スリップストリーム(1)

 

 

仕事で急な出張が決まった、車で2時間半ほどの温泉地だ。

助手席に社長を乗せて、慌ただしく会社を出る。私は運転手を任された。

 

一番近くのインターチェンジから高速道路へ入る。

片側2車線の上、中央分離帯付き快適な道路だ・・・信号もない。

腐っても有料だけはのことはある(別に道路が腐っているわけじゃない)。

 

社長は慌ただしく何回か携帯で電話をしていたが、気が付けば寝息というかいびきをかいて寝ている。

 

徐々に感覚が麻痺し、スピードが上がる。

制限速度は何キロだっただろうか?

高級車だけあって、エンジン音はそれほどせず、アクセルの感覚からまだエンジンのポテンシャルを

完全に出し切っていないことは容易に想像が出来る。

 

この状態で事故を起こせば死ぬだろうか?

そんなのが怖くて車に乗るのもナンセンスか、よく船や飛行機を怖がる人がいるが、

それらの乗り物より、車の方がよほど危険な乗り物だという考え方もある。

感覚の問題か。

 

 

2時間ほど走り高速道路を出て、片側一車線の国道を進む。

速いスピードに慣れてしまった感覚が正常に戻るまでにやや時間がかかる。

あたりは既に暗くなり始めている、気が付けば勝手にヘッドライトが点灯している。

 

前の車に追いついては、スッと後ろについて低圧の領域におさまり、対向車が途切れたところで

反対車線を通ってサクサク抜いていく。

 

社長は相変わらず助手席でいびきをかいている、まるでトドだ

 

 

快調に走っていたが信号待ちをしている一台の中型トラックの後ろに付いた。

運送会社の営業用トラックだろう、軽快なドライブだったのに前に遅い車がいると台無しだ。

 

 

さっさと抜いてしまおうと思っていたが、このトラックなかなか速い。

荷物を運び終わって身軽なのだろう、それにしても車高も高く、決してスピードを出すのに向いているとは

思えないあの車両で100キロオーバーのスピードを出すのは勇気がいる。

いつか大学の先輩が言っていたが、あいつらは「義理と人情と度胸」だけで運転しるって・・・

 

大きな車の後ろは視界が悪くて好きじゃない、このままトラックの後ろを走り続けるのも嫌だ。

とは言え、このトラックを抜くには少し長めの直線が必要だ。

 

100キロで走っているトラックを140キロで抜くには5秒もあれば勝負は付くが、

抜きに掛かったところでトラックが100キロから120キロにスピードを上げるも計算にいれるのも忘れない。

いい直線がないのと、対向車が邪魔をして、なかなか抜くことが出来ない。

 

イライラが頂点に達したところで、素晴らしい直線が姿を現す。

対向車はいない、はみ出し禁止のオレンジ色のラインが白線にかわったばかりだ。

 

ここだとばかりにトラックに急接近、一気にトラックの真後ろスリップストリームに潜り込むと、

ウインカーを右にだし、反対車線に移ろうとした瞬間、トラックが反対車線に移動!

 

ブロックか?!

 

頭にきて、アクセルを一番底まで踏み込んで反対車線に移ったトラックをそのまま追い越しにかかった瞬間、

 

 

 

激しい閃光に包まれた・・・・しまった!と思ったけど既に遅かった。

 

 

*

 

 

後日、バッチリカメラ目線で運転する私とトドのように助手席で眠っている社長の写真が会社に郵送されきた。


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