平成16年1月7

千葉県知事 堂本 暁子 様

社団法人 日本自閉症協会 千葉県支部

支部長 大屋 滋

要 望 書

 

拝啓

時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。日頃より(社)日本自閉症協会千葉県支部(以下「千葉県支部」という。)の活動に様々なご助力ご指導いただき、感謝申し上げます。

平成14年度、千葉県自閉症・発達障害支援センターを開設していただいたことは、私たちにとって大変な喜びであります。その後、同センターが、県障害福祉課等の関係部署との綿密な連携のもと、千葉県内の自閉症児者支援のための活発な活動を行っていることを、ありがたく思っております。また、教育庁に特別支援教育課の創設、強度行動障害支援事業など、私たちの要望に応える改革を行っていただいたことを深く感謝申し上げます

 

千葉県における自閉症児者を取り巻く社会環境は依然厳しいものがあります。さらに、長崎での小児殺傷事件等のいくつかの事件において、加害者が自閉症もしくはアスペルガー症候群であるとの報告が報道された結果、自閉症児者に対する新たな差別が生じております。私どもは、自閉症児者が関与したとされる犯罪に対して深い悲しみと怒りを感じるとともに、千葉県における自閉症児者に対するよりいっそうの理解と支援を強く希望します。

 

私たちは、まず障害を持つ人が地域で活き活きと暮らすことが出来る街でなければ、他の人々の幸せがありえないと考えます。いかなる障害を持った人でも、本人が選択した場で教育を受け、自分らしい生活をすることが、当然の権利であると確信しております。しかし、自閉症は、その教育や支援方法が圧倒的に困難であると考えられている障害です。身体障害などいくつかの障害に比べて、一般社会における自閉症に関するバリアフリーの試みはハード面、心理的な面を問わず極めて少なく、その必要性すらほとんど認識されていません。さらに千葉県内には、自分が自閉症という障害を持っていることを診断されずいる人が多数います。この人たちは受けるべき支援を受けていないだけでなく、本来配慮されるべきバリアフリーのための支援があることすら認められないまま、しばしば周囲の人から不適切な対応や不当な差別を受けています。千葉県には自閉症児者が住む場所、働く場所、楽しむ場所、相談する場所、移動する方法など地域生活を送る為の基本的な支援や、自閉症の特性に合わせた教育、いずれもが不十分であり、多くの自閉症児者にとって人間らしい生活をする為の環境がまだまだ整っていません。このような状況の下では、ともすればノーマライゼーションの理念が形式のみに陥る危険性をはらんでいます。一人ひとりが地域で活き活きと自分らしい生活をするという目的を真に達成するためには、自閉症を持つ人に対して個々の障害特性に応じた合理的な教育や、就労や生活などの支援が必要です。

 

千葉県内にはアスペルガー症候群を含む自閉症児者が5万人以上暮らしています。(疫学調査有病率0.91%から推計。)自閉症を持つ人が社会生活を送る上で極めて困難な障害であることをより一層ご理解いただき、是非とも施策的に格別の御高配をいただきたく、以下のことを要望します。尚、特別支援教育に関しては、教育長様宛てに要望書を提出させていただきます。

 

本要望書は、関係部局、関係出先機関及び関係審議会に配布されるとともに,広く関係者の方々にご検討いただけますよう配慮方お願い申し上げます。

 

 


 

(人権の保護)

1.      自閉症児者とその家族の人権を守って下さい。

(1)       自閉症やアスペルガー症候群などを自覚している本人が、自分の障害に動揺し将来を絶望してしまわないよう、守って下さい。

(2)       子どもの障害に対する拒絶感や不安感、孤立感によって家族が疲弊してしまわないよう、家族を支援して下さい。

(3)       自閉症児が地域の学校に通う権利を保証するとともに,教員や学友、PTA、隣人などから、障害を持ち,問題を起こしそうな子どものあぶり出しや排斥が起こらないよう本人や家族を守って下さい。

(4)       自閉症児者やその家族を対象とした不当な差別や犯罪を防いで下さい。

 

(千葉県支部との連携)

2.      自閉症に関する各種施策を立案されるときは、私たち千葉県支部から直接ヒアリングして決定して下さい。自閉症や障害福祉、特別支援教育に関する審議会等に、千葉県支部会員を加えて下さい。

