産業構造審議会 知的財産政策部会 弁理士制度小委員会

報告書(案)の概要に対する意見(パブリックコメント)

                          2006年11月30日(木)

                          久留米大学法学部教授

                          帖佐 隆。。

 

 上記、弁理士制度小委員会報告書(案)の概要に対する意見(パブリックコメント)を申し上げます。

 

 

知的財産専門職大学院修了者に対する

弁理士試験の短答式試験における科目免除について反対します。

 

 

 表記のとおり、知的財産専門職大学院修了者に対する弁理士試験の短答式試験における科目免除について反対します。

 

理由

1、試験制度の意義そのものを没却させるからである。

 報告書案には、『知的財産専門職大学院は…(中略)…その修了者については、工業所有権四法を中心に、知財に関して相当程度の知識を有していることが期待できる』とありますが、何ら検証もせずに、どうしてこれがわかるのでしょうか。

 試験制度というものは、何のためにあるのでしょうか。これから弁理士になろうとする者が『相当程度の知識を有している』かどうかを確認するためにあるのであり、そういう資質や知識等を確認することこそが、試験制度の目的ではありませんか。にもかかわらず、この報告書案の内容はきわめて飛躍がすぎ、かつ、論理矛盾を起こしています。これでは説明になっていません。

 また、報告書案には、『知的財産専門職大学院においては、今後その修了者の能力レベルを注視しつつ、カリキュラム等によって十分な能力レベルが担保されていると認定できる大学院のみを対象として、当該大学院を修了した者に対して、弁理士試験の短答式試験における工業所有権法のみを免除する制度を設けることが適切』とありますが、ここにも論理矛盾があります。

 まず、この文章をみれば、カリキュラムさえ確認すれば、充分な能力レベルが担保できるように聞こえますが、これもおかしい。カリキュラムにおいて、弁理士試験の試験範囲を網羅しただけで、その受講生が資質を満たすとするのであれば、試験制度の意義は何であるか、ということにもなります。この論理でいくならば、極端な例にはなりますが、小学生や幼稚園児相手であっても、カリキュラムさえ適式であれば、彼らが全部知識を習得することが可能ということにもなってしまいます。

 さらに同案には『十分な能力レベルが担保されていると認定できる大学院のみを対象として』とありますが、『十分な能力レベル』の有無は何でわかるのでしょうか。結局意味不明です。

 はなはだ失礼ではありますが、有能な行政官である経済産業省・特許庁の方々や、審議会の方々が、このような論理矛盾に満ち溢れた文章でしか導入の理由を説明できないこと自体、政策としてまともではないと感じざるをえません。国民に説得できない論理矛盾があっても、われ関せずということなのでしょうか。これでは行政庁における政策立案能力の著しい欠如だと評価せざるをえません。

 以上、当該報告書案の内容では論理矛盾をきたすとともに、このまま推し進めるのならば、試験制度の意義を没却させることとなるので、知的財産専門職大学院修了者に対する科目免除には反対です。

 

2、弁理士制度における質の担保が困難となるからである。

 試験制度は、弁理士に知的財産法関連事務の適正なる執行をさせる上で、きわめて重要な意義をもっています。すなわち、規制緩和論者による資格廃止論を経てもなお、過去の法改正で資格制度が維持されているのは、一定の質が担保された専門家によって一定以上の質のサービスを提供する必要があるからでしょう。これに対して、もし、自由競争に任せれば、客にとって法律問題については取り返しのつかない結果を招来するおそれがあるからこそ、いまなお試験制度は維持されているのです。

となると、質を担保するという命題を実現するために、法律の内容を充分に理解している者のみを選抜するということは非常に重要なことであり、この試験制度の機能を省略して、一定の知識を有しているかどうか不明な者を資格者として認定するということは、試験制度の意義を没却させ、ひいては、弁理士試験による質担保機能を失わせることになりかねません。これでは、法律知識の充分でない弁理士が多く誕生し、この者が業務を担当することによって、まだ見ぬ将来の顧客に不測の不利益を与えることが明白であります。そうなると、知財サービスを受けようとする者の弁理士への信頼がなくなり、ひいては、この国の知的財産権、知的財産法に対する信頼がガタガタになってしまうと思料します。これは少なくとも知的財産法に関わる者として、耐え難いものがあります。

 それとも、行政庁である経済産業省・特許庁の皆様や、審議会の皆様は、法律的に無知な弁理士を生み出すことによって、国民の中に被害者を作りたいのでしょうか。そして、かかる事態が起きた場合、その責任を、全部、日本弁理士会になすりつけるつもりなのでしょうか。これでは監督官庁として問題が大いにあると言わざるを得ません。

