2001.3.10 up 

えっ,そうだったの!?・・・自閉症

今関 裕子

TEACCHプログラム第1回セミナーから作成 (事例がいっぱい)

(佐々木正美先生講演 2000/12/23)

自閉症の特性・文化
目で考える(言葉は第2言語)
図書館は自閉症者に向いている職場
抽象概念の理解が困難
空間を意味する概念の理解が困難
人を疑うことが困難
言外の意味は分からない
シングル・フォーカス(モノ・トラック,アナログ入力)
予測しにくい情報は嫌悪刺激になる,不安
想像力やイメージに乏しい
止(ダメ!)に弱い

    

はじめに

 自閉症は知名度こそ高いのですが,その名前のイメージからしても“心の病気”とか“治るもの”とか思われていて,誤解が多い障害です。あるいは名前は聞いた事はあるけどよく知らない,と言う方も多いのではないでしょうか。

 自閉症はその程度の差にもよりますが,一般に対応が難しく困難な障害とされています。少しでも周囲の多くの方に理解していただくことが社会生活を可能にする第一歩です。

 これから,TEACCHプログラムのセミナーで聞いた話を中心に,自閉症の様子を少しずつお伝えしていこうと思います。
 『あ,この人もしかして自閉症かな・・』と街の中で気がついてもらえるようになると嬉しいです。

★ TEACCHプログラムについて ★

 アメリカのノースカロライナ州,州立の大学で研究・開発された。自閉症の特徴・文化を明らかにし,理解し,その上で自閉症者に有益なコミュニケーション手段を用いている。
 自閉症者に分かりやすい“構造化(視覚に訴える)”等を軸に自閉症者が安定し,安心して暮らせるシステム,プログラムを地域全体で実践している。

★ テンプルさんの紹介 ★

 テンプル・グランディンさん(女性)は高機能自閉症(知的水準の高い自閉症)です。近年その著書が出版され,自閉症の理解に大きく貢献した。
 自閉症本人の手記としては世界初で,これまで理解しにくかった自閉症の世界を一般の人に知らせた画期的な書物と言える。

 

 



【テンプルさんのこと】

 高機能自閉症の人の集まりなどで“自分は特別な自閉症なのか,多くの自閉症者がそうなのか,また一般の人とはどうか”を確かめて歩いている。

        

自分が他の自閉症と全く違うなら講演しても意味がないから。
でもその中で得た結果は多くの自閉症者が自分と重なった。

 


 

自閉症の特性・文化

 自閉症の人の苦悩を理解してあげる。
 私達と自閉症の違いを知る。

        

1) 自閉症は寒さや痛みに強い,
  加速度に強い(くるくるしても平気,乗り物酔いしない),
  私達が普通嫌う鍋底を擦るような音等が平気,逆に私達が気にならない音を嫌がったりする。

※ 嫌な音の克服は,聞かせて慣らすといった方法でアプローチすると,70%の人が返ってひどくなる。どういう人が30%に入るのかは不明です。

2) 「4,3,8,9,7,0,2,これをもう一度言ってみてください」等が得意。 私達とは違う理解の仕方。
   私達はこれを頭のなかで数唱し続けていないと忘れてしまう。「逆から言ってみてください。」となると,さらに困難。まして「あなたの電話番号を言ってからもう一度言ってみてください。」などお手上げ!
  しかしそういうのが得意だったりする。

        

 優れている,劣っている,ではない。“違っている”だけ。
 これが自閉症の文化

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目で考える(言葉は第2言語)

 “視覚”で捉える世界    これを無視してはいけない!

