平成13年8月10日

千葉県知事 堂本 暁子 殿
千葉県教育長 清水 新次 殿

社団法人 日本自閉症協会 千葉県支部
支部長 古屋 道夫

要 望 書

 

 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げますとともに,日頃より自閉症の人達と私共の活動にいろいろな形でご援助とご指導をいただいておりますことに感謝申し上げます。

 日本自閉症協会は「自閉症児者に対する援護・育成を行うとともに,自閉症に関する社会一般への啓発を図り,もって自閉症児者の福祉を増進すること」を目的として,その達成のため,様々な事業を行ってきています。私たちは日本自閉症協会の千葉県支部として,自閉症児親の会の時代からほぼ30年,この目的のため千葉県下で活動を展開しております。 

 さて,わが国における自閉症施策は,「自閉症を障害として位置付けた」平成5年11月の障害者基本法の改正,「知的能力の障害というより人間関係の障害のために生活適応ができないという自閉症の特性を踏まえつつ,自閉症に関する処遇方法の研究・開発等施策の充実を図るべきである」と報告した平成9年12月の厚生省3審議会合同企画分科会による「今後の障害保健福祉施策の在り方について(中間報告)」,及び「自閉症児への教育的対応」を明確に書き分けた平成13年1月の文部科学省調査研究協力者会議による「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」を基本とし,障害者基本計画の策定によって推進されています。

 千葉県においては,平成7年4月に策定されました「障害者施策新長期計画」にて,自閉症を障害の一つとして位置付けしていますが,自閉症児者を取り巻く現状と課題について記載がなく,自閉症児者の障害特性を理解した施策についても十分に盛り込まれているとは言えません。高機能自閉症となると,現状からも計画からも全く欠落しています。

 自閉症は,個別に援助を必要とする障害の中でも,治療も教育も圧倒的に困難であると考えられている障害です。私たち,(社)日本自閉症協会 千葉県支部(以下「千葉県支部」という。)は,千葉県に暮らす1万2千人の自閉症の人,自閉症児として毎年生まれてくる110人の全ての新生児のため(500人に1人いるとされている疫学調査の結果から試算。このうち半数は高機能自閉症。),下記について要望いたします。

 本要望書は,関係部局,関係出先機関及び関係審議会にご配布いただけるよう,配慮方お願い申し上げます。 

 


1. 自閉症に対する対策を千葉県障害者施策新長期計画に反映するとともに,市町村が策定する市町村障害者基本計画に反映されるよう,強力に指導してください。


2. 自閉症に関する各種施策を立案されるときは,私たち千葉県支部から直接ヒアリングして決定してください。


3. 私たち千葉県支部は千葉県における自閉症に関する唯一の団体です。千葉県支部が行う各種事業を支援してください。また,分会をその地域の福祉関係団体として位置付け支援するとともに,関係市町村が分会を積極的に支援するよう指導してください。


4. 県立の療育機関及び学校に,TEACCH(ティーチ)プログラムなど世界的に評価の高い自閉症プログラムを導入するとともに,これらプログラムを市町村が療育機関,学校及び福祉的就労施設に導入できるよう指導してください。


5. 一般社会に,自閉症の正しい理解の普及を推進するほか,千葉県障害福祉課に自閉症に詳しい相談員を配置するとともに,全ての市町村の障害福祉担当課に自閉症に詳しい相談員を配置するよう指導してください。


6. 以下の個別の要望をかなえてください。


  
(1)自閉症センター

 千葉県に,高度の医療専門機関として自閉症等の発達障害がわかる専門医(精神科,小児科)及び心理士を配置し,自閉症等の診断及び診断後の治療・療育相談を行うとともに,生活支援及び就労支援機能をもたせた,「自閉症センター」を設立してださい。また,センター内に,千葉県支部の事務所を置かせてください。


(2)早期発見及び早期療育

1) 1.5歳及び3歳児検診では,もれなく自閉症の早期発見ができるよう,市町村自治体の検診システムに自閉症に詳しい専門医の参画を義務付けるとともに,保健所,児童相談所における自閉症の早期発見システムを確立してください。また,母子保健における保健婦・士の養成研修を推進してください。

2) 県立の医療療育機関には,自閉症のわかる医師(精神科,小児科)及び心理士を配置し,自閉症の診断及び診断後の治療・療育相談ができるようにしてください。

3) 千葉県支部及び分会が実施する自閉症相談事業を支援してください。

4) 自閉症の早期発見及び早期療育に努めてください。そのためには,上記以外にも自閉症の診断と専門的な療育相談の行えるよう市町村を指導して下さい。

5) 保育所及び幼稚園の職員及び管理職への自閉症理解の啓発普及を行ってください。


(3)教育支援

1) 地域社会で生活するという最終ゴールを目標に,個々の自閉症児の障害特性や発達レベルに配慮した,きめ細かく,かつ一貫した教育システムを構築し,県立養護学校及び市町村を指導してください。そのためには,教員並びに介助員の自閉症に対する理解はもちろん,外部専門家である療育機関及び医療機関との柔軟な連携を図ってください。

2) 県立及び市立の全ての学校において,自閉症の困難性に応じた職員の加配ができるよう措置してください。

3) 学校と家庭が共通の認識のもとに連携・協力を深めることが大切であり,全県下において個別教育計画の導入を推進してください。

4) 子どものニーズに応えるため,全ての市町村において介助員制度を導入するとともに,通級による情緒障害学級を設置することを,市町村が積極的に取り組むよう指導してください。

5) 養護学校高等部の教育は福祉的就労施設等との連携を深め,一人ひとりの個別就労計画を作成してください。

6) 通常学級・特殊学級の教職員,管理職及び介助員への自閉症児教育の研修を行うとともに,全ての関係者に研修への参加を義務付けるよう,市町村を指導してください。

7) 学校における,本人及び兄弟へのいじめの問題に対して学校が毅然と対処するよう,市町村を指導してください。

8) 特殊学級,養護学校の教育が地域格差,学校格差が大きいのでどこにおいても高い水準の教育が受けられるようにしてください。


(4)就労支援

1) 各市町村単位に就労支援センターを設置し,自閉症の人の就労の促進を図るとともに,ジョブコーチ事業の専従職員(所長との兼任ではない)を配置し,事業を強力に実施してください。

