会報みちNo.51から

定例講演会 1996.2.25

自閉症児者の職業問題について

川村宣輝 (千葉障害者職業センター主任障害者職業カウンセラー) 

 

 平成8年2月25日(日)午後1時よりサン・アビリティーズ千葉において,労働福祉部主催の講演会が開催されました。講師に千葉障害者職業センターの川村宣輝先生を迎え,「自閉症児者の職業問題について」という演題で,障害者が就職をする上で障害者職業センターがどのようなサービスができるか,具体的な内容や役割,活用の仕方,又就職してからの援護制度等を中心にレジュメに添ってお話を進めてくださいました。



1.はじめに

 本日は「自閉症児者の職業問題」というテーマでこれからお話したいと思います。
 障害者職業センターは全ての障害者を対象とした職業に関する相談機関で,自閉症者の医療や療育の専門機関ではありませんし,職業相談のため来所する自閉症者の方はごく一部の方々です。
 自閉症者の多くは知的障害も併せ持つことから,本日の私の話は知的障害者の職業問題を中心に進めていきたいと思います。
 就職を目指していくために,職業センターの利用方法や,心構え,就労上の援護制度等をできるだけわかりやすくお話したいと考えています。
 実際に養護学校の高等部等の生徒さんの職業相談や職業評価を行う中で感じていることは,就職を目指して行くための準備に早すぎるということはないということです。主に高等部2年の段階でセンターに来てもらうのですが,全般的に準備が遅く,のんびりと構えているご家庭が多いように思います。本日の話が,できるだけ早く計画的に準備に入っていただくためのきっかけとなっていただければ幸いです。


2 障害者職業センタ−の業務概要について

 障害者職業センターは,「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づき,障害者の職業生活における自立を促進するため,日本障害者雇用促進協会が設置・運営している施設です。
 職業センターは昭和47年に東京センターが開設されて以来,10年間で全国の各都道府県への設置が完了されました。さらに,平成元年に東京,大阪等の5カ所の職業センターには支所が設置されています。  


(1)業務の概要について
 千葉県内に12カ所ある公共職業安定所と密接な連携をとりながら,次の業務を行っています。
 @職業相談・評価
 職業能力・職業適性等を評価するとともに,就職活動を円滑に進め,職業生活の維持,その職業に対する適応性を向上させるための相談を行います。

 A職業準備訓練
 基本的な労働習慣を体得させるための職業準備訓練を行っています。後で詳しくお話します。
 B職域開発援助事業
 実際の事業所の職場環境の中で,個別に職業能力全般を向上させるための援助で,これも後ほど詳しくお話します。

 C職業講習
 ワープロ・パソコンの基本的な技能・知識を習得し,就職する際役立てていただくものです。

 D職場適応指導及び雇用管理援助
 就職後,職場環境に適応させるために必要な助言・援助等を,安定所をはじめとした関係機関と連携しながら実施しています。また,事業主に対しても障害者の雇用管理に関するアドバイスを行っています。

(2)対象となる障害者の範囲について
 センターの対象者となるのは,身障手帳,療育手帳等の手帳を持った方々だけではなく,もっと範囲が広く,「就職する上で何らかのハンディを持った人」といった捉え方をしています。具体的にはセンターでは統計上4つに分類しています。
 @身体障害者
 A精神薄弱者
 B精神障害者
 Cその他(@〜B以外の対象者)
 各障害者の方々がどの位の割合で来所しているかを平成6年度の新規来所者414名の内訳でみてみると,精神薄弱者53%,身体障害者25%,その他14%,精神障害者8%となっています。
 また,同年度の障害者の来所延べ人数は5063人でが,全体で障害者一人当り平均7回来所していることになります。障害者別では精神障害者が約16回と最も多く,身体障害者8回,精神薄弱者,その他の6回と続きます。

