この意見書は,千葉県が「新世紀ちば5か年計画」(平成13年〜17年度)事業の重点的,戦略的な展開や新たな行政需要へ対応するため,平成14年度を中心とした「(仮称)今後の県政運営に係る重点施策」(案)を発表し,パブリックコメントを求めたものに対するものです。

「(仮称)今後の県政運営に係る重点施策」(案)はこちら。
http://www.pref.chiba.jp/syozoku/a_hisyo/chiji/seisaku/index.html

 

平成13年12月18日

堂本 暁子 千葉県知事 殿
千葉県企画部企画政策課 総合政策室 御中
千葉県健康福祉部障害福祉課 御中

日本自閉症協会 千葉県支部 
支部長 古屋 道夫

「(仮称)今後の県政運営に係る重点施策」(案)に対する意見書

 私たち千葉県支部は,千葉県から提示された標記案について,平成13年12月3日添付の別紙の意見を提出しましたが,更に,「この案が施行されれば,私たちの子どもたちは地域の中ですくすくと学び,暮らしていくことができるのか? 」という視点で,真剣に話し合ってみました。そして検討は平成13年8月10日及び9月19日に千葉県知事殿に提出しましたの要望書(Fax添付)を踏まえて行いました。

 その結果,「重点施策」(案)では,「自閉症・発達障害支援事業の創設」や「強度行動障害対策の拡充」など斬新な施策や個々の障害に配慮した取り組みが提案されており,評価できます。しかし,高機能自閉症に対する施策の位置づけが明確でなかったり,自閉症の早期発見システムなど医療体制の整備に関する施策が欠けていたり,障害児教育について具体的な記述がなされていないなど,自閉症児者に対する福祉や教育で,最も重視すべき施策が欠落していると考えました。

 そこで,私たち自閉症児者の保護者の立場から,改めて本施策案に対して以下のとおり意見書をまとめましたので,「重点施策」の立案に反映していただけるよう宜しくお願い申し上げます。


(意見要点)

1. (施策24)施策24において施策の対象とする障害は全て,案の中で特定した障害(精神疾患,高次脳機能障害等)を除き,高機能自閉症及びアスペルガー症候群を含む自閉症を対象とすること。

2. (施策24)強度行動障害特別処遇事業の拡充を図ること。

3. (施策24)自閉症・発達障害支援事業を創設するとともに,その対象とする事業に生活支援を含むこと。

4. (施策26)IIIの重点事項(P.90)に下記を追加すること(あるいは,趣旨を踏まえて提案文を修文すること。)。
「自閉症等の特有な発達障害の専門医療と適切な医療ができる医療体制の整備を図る。」

5. (施策28)IIの重点事項(P.100)に下記を追加すること(あるいは,趣旨を踏まえて提案文を修文すること。)。
1) 「自閉症児等の特有な発達障害を有する障害児の小学校及び中学校就学において,就学委員会が一方的に就学先を決定するのではなく,保護者や本人の就学希望が尊重されるような就学環境を構築する。」
2) 「特に,自閉症等の特有な発達障害を有する障害児においては,その困難性に応じて加配教員及び非常勤講師を弾力的な配置を進める。」
3) 「高機能自閉症やアスペルガー症候群など,軽度知的障害の人の教育においても,障害に配慮しつつも,発達レベルにふさわしい教育が保障されるよう,一層の研究を行うとともに,子ども一人ひとりにあった教育を推進する。」


(意見詳細)

1.(施策24)施策24において対象とする障害者は,案で特定した障害(精神疾患,高次脳機能障害等)を除き,高機能自閉症及びアスペルガー症候群を含む自閉症を対象とすること。

 自閉症の有病率は,最近10年間の厳密な疫学調査によって500人に1人くらいであるとされています。この有病率を用いて,千葉県における自閉症児・者数を試算すると,県民数は595万人なので11900人となります。このうち,高機能自閉症児者数は約半数の6000人程度見込まれます。平成6年の千葉県における身体障害者数は96,497人,知的障害者数は15,955人ですから試算した推計値はこれらの障害に匹敵する人数を示しています。

