スリップストリーム(2)

 

 

免停処分を受けてからもう3週間が過ぎた。

とはいえ、技術的に運転が出来なくなるわけでもなんでもない、見つからなければいいだけの話。

早い話、無免許運転と同じ事だ。

スピード違反や検問にでも引っかからない限り問題はない、つまり良心の問題だ(?)。

 

不便だけど、慣れてしまえば公共交通機関も悪くない。

朝の殺人的な混雑だけが憂鬱だ、よく死人がでないものだと感心してしまう。

あと嫌なのは雨の日だ。

歩く時間もゆっくりと考えができて捨てたもんじゃない。

 

 

*

 

今日は珍しく寝坊してしまった・・・起きたときにはもう家を出なくてはいけない時間。

雨じゃ無かったのが救いだ。

とにかく食パンをくわえて、ネクタイ結びながら走ったところで遅刻なのは間違いない。

しかたがない!

 

あわてて家を飛び出したが、駐車場を走っている最中に鍵を忘れたことを思い出し、急いで家に戻る。

家の鍵とは分離して持っているのだ、あまり一つに纏めすぎると、無くしたときに全てを失ってしまうから。

 

乗るのは久しぶりだ、余計なことをいろいろと考えたが、今はそれどころではない。

 

家の前に坂道をのぼりきった交差点の信号に捕まらないように角のコンビニエンスストアの駐車場をショートカットに使う。

通り抜け禁止の立て看板も見なかったことにしておこう、目が悪いんだよ。

 

細い道路に出て直ぐにある押しボタン式信号を運良く通過できた。

右手には大学の広大なキャンパスが広がる、本来なら通り抜け禁止なのだろうが、緊急事態にそんな事は気にしない。

大学の駐車場を通り抜けて、裏道から抜ける。

抜けると片側3車線はあるのではないかと思われる、広い道路に出る車線を分離する線はない。

中央線はあるが各車線を分離する線がないのだ、やたらと広い道路幅がありながら、

反対車線にはみ出してくるやつがいるわ、編隊を組んで列んで走ってる奴らはいるで、

やりたい放題好き放題の無法地帯だ。

 

でも、いまだに大きな事故があったとか、人が死んだとかそんな話は耳にしたことがない。

 

県道だか、市道だか知らないが、まぁ危険でもこの道が一番走りやすいし、速いのだ。

ジグザグ走行により、既にかなりの数を抜き去っている。

 

どのくらいのスピードをだろうか?そう言えばこの道路のに制限速度を示す標識を見たことがない。

無制限?・・・ってことにはならんだろうな、標識がなければ制限速度は60キロだ。

 

しばらくしてトンネルに入ると、自動的にライトが点灯する(唯一の自慢できる装備だ)。

照明の光量不足でやたらと暗いが短いトンネルでものの数秒で抜けてしまう・・・もちろん飛ばしているからだが。

 

 

相変わらずのジグザグ走行で、サッとスリップストリームに潜り込んでは反対車線から一気に抜く。

道路が広いので多少の無茶は可能だ。

 

調子に乗ったのがいけなかった、トンネルを抜けてから3度目のスリップストリーム走行にはいって

抜きに掛かった瞬間・・・グシャッと鈍い音をたてて、もの凄い衝撃と共にはじけ飛んだ・・・。

 

一瞬の出来事で呆然としたが、思いっきり正面衝突したらしい。

体中にもの凄い力がかかってお互いに吹っ飛んだが、私の方は体の至る所が痛んで

流血はしているもののそれほど重傷ではなさそうだ。

 

ふと後ろを振り返ると、向こうは土手に突き刺さり、逆さまになってタイヤだけがカラカラとまわっている。

 

気が付けば周りは野次馬だらけになっていた。

恥ずかしい・・・学校の先生を間違って「お母さん」と呼んじゃった時ぐらい恥ずかしいぞ。

 

倒れた自転車をおこしたが、車輪が変形していてとてもじゃないが使えそうになかった。

 

あぁー遅刻か・・・・。

 


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