2) 自閉症の人の民間企業における雇用拡大を図るとともに公的機関においても採用してください。

3) 授産施設,福祉作業所等の福祉的就労施設では,自閉症に詳しい指導員・相談員を配置するなど活動内容を充実するとともに,新設するよう,市町村を指導してください。

4) 福祉的就労施設に自閉症の困難性に応じた職員の加配ができるよう,県から自閉症者のいる施設に重度加算・行動障害加算制度等を補助してください。


(5)生活支援・家族支援

1) 強度行動障害で悲惨な状況にある本人と家族を救済する強度行動障害支援事業の対象枠を確保・増加するとともに,市町村が同種の事業を実施できるよう積極的に指導してください。

2) 一時緊急保護をはじめ夏休み,冬休み,放課後に利用できる機関を,全県下で県が設置してください(あるいは市町村の実施を促進させるべく補助してください。)。

3) グループホームなど多様な地域生活の場を整備してください。

4) 「障害者地域生活支援センター」設置については,国基準である30万に2カ所を越え,柔軟に配置を行ってください。また,センターの設置に当たっては,業務としてショートステイ,ガイドヘルプ,ホームヘルプ,レスパイト,デイサービス,障害児学童保育,グループホーム,レクリエーション開発,ケアマネジメントなどを対象とするとともに,自閉症の人,一人ひとりに合わせた運営を行ってください。

5) 千葉県の一部の市町村で独自に行われている「一時介護委託料助成制度」を「障害児・者生活サポート事業」などとして対象事業を拡大するとともに,一人当たり利用額(現在年間数万円)の増額を行えるよう全県下で県が実施してください(あるいは市町村の実施を促進させるべく補助してください)。

6) 支援費制度の導入に当たっては,千葉県支部に説明し意見を聞くとともに,障害程度区分の設定では知的障害を伴わない(あるいは軽度な)高機能自閉症やアスペルガー症候群の人において不利のないよう,障害の困難性を適切に評価してください。

7) 入所施設の職員が定着して仕事に生き甲斐をもって取組めるよう条件を整えるよう,市町村及び法人を指導してください。

8) 入所施設の経営は,社会福祉法人が保護者からの寄付金を当てにせずに済むように行政から財政措置してください。

9) ホームヘルプ事業については平成15年度より実施される支援費制度における重要なメニューの一つとして利用時間の制限なく積極的に市町村が取り組むよう,指導・支援してください。また,国の通達では,障害児・知的障害者ホームヘルプ事業において中軽度児が対象外となっていますが,この部分については県単独事業として補ってください。

10) ガイドヘルプ事業(支援費対象外)についてこれとは別途実施し,自閉症の人について,年齢制限なく参加できるようにしてください。

11) ホームヘルプ,ガイドヘルプなど生活支援に関わる方への,自閉症に関する研修を実施するよう,市町村を指導してください。

12) 千葉県支部が実施している親子の旅事業の支援をさらに充実してください。

13) 自閉症の人のための高齢化対策について,調査研究してください。

14) 自閉症の人のための成年後見制度を充実してください。


(6)高機能自閉症

1) 自閉症の困難性を評価する尺度が研究されるまでは,IQ70の知的ラインに関係なく,対応の困難さによって療育手帳を措置してください。

2) 知的障害を伴わない(あるいは軽度な)高機能自閉症やアスペルガー症候群の人について,相談事業を行うとともに,就労支援及び生活支援に取り組んでください。

3) 県立の医療療育機関及び特殊教育センターおいて,高機能自閉症児やアスペルガー症候群の専門家を配置し,診断及び治療・療育・教育相談ができるようにしてください。

4) 県内の全ての学校において,高機能自閉症やアスペルガー症候群の実態調査を実施してください。

5) 高機能自閉症やアスペルガー症候群の人の教育は,障害に配慮しつつも,発達レベルにふさわしい教育が保障されるよう,市町村を指導してください。




 

要望書の説明

本資料は,社団法人日本自閉症協会千葉県支部の要望書の内容を補足説明するものです。

1. 自閉症とは?      
2. 千葉県に自閉症の人は何人いるのか?
3. 自閉症の困難性 
4. 自閉症援助の基本
5. 早期発見・早期療育 
6. 学齢期の教育
7. 就労支援  
8. 生活支援
9. 家族支援
10. 高機能自閉症

11. 日本自閉症協会千葉県支部

 

 

資料で用いました「日本自閉症協会千葉県支部調べのアンケート」の調査方法及び回答者は次のとおりです。

1. 調査実施時期  1999年5〜6月
2. 調査方法    郵送または手渡しによる選択及び記述回答方式
3. 調査対象    日本自閉症協会千葉県支部保護者会員 559名
4. 回答者数    339名 (回答率61 %)

 表中の「小学生」,「中学生」・・は回答者の子どもの所属です。養護学校小学部は「小学校」に,養護学校中学部は「中学校」に含めて統計処理しています。また,「高校」に通っている子どもの回答例が少なかったため,統計から削除しています。

 


 

1.自閉症とは?

 自閉症の基本的な特性として,一般には,1)対人関係や社会性の障害,2)言語やコミュニケーションの障害,3)興味の限局性や常同性,執着的行動などの発達障害や行動の異常性があると言われています。

 自閉症は,これらの3つの症状が組み合わさって表れる脳機能に問題を持つ先天的な発達障害です。自閉症といっても障害の程度や,知的発達の程度によっても様々で,まとめて「自閉症スペクトラム」といった表現がなされています。

 最近では,知的障害を伴わない(あるいは軽度の),高機能自閉症やアスペルガー症候群(上記の3つの障害のうち2)のコミュニケーションに障害がない人)の人が多数いることも認められています。これら高機能自閉症やアスペルガー症候群の人は知的障害でも精神障害でもないことから障害者行政施策の谷間にあって具体的な援助システムが欠落したままにおかれた状態にあります。

 

       

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2.千葉県に自閉症の人は何人いるのか?