 自閉症の基本的な特性として,一般には,@対人関係や社会性の障害,A言語やコミュニケーションの障害,B興味の限局性や常同性,執着的行動などの発達障害や行動の異常性があると言われています。自閉症は,これらの3つの症状が組み合わさって表れる脳機能に問題を持つ先天的な発達障害です。自閉症の予後は,一般就労や自立状況から見ても他の障害である知的障害や,精神障害と比較して,格段に悪いという現実があり,さらに自閉症は,個別に援助を必要とする障害の中でも,治療も教育も圧倒的に困難であると考えられています。しかし,研究や実践の積み重ねによって,早期から一人ひとりの障害特性に配慮した療育を受けることによって,自傷や他害,行動障害などの二次・三次障害を予防するとともに,就労率や自立が大幅に改善されることが知られるようにもなりました。

 自閉症は,知的障害や身体障害,精神障害の3障害と同様,決してレアケースのマイナーな障害ではなく,一般に広く存在している障害として認識する必要があります。その上で,自閉症を全ての障害者施策の対象として位置づけるべきです。

 さらに,知的障害を伴わない(あるいは軽度の),高機能自閉症やアスペルガー症候群の人は知的障害でも精神障害でもないことから障害者行政施策の谷間にあって具体的な援助システムが欠落したままにおかれています。しかし高機能といえども,自閉症は自閉症なので,「対人」,「コミュニケーション」,「こだわり」など極めて重篤な問題を抱えています。彼らについても,障害者施策の中でサポートすることが必要です。この視点が千葉県行政には乏しいように思いますが,いかがでしょう。

(参考)
* 障害者基本法(平成5年11月)「自閉症を障害として位置付ける。」
* 厚生省3審議会合同企画分科会による「今後の障害保健福祉施策の在り方について(中間報告)」(平成9年12月)「知的能力の障害というより人間関係の障害のために生活適応ができないという自閉症の特性を踏まえつつ,自閉症に関する処遇方法の研究・開発等施策の充実を図るべきであるとする。」
* 文部科学省調査研究協力者会議による「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」(平成13年1月)「自閉症児への教育的対応を明確に書き分ける。」

2.(施策24)強度行動障害特別処遇事業の拡充を図ること。

 行動障害児(者)研究会や日本社会事業大学の石井らの調査によって,著しい行動障害で社会参加や家族全体が危機的な状態に巻きこまれるほど家庭生活が困難になる,「強度行動障害」は自閉症の例が非常に多いことが知られています(9割近くが自閉症)。

 私たち自閉症の子どもたちをもつ保護者にとって,強度行動障害への対応は待ったなしで極めて切実です。強度行動障害で悲惨な状況にある全ての本人と家族を直ちに救済する強度行動障害支援事業の拡充は,私たちの悲願です。

3.(施策24)自閉症・発達障害支援事業を創設するとともに,その対象とする事業に生活支援を含むこと。

 自閉症援助には一人ひとりのニーズに応じた生活全般にわたるケアプログラムが不可欠です。従来型のサービスでは,生活全般からトータルにケアするという配慮が不足していました。これまでは学校や施設から地域へ展開していく仕組みがないために,ともすれば病院だけ,学校だけ,施設だけといった医療だけ,教育だけ,就労だけの機能を中心としたサービスが行われてきています。

 今後は,これらの実態から脱却し,医療機関や学校,施設などの連携を前提に,自閉症の人,一人ひとりの障害特性を理解し,地域生活を可能にする療育や教育,仕事,住い,余暇活動など生活全般にわたる幼児期から青年期・成人期に至るまで一貫したトータルケアシステムが必要です。これらを総合的に支援する自閉症・発達障害支援事業の創設は長年,私たち保護者が要望してきた最も期待の大きな施策の一つです。厚生労働省の新規施策では,是非とも千葉県が箇所付けされるようお願いします。

4.(施策26)IIIの重点事項(P.90)に下記を追加すること(あるいは,趣旨を踏まえて提案文を修文すること。)。
「自閉症等の特有な発達障害の専門医療と適切な医療ができる医療体制の整備を図る。」

 一般に,1.5歳検診で自閉症の診断を受ける子どもは限られています。地域の健診では,自閉症に詳しい児童精神科医や小児神経科医といった発達障害を専門とする医師が配置されていることが少なく,高機能自閉症を見逃したり,子供の異常に気づき悩んでいる親に対して,「様子をみましょう」と先送りするなど自閉症発見の見落としまたは適切な対応ができていないのが千葉県の現状です。

 もしかしてうちの子は自閉症なのかもしれないと考え,心配ごとを抱えている親が自閉症という名前を聞き,それを受け入れるには,大きなエネルギーが必要です。一方,治療や療育の開始は早ければ早いほうがよいことも自明です。だからこそ,早期に正確な診断を受け,専門家の指導を受けることは極めて重要です。そして,そのことが家族(特に母親)の支援に直接つながります。

