<風前の灯火inフランス>
大学2年の春休み建築学科だった私はある建築家の作品を見るツアー旅行に参加した。 同じ大学から何人か知っている友人や先輩、先生(教授)も参加している。 ある建築家ってのはル・コルビジェと言う有名な建築家だ。 今ある建築物の基本というか大元の概念のような物を作り上げた偉大な人で、 建築を学んだ人間でこの名前を知らない人はまずいないといっても過言ではない。 それは演歌歌手を目指している人間が北島三郎を知らないはずがないと言うのと同じだ。
すでに故人だが、彼の残した名作は数多くヨーロッパに残っており、今回の旅行では それらの建築を見学するといった趣旨の旅行と言うか研修旅行である。
行き先はフランス、スイス。ドイツの3ヶ国だ。 日本の成田空港を発ち、半日以上を飛行機の中で過ごし、フランスのシャルル・ド・ゴールに 着いたのは早朝、その日はホテルの周りを少し見学し、バスで市内を見学してまわった。 1日目から比較的ハードに動きまわった、でも、それも苦にはならなかった。 目に入るものは本当に興味のある物ばかりだった。 半分この旅行のために買ったような相棒の一眼レフカメラMz−10(名無し)で 夕方にはもう少しでフィルムを1本撮りきるところまで来ていた。 まぁフィルム自体は10本以上も持っていったのでお構いなしだ。
少し暗くなった頃、予定外の場所まで見学し大満足でホテルにもどり、 近くのフレンチレストランで夕食をすませ友人Sと二人、部屋で一息ついた。 友人はどうやらお風呂に入るようだった。 友人Sとは大学の同級生で同じ学科、同じクラスだ。
私 :「ちょっとそこの建物の夜景を撮ってくる、三脚貸してくれない?」 友人S:「いいよ。気を付けてな〜」 私 :「うん、じゃ行って来る」
昼間の興奮が冷めやらぬ私は、夜の公園へと向かった。 宿泊地ラ・ヴィレットのホテルの周りは大きな公園になっていて大きな科学博物館のような物が 建っていた、その建物を撮りたかったのだ。 この公園は早朝にホテルに着いたため、朝の散歩で友人2人と一度見学しているので迷う心配もまずない。 この公園を設計したのもまた有名な人だった。
そして目的の建物の前で三脚をセットしカメラを構えるが建物が大きすぎて入らない、 もう少し下がらないと駄目か。
と思い振り返り歩き出した瞬間・・・・・え?? そう、あの感覚だ。 一歩踏み出した瞬間に床がないあの瞬間の・・・・。 建物の中にいるわけじゃないし、階段だってないぞ・・・・・・。 だって、ここは地面だぞ・・・・。 ・・・。 ・・・・。 そんなバカな事があるはずがないんだ・・・・・。
え?!
気が付けば頭のてっぺんまで水の中!???
ありえない?・・・何? 何が起こったか解らない・・・2秒程経ってからようやく思考能力が回復する。 周りの景色から自分の現状を把握する、そう公園内に流れる運河に落ちたのだ・・・。 夜暗いせいもあったし、振り向いた瞬間でもあったため気がついた時にはもう水泳中だった。 朝に公園を見学したとき、公園を分断している運河があったのを思い出した。 そうだ橋を渡って対岸まで行ったのだ、そう幅が20m近くあった。
そして落ちて初めてわかった事だが深い、足がつかないのだ。 一瞬、”死”と言う言葉が頭をよぎる、しかし運河の流れはあまりないようで流されてはいない。 体も何とか浮いている(泳いでいる)、この運河の両岸は港の岸壁のようになっているのだが、 手を伸ばせば片手だけだが何とか手が届きそうだ。 まず手に持っているカメラを壊さないように軽く投げるようにして上に投げた、 何故こんな余裕があったのか自分でもわからない。
次に自分は何とか手の力だけではい上がる、 服やコートが水を吸って重かったが、なんとかはい上がる事が出来た。 懸垂が出来るだけの腕力があって本当に良かった。
はい上がって公園で一息つくと、誰かに見られているような気がしてコートを絞りホテルに戻る。 格好が格好だし、水がボタボタ垂れてるし、人目につかない通路を選択し、 フロントも通らないで部屋まで・・・夜という事もあって誰にも会わずに何とか帰ってこれた。 部屋に入り本当にホッとした瞬間 友人の第一声。
友人S:「どうしたそんなに雨降ってるの??」 私 :「いや、川に落ちた(鬱)」 友人S:「(爆笑)」
一番気になっていた一眼レフカメラは、電池を替えても動かなかった(さらに鬱)。 建物を見て、写真をいっぱい撮るつもりで海外まで来たのに初日にして最大のパートナーを失った。 親切な友人Sが予備のカメラを貸してくれたのでまだ何とか・・・・。 カシミアのコートも完全に水を吸って毛並みも乱れている。
ただねこれだけは言っておく、あんな大きな運河が流れてるのにサクや手スリが全く無いなんて・・・。
絶対になんかまちがってる〜〜〜!!(絶叫)
2000年 7月21日 |