平成14年9月6日
千葉県知事 堂本 暁子 殿
社団法人 日本自閉症協会
千葉県支部支部長 大屋 滋
要 望 書
拝啓
時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。日頃より(社)日本自閉症協会千葉県
支部(以下「千葉県支部」という。)の活動に様々なご助力ご指導いただき、感謝申し上
げます。
(社)日本自閉症協会は自閉症を持つ人に対する援護・育成を行い、自閉症に関する社
会一般への啓発を図り、自閉症を持つ人の福祉を増進することを目的として事業を行って
います。この目的のため、私たち千葉県支部は30年前の「自閉症児親の会」の時代から
千葉県下で様々な活動を行っております。昨年度、千葉県支部では千葉県への要望を行い
、詳細なご回答を戴きました。誠意あるご対応に深く感謝申し上げます。
私たちは、まず障害を持つ人が地域で活き活きと暮らすことが出来る街でなければ、他
の人々の幸せがありえないと考えます。いかなる障害を持った人でも、本人が選択した場
で教育を受け、自分らしい生活をすることが、当然の権利であると確信しております。し
かし、自閉症は、その教育や支援方法が圧倒的に困難であると考えられている障害です。
身体障害などいくつかの障害に比べて、一般社会における自閉症に関するバリアフリーの
試みはハード面、心理的な面を問わず極めて少なく、その必要性すらほとんど認識されて
いません。さらに千葉県内には、自分が自閉症という障害を持っていることを診断されず
いる人が多数います。この人たちは受けるべき支援を受けていないだけでなく、本来配慮
されるべきバリアフリーのための支援が存在することすら認められないまま、しばしば周
囲の人から不適切な対応や不当な差別を受けています。このような状況の下では、ともす
ればノーマライゼーションの理念が形式のみに陥る危険性をはらんでいます。一人ひとり
が地域で活き活きと自分らしい生活をするという目的を真に達成するためには、自閉症を
持つ人に対して個々の障害特性に応じた合理的な教育や、就労や生活などの支援が必要で
す。
千葉県内には自閉症を持つ人が1万2千人暮らしています。(疫学調査から推計。)自
閉症が社会生活を送る上で極めて困難な障害であることをより一層ご理解いただき、是非
とも、施策的に格別の御高配をいただきたく、以下のことを要望します。
本要望書は、関係部局、関係出先機関及び関係審議会に配布されるとともに,広く関係者
の方々にご検討いただけますよう配慮方お願い申し上げます。
記
(千葉県支部との連携)
1.自閉症(高機能自閉症やアスペルガー症候群を含む。以下「自閉症」という。)に関す
る各種施策を立案されるときは、私たち千葉県支部から直接ヒアリングして決定してくだ
さい。自閉症に関する審議会等に、千葉県支部会員を加えて下さい。
2.千葉県支部及びその分会が行う各種事業(親子の旅事業、自閉症相談事業、講演会事業
、療育事業、レスパイト事業、余暇事業など)を支援してください。また、千葉県支部が
行う自閉症に関する医療、教育、福祉、労働などの調査事業を支援して下さい。
(福祉行政一般)
3.市町村障害者基本計画に自閉症に関する計画が策定されるよう、強力に指導してくだ
さい。
4.自閉症を持つ人への福祉行政を円滑に行うために、千葉県障害福祉課に自閉症専任担
当班を新設すると共に、全ての市町村の障害福祉担当職員に対して自閉症に関する研修
を行ってください。
(自閉症・発達障害支援センター)
5.自閉症・発達障害支援センターの創設を実現するため、厚生労働省の指定枠に選ばれ
るように努力して下さい。指定されなかった場合には、千葉県の単独事業として実施し
て下さい。
なお、県がこの事業を委託する場合、千葉県支部と連携して事業展開が期待できる社会
福祉法人「菜の花会 しもふさ学園」を指定して下さい。
((療育手帳))
6.療育手帳の判定基準に自閉症もしくは自閉性障害を加えてください。
(支援費制度)
7.支援費制度の実施に当たっては、千葉県支部に説明し意見を聞くとともに、各市町村に
対して分会に対する説明を行うように指導して下さい。障害程度区分の認定では知的障害
を伴わない(あるいは軽度な)高機能自閉症やアスペルガー症候群の人において不利のな
いよう、市町村を指導して下さい。障害者相談センターに自閉症専門の判定員を配置する
など、障害の困難性を適切に評価してください。
(強度行動障害)
8.強度行動障害で悲惨な状況にある本人と家族を救済する強度行動障害支援事業の対象
を確保・増加するとともに、市町村が同種の事業を実施できるよう積極的に指導してくだ
さい。
(生活支援・家族支援)
9.自閉症を持つ人が地域で生活する場を整備するともに、家族の支援を行って下さい。
(1)グループホームや生活ホームなど多様な地域生活の場として公営住宅を積極的に開放
するよう、市町村を指導してください。