(3)障害者職業センタ−の業務の流れについて
 センターを利用する障害者の来所経路は,安定所からの紹介をはじめとして,医療機関や福祉事務所等の関係機関からの依頼,又,直接センターへ来所する方もいます。
 こうした来所者に対して,まずセンターでは,その方がサービスの対象となる人かどうかを受付の段階で来所の主訴から確認します。中には障害者年金の相談や医療の相談が目的で来所する人もいますが,そうした職業,就職の目的以外の方には福祉事務所,病院等の関係機関を紹介します。
 受付の段階でセンターの対象者であると判断された方については,職業相談・評価を通して具体的にその人が抱えている問題点を明らかにし,課題の解決のための方法について話し合います。
 その結果により,特にセンターの他のサービスが必要ない人については管轄の安定所に連絡し,求職活動を行っていきますが,直ちに就職が困難と思われる対象者については,冒頭でも説明しました3つの事業(職業準備訓練,職域開発援助事業,職業講習)を活用し,本人の職業準備性を高めてから就職を検討していくこととしています。
 流れ図のまん中からやや下にある「職業リハビリテーション計画」とは,職業相談・評価及び3事業の結果から,本人の最も適した方向を考えていこうというものです。
 そして,安定所の紹介により就職をした後についても,安定所と連携をとりながら,できるだけ長期に職場に定着していくための適応指導を必要に応じて定期的に実施しています。

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3 センタ−利用者の最近の傾向について

(1)来所する障害者の変遷について
 昭和47年に東京センターができ,全国に職業センターが設立されるまでの約10年間は,センター来所者の中で身体障害者の占める割合が一番高かったのですが,その後は知的障害者が増加し,そして最近は精神障害者が次第に増加してきています。
 これは身体障害者の場合,一般企業に送り出す体制が整い,企業側も安け入れることができるようになってきたように思います。
 ただ,脳性まひや視覚障害等の身体障害者,知的・精神障害者,また,重複障害者は,就労まで様々な問題を抱えています。
 それにしても,当時に比べ障害者に対する社会の理解や雇用援護制度の充実はまだまだ十分ではありませんが,時代の変化には目を見張るものがあります。

(2)「その他」の障害者の増加
 精神障害者の増加とともに障害者手帳を所持していない「その他」の障害者も最近増加傾向にあります。中でも知的には軽度〜境界線級であるが,対人関係をうまく結べない,コミュニケーションが十分にとれない,就職に対する意欲に乏しいなどの職業的にみると就職の困難な来所者が増えています。
 具体的には自閉症,学習障害,不登校,いじめにより精神的に傷ついている等,周囲の環境に適応していく上で障害を持つ「適応障害」が社会の変化とともに年々増えているように思います。

 

4 知的障害者(自閉症者)に対する就労援助について

(1)職業センターにおける就労援助の内容,利用方法について
 ここでは職業センターの知的障害者(自閉症者)に対するサービスの内容を具体的に説明します。

@ 養護学校等在学者に対する職業相談・評価
 在学生に対するサービスとして,養護学校高等部2年生或いは中学校の特学の3年生に対して,卒業後の職業指導や職業相談,職業能力の評価を実施しています。これは単に就職の可能性を明らかにするだけではなく,具体的な課題を指摘し,卒業までにそれをどう解決し,準備していくのかまでアドバイスをします。
 対象となる方は,卒業後就職を希望している人で学校,安定所が職業センターの利用を必要としていることが条件となります。希望される方は学校を通して申し込んで下さい。

A職業準備訓練
 潜在的な作業能力はあるが,働く意欲,体力,持久力,職場でのルールの遵守,対人態度等の基本的な労働習慣が身についていないことから,直ちに就域することが困難と判断される者に対して,簡易作業を通して就職に必要な基本的な労働習慣を体得させることを目的としています。
 期間は8週間で,年間4期実施しており,定員は各期10人程度の集団訓練になります。
 できるだけ事業所と同様の職場環境を設定するという意味で,「ワークトレーニング社」と呼ばれる模擬工場において行われています。
 職業訓練との違いは,特定の技能の習得が目的ではなく,職業生活全般に適応できるための土台を作ることを目的としています。
 訓練修了後は安定所の協力のもとに就職活動を行い,就職後も安定所等と密接な連携をして職場適応指導等の援助を行います。