3.      千葉県支部及びその分会が行う各種事業(親子の旅事業、自閉症相談事業、講演会事業、療育事業、レスパイト事業、余暇事業など)を支援して下さい。また、千葉県支部が行う自閉症に関する医療、教育、福祉、労働などの調査事業を支援して下さい。

 

(行政一般)

4.      教育・医療・福祉・労働の各行政の連携を深め、自閉症を持つ人の一生涯に渡る支援を実現して下さい。

5.      千葉県の福祉行政に自閉症を明確に位置づけて下さい。

(1)       千葉県地域福祉支援計画及び千葉県障害者基本計画に、高機能自閉症、アスペルガー症候群を含む自閉症に関する公的サービスの必要性を明確に位置づけて下さい。

(2)       市町村障害者基本計画に,高機能自閉症、アスペルガー症候群を含む自閉症に関する計画が策定されるよう、強力に指導して下さい。

6.      自閉症を持つ人への福祉行政を円滑に行うための窓口を充実して下さい。

(1)       千葉県障害福祉課に自閉症専任担当班を新設すると共に、全ての市町村の障害福祉,健康推進,児童育成,教育委員会等の関係職員に対して自閉症に関する研修を行って下さい。

(2)       今後設置される健康福祉センターに自閉症担当窓口を設けて下さい。

(3)       緊急の時にワンストップで相談できる窓口を設置して下さい。

(自閉症・発達障害支援センター)

7.      千葉県が実施主体としてその事業を委託している千葉県自閉症・発達障害支援センターCASが、事業の目的を達成できるよう更に支援して下さい。

 

(療育手帳)

8.      療育手帳の判定基準に、知的障害を伴わない高機能自閉症やアスペルガー症候群を加えるか、もしくは、自閉症を含む発達障害を対象とした新たな手帳の制度を制定して下さい。

 

(年金制度)

9.      障害基礎年金の対象に、知的障害を伴わない高機能自閉症やアスペルガー症候群を加えて下さい。

 

(支援費制度)

10.  支援費制度に自閉症を明確に位置づけて下さい。

(1)       支援費制度の実施に当たっては、障害程度区分の認定では,自閉症を持つ人の支援の困難性を正しく評価するよう、市町村を指導して下さい。また,知的障害を伴わない (あるいは軽度な)高機能自閉症やアスペルガー症候群の人において不利のないよう、市町村を指導して下さい。障害者相談センターに自閉症専門の判定員を配置する など、障害の困難性を適切に評価して下さい。

(2)       支援費のホームヘルプに,施設や学校への定期的な送迎や余暇活動の支援,グループホームや生活ホームにおいてショートステイができるようにして下さい。

(3)       支援費制度で措置されていない中高生障害児が児童デイサービス事業を利用できるようにして下さい。

 

(強度行動障害)

11.  強度行動障害に対する支援を強化して下さい。

(1)       袖ヶ浦福祉センターで行う強度行動障害支援事業においては、自閉症児者の隔離施設としてではなく地域社会生活支援システムの一環として位置づけた運営を行って下さい。

(2)       市町村が同種の事業を実施できるよう積極的に指導して下さい。

(3)       強度行動障害の多くは、自閉症を持つ人に対する不適切な教育の結果としての二次障害であることを認識し、これを防ぐためにも適切な教育体制を実現して下さい。

 

(生活支援・家族支援)

12.  自閉症を持つ人が地域で生活する場を整備するともに、家族の支援を行って下さい。特に、現在制度の対象になりにくい、知的障害のない高機能自閉症やアスペルガー症候群の人に対する制度運用の拡大を行って下さい。

(1)       千葉県の全ての地域に中核地域生活支援センターを設置するとともに,当センターでは自閉症を持つ人の障害特性に配慮し、一人ひとりに合わせた相談活動・支援活動を行うよう指導して下さい。

(2)       地域療育等支援事業に相当する、発達障害に関わるコーディネーターや,生活支援ワーカーの増員を図り、個のニーズに応じた柔軟な対応を実現して下さい。

(3)       グループホームや生活ホームなど多様な地域生活の場として,県営住宅や公団住宅を開放するとともに,公営住宅を積極的に開放するよう、市町村を指導して下さい。

(4)       デイサービスや短期入所の日中預かり等の定員増加を促進し、日中活動の場を確保・充実させて下さい。

(5)       緊急一時保護をはじめ夏休み、冬休み等の学校休業期間や、放課後に利用できる施設を、全県下で県が設置して下さい(あるいは市町村や民間事業体の実施を促進させるべく、現行の在宅心身障害児者一時介護補助制度の拡充を図るとともに,中高校生障害児を対象とするなど支援費の児童デイサービスの推進を図って下さい。)

