いとしご68号から
松戸市親の会の水泳教室
水泳で鑑える体と心 自閉症の人たちは水が好き。このことを生かして,親が中心になり多方面の支援を得て,水泳教室を行って来ているグループがあります。 日本自閉症協会千葉県支部松戸分会(松戸市自閉症児者親の会)が行っている水泳教室もその一つです。今年発足20周年を迎えることになり,20年間,ほぼ毎日曜日続けられています。 自閉症児を泳がせてあげたいという思いからはじまって,子ども達が泳げるようになり,幾多の大会に出場し入賞するまでになる成果のほか,多様な効果が生まれてきています。その状況をレポートして,このような取組みが波及,進展する参考に供します。
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松戸市自閉症児者親の会水泳教室見学記 (協会出版部 古屋道夫) 日曜日の午後4時40分,千葉県柏市南増尾にある柏洋スイマーズ南スクールのプールに,幼児から青年までの世代の自閉症の人たちとその母親または父親20数組が集まってくる。 親たちは簡単な挨拶をして,子どもたちは慣れた様子でそれぞれ更衣室に。水着になり,小ホールで準備体操と出席確認,シャワーを浴び,5時に25メートル室内温水プールサイドに集合。子どもたちがプールに入り,プール縁につかまりコーチ二人の手拍手でバタ足で水しぶきを上げる。親たちは練習メニュー板の準備など。次に,水中で手足を激しく動かすアクアビクスを10分ほど。親子全員がリズムとコーチの指示にあわせて行う。合わせている子もいるし勝手に体を動かしている子もいる。雰囲気が盛り上がり練習に入る。コースロープで区切られた四区画に水に浮く練習のクラスから国際大会に出場するクラスまで分かれて,それぞれの練習を行う。初級クラスは水に浮く訓練,指導するのは親たち,体を支え手足を動かさせる。優しく扱っているが,訓練では譲らない,子どもは抵抗するが水に浮く感覚は嫌いではない様子。 中央の広いコースでは大会出場選手クラスの数人が四種類の泳法と,各泳法の手,足の訓練を,往復しながら力を尽くして,メニューを確認しながら消化していく。幾人かは立派な水泳選手の体になっている。プールサイドでは親が休止とスタートのコントロールをきっちり。中ではコーチが泳法の矯正指導。 他のクラスは程度に合せて作られたメニューを水中に入った親の指導とプールサイドにいる親の指導でプールを何往復も。立ち止まり奇声を上げたり常同行動なども見受けられるが,すぐに声掛けがあり泳ぎに入る。二人のコーチは子どもの指導と親に介助法を教えるのに忙しい。プールの中も,サイドも活気に満ちている。 充実した時間が過ぎ,午後6時に練習は終了。全員がプールサイドに集まり,簡単な体操と終わりの挨拶をして,シャワーを浴び,着衣を終えて,親子それぞれに,体を十分に使った満足感を持って帰宅する。
子どもに「水泳は好きですか」と聞くと「水泳は好きです。楽しいです」との紋切り型の答えが返ってきましたが,親に子どもの気持ちを推測して代弁してもらいました。
・仲間意識が彼らなりに育っている。例えばいつもきている仲間が休むと気になる。 ■ 親の声 ・プールに入るのを嫌がっていた期間が長く,苦労したが,入れるようになった。
・最初は,水に入り体に触られるのを嫌がっても,泳げるようになった。
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水泳教室の歴史 昭和53年 松戸市自閉症児者親の会発会。
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水泳教室で生きる力を育てる 松戸市自閉症児者親の会会長 角口早苗 初めに,私達の会報「ふれあい」第11号(平成3年3月発行・水泳教室10周年記念号)より過去をたどります。 「障害のある子どもも他の子ども達に負けない何かを身に付けさせてあげたい。出来れば大好きな遊びの中から,発達を促すことで,長く続けられて費用のかからないこと」と随分欲張った考えですが,これらを全部満たして自閉症児水泳教室が10年前に始まりました。無我夢中の状態が3年くらい続き,徐々に水慣れして泳力指導が可能になりました。この水泳教室が始まるまでに3年の準備期間がありました。 親の会ができて,障害についても情報が増えて,水泳指導の良い結果も耳にしました。そこでスイミングスクールに入会をお願いしましたが,障害児の指導は経験がないとの理由で断わられました。その話を親の会ですると,同じように断わられた会員がいたのです。そこで全会員40数名(現在93名)に呼びかけると15名の希望が集まりました。諦めるわけにはいきません。考えられることは,片っ端からアタックしていきました。そして素晴らしい出会いがありました。コーチやボランティア,先輩達の応援もありました。10年経ち,「欲張った考え」以上のことをたくさん子ども達に与えてくれています。仲間と同一体験することで親もわが子の問題点を認識して目標に近づく努力をしてきました。(後略) 十周年からまた10年経ちます。事故を起こさないよう,ルールを守って遊びでない水泳指導を続けてきた結果,こんなに泳げるようになったのです。大会に出場しようと目標を持ったのも励みになりました。 年齢層も幼児から30歳と広くなり,クラス分けも難しくなりました。体も大きくなり,介助するのも大変になりました。親はいつまでも一緒に入れません。安全に続けていくゆくには,ボランティアの増員が必要です。各方面に協力を呼びかけながら,生涯スポーツとして続けて行きたいと思います。
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