 かなり自由にしゃべれる人でも視覚的学習者である。
 映像化できない言葉は無視してしまう,聞き逃してしまう。

 ある日海岸で真っ赤な夕日が沈んでいく光景を見て,テンプルさんの側にいた人が「Beautiful !」と言った。またある時,深緑に包まれた山の中でその自然の美しさに「Beautiful !」と別の人が言った。全く違う光景なのに同じ「Beautiful 」と表現している。驚異であった(自閉症者の苦悩)。

 テンプルさんの言葉:

 読書は「活字をカラー映画のように翻訳する」
 そして「写真やアルバムのように,記憶にたたきこむ」

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 図書館は自閉症者に向いている職場(記号・番号で本を処理する,しゃべってはいけない)。ノースカロライナの多くの図書館には自閉症の人が勤めている。

 会話もスムーズで,仕事もよくできる青年のデスクに,『人に噛みつかない,人を罵らない,人につばを吐きかけない』と書かれた紙が張られていた。
 訳を尋ねると待ってましたとばかりに館長さんが答えた話・・・

 図書館では,“読みおわったらそのまま返却口に置いて帰ってください,読みっぱなしで結構です”という表示がされている。下手に返されて違う場所に行ってしまうと大変だから。でも中には自分で返しに行く人がいて,誰かが席を立つと,青年は気が気ではなく,じっと監視している。ちゃんと返してくれればよいが,間違おうものなら,怒って近づき,その人を罵り,つばを吐きかけてしまう。何度注意してもその場では分かるが,どうしても繰り返してしまう。

 これでは仕事にならないので受け入れを頼まれた大学側に解雇の申し出をしたところ,やってはいけないことを紙に書いて見せてあげてください,と言われた。何度言っても分からなかったのに紙に書いたぐらいで,と思ったが,解雇するのだから言われたことはやってみることにした。そうしたらそれまでの問題行動が嘘のように止まった。

 青年は同じものを自分の手帳にも張っていて,1日の始まりにまず手帳を見てから仕事を始めるという。
 耳で聞いたことはその場では分かっても忘れてしまう。でも紙に書いて目で見たものは忘れない(だめ,というその記憶をkeepできる),と話していた。

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抽象概念の理解が困難:平和,正直,幸福,アーメンなど

 テンプルさんは“happy ”という言葉を耳にするとき,“自分が大好きなフレンチ・トーストを食べているところ”を思い出し,“happy ”とはこういうこと,こういうもの,と考える。

 高機能の人はこの置換作業が早いので会話が出来るけれど,多くの自閉症者は会話が難しい。

 “幸福”は“フレンチ・トースト”に置き換えられても,“アーメン”なんてまさにミステリー!どうにもならない概念。

 

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空間を意味する概念の理解が困難:上下,前後,遠近など

 テンプルさんがやっと“under ”という言葉を理解し始める最初の記憶

 幼稚園での非難訓練場面で先生が「Under the desk! under the desk! 」と言ってテンプルさんを机の下に押し込めた。この時の“unnder”の理解は“窮屈”・・・

 いかに概念を獲得するのが難しいかを物語っている。

 

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人を疑うことが困難

 嘘をつくなど考えられない,世辞も言えない(真っ正直!)。

 日本に招かれたテンプルさんのためのパーティーの席で,最後にあいさつを頼まれたテンプルさん。
 「私はパーティーと言うものが嫌いです。私はこの時間,ちっとも楽しくありませんでした。」と感想を述べた。

 

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言外の意味は分からない

 「お醤油とれますか?」→「ハイ,とれます」と答えるけれど取ってはくれない。“取ることが出来る(取る能力がある)”と答えただけ,誰もそんなことは聞いていないのに・・・


 日本地図が好きな子供。“おばあちゃん家は広島,遠い”,何でもよく分かって話せる子供で,遠い・近いもかなり分かっている。
 ある時大好きなNHKで「(飛行機で数時間,)アメリカも近くなりましたねー。」という会話を聞き激怒!『何て馬鹿なことを言っているの!そんなことがあるわけない!』 「世界も狭くなりました。」なんて言ったらそれこそ大混乱!?