B職域開発援助事業
 アメリカで実施されている「援助つき雇用」をモデルに平成4年度から職業センターにおいて実施されています。
 従来の雇用の援護制度では十分に対応できなかった重度障害者を対象に,実際の事業所を職業リハビリテーションの場として活用し,対象者の特性に応じた個別の指導・援助を行うことにより,障害者の職業能力の向上及び職域の拡大を図ることを目的としています。
 実施期間は1〜4ヶ月の間で,職業評価の結果を基に,対象者に応じた期間を設定しています。
 援助事業では援助内容を,職業生活を支える生活管理,通勤,職場内での人間関係の調整,職場と家庭の連携体制の確立等の生活支援と,職場における技能の習得,職場適応のために必要な知識等の技術支援の二つに分け,前者を職業センターの生活支援パートナーが,後者については委託先事業所の技術支援パートナーがそれぞれ担当しています。なお,委託先事業所に対しては委託費が月額5万9千円支給されます。
 支援は対象者の適応状況に応じて段階的に実施され,慣れるに従い徐々に支援を引いていくこととしています。対象者としては,職業的に重度の知的障害者が大部分で,精神障害者も年々増えています。
 千葉職業センターの今年度の同事業の就職率は80%を超えており,大きな成果をあげています。
 先に説明しました職業準備訓練についても言えることですが,対象者に職業センターが長期に関わつていくことにより,対象者と職業センターに信頼関係が生まれ,職場で何かトラブルが起きた場合,早めに相談等を持ちかけられるといった,就職後の適応指導の場面で良い形で現れているように思います。

C障害者職業総合センターとの連携
 千葉市の海浜幕張駅にある,千葉職業センターと同じ協会の組織ですが,管理部門,研究部門,職業センターと大きく三つの部門に分かれています。
 職業センターでは,研究部門と協力しながら,障害を持つ方の雇用の促進と安定を図ることを目的に,高度で先駆的な職業リハビリテーションサービスを提供しています。
 職業準備訓練,職業講習,職業レディネス指導事業などを実施していますが,ここでは職業準備訓練について千葉職業センターでの同事業との違いについてお話します。
 事業の目的は就職に必要な基本的労働習慣の体得と,地域センターと同様でありますが,ここでの対象者は,地域センターにおいて対応が困難な重度の障害者であるが,総合センター職業センターのサービスを受けることで就職の機会が増大することが見込まれると判断される方となっています。
 全国各地の職業センターから入所者が集まってくることから,宿舎も完備されています。
 指導期間は13週間で地域センターより長期であり,年間3期実施しています。
 また,地域センターでは設定困難な園芸,軽作業,パンクッキー製造,事務・印刷などの職種を第一次から第三次産業まで多様な領域から選び,模擬的職場環境を設定しています。

 

5 知的障害者に対する雇用援護制度について

(1)雇用率制度について
 「障害者の雇用の促進等に関する法律」において一定割合以上の障害者を雇用する義務を企業や公共団体に課す雇用率制度が施されており,各種雇用援護制度についても触れられています。この法律の前身となる「身体障害者雇用促進法」では,対象となる障害者は身体障害者が中心でありましたが,その後の法改正により対象となる障害者は精神薄弱者,精神障害者と全ての障害者に拡大されてきました。現在民間企業の法定雇用率は1.6%ですが,これを満たしている企業は全体のまだ半数程度で,障害者雇用への理解は今後の課題と言えましょう。
 自閉症者の法的な位置付けとしては,現在の段階では自閉症という診断名のみで雇用援護制度を適用することはできません。そこで自閉症に多くの割合で付随する知的障害,てんかんをもって制度の適用を受けることになります。

(2)納付金制度
 この制度は,企業が身体障害者を雇用する場合には作業設備や職場環境を改善したり,特別の訓練を行うなどの経済的負担がかかることを考慮し,雇用率に達するまで障害者を雇用していない企業から納付金を徴収することによって,障害者を多く雇用している企業の経済的な負担を軽減し,経済的負担のアンバランスを是正することを目的とした制度です。

98/09/01 up