1)自閉症の有病率は,最近10年間の厳密な疫学調査によって正確な値がわかるようになりました。最近では1万人に20人くらいという発生率が世界で広く支持されています。 

日本では,横浜市が,横浜市の北部の三つの保健所が管轄する地区で1988年生まれのコホート(追跡集団:9240人)を5年間フォローした自閉症に関する疫学調査が有名です。最終的な診断基準はWHOのICD-10 DCRを使用しています。これによると,1994年12月1日の罹患率は1万人あたり21.1人です。しかも,診断された自閉症児のうち,IQが85以上の高機能児が約45%,100以上が2人いたと報告されています。

2)自閉症スペクトラムの周辺領域であるアスペルガー症候群やレット症候群などを入れた場合は,有病率は1万人に100人。つまり100人に1人の割合で自閉症や自閉症的な症状をもっている人が存在していることが知られています。

3)このことから,上記1)の自閉症の有病率(1万人に20人の割合)を用いて,千葉県における自閉症児・者数を試算すると,県民数は595万人なので

★ 自閉症児者数 595万人*20/10000 = 11900人
   うち,高機能自閉症児者数は約半数の6千人程度見込まれます。
    (アスペルガー症候群はこの数字に含まれていません。)


 平成6年の千葉県における身体障害者数は96,497人,知的障害者数は15,955人です。試算した推計値はこれらの障害に匹敵する人数を示しています。まずは,自閉症はレアケースのマイナーな障害ではなく,一般に広く存在している障害として認識する必要があります。

      

 

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3.自閉症の困難性

3.1 自閉症は対応が難しく大変困難な障害です

  自閉症の人は,治療も教育も圧倒的に困難な障害を抱えていることから,家族にとって,彼らと接し,育てていくことは,通常では考えられないほど大きな困難が伴うことになります。また,対応方法を誤ると,「行動障害」や「不適応行動」といった問題行動から「強度行動障害」まで発展してしまうことが多いのも,他の障害では見られない困難性です。

  表1は,日本自閉症協会千葉県支部が1999年に実施した保護者アンケートの結果です。



  子どもの年齢に関わらず,「固執・こだわり」及び「コミュニケーションをとりにくいこと」に困っていると答えた人が最も多く,いずれも6割の回答者がこれらの行動で困っています。また,回答の特長として,全般的に回答のバラツキが大きいことも知られました。これは障害の内容及び程度にみられる個人差を反映した結果であると考えられます。さらに,全ての保護者から,子どもが何歳になっても何らかの(複数の)行動で困っているという切実な訴えが寄せられていることも知られました。

  次いで,子どもたちの年齢ごとに,保護者が困っている子どもの行動を比較してみると,学齢期までは,子どもの年齢によって,困っている内容や,その困っている程度が大きく異なります。学齢期は,いわゆる問題行動が最も顕著な時期といえます。例えば,就学前は「身辺自立」など生活する上で最も基本的なことや,「問題行動」,「多動」で困っている人が多く,小学校以上では「自傷」等の2,3次障害や,「一人で留守番ができない」,「何もすることがない」,「思春期」といった就学前にはまだ顕在化していなかった新たな問題に次々と遭遇していることが知られました。

  高校以上では,回答に相変わらずのバラツキが見られますが,学齢期以下で顕著に見られた年齢の違いに由来した傾向が見られなくなります。
このように,自閉症という障害を生涯背負った彼らの行動も,保護者が受けとる困難性は彼らの年齢によって変化していきます。しかし,もちろん自閉症のもつ困難性が解消されたわけではありません。   



3.2 学校や社会でも自閉症は対応が難しく大変困難な障害です

 一般就労や自立状況から見ても,自閉症の予後は他の障害である知的障害や,精神障害と比較して,格段に悪いという現実があります。次は自閉症の困難性を表す実態です。

1) 自閉症の人の一般就労は1988年の時点ではわずか6%でした(現在は22%)。
2) 欧米では40 - 60%の自閉症の人が施設入所しています。
3) 行動障害児(者)研究会や日本社会事業大学の石井らの調査によって,著しい行動障害で社会参加や家族全体が危機的な状態に巻きこまれるほど家庭生活が困難になる,「強度行動障害」は自閉症の例が非常に多いこと(9割近くが自閉症)が知られています。
4) 横浜市の教育現場で,対処が困難になり教育センターに教育相談が持ち込まれる知的障害の事例の大部分が自閉症です。
5) 自閉症の人の3人に1人はてんかんを発症します。このことも困難性を増す一つの要因です。

    

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4.自閉症援助の基本

 自閉症という障害が最初に報告されてから半世紀が過ぎましたが,その間自閉症の人へのアプローチは大きく変遷してきました。現在,保護者や関係者から最も高く支持を受けているのは,幼児期から青年期・成人期に至るまで一貫したトータルケアを行っている,アメリカのノースカロライナ大学のショプラー博士らが開発したTEACCH(ティーチ)プログラムです。自閉症の教育や援助方法,望ましい実践例が世界中で精力的に報告されてきています。日本でも神奈川県や京都府をはじめとして,その実践を県下の事業として取り組んでいる自治体が見られるようになってきました。自閉症の人に対するTEACCH等の実践の結果,障害特性に配慮した療育や教育,援助を適切に施すことによって,ハンディキャップは軽減可能であり,自閉症の人の地域生活を可能にすることが証明されてきています。

 表2は日本自閉症協会千葉県支部が行ったアンケート結果です。期待する療育・治療・教育方法として,「現在日本で導入されている代表的な療育・治療・教育方法」について尋ねたたところ,わからないという回答が多かったものの,子どもの年齢に関わらずTEACCHプログラムを期待する人が多いことが知られます。


1.早期発見,早期療育,そしてきめ細くかつ持続的な個別教育

 早期から一人ひとりの障害特性に配慮した療育を受けることによって,自傷や他害,行動障害などの二次・三次障害を予防するとともに,就労率や自立が大幅に改善されます。

 東海大学の小林によって,幼児期から学齢期までの継続的なケアをすることにによって,就労率が6%から22%に向上したことが報告されています。また早くからTEACCHプログラムを実施している,アメリカのノースカロライナ州のTEACCHプログラムに所属している成人した自閉症の人の場合,98%がグループホーム,アパート,その他様々な形態で地域社会で暮らしています。この成果は世界では例を見ません。

 このように早期から障害特性に配慮した適切な援助を受けることが有効です。


2.TEACCHプログラム(構造化)

 自閉症の人は,コミュニケ−ションのとり方が難しかったり,耳で聴いたことは短時間であっても覚えておくことが難しいといった障害をもっています。その反面,目から入ってくる情報の処理はそれほど困難ではない,ということが知られており,このことを「視覚的優位」とよんでいます。また,一旦覚えた記憶,特に空間的な記憶はよく維持されているようです。後者の特性は自閉症の人が苦手な能力を補う方法として利用できます。たとえば,視覚的優位を利用した援助方法として,周りの環境を目で見てわかるような工夫をすることが自閉症の人の理解を深めるために有効であることが知られています。このことを「構造化」と言います。TEACCHプログラムでよく用いられている概念です。構造化には,作業や勉強を行う場所と食事を行う場所など分けて,混乱を少なくするような「物理的構造化」といわれるものや,1日の時間割をわかりやすく説明するための「時間の構造化」などがあります。横浜市の東やまた工房や千葉県のしもふさ学園など全国の各地の施設では,動作の手順を絵や写真,文字など,その人の能力に応じ,一人ひとりに分かりやすい形で提示することによって自閉症の人の社会参加を可能にしています。


