平成14年8月17日

 

千葉県知事 堂本暁子様

社団法人 日本自閉症協会千葉県支部 

支部長 大屋 滋

 

要望書

 

拝啓

時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。日頃より(社)日本自閉症協会千葉県支部(以下「千葉県支部」という。)の活動に様々なご助力ご指導いただき、感謝申し上げます。

(社)日本自閉症協会は自閉症を持つ人に対する援護・育成を行い、自閉症に関する社会一般への啓発を図り、自閉症を持つ人の福祉を増進することを目的として事業を行っています。この目的のため、私たち千葉県支部は30年前の「自閉症児者親の会」の時代から千葉県下で様々な活動を行っております。昨年度、千葉県支部では千葉県への要望を行い、詳細なご回答を戴きました。誠意あるご対応に深く感謝申し上げます。

 

私たちは、いかなる障害を持った人でも、本人が選択した場で教育を受け、自分らしい生活することが、当然の権利であると確信しております。但し、自閉症は、その教育や支援が圧倒的に困難であると考えられている障害です。

身体障害などに比べて、一般社会における自閉症に関するバリアフリーの試みはほとんど皆無であり、その必要性すらほとんど認識されていません。さらに千葉県内には、自分が自閉症という障害を持っていることを診断されずいる人が多数います。彼らは受けるべき支援を受けていないだけでなく、本来配慮されるべきバリアフリーのための支援が存在することすら認められないまま、しばしば周囲の人から不当な差別を受けています。このような状況の下では、ともすればノーマライゼーションの理念が形式のみに陥る危険性をはらんでいます。「自分らしい生活をする」という目的を真に達成するためには、自閉症を持つ人に対して個々の障害特性に応じた合理的な教育、支援、福祉が必要です。

 

千葉県内には自閉症を持つ人が1万2千人暮らしています。(疫学調査から推計。)自閉症が社会生活を送る上で極めて困難な障害であることをより一層ご理解いただき、是非とも、施策的に格別の御高配をいただきたく、以下のことを重ねて要望します。

本要望書は、関係部局、関係出先機関及び関係審議会に配布いただけるよう、配慮方お願い申し上げます。

 

敬具


 

 

(千葉県支部との連携)

1.       私たち千葉県支部は千葉県における自閉症に関する唯一の団体です。自閉症に関する各種施策を立案されるときは、私たち千葉県支部から直接ヒアリングして決定してください。自閉症に関する審議会等に、千葉県支部会員を加えて下さい。

2.       千葉県支部及びその分会が行う各種事業(親子の旅事業、自閉症相談事業、講演会事業、療育事業、レスパイト事業、余暇事業など)を支援してください。また、千葉県支部が行う予定の自閉症に関する医療、教育、福祉、労働などの調査事業を支援して下さい。

(福祉行政一般)

3.       自閉症に対する対策をアクションプラン千葉2002に基づいて推進するとともに、市町村が策定する市町村障害者基本計画に反映されるよう、引き続き強力に指導してください。

4.       自閉症を持つ人への福祉行政を円滑に行うために、千葉県障害福祉課に自閉症専任担当班を新設すると共に、全ての市町村の障害福祉担当職員に対して自閉症に関する研修を行ってください。

(自閉症・発達障害支援センター)

5.       自閉症・発達障害支援センターの創設を実現するため、厚生労働省の指定枠に選ばれるように努力して下さい。指定されなかった場合には、千葉県の単独事業として実施して下さい。

なお、県がこの事業を委託する場合、千葉県支部と連携して事業展開が期待できる社会福祉法人「菜の花会 しもふさ学園」を指定して下さい。

(療育手帳)

6.       療育手帳の判定基準に自閉症(高機能自閉症やアスペルガー症候群を含む)を加えてください。

(支援費制度)

7.       支援費制度の実施に当たっては、千葉県支部に説明し意見を聞くとともに、各市町村に対して分会に対する説明を行うように指導して下さい。

障害程度区分の認定では知的障害を伴わない(あるいは軽度な)高機能自閉症やアスペルガー症候群の人において不利のないよう、障害者相談センターに自閉症専門(高機能含む)の判定員を配置するなどして、障害の困難性を適切に評価してください。

(強度行動障害)

8.       強度行動障害で悲惨な状況にある本人と家族を救済する強度行動障害支援事業の対象枠を確保・増加するとともに、市町村が同種の事業を実施できるよう積極的に指導してください。

(生活支援・家族支援)

