の言い値で対価を決定できることとなる。

つまり「ガス抜き」さえすれば、司法判断を回避できることとなり、結局、単純に対価請求権を奪うことに等しくなる。

 このことは発明意欲の著しい減退につながり、特許法本来の目的である発明の保護(特許法1条)を達成できなくなる。そうすると特許法は何のために存在するのかわからなくなる。

 よって、このような特許制度の制度趣旨に反する報告書案は直ちに破棄し、従来法を存置させるべきである。

 

(2)「訴訟が多発」とあるが(p6)、これは、現行の法律が悪いのではなく、判例を無視し続けているのが原因である。

一方の当事者が判例に基づいて法律的な対応をし、他方の当事者が判例を無視すれば、当然、訴訟になるし、判例を無視した側が敗訴するのも自明の理である。

一方、判例に基づいて対話を行い、対価を決定すれば、現行法下においても訴訟は充分に回避できるはずである。

 

(3)また対価の額に対して予測可能性がないとの趣旨を、報告書案では認定しているが(p7)、判例は増加しており、判例研究と、判例に基づいた検討を行えば充分予測可能性はあるはずである。

言うなれば、報告書案は間違った前提のもとに審議されている。

 

(4)以上のような間違った前提が、さも正しい前提のように議論されていることは、上記のように審議会の運営や進行がきわめて偏っていて、かつ、不公平であり、一方の側に肩入れするから起きたことである。すなわち、適切に反論する者が少なかったからである。

この意味でも当報告書案は無効である。

 

(5)職務発明の対価の問題は、労働の成果を使用者が総取りするという雇用の原則と、発明意欲を増進させるべきとする特許法の原則が抵触するために起きている問題である。つまり、対価の決め方は、前者によれば使用者が一方的に決定した額となり、後者によれば特許権の客観的実績から決めることになる。これら2つの対価の決め方は必ずどちらか一方をとらざるを得ず、折衷案というものはありえない。

 そのように考えると、特許法をわざわざ定めて、かつ特許庁という役所まで置いて、多額のコストまでかけて運用し、技術の累積進歩を促す必要を考えると、特許法を優先すべきことは自明の理であり、特許法を優先しなければ、特許法の存在意義はなくなり、その結果、特許庁職員をはじめとして特許関係者一同、その存在意義がないことになってしまう。そして特許法の否定につながるのである。また一般法と特別法があれば、より特別法の意図を汲むのが正しいあり方だと考えるのである。

 本案は、一見、折衷案のような体裁をとっているが、結果的に前者にいう雇用の原則を優先させる結果となっている。すると、使用者の言い値を絶対的に認めることにつながり、ひいては対価の額にいわれのない上限を設定するに等しい。これらのことは、特許法の目的を無視する結果となる。このことは特許法というものをわざわざ置いたことからして妥当でない結論となるのである。

つまり、特許によって、独占の弊害だけが存在して、肝心の発明意欲は向上せず、との結果になるのである。これはきわめて妥当でない結論である。

 

(6)このように特許の実績を発明者に充分に還元できない制度を構築するとしたら特許法の理念はどうなるのか。全体最適ではなく、特定の人々にのみ有利な法となろう。また、今回技術者が注目する中で不条理な改正を行えば、その改正効果こそも、発明意欲の減退となろう。日本の技術力の低下が非常に心配な事態となる。

 

(7)7pにおいて、退職しなければ訴訟を提起できないのが問題であるという趣旨のことを言っているが、報告書案によれば退職しても訴訟を提起できないこととなる。そうなると、従業者にとって、より問題は深刻である。その一方で、在職中に従業者の意見が反映されるかというと本報告書案でははなはだ疑問である。本報告書案では、本報告書案が在職中の従業者の発明意欲向上になると主張したいのだろうが、はなはだ疑問であり、上記のような言い方を含め、詭弁である。

 

4、各論について

(1)p10にいう対価の決定であるが、労使協議は、近年、事実上形骸化しており、そうなると団体交渉で従業者個々の意見を勤務規則に盛り込むことは不可能である。結果、現行法同様一方的に定めた勤務規則が合理的とされることとなる。

 

(2)また、現行法は、労使間の交渉力の差を見越して、従業者保護のためにあるのであり、労使間の実質的平等をはかるものである。

にもかかわらず現行法の理念がまったく欠落しているのは妥当でない。ちなみに労使交渉において労働側の意思はむしろ昭和30年代よりも実現しにくくなっており、従業者保護の必要性はむしろ高まっている。

 報告書案は、従業者の希望が通りにくいことがわかっていながら、労使間の交渉に委ねることを要求しており、不可能な注文をつけているのである。

 

(3)以上のようなことから考えると、この改正案においても、結局、従来と同様、使用者が一方的に決定した勤務規則ができあがる可能性が大であり、これを阻止しようとすると解雇覚悟での示威行動やストライキなどの手段に訴えねばならず、従業者を研究開発に専念できなくさせ、これは産業の発達からみて妥当でない。

 一方、上記のように改正後にも使用者側が一方的に決定した勤務規則が通るとすれば、従業者の発明意欲は著しく減退するのであり、特許法の理念に著しく反する結果となる。いずれにしても特許法の目的に反し、妥当でない。

よって現行法を存置し、本報告書案は破棄すべきである。

 

(4)改正案では、『両当事者間の「自主的な取り決め」』を重視するように言うが(p11)、現実には使用者が一方的に決定することに帰着し、従業者の不満が増大するばかりである。また、『なお、個々の発明に「対価」を決定するための基準を適用する際、使用者等と従業者等との間に発明の経済的な価値の評価の単なる違いが存在するに過ぎない場合には、その違いのみを理由として対価の決定全体が不合理であると判断されるべきではない。』とあり(p12)、対価の額については、合理性判断の基準とはならないことが実質的に述べられている。

また、審議会の途中で論じられていた、「額の合理性の判断」の話が、審議会の最後(本報告書案)では欠落しており、結局、手続さえ踏めば合理性ということになり、これこそ「ガス抜き奨励法」たるゆえんである。

この結果、自己の対価に関する意見が反映されない従業者の失望感をもたらし、産業政策上の誤り・禍根となることを指摘したい。

 

(5)4項にいう対価の算定基準を改めたいとのことだが、これ以上改めると使用者側に厚きにすぎ妥当ではない。

現在の水準は、たとえば、日立金属の事件では、ライセンス料1億円程度に対して、対価1000万円程度である。

この事件における発明(特許)のように、基本特許であり、発明者の能力が存分に発揮されることにより完成された発明でさえ、ライセンス料に対して1割バック程度である。この水準は、裁判所の方でも充分バランスを考慮したものであり、むしろ従業者に少ないくらいである。

それを、本報告書案のように使用者側の要求通り改正するということは著しくバランスを失わせるものであり、また、冒頭に述べた、審議会メンバーの偏り、不公平性が色濃く反映されたものである。

こう考えると、本報告書案にいう4項改正についても行うべきではない。

 

5、以上述べたことから考えると、本報告書案は、即座に破棄すべきものであり、また、現行特許法35条を存置させるべきである。この旨、この場にて、要請するものである。

                                   本文以上。

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