3.余暇活動の取組み

 川崎医療福祉大学の佐々木らの研究によって,家族とともに,家庭と地域社会を生活基盤にして安定した適応状態を示している自閉症の人たちの多くは,まず,家庭内で家事などの役割を習慣的に分担実践していること,次いで,自分一人でも打ちこんで過ごすことのできる余暇活動を身につけていることが報告されています。また,自閉の生徒の就労研究会の報告によれば,企業に就労した自閉症者について調査した結果,小学校高学年の時期から将来生活を考えて家庭の教育方針を明確にしていることを指摘しています。さらに彼らは,子どもの実態に即した課題を明確にし,家庭での役割を分担させるともに,家庭の機能を生かし,基本的な指導上の配慮は,学校との連携を図りながら,効果的な指導を進めることが重要であるとしています。



4.一人ひとりの自閉症者のニーズに合った就労システム

 障害特性を配慮した援助は,全ての障害者にとって社会参加の大きな手助けとなります。現在,各地で障害者のための就労支援機関が増えてきています。神奈川県では就労支援センターが横浜市,平塚市などに8か所設置されて,従来の箱型の施設から,実際の指導を中心とするするサービス型の援助機関へと就労システムの転換が図られつつあります。

 アメリカでは,1986年のリハビリテーション法改正によって,援助付き雇用「ジョブコーチ」が新しい就労支援制度として制度化され,この制度のもとで15万人以上の障害者が職業自立を果たしています。


5.自閉症にはトータルケアシステムが必要です

 このように,自閉症援助には一人ひとりのニーズに応じた生活全般にわたるケアプログラムが必要です。従来型のサービスでは,生活全般からトータルにケアするという配慮が不足していました。これまでは学校や施設から地域へ展開していく仕組みがないために,ともすれば病院だけ,学校だけ,施設だけといった医療だけ,教育だけ,就労だけの機能を中心としたサービスが行われてきています。

 今後は,これらの実態から脱却し,医療機関や学校,施設などの連携を前提に,自閉症の人,一人ひとりの障害特性を理解し,地域生活を可能にする教育や,仕事,住い,余暇活動など生活全般にわたる幼児期から青年期・成人期に至るまで一貫したトータルケアシステムが必要です。

      

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5.早期発見・早期療育

5.1 診断は,治療や療育を始めるスタート地点です

 

自閉症児にとって診断は,トータルケアシステムのファーストステージである治療や療育を始めるスタート地点となります。しかし,専門家がいないため,多数の親が診断を求めて病院や児童相談所など複数の,いわゆる“専門機関”を訪ねて回っています。自閉症を診断できる医師は,極めて限られています。

繰り返しになりますが,早期から障害特性に配慮した療育を受けた場合,自傷や他害,行動障害などの二次・三次障害を予防するとともに,就労率や自立が大幅に改善されることがよく知られています。根本的な治療方法がない自閉症では,この早期発見と正しい援助方法を用いた早期療育が,何よりも原則となります。そして,間違ってはいけないのは,早期発見だけで治療が了するのではありません。その後の治療や療育指導が用意されない限り,単に障害児のレッテルをはることによって親の不安を増すだけになりかねません。

 横浜市は療育センターを活用した自閉症児の早期発見システムが確立しており,先の疫学調査はその結果得られた成果です。横浜市では,10数年前に療育センターづくりをはじめ,現在では市内の4個所に設置されています。また,それらの中核施設としてリハビリテーションセンターの小児部門が設置されています。横浜で発見されるすべての自閉症児は,早くから療育を受ける機会が与えられています。私たちの念願は,千葉県に高度の医療専門機関として自閉症がわかる専門医(精神科,小児科)及び心理士を配置し,自閉症の診断及び診断後の治療・療育相談を行うとともに,生活支援及び就労支援機能をもたせた,「自閉症センター」を設立することです。また,1.5歳及び3歳児検診で,もれなく自閉症の早期発見ができるよう,市町村自治体の検診システムに自閉症に詳しい専門医の参画を義務付けるとともに,保健所,児童相談所における自閉症の早期発見システムを確立することです。

 



5.2 自閉症協会の会員でも,親が子どもの異常に気がついてから診断まで1〜2年以上もかかっています

 日本自閉症協会千葉県支部のアンケート結果から,保護者が子どもの異常に気づいた年齢はおおむね0〜3歳であり,保護者は相当早くから子どもの異常に気がついていたことが知られました。異常の内容は,「視線が合わない」,「言葉が遅れている」,「多動」,「呼んでも振り向かない」,「パニック」に集約されます。

 しかしながら,医師等によって診断を受けた年齢は,その後約1〜2年を経て,2〜4歳が平均的でした。中には数年もたってからという回答も見られました。異常に気がついてから診断を受けるまでに生じているタイムラグの期間を短縮したいものです。

 この結果は,あくまで日本自閉症協会の会員に対するアンケートの結果です。千葉県でみますと,保護者で日本自閉症協会の会員数は570名です。千葉県では理論上予測される自閉症の人は,1万2千名います。私たちは,千葉県に生活する多数の自閉症の人,特に高機能自閉症の人は,診断を受けることがなく,自閉症としての専門的な療育を受ける機会も逸したまま,大人になっているのではないかと想像しています。この推測がもし正しければ,大変なことです。千葉県における自閉症に対する取組みの中で,「早期発見システムの確立」こそ,最初に解決しなければいけない最も重要な課題です。


5.3 小児神経科医を除き,自閉症の認定にかかわっている小児科医は少ない

 日本自閉症協会千葉県支部が実施したアンケートの結果(表3)から,診断を受けた機関として,病院が最も多く6割,次いで多いのが2割の児童相談所であり,診断を受けた病院の診療科は,その多数は児童精神科医,小児神経科医及び精神科医が占めていることが知られました。小児神経科医を除き,自閉症の認定にかかわっている小児科医は限られています。小児科医は子どもが最初にかかる医師です。小児科医が自閉症のことを知らなければ,親が子どもの異常を感じていても,診断にはつながりません。