 結局、この案では、試験制度は無になってしまうことに帰します。これでは、弁理士制度における質の担保が困難となるため、知的財産専門職大学院修了者に対する科目免除には反対です。

 

3、公正な社会の実現という観点に反するからである。

 今回、東京理科大学の石田正泰氏や、大阪工業大学の石井正氏から、自らの大学院に試験免除を誘導するように要望書が出ているようでありますが、みんな真面目に試験を受けて資格をとろうとしているのに、自分たちの関係者だけ、特別に裏から入れてください、というのがはたして公正なのでしょうか。

また、そういうことを認める社会が、公正な社会なのでしょうか。

 今回、経済産業省・特許庁や、審議会がこのような不公正な社会を作ろうとしているとすれば、私はこれに批判を加えざるをえません。

 資格制度は万人に公平であるべきです。資質や努力により実力をつけさえすれば、誰もが公平に参入できるからこそ、人々のインセンティブともなるのであります。このように特定の団体にだけ特権を与えるということになると、著しく人々の意欲を減退させることにもつながります。

 したがって、こういった、公正な社会の実現という観点からみても、知的財産専門職大学院修了者に対する科目免除には反対です。

 

4、政府が大学間競争において特定の大学に肩入れするのか。

 今回の一件について思うのは、政府が大学間競争において特定の大学に肩入れをする面があるということを指摘せざるを得ません。

 つまり、東京理科大学も大阪工業大学も弁理士試験免除特権のもつ顧客吸引力に便乗し、これによって学生を集め、生き残りを図りたいと考えていることが推認されます。

 しかしながら、もし、このような弁理士試験免除特権がなければ、生き残れないような教育を行っているのならば、さっさと潰れるべきなのです。失礼ながら、両大学ともに高尚な理念を掲げているわりには、あまりにも低レベルな要望書ではありませんか。

 いうまでもなく、大学の学生獲得競争は、社会に対していかに有能な人材を輩出したかによって行われるべきであり、裏ルートで弁理士になれることによって行われるべきではないのです。百歩譲って、資格取得における有利さによって学生獲得競争を行うのならば、自らの在校生や卒業生が、(通常の試験における)弁理士試験に何人が合格したかを競うことによって行うべきであります。この点、法科大学院と新司法試験の関係もそうなっているではありませんか。

 さらには、見方によっては、知財サービスの質担保という公益的使命をもった試験制度を学生確保の道具、ひいては、大学存続のための道具にしようとしているということもいえます。これでは資格制度(弁理士試験)をおもちゃにしていると批判されても反論できないでしょう。

 もし、今回、経済産業省・特許庁が、自らが監督する弁理士制度を使って、このような「資格制度おもちゃ政策」を追認かつ推進するというのならば、監督官庁としての職権乱用といわれても仕方がないのではないでしょうか。

 このように、政府が大学間競争において特定の大学に肩入れするという不可解さからみても、知的財産専門職大学院修了者に対する科目免除には反対です。

 

5、審議会の審議プロセスからみても反対です。

 今回の審議会(弁理士制度小委員会)においては、その委員に、澤井敬史氏が加わっていますが、彼の肩書きは、「社団法人日本経済団体連合会…(以下略)…」となっていますが、彼のもうひとつの肩書きは、「東京理科大学 専門職大学院 総合科学技術経営研究科 知的財産戦略専攻」(=知財専門職大学院の一つ)の教員であるわけです。となると、はっきりいって、彼が、この大学院(=知財専門職大学院の一つ)の専任教員であるということは、この大学院の運営に深く関与しているであろうことは容易に推測されるわけです。

 にもかかわらず、「社団法人日本経済団体連合会…(以下略)…」名で、弁理士会を外部から評価するような形で、彼がこの審議会に参加しながら、彼が委員である立場を利用して、自らが参画する大学院に必須科目免除を得ようとしているのではないかと疑念を持ってしまうわけです。

 この点、彼が当該審議会においてどのような活動を行っているか、議事録等以外、実際のところを私は知りません。しかしながら、実際、この弁理士のあり方を審議する委員会では、彼は弁理士に対して、また弁理士制度等に対してかなり強い立場で発言ができるわけです。また、客観的にみて、「社団法人日本経済団体連合会」は日本弁理士会への影響力が強いという傾向もみられます。となると、その立場を利用して自らの大学院に政治的に有利な制度を導入しようとしているとの疑念を国民が持っても不思議ではないと思うのですが、いかがでしょうか。利益誘導(我田引水)といわれても仕方がないのではないでしょうか。となると、こと知的財産専門職大学院修了者への科目免除の審議に関するかぎり、この審議会の審議プロセスは著しく公平性を欠くと思料されます。