9.       自閉症を持つ人が地域で生活する場を整備する共に家族の支援を行って下さい。

@       グループホームや生活ホームなど多様な地域生活の場を整備してください。

A       障害者地域生活支援センターでは自閉症を持つ人の障害特性に配慮し、一人ひとりに合わせた運営を行ってください。

B       一時緊急保護をはじめ夏休み、冬休み、放課後に利用できる機関を、全県下で県が設置してください(あるいは市町村や民間事業体の実施を促進させるべく補助してください。)

(医療・健診体制)

10.    千葉県こども病院に自閉症(高機能自閉症、アスペルガー症候群を含む)及び発達障害の診療に専任する医師を配置して下さい。また、他の県立病院や二次医療圏の中核病院に自閉症及び発達障害の診療に専任する医師の配置を促進して下さい。

11.    1.5歳及び3歳児健診での自閉症の早期発見率を向上させて下さい。市町村自治体、保健所、児童相談所、医療機関(県立病院、中核病院など)が連携し、自閉症及び発達障害を専門とする医師等の専門家を頂点とした自閉症早期診断システムを構築してください。

(教育の場の保証)

12.    自閉症を持つ子どもや保護者の希望を尊重した就学先の決定を行い、それぞれの地域や教育の場において、充実した教育や支援を受けられるように、施設や環境の整備を図って下さい。

@       県立及び市町村立の全ての学校において、自閉症の困難性に応じた教員の加配ができるよう措置してください。

A       子どものニーズに応えるため、全ての市町村において介助員制度を導入するよう指導して下さい。

B       通級による情緒障害学級(自閉症学級)を設置することを、市町村が積極的に取り組むよう指導してください。

C       必要に応じて小中学校や養護学校に情緒障害児学級とは別に自閉症学級を設置して下さい。

D       自閉症の特性に合わせて静粛性、配置、広さなどに配慮した教室環境を整備して下さい。

(個に応じた教育の充実)

13.    個々の自閉症児の障害特性や発達レベルに配慮した、きめ細かく、かつ一貫した教育システムを構築し、県立養護学校、県立の療育機関及び市町村に指導してください。

@       TEACCH(ティーチ)プログラムなど世界的に評価の高い自閉症プログラムを導入し、教員並びに介助員の自閉症に対する理解を高め、外部専門家である療育機関及び医療機関との柔軟な連携を図ってください。

A       普通学校に在籍する自閉症児に対しても個別教育計画作成を義務づけてください。  

B       通常学級・特殊学級の教職員、管理職員の自閉症に関する教育相談や研修の充実を図って下さい。

C       地域の学校に出向いて的確な指導助言を行うスーパーバイザーを充実させて下さい。特殊教育センターの自閉症担当者を増員し機能を充実させるとともに、各養護学校内に普通学校に在籍する自閉症児及び担任教師を支援に専任する職員を配置して下さい。

(教育行政システム)

14.    一貫した障害児教育行政システムを確立して下さい。

@       地域社会で自分らしい生活するという最終ゴールを目標に、就学前から成人するまで一貫した自閉症支援教育を実現するために、特別支援教育課(仮称)を創設して下さい。

A       教育・医療・福祉・労働の各行政の連携を深め、自閉症を持つ人の一生涯に渡る支援を実現して下さい。

(バリアフリー等の研究)

15.    特殊教育センターで、自閉症を持つ人のノーマライゼーション、バリアフリー、ユニバーサルデザインに基づく教育、支援、福祉ついて、千葉県支部と共同して調査、研究を行なって下さい。

(就労支援) 

16.    自閉症(高機能自閉症含む)を持つ人の就労に対する相談、フォローする体制を作り、就労を促進して下さい。

@       養護学校高等部の教育は福祉的就労施設等との連携を深め、一人ひとりの個別就労計画を作成してください。

A       民間企業における雇用拡大を図るとともに公的機関においても採用してください。

B       授産施設、福祉作業所等の福祉的就労施設では、自閉症に詳しい指導員・相談員を配置するなど活動内容を充実するとともに、新設するよう、市町村を指導してください。

C       福祉的就労施設に自閉症の困難性に応じた職員の加配ができるよう、県から自閉症者のいる施設に重度加算・行動障害加算制度等を補助してください。

D       各市町村単位に就労支援センターを設置し、自閉症の人の就労の促進を図るとともに、ジョブコーチ事業の専従職員を配置し、事業を強力に実施してください。