 アンケートで千葉市の保護者から寄せられた回答では,診断を受けた機関として千葉市療育センターが多数を占めており他市では見られない特徴でした。早期発見対策の一つの回答として,小児科医全員への啓発が難しくても,千葉市療育センターのような療育センターが各地に配置できれば,早期発見につながります。このことは,前述の横浜市のケースと同様です。療育センターのような専門機関の設置は,発達障害児に対する早期発見,早期療育はもちろんですが,保護者への精神的な援助という意味でも大切な機能を持っています。

  

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6.学齢期の教育

6.1 自閉症児にとって教育に勝る治療はありません

 早期発見・早期療育を経た子どもたちは,社会に出るまでの長い期間,学校に通います。10数年にも及ぶ学校教育のあり方が自閉症の人の人生のあり方を左右すると言えます。自閉症は医療行為による決定的な治療効果が期待できない障害であり,教育に勝る治療方法はないと言っても言い過ぎではありません。

 日本自閉症協会千葉県支部のアンケート結果から,学校の教育に対する保護者の希望を集約すると,「保護者も参加した個別教育計画の作成」,「個に応じた教育の実践」及び「教育の一貫性」となることが知られました。さらに,教育の鍵を握る教員には,「自閉症に関する専門性」及び「教員としての資質」を求める声が多いことが知られました。

 以下に,アンケート結果(表4〜6)に基づき,保護者の希望を示します。


6.2 学校の教育システム・制度は持続的かつ個別的に

 学校の教育システム・制度に対する保護者の希望は,高い順に,1) 担任が替っても前年度の教育がスムーズ引き継げるよう,学年の引継ぎはきちんとやってほしい(67%),2) 学校に心理療法士などの専門家を配置してほしい(52%),3) 教育指導要領で知的障害と同じく自閉症を発達障害として位置付けてほしい(41%),4) 小・中・高の連携が希薄なので十分な連携をとってほしい(33%),5) 療育機関と十分な連携をとってほしい(30%)となることが知られました(表4)。

 このほかに,小学校普通学級では「通級制度を取り入れてほしい」,小学校特殊学級や中学校特殊学級では「高等学校に特殊学級を設置してほしい」が高い支持を得ました。

 これらの結果から,保護者の学校の教育システム・制度に対する希望は「持続的な教育」と「自閉症の特性を理解した教育の実施」,そして「教育に専門家を配置,活用」という希望に集約できることが知られました。

 このほかにも,保護者座談会では,現在一部の市町村において活用されている介助員制度や通級による情緒障害児学級の全県下での実施とともに,自閉症の困難性に対応した職員の加配について高い要望が出されています。


6.3 個に応じたきめ細かな教育を

 学校の教育内容制度に対する保護者の希望は,1) 一人ひとりの能力を引き出してほしい(65%),2) 将来を見据えた個別の教育計画を親の参加のもとで作成してほしい(53%),3) 夏休みなど長期休暇の指導を充実してほしい(プールなど)(46%),4) 子どもに様々な社会体験をさせてほしい(45%),5) 集団の中で社会性を意識した教育をしてほしい(42%),6) TEACCHプログラムを導入してほしい(29%)となることが知られました(表5)。

 これらの希望には,共通して「個々の子どもの特性や能力,性格に応じたきめ細かな教育を行ってほしい」という主張が伺えます。


 

6.4 教員は専門性と保護者とのコミュニケーションを

 教員に対する保護者の希望は,1) 深い専門知識や技術をもつ(56%),2) 問題行動の原因の分析と適切な対応ができる(55%),3) 子どもの課題を的確に分析できる(50%),4) 子どもの個性や人権を尊重する(46%),5) 親がささいなことでも相談ができる(38%),6) 親からの情報を大切に扱える(34%),7) 常に子どもの立場,視点を重視する(32%)となることが知られました(表6)。

 このほかに,就学前や小学校普通学級では「いじめの問題にき然と対応する」が高い支持を得ました。

 このように,教員に対して,「専門性」,「教員としての資質・姿勢」,「親とのコミュニケーション」といった希望が大きいことが知られました。

 

      

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7.就労支援

7.1 千葉県では保護者の就労教育へのニーズが低い

 日本自閉症協会千葉県支部のアンケート結果から,保護者の専門的な自閉症教育に対するニーズは非常に高く(表5),また高校卒業後の進路として「就職」を希望する保護者が多いことが知られる一方で(表7),「就労教育」に対するニーズは極めて限定的です(表8)。これは,千葉県における就労教育や,現実の就労のあり方自体に原因があるのではないかと考えています。

 千葉県立知的障害養護学校高等部卒業生の就職率は3割程度です。全国では5割以上の就職率を示す県があり,これらと比較すると,千葉県のそれは決して高くはない,むしろ低い水準であると捉えています。就労教育や受け皿側,さらにサポートする仕組みそれぞれについて,この原因を明確にする必要があります。ぽこ・あ・ぽこの志賀は,養護学校卒業生の就職率の低さの原因は,1) 障害の多様化に合わせて一人ひとりにあった教育プログラムが提供できていない,2) 就労へ向けての継続的な職業教育の不備,3) 職場実習の機会の絶対的な不足と位置づけの問題,4) 本人や保護者に就労へ向けての情報提供の不足などが考えられると指摘しています。しかし,何よりも,千葉県では本人や保護者にとって一般就労が決して魅力的な選択肢となっていないのかもしれません。このことは行政サイドの課題でもあります。

 アメリカでは,1975年に全障害児教育法が定められ,トップダウンの発想で個別教育計画(IEP)を作り,それに基づいた教育が行われています。アメリカのIEPは,将来的な自立を目指すため,社会との接点をより多く設け,より早期からの職業教育が採用されています。明星大学の梅永によると,自閉症児の能力により,週に2回ほど援助付き雇用における「移動作業班」モデルによって,地域の清掃を行う授業などもあるそうです。就労を目指した教育では,学力よりも社会生活で必要となる能力,いわゆる社会的スキルを身につけるためのトップダウン・アプローチを盛り込んだ個別教育計画に基づく教育が必要です。学校から職場へのスムーズな移行を目指すために,まずは学校現場でのIEPの定着を図るとともに,できるだけ早期からの個別移行計画(ITP),個別就労計画(IPE)を取り入れることが望まれます。