 このような審議会の審議プロセスからみても知的財産専門職大学院修了者に対する科目免除には反対です。

 

6、対象となる大学の教員の資質に疑念あり。

 このようなことはあまり書きたくもなかったのですが、危機感も感じておりますので、あえて申し上げたいと思います。

個人名は控えたいと思うのですが、対象となっている大学院の教員には、知的財産法のイロハすら理解していない教員もいるようです。

 当該大学院のその教員は、インターネット上で長期連載を行っているようですが、例えば商標法に関する理解についていえば、彼は、いわゆる「阪神優勝」商標の騒動に関連して、あたかも著名商標主よりも著名商標に出所混同のおそれがある出願に係る権利者を擁護するかのような内容のコラムを書いています。つまり、彼は商標制度を「単なるマークの争奪戦」であるとしか見ておらず、商標法が業務上の信用を保護するのだ、ということをまるで理解していないことが推認されます。このことは商標法のイロハも含むことであり、よってこのようなコラムをみるかぎり、彼が商標法全体を理解しているとは到底いえないと思われます。その他の彼による各連載をみても、およそ知的財産法の基礎的な内容(あくまでイロハ。決して応用ではない。また、軽微な勘違いでもない。)についてまったく理解していないことと感じられるし、また、思想や論旨についても支離滅裂であり、論理矛盾がたくさんあります。

 このような知的財産法のイロハも理解していないような教員が、当該大学院での存在を許されていること自体、到底、当該大学院で質の高い教育を行っているとは到底思えません。

私は、いくつかの大学の法学部の知的財産法に関するゼミの学生さんと接する機会もありますし、そういった学生さんによるディベートも見ていますが、そういった学生さんのディベートはかなりレベルが高いものです。それに比べて、この教員の発言ははるかにレベルが低く、弁理士に合格しようとする者を教えるレベルには到底至っていません。よって、彼の学生が、法学部の知的財産法に関するゼミの学生さんのレベルに到達しているとも思えません。

そして、このような教員をスタッフに迎えて教えることを是とする当該大学の風土を思うならば、その教育姿勢は、かなりいい加減(なあなあ)であることが推認され、この大学で、適切な知識を教えて、高度な教育を行っているということに疑問符がつきます。教員の資格審査は行われていないのではないかとすら思います。

となると、『知財に関して相当程度の知識を有していることが期待できる』とする報告書案の内容にも疑念がつのるところであり、あわせて、その教員の大いなる勘違いが学生に伝達されている可能性が充分にあります。となると、そういった教育を受けた学生の質についても疑問符をつけざるをえません。そうなると、当該大学院の学生、とりわけ、このような教員のシンパの学生等が、無試験で弁理士になると考えると、懸念のあまりに、背筋も凍る思いがします。(上記の例でいえば、当該教員のシンパの学生が弁理士となった場合、彼は、著名商標に出所混同するような商標の出願を大いにすすめる、ということにもなりかねません。)

このように考えると、こういった知的財産専門職大学院の教育の質と、その修了者の質が高いとは到底考えられず、結果、その者が、到底質の高いサービスは実行しえないばかりか、むしろ害悪となるサービスを行ってしまう可能性もあると思われます。

また、このことは低レベルな教員の存在する大学をいわば保護するとなると、その反動として、有能な大学の法学部の知的財産法ゼミ等の沈滞化を招くおそれがあり妥当でないばかりか、上記4でも述べた特定の大学への肩入れにもつながるわけです。

 このように、大学の教育の質と修了者の質に疑義が生じる点からも、知的財産専門職大学院修了者に対する科目免除には反対です。

 

7、同報告書案のタイトルとの矛盾

同報告書案のタイトルには、『弁理士の量的及び質的充実と専門職種としての責任の明確化に向けて』とあり、間違いなく『質的充実』とあります。となると、本当に科目免除を導入して『質的充実』になるとお考えですか。これでは、『質的低下』としか思えません。この点においても、知的財産専門職大学院修了者に対する科目免除には反対です。

 

 

 以上、長々と記載してまいりましたが、私は、知的財産専門職大学院修了者に対する

弁理士試験の短答式試験における科目免除について反対します。そしてそれについては、上記のとおり、相当の理由が存在すると思われます。よって、経済産業省・特許庁、および、審議会の方々が、本問題を見直し、なにとぞ、知的財産専門職大学院修了者に対する科目免除を導入することをやめにすることを、切にお願い申し上げます。

以上。