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シングル・フォーカス(モノ・トラック,アナログ入力)

 一度に一つのことしか目に入らない,多くの情報の中の一部分に反応する同時にいろんなことをこなせない。

 講義を聞きながらノートをとれない。足の処理と手の処理が同時にこなせない
(自転車,縄跳び,球技,etc.の運動の獲得も普通の人の何倍も時間がかかる)。


 気が散りやすい(多動)のも,同時に幾つもの処理が出来ないからキョロキョロする。選択が出来ない(“どっちにしようかなー”などと考えられない)。だから見たものに即反応してしまう→衝動的に見えるわけ。


 テンプルさんは小さいとき,多くの言葉は雑音だった(→自閉症の人は多弁の人に会うと苦痛だったりする)。

ある時“dog ”という言葉が耳に入るようになった(会話の中の“dog ”の音は拾えた)。

今にして思うと,「お父さん,犬の散歩に行って来て。テンプルも一緒に連れていって。」 ぐらいのことをお母さんは言ったのだと思う。

 しかしこの時のテンプルさんにとって,dog = 外(外に行く)であった。外に行きたくなったとき,「dog !dog !」と言っても誰も分かってくれなかった。

        

何と何が結びつくのかは不可解。意外な理解の仕方をしていたりする。


 ある療育施設で,電線に雀が3羽とまっている絵を見せながら「雀。す・ず・め,だよ。」と教えた。やがて子供は理解し,「すずめ!」と答えた。

以後,線を見ると「すずめ!」  修正するのに1年かかった。


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予測しにくい情報は嫌悪刺激になる,不安

 世の中は予測できないことばかり,だから自閉症は社会適応が難しい。

 テンプルさんは講義は好きだが質疑応答は苦手。
何を聞かれるか分からない。予測できないことはとてもこわい,不安(答えられないと困るというプライドでは全くない。)。
  よって質疑応答の時間を設けていなかったが学生から大学に抗議があって,今は仕方なく質疑応答の時間を設けた。


 旅行のプランがアクシデントにより変更になったりする(飛行機が飛ばないので新幹線で移動することになった,など)と大混乱。『次,飛行機・・・次,飛行機・・・』


 TEACCHではこれらの訓練として,普段はスケジュールを紙に書いてみせるところを,「今日は何が起こるか分からない日」と伝えておく。その後大好きなお菓子が出てきたり,楽しい紙芝居など,子供たちが喜ぶプログラムを登場させる。
 まずこういう体験をさせる(快刺激)。決して傷つけない。このような快刺激の体験を積み重ねることによって不安にも対応できるようになる。

        

傷つけない”ので,ノースカロライナの自閉症者は大変人懐こい。


 パニックは人のいるところで起こっている(一人のときは起こさない)。
「うちの子はよくパニックを起こすんです。」と言う人がいるが,
「私はよくパニックを起こさせるんです。」が正しい。こちらがパニックにさせているだけ。

 

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想像力やイメージに乏しい:応用が利かない,自由時間がうまく使えない。

 何をしていいか分からない自由時間は時には苦痛。問題行動・常同行動などは自由由時間に発生し,自由時間に強化される。

        

 逆にいうとスケジュールがはっきりしていた方が落ちついた行動がとれ,何か与えられている方が常同行動が出にくい。

 

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禁止(ダメ!)に弱い

 自閉症の人はダメという言葉に困窮する。何をどうしていいか分からない。
   
「ダメ!」ではなく,「〜しなさい。」と具体的に言ってあげる。
 テンプルさん談:「NO!」と言われることはつらい。


 思春期になって女性に触ってしまう,という自閉症の男児も少なくない。
 この場合,“触っていい人”を教えてあげる(会場では笑いをとっていましたが笑い事ではなく,真面目にそれくらいのことが必要のようです。)。

 “触っていい人リスト”を作ってあげる。具体的なことほどいい。ハッキリさせる。


 ある自閉症児でトイレの水を繰り返し繰り返し出しつづけて困るという子がいた。何度ダメと言っても,その時は「分かりました」と言うけど,一向にその悪癖は治まらず,トイレに鍵を付けられない状況だった。

「ダメ」をやめて,[水 一回流す]と紙に書いて見せたところ(“てにをは”を使わず,簡潔に分かりやすく表現),ピタッと一回で止まった。 これも視覚優位を物語っている。



 この人たちは時間と空間のなかに自分を位置づけることが出来ないのです。だから,彼ら彼女らの方から,私たちの世界に入ってくることは出来ないのです。私たちの方から近づいて行って,それから私たちの世界へ入ってくる道筋を,一人ひとりに合わせて見つけ出し導いてやることが必要なのです。(L.Wing)

 

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