7.2 就労支援システムを構築し,自閉症理解を拡充してください

 日本自閉症協会千葉県支部のアンケート結果(表8)から,雇用や就労関連での保護者のニーズは,子どもの年齢に関わらず「自閉症者への就労支援システムの構築」,「職場における自閉症理解の充実」,「公共機関での障害者雇用の促進」,「援助付き雇用制度の導入」,「職域開発援助事業への支援,助成」,「教育,福祉,労働に係わる関係者の連携の強化」の順に,いずれも5割近くの保護者から高い要望があることが知られました。また,成人した子どもの保護者では「雇用率のアップ」や「ハローワークにおける自閉症理解の充実」についても高い要望がありました。

 現在,各地の民間の福祉施設の中で援助付き雇用「ジョブコーチ」のような仕事を行うところが増えてきています。公的機関では,サービス型の援助機関として神奈川県の横浜市や平塚市などに8か所の就労支援センターが設置されています。 

 私たちは,この制度に極めて高い関心があります。それは,ジョブコーチ制度が全ての障害者にとって社会参加の大きな手助けとなる制度であるからです。明星大学の梅永によると,本制度は利用者主体のプログラムであること,就労準備性を否定しているところに特徴があるとしています。梅永は,前者は利用者や保護者の仕事に対する興味や要望を重視し,従来の就労支援サービスのように,狭い意味での利用者の作業能力のみに注目するものではないことを意味し,後者は,重い障害をもっている人の場合,いつまでたっても就職可能と判定されず,一生涯準備段階であると判断される場合があるが,援助付き雇用では,就労可能性とか就労準備性が整うのを待つといった発想で取り組むのではなく,今現在の能力で働ける仕事は何か,その仕事に就くにはどのような援助を行えばいいかを考えることを意味するとしています。だから,覚えたことを応用することが難しいといわれている自閉症の人にとっても無理がないと説明しています。私たちは,教育における教師や医療における医師などと同様に,就労支援においても自閉症児者に対する専門家としてのジョブコーチの活躍に期待しています。

 単に一般雇用ができなければ,作業所や福祉施設といった考えではなく,今後は施設にいながら仕事を行うといった新しい就労パターンなど,一人ひとりの自閉症者のニーズに合った就労システムの構築が望まれます。

 職場の開拓に当たっては,自閉症に理解のある職場であって,自閉症の人にとって比較的に対応が容易な,単純でくり返しの仕事や,仕事の内容に変化の少ない仕事を行う職場を開拓する必要があります。

 一般の人たちは自閉症という障害に,「自閉症」というネーミングによるイメージから誤った認識をしている場合が多く,一般企業へ「自閉症」という障害を理解してもらうためには,行政の率先した啓発普及を期待しています。

    

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8.生活支援

8.1 福祉サービスは子どもの年齢によってきめ細かく

  日本自閉症協会千葉県支部のアンケート結果(表9)から,福祉に対する保護者のニーズは,子どもの年齢に関わらず「成人自閉症者に対する相談窓口の設置」,「グループホーム,福祉ホーム,生活ホームの増設,充実」,「自閉症児者のための福祉法の制定」に高い要望があることが知られました。
子どもの年齢(ライフステージ)によって,必要とする福祉サービスの内容は異なります。

 就学前の子どもの保護者からは,上記要望のほかにも「通所施設の増設」,「障害に関する理解促進活動」,「通所施設の内容の充実」,「障害児学童保育の実施」の順に,高い要望がありました。

 小学校に通う子どもの保護者からは,「障害児学童保育の実施」,「通所施設の増設」「ショートステイの充実」,「入所施設の増設」,中学校に通う子どもの保護者からは,「通所施設の増設」,「入所施設の増設」,高校に通う子どもの保護者からは,「通所施設の増設」,「通所施設の内容の充実」,「入所施設の増設」,「ショートスティの充実」,「福祉工場の増設,充実」に対して高い要望がありました。

 卒業してから20歳までの子ども保護者からは,「障害者基礎年金の充実」,「入所施設の増設」,「入所施設の増設内容の充実」,21歳以上の子どもの保護者からは,「障害者の高齢化対策の調査,研究」,「入所施設の増設内容の充実」に対して高い要望がありました。特に31歳以上の保護者からは,「成年後見制度の充実」に対しても高い要望がありました。


8.2 青年・成人の自閉症の人の生活の場所は?

 在学中(就学前を含む。)の子どもの保護者に対して,高校卒業後の不安を尋ねたところ,保護者の不安は大きく,「自分が世話できなくなったとき」をはじめとして,「卒後の就労の問題」,「問題行動」,「福祉サービスの内容」,「余暇活動をする場の有無」などに対して,いずれも多くの回答が寄せられています(表10)。

 次いで,子どもの年齢に関わらず,「入所施設」について尋ねました。「高校卒業後の進路希望」の設問においては,保護者の多くが「入所施設」を拒否しましたが(表7),将来となると「入所施設」を考えている方が多数を占めるようになります(表11)。また,ここではデータを示していませんが,子どもが成人した方で,現在就職したり,作業所に通う子どもの保護者も,いずれは入所施設に預けることを考えている人が多数を占めることが知られています。成人自閉症者の生活のあり方について,既往の入所施設の選択だけでなく,グループホームを含めた,保護者や本人の選択ができる新たな福祉サービスの推進が強く望まれます。




 表12は,本人が独りで生活をすることについて(子どもが卒業生)尋ねた結果です。現在「本人が独りで生活している」という自閉症者は皆無でした。また,「独りで生活させたい」と積極的に考える保護者も1割程度と少なく,自閉症者が独りで生活していくことの難しさを示しています。このことは保護者が現在抱える悩みとして「子どもの将来を考えると滅入る」に回答が集中したこととよく一致しています(表15)。新しい福祉サービスの検討においては,保護者の悩みや思いに立脚した上で,現実的な形で検討を深化させる必要があります。



8.3 休日は特に目的もなくゴロゴロしている自閉症者が多い

 日本自閉症協会千葉県支部のアンケート結果(表13)から,成人した自閉症者の休日の活動として,屋内外へ活動の場を広げている(生活空間の広い)者がいる一方で,「趣味がないため何もすることがなく」,「テレビを見たり」,「 特に目的もなく家でゴロゴロする」など休日の活動が屋内活動に限られている者が多くみられます。

