会報みちNo.49から

ゆうあいピック群馬大会(全国大会)に出場して
スローガン『いま君がすばらしい』

 「せいっ。せいっ。せいっ。」応援の掛け声が響く中,力強く水を蹴る体がゴールヘと近付いて行きます。「頑張れっ!もう少し。」パンと,プールの縁に手が着いて立ち上った途端,きょろっと辺りを見廻してほっとしたような顔を見せた彼がいました。

 その日の前橋は雲一つ無い快晴。前日までのぐずついていた空が嘘のようでした。記念の大会に神様がプレゼントをして〈れたのでしょう。開始時間ぎりぎりに入った会場は満員で,座った場所から見えるのはプラカ−ドばかり。それでもビデオを覗き込み,あれでもない,これでもないと目を凝らして探しました。ようやくそれらしい後ろ姿を見つけたのは,開会式も後半に入り,選手が退場する時でした。「いたいた。康夫だよ。」ちっぼけな後ろ姿をビデオで追いながら「良かった。」と一息。華やかな開会式のアトラクションも見ずに急いで水泳会場に向かいました。

 「大会に出すためにプールに行かせた訳しゃないけど,せっかく代表になったのに何も貰えないんじゃ可哀相だよね。」などと,見物人の気安さで話している内に,水泳の部での開会式が始まりました。入場してきた列の中で泣きそうな顔をしているのを見つけ,こっちまでどうしようという気持ちになってしまいましたが,応援席から声を掛けてやるぐらいしかできません。そのうちに段々と落着いてきたのか,いつもの笑顔が見られるようになり「大丈夫」と安心したのも束の間のことでした。

 練習も終り,まだかまだかと待ち遠しく思っていた彼の出番が,やっとやってきました。最初の種目は背泳ぎです。ボランティアのお姉さんに連れられて椅子に腰掛けた顔は,少し緊張っているようでした。以前参加した記録会では,直前でもにこにこ笑ったり,指文字を書いたり,手を叩いたりしていたのに…今回はとても緊張しているのでしょう。きちんと膝に手を置いて,神妙な頗をしてプールを見ていました。

 いよいよ順番がやってきました。「用意」バーン。と響いたピストルの合図で一斉に5人が泳ぎ出します。5m・10・15m…。ちらっと彼がゴールを振向きます。「だめだよ!」声を出しても後の祭り。タッチの差でした。

 それでも泳ぎ終って安心したのか,2位の表彰台の上で銀メダルを首から下げたその顔には,いつもの笑顔が浮かんでいました。「よかったね。がんばったね。」自分のことのように,いえそれ以上に嬉しい瞬間でした。「あそこにいるのはウチの子よ〕と,誰彼構わずに自慢したかった程に……

 親から離れて殆ど知らない人達と過ごした5日間は,見掛けによらず神経質な彼にとっては,彼なりに周囲に気を使った大変な旅だったようです。元気に,にこにこ沢山のお土産を抱えて帰ってきた彼は言いました。「もういかない。」その一言に思いました。「ああ。たいへんだったんだね。」大会新記録も銀メダルも,周囲りが思う程の重要事ではない彼ですが,ゆうあいピックヘの参加は,久し振りに体験した≪心細さ≫と相俟って,良い体験になったのではないかと思います。

 そして…。今日も又,彼は元気にプールヘ…と出掛けて行きます。「頑張って続けてみようか。そうだね…。壮年の部で又,出場できるぐらいまで。こんどは金メタルをとろうね!」なんて,考えも知らずに…。

松戸市分会 佐川 千恵(姉)

98/09/01 up