(6)       自閉症を持つ人が年齢に関わらず、ガイドヘルプを自由に使えるよう,支援費事業者の掘起しやヘルパーの育成に努めて下さい。

(7)       非営利団体などによる自閉症の特性と個人個人の必要に合わせた「パ−ソナルアシスタンス事業」を推進して下さい。

(8)       自閉症を持つ人を適切に対応できる施設での支援内容の充実を計るため、職員の研修を制度化して下さい。

(9)       自閉症を持つ人を適切に対応できる施設での支援内容の充実を計るため、第3者評価の制度を促進して下さい。

 

(医療・健診体制)

13.  千葉県こども病院、千葉県リハビリテーションセンター、袖ヶ浦福祉センター等に自閉症及び発達障害の診療に専任する医師を配置して下さい。また、他の県立病院や二次医療圏の中核病院に自閉症及び発達障害の診療に専任する医師の配置を促進して下さい。特に、高機能自閉症やアスペルガー症候群の診断・療育支援のできる専門家の養成を行って下さい。

14.  1.5歳及び3歳児健診での自閉症の早期発見率を向上させるため、問診項目を含めた検診方法の改良を行って下さい。市町村自治体、保健所、児童相談所、医療機関(県立病院、中核病院など)が連携し、自閉症及び発達障害を専門とする医師等の専門家を頂点とした自閉症早期診断システムを構築して下さい。

15.  自閉症児者が病気になったときによりよい医療を受けるとために、アクションプラン2004に記載されている、障害児者の医療機関受診支援手帳、障害者総合健康診断及び人間ドックモデル事業の提案を実現して下さい。

(就労支援) 

16.  自閉症を持つ人の就労に対する相談、フォローする体制を作り、就労を促進して下さい。

(1)       養護学校中学部・高等部や普通学校における特別支援教育では就労施設等との連携を深め、一人ひとりの個別移行計画並びに個別就労計画を作成して下さい。

(2)       民間企業における雇用拡大や適切な職域の拡大を図るとともに公的機関においても採用するよう指導して下さい。

(3)       授産施設、福祉作業所等の福祉的就労施設では、自閉症に詳しい指導員・相談員を配置するなど活動内容を充実するとともに、新設するよう、市町村を指導して下さい。

(4)       福祉的就労施設に自閉症の困難性に応じた職員の加配ができるよう、自閉症児者がいる施設に対する重度加算・行動障害加算制度等を整備して下さい。

(5)       市町村が、ジョブコーチ事業の専従職員を配置した就労支援センターを設置し、自閉症を持つ人の就労の促進を図るよう指導して下さい。

 

(バリアフリー等の研究)

17.  自閉症を持つ人のノーマライゼーション、バリアフリー、ユニバーサルデザインに基づく教育や福祉などの支援について、千葉県支部と共同して調査、研究を行なって下さい。

 

(地域生活と教育)

18.  自閉症を持つ全ての子どもの一人ひとりの教育の場を保証すると共に、将来の自立した地域生活を実現するための、きめ細かく、かつ一貫した教育システムを構築して下さい。

(1)       TEACCH(ティーチ)プログラムなど世界的に評価の高い自閉症プログラムを、自閉症を持つ子どもが通う全ての学校で採用するよう指導して下さい。(TEACCHプログラムは、アメリカノースカロライナ州やスウェーデンなどで採用されており、ほとんど全ての自閉症児者が地域での生活を実現しています。)

(2)       自閉症を持つ子どもが通う全ての学校で、将来の地域生活に繋がる個別教育計画の作成を義務づけるよう指導して下さい。

(3)       すべての盲聾養護学校及びすべての小中高等学校の校長、教頭などの管理職員、およびすべての教員に対して、自閉症に関する継続的な研修の義務化を行って下さい。特に自閉症児者の地域生活に必要な教育の在り方、医療・福祉・労働等の分野との連携、人権について研鑽を深めるよう指導して下さい。

(4)       すべての盲聾養護学校及びすべての小中高等学校において、自閉症などの障害を持つ生徒に対する教職員の人権侵害、虐待、性的嫌がらせを予防するともに、そのような事態が生じた場合には、毅然とした処置を執って下さい。