 ここであげられたスポーツや趣味などの活動は,在学中から取り組んできた者において余暇活動がうまく展開されているものと推察されます。

 日常生活では,余暇は大きなウェイトを占めています。仕事や学校を終えた後の余暇時間だけでなく,週末や休憩時間などさまざまな余暇時間があります。自閉症の人の場合,表13の活動も大半は保護者等の声かけやサポートの上に成り立っていると考えてもよく,余暇時間の過ごし方は,身に付けた余暇活動のメニューの豊富さや援助者の有無,余暇の場の有無に大きく左右されることになります。

 余暇活動を含め成人自閉症者の生活のあり方について,保護者や本人が選択できる新たな福祉サービスの提供機関として,自閉症センターの創設(5.1で前述)とともに,各地域への地域生活支援センターの設置を切に希望します。


8.4 自閉症者のための自閉症センター及び地域生活支援センターの構想

 自閉症の人が地域で生活してゆくためには,暮らしのそれぞれの場面に必要な援助を,総合的にコーディネイトされた形で提供することが必要です。またこれらの援助は,できるだけ地域から隔離せず,地域の中で推進していく必要があります。また,自閉症の障害特性を考えた場合,必要なサービスのあり方は一人ひとり違います。一人ひとりに合わせたきめ細かな支援が必要です。

 自閉症センター及び地域生活支援センターの設置に当たっては,センターの業務としてショートスティ,ガイドヘルプ,ホームヘルプ,レスパイト,障害児学童保育,グループホーム,レクリエーション開発,ケアマネジメントなどを対象とするとともに,自閉症の人,一人ひとりに合わせた運営ができるよう期待しています。


 8.5 グループホームでも,自閉症の障害特性をお忘れなく

 グループホームは,自閉症の青年や成人のための居住サービスとして期待されていますが(表9),自閉症の人で1人で生活できる人はほとんどいないことから(表12),グループホームの整備に当たってはハード面の整備と合わせて自閉症の人の面倒を見る人がいて,障害特性に配慮したコミュニケーションや生活についてのサポートはもちろん,入所者に安心感を与え支援することが必要です。

 横浜市では,市営住宅を建てる時に最初からある部分をグループホームに割り当てて建設するという方法がとられています。自治体の魅力的な対応です。


8.6 専門医の配置と,医療,療育機関,学校,福祉の連携を

 医師に対する要望は,早期発見・早期療育における役割だけでなく,全てのライフステージにおいて健康の管理といった面で重要な役割があります。

 日本自閉症協会千葉県支部のアンケート結果(表14)から,医療に対する保護者のニーズは,子どもの年齢に関わらず「医療と療育機関,学校,福祉との連携」,「専門家を専属配置した療育センターの設置」,「一般の疾病に対して受入れ病院の充実」,「自閉症原因の解明」,「自閉症児者のための歯科診療の充実」,「児童精神科の設置及び専門医の育成」,「思春期の行動障害への対応の充実」,「病院・医療情報の充実と公開」の順に,高い要望があることが知られました。

 

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9.家族支援

9.1 保護者の悩み

 日本自閉症協会千葉県支部の保護者アンケートの結果(表15)から,子どもの年齢に関わらず,多数の保護者が「子どもの将来を考えると滅入る」という悩みを抱えていることが知られました。

 アンケート結果では,このほかに,就学前及び学齢期の子どもの保護者において,「子どもの世話に疲れる」及び「兄弟姉妹に関する問題に困っている」とする回答が多くみられました。

 成人した子どもの保護者では,「子どもの将来を考えると滅入る」とする保護者が6〜8割存在する一方で,2割近くの保護者が「特に困っていることはない」と考えていることも知られました。これは,成人したことによって子どもの問題行動が激減したわけではないので,保護者自身が彼らの行動に適応した(慣れた)結果とも言えます。このほか,ここではデータを示していませんが,子どもが入所している保護者から「子どもの世話に疲れる」,また在宅の保護者から「子どものために時間が拘束される」,「相談相手がいない」などに困っているとする回答(3割)が寄せられており,いずれも家族が深刻な悩みを持つことが知られました。

 東京大学の永井らによって,自閉症の子どもの母親は,一般の子どもの母親に比べて,非常に強いストレスを受けており,子どもの症状が重度の場合にはさらに強いストレス状態を呈していること,母親自身の生き方にかなりの制限が加えられていること,特に,幼児期の親は,非常に不安定な精神状態にあることが報告されています。また,自身の相談業務の中で,自閉症児の成長に伴って,兄弟姉妹の相談が実に多くなるとしています。

 自閉症児のいる生活は,24時間態勢の仕事と言えます。眠りが断続的な子どもを持つ親は,十分に睡眠がとれません。思いがけない時に起こるかんしゃくに対処しなければなりせん。親自身の健康をないがしろにできません。健康状態が悪くて疲れていれば,子どもに向き合うこともできません。 

 ストレスの高まった母親の育児の手を一時的に休めることは,極めて重要です。兄弟姉妹に目を向ける時間を作ることも重要です。レスパイトは,その意味で非常に大切な制度です。一時緊急保護をはじめ夏休み,冬休み,放課後にいつでも利用できる機関が必要です。また,千葉県の一部の市町村で独自に行われている「一時介護委託料助成制度」を「障害児・者生活サポート事業」などとして対象事業を拡大し,一人当たりの利用額を増額することも千葉県の指導によって是非とも全県下で充実してほしい制度です。

 我孫子市では,この7月から外出先まで同行してくれるガイドヘルパー(介護者)派遣事業が実施されるようになりました。このことによって,子どもたちの生活空間が飛躍的に伸びることでしょう。千葉県全県下においても,自閉症の人が年齢制限なくガイドヘルプを利用できるようにしてください。

 ホームヘルプ事業については支援費制度における重要なメニューの一つとして利用時間の制限なく積極的に市町村が取り組むよう,指導・支援してください。また,国の通達では,障害児・知的障害者ホームヘルプ事業において中軽度児が対象外となっていますが,これでは高機能自閉症が対象となりません。自閉症の対応の困難性を認め,県の県単独事業として補ってください。

 今後,家族の生活を支えるためにも,ショートステイ,ガイドヘルプ,ホームヘルプ,レスパイト,障害児学童保育,グループホーム,レクリエーション開発,ケアマネジメントなどのサービスが様々な形態で用意されることを期待しています。繰り返しになりますが,自閉症センターの創設(5.1で前述)のほか,地域生活支援センター(8.4で前述)が国基準である30万に2カ所を越え,柔軟に配置されることを強く期待しています。

     