(2)各地域に,障害者地域生活支援センターを設置するなど、自閉症を持つ人の障害特性
に配慮し、一人ひとりに合わせた運営を行ってください。
(3)緊急一時保護をはじめ夏休み、冬休み等の学校休業期間や、放課後に利用できる施設
を、全県下で県が設置してください(あるいは市町村や民間事業体の実施を促進させる
べく、現行の在宅心身障害児者一時介護補助制度の拡充を図ってください。)
(4)自閉症を持つ人が年齢に関わらず,自由に使えるガイドヘルプ事業を実施し、市町村
を指導してください。
(医療・健診体制)
10.千葉県こども病院、もしくは千葉県リハビリテーションセンターに自閉症及び発達障
害の診療に専任する医師を配置して下さい。また、他の県立病院や二次医療圏の中核病
院に自閉症及び発達障害の診療に専任する医師の配置を促進して下さい。
11.1.5歳及び3歳児健診での自閉症の早期発見率を向上させて下さい。市町村自治体、保
健所、児童相談所、医療機関(県立病院、中核病院など)が連携し、自閉症及び発達障
害を専門とする医師等の専門家を頂点とした自閉症早期診断システムを構築してくださ
い。
(教育の場の保証)
12.自閉症を持つ全ての子ども一人ひとりの教育を保証してください。
(1)就学に当たっては、自閉症を持つ子どもや保護者の希望を尊重するよう,市町村を指
導してください。
(2)県立の全ての学校において、自閉症の困難性に応じた教員の加配ができるよう措置す
るとともに、市町村立の全ての学校において市町村が積極的に取り組むよう指導してく
ださい。
(3)緊急一時保護をはじめ夏休み、冬休み等の学校休業期間や、放課後に利用できる施設
を、全県下で県が設置してください(あるいは市町村や民間事業体の実施を促進させる
べく、現行の在宅心身障害児者一時介護補助制度の拡充を図ってください。)子どもの
教育的ニーズに応えるため、全ての市町村において介助員制度を導入するよう指導して
下さい。
(4)通級・固定選択可能な情緒障害学級及び自閉症学級を設置することを、市町村が積極
的に取り組むよう指導してください。
(5)養護学校に自閉症学級を設置して下さい。
(6)県立の全ての学校において、自閉症の特性に合わせて静粛性、配置、広さなどに配慮
した学校施設や及び教室環境を整備するとともに、市町村立の全ての学校において市町
村が積極的に取り組むよう指導して下さい。
(個に応じた教育の充実)
13.自閉症を持つ子ども一人ひとりのために,きめ細かく、かつ一貫した教育システムを
構築してください。
(1)TEACCH(ティーチ)プログラムなど世界的に評価の高い自閉症プログラムを、
自閉症を持つ子どもが通う全ての学校で採用するよう指導してください。
(2)自閉症を持つ子どもが通う全ての学校で、個別教育計画の作成を義務づけるよう指導
してください。
(3)個別教育計画の作成をはじめとして、外部専門家である療育機関及び医療機関との柔
軟な連携を図るよう指導してください。
(4)通常学級・特殊学級の教職員、管理職員並びに介助員の自閉症に関する教育相談や研
修の充実を図るよう指導して下さい。
(5)養護学校に、地域の学校に出向いて的確な指導助言を行うスーパーバイザーを配備す
るとともに、その内容を充実させて下さい。特殊教育センターの自閉症担当者を増員し
機能を充実させて下さい。
(教育行政システム)
14.教育・医療・福祉・労働の各行政の連携を深め、自閉症を持つ人の一生涯に渡る支援
を実現して下さい。
15.千葉県教育委員会に、特殊教育室を改組して、特別支援教育課(仮称)を設置し、地
域で活き活きと自分らしい生活をするという最終ゴールを目標に、就学前から成人する
まで一貫した自閉症支援教育を実施して下さい。
(バリアフリー等の研究)
16.千葉県は、特殊教育センターなどで、自閉症を持つ人のノーマライゼーション、バリ
アフリー、ユニバーサルデザインに基づく教育や福祉などの支援について、千葉県支部
と共同して調査、研究を行なって下さい。
(就労支援)
17.自閉症を持つ人の就労に対する相談、フォローする体制を作り、就労を促進して下さ
い。
(1)養護学校中学部及び高等部の教育は福祉的就労施設等との連携を深め、一人ひとりの
個別移行計画並びに個別就労計画を作成してください。
(2)民間企業における雇用拡大を図るとともに公的機関においても採用するよう指導して
ください。
(3)授産施設、福祉作業所等の福祉的就労施設では、自閉症に詳しい指導員・相談員を配
置するなど活動内容を充実するとともに、新設するよう、市町村を指導してください。
(4)福祉的就労施設に自閉症の困難性に応じた職員の加配ができるよう、自閉症を持つ人
いる施設に対する重度加算・行動障害加算制度等を整備してください。
(5)市町村が、ジョブコーチ事業の専従職員を配置した就労支援センターを設置し、自閉
症を持つ人の就労の促進を図るよう指導してください。