 自閉症等の特有な発達障害にとって,専門医療と適切な医療ができる医療体制の整備を図ることは最も重要なことです。

5.(施策28)IIの重点事項(P.100)に下記を追加すること(あるいは,趣旨を踏まえて提案文を修文すること。)。
1) 「自閉症児等の特有な発達障害を有する障害児の小学校及び中学校就学において,就学委員会が一方的に就学先を決定するのではなく,保護者や本人の就学希望が尊重されるような就学環境を構築する。」
2) 「特に,自閉症等の特有な発達障害を有する障害児においては,その困難性に応じて加配教員及び非常勤講師を弾力的な配置を進める。」
3) 「高機能自閉症やアスペルガー症候群など,軽度知的障害の人の教育においても,障害に配慮しつつも,発達レベルにふさわしい教育が保障されるよう,一層の研究を行うとともに,子ども一人ひとりにあった教育を推進する。」

 早期発見・早期療育の時期を経た子どもたちは,社会に出るまでの長い期間,学校に通います。10数年にも及ぶ学校教育のあり方が自閉症の人の人生を左右すると言えます。

 日本自閉症協会千葉県支部が保護者に対して行ったアンケート調査の結果から,学校の教育に対する保護者の希望を集約すると,「保護者も参加した個別教育計画の作成」,「個に応じた教育の実践」及び「教育の一貫性」となることが知られました。さらに,教育の鍵を握る教員には,「自閉症に関する専門性」及び「教員としての資質」を求める声が多いことも知られました。

 地域社会で生活するという最終ゴールを目標に,個々の自閉症児の障害特性や発達レベルに配慮した,きめ細かく,かつ一貫した教育システムの構築が何よりも望まれます。そのためには,教員並びに介助員の自閉症に対する理解はもちろん,学校は外部専門家である療育機関及び医療機関との柔軟な連携を図ることが重要です。

 調査研究協力者会議が最終報告した「21世紀の特殊教育の在り方について」を受けて,現在,文部科学省で,学校教育法の施行令の改正準備を進められていると聞いています。この最終報告では,本人の能力や設備の条件が整わなくては,障害児は普通学校にいけないとしています。特に重複障害や情緒障害などによる行動上の問題を有する場合は,当該児童生徒の生命の安全や他の児童生徒への影響等を十分配慮する必要があるとして,小・中学校への就学は慎重に判断する必要があると報告しています。これらの趣旨を踏まえ私たちの子どもたちを普通学級から排除するような施行令改正には断固反対します。保護者や本人が自由に選べる就学環境を構築してください。

参考)
* 文部科学省調査研究協力者会議による「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」(平成13年1月)

「第2章 就学指導の在り方の改善について
2 障害の程度に関する基準及び就学手続きの見直しについて

(3)障害のある児童生徒の就学指導については,平成12年4月1日に施行したいわゆる地方分権一括法において,就学に関する事務が国の機関委任事務から地方の自治事務に変更され,法令に基づき教育委員会の判断と責任で行うことになっている。
 こうしたことを踏まえるとともに,一人一人の特別な教育的ニーズに応じた教育を行うためには,児童生徒の障害の状態及び地域や学校の状況を最もよく把握でき,就学関係事務の権限と責任を有する市町村教育委員会が,障害の種類,程度の判断だけでなく,その地域や学校の状況,児童生徒への支援の内容,本人や保護者等の意見等を踏まえて総合的な判断を行い,小・中学校において適切に教育を受けることができる合理的な理由がある特別な場合には,就学基準上は盲・聾・養護学校へ就学すべき障害の程度に該当する児童生徒であっても,小・中学校に受け入れることができるよう政令で定める就学手続きを見直す必要がある。具体的には,例えば,車いすを利用している児童生徒が,エレベータやスロープなどの学校施設が整備された小学校等に就学する場合や,コンピュータ等の情報機器を活用すれば意思表示や筆記の代替が可能な児童生徒がそれらの設備が整備された小学校等において適切な教育を受けることができると考えられる場合が挙げられる。
ただし,市町村教育委員会が,その総合的な判断を行うに当たって,重複障害や情緒障害などによる行動上の問題を有する場合など障害の種類,程度によっては,当該児童生徒の生命の安全や他の児童生徒への影響等を十分配慮する必要があることや適切な指導が行われる必要があることに留意して,慎重に判断する必要がある。