子ども達に教えてもらったこと

植田  照美


 今年の春、21年目に突入する。何の21年目かというと、自閉性障害およびその周辺領域にあるハンディキャップを持つ子ども達との付き合いである。大学を出て、そのまま小学校の特殊学級の担任になった私。大学では、発達心理をゼミで学び自分なりにある程度はわかるのではないかと思っていた。ところが、いざ現場に出てみるとわからないことばかり。先輩の姿から学んだり、学生時代の本を再度読んだりしてみた。同じ本なのに、学生時代に読んだときとは全く印象が違った。それは、理論と実践が結びついたということなのだと思う。新しい文献が手に入ればそれも読んだ。そこで強く思ったことは、頭でわかっているということと、実際にできることとは違うのだということである。

  その頃参加した研修会で聞いた言葉が、今も強く残っている。
  「○○君のことは、○○君に学べ」である。

  “自閉症”と一言で言っても、一人一人の子どもの像は浮かんでこない。当たり前の話である。共通する部分もあるがそれぞれの個性もあるのであるから…。

 あれから、21年。たくさんの子ども達からたくさんのことを教えてもらった。残念なことに、21年前に出会った子ども達には、教えてもらったことに対してお礼ができなかった。教えてもらうことの方がずっと多かった。でも、子ども達に教えてもらったことはみんな、私の中に貯金してある。多分、利子(?)もついていると思う。

  今、私のしていること。それは、かつて出会った子ども達から教えてもらったことを今の子ども達に返しているのだと思う。

 今の私は、おかげさまで、本を読むと文章が映像のように見えてくる。これも、今までに出会った子ども達のおかげである。心からありがとうと言いたい。あなた達とあなた達のお父さん、お母さんが私を育ててくれた。もちろん、今までの貯金に頼るだけでなく、これからも、もっと、もっと、勉強していこうと思う。この勉強は、学生時代の勉強とは全く違うものであることは明らかである。

 21年前に子ども達に返せなかったことを、今、出会っている子ども達に返すこと。そして、これから出会う子ども達に返していくことが、私にできることだと思っている。

 日本自閉症協会千葉県支部…長い名称、固い名称というイメージがあるかもしれない。けれど、中身は「ひとり ひとりの みんなの あつまり」なのだと思う。私もありがたいことに、その一員として加えていただいている。こんな私でも、今まで子ども達に教えてもらったことを返すことのできる場所を与えていただいているのだと思う。「使ってください 遠慮なく」

  少し変な言い方だけど、今の私があるのは、すべて子ども達のおかげだから、それを今の子ども達に返せるとしたら、それは私にとって、幸せ以外のなにものでもない。

 この会には、幅広い年齢層の会員がいらっしゃるのだから、きっと素敵なことができる。先輩方の積み上げてきたものを、若いお母さん達が更に、高くしたり、広くしたり、きっとそういうことの積み重ねが、我が子を、友達の子を育てるのだと思う。