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10.高機能自閉症

10.1 高機能自閉症は決して軽度の障害ではありません

 高機能自閉症及びアスペルガー症候群の人は,現在の福祉制度のもとでは障害者と認められないため,手帳の交付はもちろん個々に対する各種の福祉サービスも対象外であり,また雇用先へも助成が行われません。ですから,企業も採用には消極的で,また採用しても対人トラブルなどから解雇に至る場合があるようです。しかし高機能といえども,自閉症は自閉症なので,「対人」,「コミュニケーション」,「こだわり」などの問題を抱えています。自閉症の困難性を評価する尺度が研究されるまでは,神奈川県で実施されているように,IQ70の知的ラインに関係なく対応の困難さによって療育手帳を措置してください。

 日本自閉症協会が2000年に実施した「高機能自閉症児と発達障害児の本人及び親の活動支援事業」の中で行なわれたアンケート調査の結果では,次のとおり,これまで説明してきたような自閉症特有の回答が得られています。

 すなわち,気になる子どもの特徴として,保護者は「対人関係」,「不器用」,「パニック」,「繰返し質問」,「音に過敏」,「くせや決まり」をあげています。

 また,学校教育への要望として,「教師の質の向上」,「特殊や通級学級などの増加,充実」,生活全般でのサポートの要望として,「療育手帳の認定と女性」,「就職のサポート」,「レスパイト,グループホーム,作業所等の制度の充実」,「子どもの集まる場の整備」,社会への要望として「社会の理解を得るために広報・啓発活動の拡充」,「社会の理解を得るためにマスコミの利用」に高い支持が寄せられています。

 高機能自閉症の特徴として,診断が遅れる事例が多く,中には精神障害の診断やADHD,LDの診断を受けていた事例もあるようです。

 これら診断が遅れることの弊害として,「担任から親のしつけが悪いと言われ続け辛かった。疲れきってしまった。親のケアを。」,「他の子と同じことを要求され,自信を失いやすい。親も子もとても疲れている。」と言った担任の無理解,保護者の無知によって生じた悲惨な報告がありました。やはり,高機能自閉症においても,早期発見が鍵となります。

 私たち日本自閉症協会千葉県支部のホームページにも,最近,高機能自閉症やアスペルガー症候群の人からのメール相談が増えてきています。内容は「障害に対する不安の相談」,「医療機関の相談」のほか,「就職」に関することが多数を占めています。このように本人や保護者からの相談に対応できる専門家が必要です。自閉症の専門家以上に,高機能自閉症となると専門家はいません。県立の医療療育機関及び特殊教育センターにおいて,高機能自閉症及びアスペルガー症候群の専門家を配置して,診断及び治療・療育・教育相談ができることを期待します。

     

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11. 日本自閉症協会千葉県支部

11.1 沿革 

 前身である千葉県自閉症児親の会が昭和47年(1972年)に設立されました。昭和55年(1980年)に市,地区単位の親の会が作られたので千葉県自閉症児者親の会連合会に改組,平成元年(1990年)に上部団体である自閉症児・者親の会全国協議会が主体となって社団法人日本自閉症協会が設立されたので,その下部組織として千葉県支部が発足し現在に至っています。 

11.2 組織

 日本自閉症協会の支部として位置付けされ,日本自閉症協会に加盟している会員で構成されています。下部組織として県内に12地区(安房地区,市川市,市原市,君津地区,長生・山武地区,千葉市,東葛地区,東総地区,習志野市,船橋市,松戸市,八千代市)の分会があり,それぞれ地域に根ざした活動を展開しています。会員数は親および賛助会員(自閉症に関わる関係者)・団体会員合計で現在,620名。

 運営は支部運営委員会の協議を経て,教育研修部,労働福祉部,施設部,事業部,広報部,高機能勉強会,事務局及びの部局が各種活動を担当しています。 

11.3 これまでの主な活動 

 これまでの取組みで大きなものとしては,施設部が発展して,社会福祉法人「菜の花会」を設立し,知的障害者更生施設「しもふさ学園」を建設したことがあります。「しもふさ学園」は自閉症者に適した支援を目的とした更生施設で,全国各地にある親たちが設立・運営している施設です。また,昭和58年に自閉症児・者親の会全国協議会全国大会を千葉市民会館で実施したことなどありますが,「千葉県自閉症研究大会」は全国でも例がないユニークな取組みとして注目され成果を上げております。この研究大会は第1回を上記の全国大会に合わせて開催してから,2年または3年ごとに開催して,平成11年に第7回を実施しました。

 第1回に大会は「しもふさ学園」建設の大きな弾みとなりました。第5回(平成5年)と第7回の大会を契機に県下に,世界的に優れたものと評価されている自閉症療育支援プログラムTEACCHプログラムの学習と実践が始まりました。

 また,第6回(平成8年)の大会を契機に「自閉症についての関係機関等担当者連絡会議」が発足して千葉県における施策の検討が行われています。 

11.4  今年度の主な活動

・ 自閉症に関する千葉県関係機関等連絡会議に参画し,自閉症児者の障害に適切な施策が実現するよう働きかける。

・ 親と教師のためのIEP(個別教育.援助プラン)作成せミナ−とTEACCHセミナ−他.自閉症教育セミナーの開催。

・ 第7回千葉県自閉症研究大会記録集「教育は自閉症児を変える」の案内と販売。

・ 自閉症に関わる関係者,関係機関とのネットワ−クの構築。

・ 高機能自閉症に関する学習会を開催する。

・ インターネットを活用した情報提供活動を推進する。千葉県支部ホームページは下記。

   http://www.interq.or.jp/japan/aschiba/

・ 支部会報の発行。 ・その他。

 11.5 幼児から成人まで一貫した自閉症のためのトータルケアシステムの構築を切に願います。  

 私達が,切に願っていることは,自閉症の障害を正しく理解し,幼児から成人まで一貫した自閉症のためのトータルケアシステムの構築することです。しかし,30年近い私達の粘り強い要望・努力と関係機関の取組みで向上は見られますが,まだ不十分です。現在,国でも自閉症施策構築に取組みを始めました。この時期,是非前向きにご検討いただきたく,保護者のニーズを基にして多くの要望を提出いたしました。

 現今の社会情勢を考えると,実現には幾多の困難が予測されますが,自閉症の人たちが社会の一員として,役に立ち,幸せな生涯が送れて,その家族の多大の負担が軽減されますよう,施策の実施を切に要望致します。

       

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